言語空間+備忘録

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核兵器についての米英の陰謀?

2011-06-04 | 日記
田中宇 『日本が「対米従属」を脱する日』 ( p.75 )

 核兵器(原子爆弾)は、第二次大戦中の1942年、米英カナダによる共同開発(マンハッタン・プロジェクト)で初めて開発が開始された。原爆の完成は、1945年5月のドイツ降伏には間に合わなかったが、日本の降伏前には完成し、原島と長崎に落とすことで、核兵器を実戦で使ってみたいという米英の念願が達成された。
 米国の内部では、戦後の核兵器技術の国際管理方法として、国連で独占管理するか、もしくはすべての主要大国に核兵器技術を教え、一つの大国のみが核兵器技術を持たないようにするという、多極主義的な核管理体制が考案された。それに反対する考え方として、ソ連・共産圏を敵視する勢力は、ソ連や中国への核技術の移転に反対し、米英傘下の国々のみが核兵器技術を独占することを主張した。
 これは、今につながる多極主義者と米英中心主義者の対立だったが、米英中心主義者の勝利になった。マンハッタン・プロジェクトで開発された核兵器の技術は、同事業に参加する英国の学者団の中に混じっていたソ連のスパイ(ドイツから英国に亡命したドイツ共産党員の科学者クラウス・フックスら)によってソ連に伝えられ、ソ連は1949年に原爆を完成させて核実験を行った。
 米ソを永続的に敵対する均衡状態に持っていくことで、米国に英国好みのユーラシア包囲網戦略をとらせ、欧州を米英中心の世界体制の傘下に入れるという英国の冷戦戦略から見ると、英当局は、自国の学者団にソ連のスパイが入り込んでいることを知りながら黙認していたのではないかと思える。米英のみが核兵器技術を独占するのではなく、ソ連や中国にも教えてやるという考え方はもともと多極主義者のものだったが、英国はこれを逆手にとった。ソ連にも核兵器技術を教えてやることで米ソ対立を悪化させ、世界の多極化を阻止するために行われた。
 中国は1964年に核実験を成功させた。中国は、中ソ関係が悪化する前の1950年代にソ連からもらった技術をもとに核兵器を作ったとされている。しかし、スターリンは当初から毛沢東を信用しておらず、満足な核兵器技術を与えたとは考えにくい。むしろ、米共和党が米中関係を好転させる戦略を1960年代前半から練っていたとキッシンジャーが述べていることから考えて、米国が中国を強化するために核兵器技術を漏洩したと疑われる(ケネディが暗殺されていなかったら、ネルソン・ロックフェラーが1964年の大統領選に出馬し、キッシンジャーはその顧問となって、実際より4年早く入閣する予定だった)。
 常識的には、すでに核兵器を持っている国々は自分たちの影響力が低下することを恐れ、新たに核兵器を持つ国が増えることを嫌うと考えられている。しかし、たとえば台湾に核兵器技術を漏洩させ、台湾が独自に核武装するように誘導することで、中国の台頭を好まない勢力(もしくは中国の脅威を煽って米国の軍事費を高止まりさせたいと考える勢力)は、台中の対立を恒久化させることができる(台湾は、米中関係が好転した後の1970年代に核兵器開発を試みたが、米政府に止められた)。
 同様に、パキスタンに核兵器技術を漏洩することで、インド植民地独立時に英国が仕掛けた印パ対立の構図を恒久化できる。韓国に核兵器技術を漏洩することで、南北朝鮮の対立を恒久化できる(韓国も70年代に核兵器開発を指向し、近年また核兵器開発疑惑が出ている)。このように考えると、パキスタンや台湾や韓国に核兵器技術を漏洩させたのは、米英内部の軍産英複合体による意図的な作戦だった疑いがある。
 英米としては、核兵器技術を意図的に漏洩させることで世界の分断支配を維持するとともに、印パなど誘発に乗って核武装した国に対して国際的な制裁を発動し、二重の意味で分断支配を維持できる。日本などの核廃絶運動は、英米の戦略に乗せられてきた観がある。9・11前後から、米マスコミはさかんに「イスラム主義テロリストが核兵器を得て、米国で核のテロをやるだろう」と喧伝してきたが、これも「テロ戦争」を恒久化する格好の方法である。
 例外的なのは、1960年代に行われたイスラエルの核武装である。従来、イスラエルの核武装は国際的にほとんど問題にされなかったが、昨今のイスラム世界での反米主義の勃興など多極化の結果として、イスラエルの核兵器保有が問題にされるようになっている。エルバラダイIAEA事務局長は、イスラエルの核兵器が世界の核拡散防止体制を阻害していると批判している。


