minaの官能世界

今までのことは、なかったことにして。これから考えていきます。

アレキサンダー

2006年08月19日 | Weblog
8月になって、時間の経つのが早く感じる。
この間、入社してきた新人さんも、随分と仕事に慣れてきたらしく、余裕ができたのか、
「先輩。今度、先輩のよく行くお店に連れて行ってくださいよ」
などとのたまうようになった。
一種のリップサービスかもしれないが、後輩にそう言われると悪い気はしない。
「お店? どんなところがいいの?」
「おしゃれなショットバー」
「え? それだったら、若い貴方たちの方が、よほどいいところを知っているでしょう?」
「そんなことないです。それに、先輩が遊んでいる場所って、どんなところか、とても興味があるんです」
そんな会話を経て、わたしは、後輩の女の子2人を、いきつけのショットバーに連れて行くことになった。
お店の名前は、Sとしておこうかな。
ビルの8階にあって、夜景が綺麗なの。
素敵な女性バーテンダーのYさんがいて、好みに応じて、カクテルを作ってくれる。
「ねえ、カクテルって、何がお勧めなんです?」
「それは、その時の気分でね。わたしの場合、青いの、とか、オレンジ色の、とか、甘いやつ、とか、さっぱり系で、とか好き放題なことを言って、彼女に作ってもらうのよ。カクテルの名前なんて、覚えられないし」
「えーっ。そうなんですか」
後輩2人は、呆れかえっている。
「ふふふ。それでいいんですよ」
バーテンダーのYさんが助け舟を出してくれる。
そう言えば、ここに最初に来た時は、わたしも同じことをあの人に言ったなぁ。
この店は、別れた彼が教えてくれた。
彼とは、半年くらい付き合って、自然消滅した関係だ。別に、喧嘩別れした訳でもなかったけれど、はずみで寝て、付き合い始めただけであって、熱愛したわけでもなかった。
当時のわたしは、カクテルなんて飲んだこともないオネンネだったから、ころっと参ってしまった。彼は、結構、遊び人だったみたいだ。素敵な夜を演出するのが、上手だった。
わたしが思い出にふけっているのに、後輩たちは容赦ない。
「是非、minaさんがよく飲むカクテルを教えてくださいよ」
「そうね・・・。じゃあ、アレキサンダー
「どんなカクテルなんですか」
「えーとね、カルアミルクは知ってるでしょう。あれをうんと濃縮したみたいなカクテルよ。いつもは、仕上げに飲むのだけれどね、わたしも、ここに来たのは、久しぶりだから、今日は、最初にこれを飲むわ」
「へぇーー。じゃあ、わたしたちもそれにします」
彼女たちは、うれしそうにそう言った。
わたしは、複雑な心境だった。
アレキサンダー・・・・・・。
甘く切ない思い出が心を過ぎる。
「このカクテルは、甘くて口当たりがとてもいいんだ。きっと気に入るよ」
彼はそう言って、わたしにそのカクテルを勧めた。カクテルグラスに入って出てきたそれは、ブランデーとシナモンの香りが鼻腔をくすぐり、口に含むと、強いアルコールの刺激が全身を駆け巡ったものの、確かに甘くて美味しかった。
彼は、最初から、わたしを酔わせて、落とすつもりだったのだ。
それにまんまと嵌ってしまったわたし。
おっと、この子たちにも言っておかなければ。このお菓子のような口当たりに騙されて、あの時のわたしのように、男に勧められるままに何杯も飲んだら駄目よって。
もっとも、本命の彼なら、それもいいかな。
「そんなに、このお酒は強いんですか」
「ええ・・・・・・」
バーテンダーのYさんが、静かに頷いた。
それを知っていたら、わたしは彼に引っかからなかったかもしれない。そんな大事なことは、飲む前に教えといてよね。
「多分、わたしが知っているカクテルの中で一番強いと思うわ。値段も結構高いしね。第一、名前が凄いじゃない? アレキサンダーって。アレキサンダー大王にちなんだ名前なんだから、そりゃ強いわよ」
「フーン。minaさんて、よくご存知なんですね」
わたしは苦笑しながら、首を振った。
経験・・・。何事も経験よ。



(注)このカクテルの名前は、イギリス国王エドワード7世が、愛する王妃アレクサンドラに捧げたことに由来しているとされている。当初は、王妃の名前そのままの女性名「アレクサンドラ」と呼ばれていたが、いつのまにか「アレクサンダー」と呼ばれるようになったらしい。本文で書いているような、「アレキサンダー大王」の名にちなんだものではないのである。
 わたしは、こんな知らない王様や王妃の名前を持ち出すよりも、かの有名なローマ帝国の始祖アレキサンダー大王を持ち出す方が簡単なので、後輩たちには、こんな嘘八百を並べることにしているのだ。ごめんっ。


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