「時事ドットコム」の「中国との対話継続を最優先=日本の「忍耐力」見習う-チベット新首相と会見」( 2011/05/31-14:15 )
チベット亡命政府を率いる新首相に8月に就任するロブサン・センゲ氏は、首相就任後の最優先事項を「チベットに自由を取り戻し、法王(ダライ・ラマ)をラサに帰還させることだ」とし、その実現に向けて、中国政府との対話を粘り強く求めていく考えを強調した。独立は「亡命政府の究極目標としてはある」ものの、当面は望まないとした、と報じられています。
センゲ氏は、チベット亡命政府の最優先事項が
チベット人の「自由」と法王の「帰還」
にあることを示しつつ、
中国政府の受け容れやすい条件を提示
しているのですが、本当にこれでよいのでしょうか?
報道には、
報道文中には、亡命政府が苦境に陥っていることを示す言葉は、まったくありません。たんに、「穏健」な「中道路線」を採用していると報じているのみです。しかし実際には、
「中道路線」を採用して
中国政府の譲歩を期待せざるを得ない
のではないでしょうか?
ここで気がかりなのは、「本当に独立を求めなくてよいのか」ということです。
私がこう考える理由は2つあります。
一つは、チベット亡命政府が「中道路線」を採用せざるを得ないほど苦境に陥っているなら、チベット亡命政府の意向を実現するには、米国など、「外国政府の協力が欠かせない」からです。
それにもかかわらず、亡命政府がみずから、自治拡大を求める「中道路線」を採用したのでは、外国政府が協力しようとした際に中国政府が「内政干渉」だとして応じない可能性が高くなります。「中道路線」は一見、中国政府に受け容れやすく亡命政府の希望が実現しやすいかに映りますが、実際には、ますます亡命政府の希望が実現しづらくなるのではないかと思います。
他の一つは、「中道路線」は本当にチベット人のためになるのか、という疑問です。
たとえば中国の「内モンゴル自治区」では、(中国の首都)北京に近いためもあってか漢民族の流入が多く、漢化が急速に進んでいます。すでに人口の大部分は漢民族です。また、「モンゴル語」で働ける職場が(ほとんど)なく、「中国語」が必須だと言われています。そのためモンゴル族も(自分の)子供に「モンゴル語」で話せとはいえず、「中国語」を優先せざるを得ない状況になっているといわれています。
言語は文化の礎ですから、言語が失われれば、文化も失われます。
チベットは中国「中原」からは遠いですが、中国人のことですから次々にチベットに流入し続けるでしょう。したがってチベットも内モンゴル自治区と同じ状況になってしまうのではないか、それが危惧されます。
チベットの独立ではなく、自治拡大を求める「中道路線」を採用したダライ・ラマやセンゲ氏の方針は、本当に「正しい」のでしょうか?
私には、かえって彼らに「不利に作用する」のではないかと思われてなりません。
【ニューデリー時事】チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世(75)の政治上の引退を受け、チベット亡命政府を率いる新首相に8月に就任するロブサン・センゲ氏(43)が31日までに、亡命政府のあるインド北部ダラムサラで時事通信のインタビューに応じた。センゲ氏は、首相就任後の最優先事項を「チベットに自由を取り戻し、法王(ダライ・ラマ)をラサに帰還させることだ」とし、その実現に向けて、中国政府との対話を粘り強く求めていく考えを強調した。
亡命政府と中国の対話は、昨年1月を最後に途絶えている。センゲ氏は「われわれは常に対話のために特使を派遣する用意がある」とした上で、「中国の強硬派がチベット問題解決のための真剣な交渉に入ろうとせず、対話が停滞した」と批判した。次回交渉のめどは立っていないという。
ダライ・ラマは対中交渉で、チベットの独立ではなく、自治拡大を求める「中道路線」を採用した。センゲ氏は独立を求める急進派「チベット青年会議」に所属した経験を持つが、「中道路線が私の立つべき基盤だ」と述べ、中道路線を継承する姿勢を表明。独立は「亡命政府の究極目標としてはある」ものの、当面は望まないとした。
中国は亡命政府を「違法な組織」として、センゲ新政権を相手にしない考えを示している。さらに共産党機関紙からは「テロリスト」と記事で形容されたが、同氏は「非常に不幸なこと。中国は亡命政府のような民主主義を自分たちが持っていないことが気掛かりなだけだ」と一蹴した。
センゲ氏は日本人の精神にチベット人が見習う点が大きいと指摘。「東日本大震災で原子力事故が起きた際も、苦難からの回復力、忍耐力を見せたことは教訓になった」と述べた。
チベット亡命政府を率いる新首相に8月に就任するロブサン・センゲ氏は、首相就任後の最優先事項を「チベットに自由を取り戻し、法王(ダライ・ラマ)をラサに帰還させることだ」とし、その実現に向けて、中国政府との対話を粘り強く求めていく考えを強調した。独立は「亡命政府の究極目標としてはある」ものの、当面は望まないとした、と報じられています。
センゲ氏は、チベット亡命政府の最優先事項が
チベット人の「自由」と法王の「帰還」
にあることを示しつつ、
中国政府の受け容れやすい条件を提示
しているのですが、本当にこれでよいのでしょうか?