 世界の主要国のみが「核兵器」を持つ体制も、多極主義者と米英中心主義者の対立の結果である、と書かれています。



 著者の主張には、まったく説得力がありません。著者のいうように、

 「米ソを永続的に敵対する均衡状態に持っていくことで、米国に英国好みのユーラシア包囲網戦略をとらせ、欧州を米英中心の世界体制の傘下に入れるという英国の冷戦戦略から見ると、英当局は、自国の学者団にソ連のスパイが入り込んでいることを知りながら黙認していた」ことは「あり得ない」にもかかわらず、

著者はこれを「肯定」し、

 「米英のみが核兵器技術を独占するのではなく、ソ連や中国にも教えてやるという考え方はもともと多極主義者のものだったが、英国はこれを逆手にとった。ソ連にも核兵器技術を教えてやることで米ソ対立を悪化させ、世界の多極化を阻止するために行われた。」

とまで言っています。

 そもそも、「世界の多極化を阻止するため」には、「米英のみが核兵器技術を独占していればよい」のであり、「敵に核兵器技術を教える」必要など、どこにもないでしょう。あえて、著者がこのような主張をするのであれば、その「必要性」(敵に核兵器技術を教える必要性) を主張しなければ説得力がありません。



 また、著者のいうように
 常識的には、すでに核兵器を持っている国々は自分たちの影響力が低下することを恐れ、新たに核兵器を持つ国が増えることを嫌うと考えられている。しかし、たとえば台湾に核兵器技術を漏洩させ、台湾が独自に核武装するように誘導することで、中国の台頭を好まない勢力(もしくは中国の脅威を煽って米国の軍事費を高止まりさせたいと考える勢力)は、台中の対立を恒久化させることができる(台湾は、米中関係が好転した後の1970年代に核兵器開発を試みたが、米政府に止められた)。
 同様に、パキスタンに核兵器技術を漏洩することで、インド植民地独立時に英国が仕掛けた印パ対立の構図を恒久化できる。韓国に核兵器技術を漏洩することで、南北朝鮮の対立を恒久化できる(韓国も70年代に核兵器開発を指向し、近年また核兵器開発疑惑が出ている)。このように考えると、パキスタンや台湾や韓国に核兵器技術を漏洩させたのは、米英内部の軍産英複合体による意図的な作戦だった疑いがある。
とするならば、

 なぜ、「米英内部の軍産英複合体」は台湾や韓国の核兵器開発を「阻止した」のでしょうか?

 「米英内部の軍産英複合体」が台湾や韓国に対し、「意図的に」核兵器技術を漏洩しておきながら、核開発を「阻止する」というのは、考え難い話です。それならそもそも、「はじめから核兵器技術を漏洩しなければよい」はずです。

 著者はやたらと多極主義者と米英中心主義者の対立・暗闘を主張されていますが、著者によれば、「米英で多極主義者が優勢になり始めたのは90年代末」ということなので (「英米間の「覇権国と新興国の戦い」」・「陰謀で考える必要はない」参照 ) 、
70年代に核兵器開発を試みた台湾や韓国は、「当時、米英で優勢だった」米英中心主義者から核兵器技術を漏洩され、開発を始めようとしたら(米英中心主義者によって)核兵器開発を阻止された
という「おかしな」話になってしまいます。



 著者の主張は、「はじめに多極主義者と米英中心主義者の対立ありき」の主張で、「こじつけに近い」のではないかと思われます。

 そもそも、米英中心主義者が「核の分散」を画策していたのであれば、「日本も核武装していたはず」だと思います。