報道には、
中国は亡命政府を「違法な組織」として、センゲ新政権を相手にしない考えを示している。さらに共産党機関紙からは「テロリスト」と記事で形容されたとあります。このことが示しているのは、チベット亡命政府は現在、苦境に陥っているということではないでしょうか?
報道文中には、亡命政府が苦境に陥っていることを示す言葉は、まったくありません。たんに、「穏健」な「中道路線」を採用していると報じているのみです。しかし実際には、
「中道路線」を採用して
中国政府の譲歩を期待せざるを得ない
のではないでしょうか?
ここで気がかりなのは、「本当に独立を求めなくてよいのか」ということです。
私がこう考える理由は2つあります。
一つは、チベット亡命政府が「中道路線」を採用せざるを得ないほど苦境に陥っているなら、チベット亡命政府の意向を実現するには、米国など、「外国政府の協力が欠かせない」からです。
それにもかかわらず、亡命政府がみずから、自治拡大を求める「中道路線」を採用したのでは、外国政府が協力しようとした際に中国政府が「内政干渉」だとして応じない可能性が高くなります。「中道路線」は一見、中国政府に受け容れやすく亡命政府の希望が実現しやすいかに映りますが、実際には、ますます亡命政府の希望が実現しづらくなるのではないかと思います。
他の一つは、「中道路線」は本当にチベット人のためになるのか、という疑問です。
たとえば中国の「内モンゴル自治区」では、(中国の首都)北京に近いためもあってか漢民族の流入が多く、漢化が急速に進んでいます。すでに人口の大部分は漢民族です。また、「モンゴル語」で働ける職場が(ほとんど)なく、「中国語」が必須だと言われています。そのためモンゴル族も(自分の)子供に「モンゴル語」で話せとはいえず、「中国語」を優先せざるを得ない状況になっているといわれています。
言語は文化の礎ですから、言語が失われれば、文化も失われます。
チベットは中国「中原」からは遠いですが、中国人のことですから次々にチベットに流入し続けるでしょう。したがってチベットも内モンゴル自治区と同じ状況になってしまうのではないか、それが危惧されます。
チベットの独立ではなく、自治拡大を求める「中道路線」を採用したダライ・ラマやセンゲ氏の方針は、本当に「正しい」のでしょうか?
私には、かえって彼らに「不利に作用する」のではないかと思われてなりません。
センゲ氏の本音は、「最終的には独立」だと思います。
「自治拡大」を最大限に追及すれば、「完全自治」、となり、必然的に「独立」に行き着きます。
さて、ここからは、私のチベット問題に関する見解になります。
率直に言って、チベット族が置かれている境遇と将来の見通し、は非常に厳しいです。
中国の他の少数民族とは、決定的な違いがあるからです。
例えば、
① モンゴル族・・・モンゴル国、ロシア連邦ブリヤート共和国
② 朝鮮族・・・韓国、北朝鮮
③ ウイグル族・・・ウイグル民族が主体の主権国家はないけれども、中央アジアからトルコに至る、トルコ系イスラム国家群の支持がある。
というように、同じ民族による主権国家、という「最後の拠り所」「駆け込み寺」「逃げ道」がありますが、チベット族には、それがありません。
宗教的には、ロシア連邦のブリヤート共和国(ブリヤート人)とトゥバ共和国(トゥバ人)が、同じくチベット仏教を信仰していますが、民族と言語が異なります(モンゴル系)ので、純粋な“同胞”とは言えません。
中国政府は、そのような弱みを熟知していますから、特に、チベット族に対しては、容赦なく、対応出来るのです。従って、今のところ、チベット問題解決の決め手はありません。
そこで、中国政府に真剣に考えて欲しいのが、「中国」という概念についての、新しい定義付けです。
以前、私が、台湾関係でのコメントでも書いたように、「連邦制」や「国家連合」という概念も、一つの解決案だと思います。
現在の中国指導部には、期待できませんが、世代交代が進めば、そういった柔軟な考えも出てくるでしょう。
しかし、あまり時間を掛けすぎても、その間に、漢民族が流入して、チベット族の比率がさらに低くなってしまい、解決が難しくなります。 そこが、最も頭の痛いところ(ジレンマ)です。
ですから、時間との戦いでもありますね。
それはそうですが、チベット自治政府が「自治拡大」を要求しているかぎり、米国などが「介入」または「協力」することは困難になります。なぜならチベット自治政府自身が「内政問題」であると言っているに等しいからです。
「連邦制」や「国家連合」という方法も、要は「内政問題」ということになりますから、本当にチベットのためになるのか、やや疑問だと思います。
但し、政治的な駆け引きとして、以下のやり方はあると思います。
成功するかどうか、は分かりませんが。
チベット亡命政府内に、「自治拡大派」と「独立派」が存在、拮抗する場合です。
中国政府としては、「独立派」が主流派になることは避けたいので、次善の策として、「自治拡大派」との対話を受け入れる可能性は有ります。
但し、これを成功させるには、米国をはじめとする国際社会の協力が不可欠です。
--- 以下は記事で引用した報道の引用 ---
ダライ・ラマは対中交渉で、チベットの独立ではなく、自治拡大を求める「中道路線」を採用した。センゲ氏は独立を求める急進派「チベット青年会議」に所属した経験を持つが、「中道路線が私の立つべき基盤だ」と述べ、中道路線を継承する姿勢を表明。独立は「亡命政府の究極目標としてはある」ものの、当面は望まないとした。