言語空間+備忘録

メモ (備忘録) をつけながら、私なりの言論を形成すること (言語空間) を目指しています。

道路公団民営化のカラクリ

2010-08-06 | 日記
山養世 『道路問題を解く』 ( p.37 )

 一般道路の問題は、税金のムダ使いの問題です。しかし、高速道路の問題はそれより深刻です。巨大な借金を抱えているために、将来、国民が巨大な損失を負担するリスクがあるからです。
 アメリカ、イギリス、ドイツなどの欧米諸国のような原則無料の高速道路は、日本では実現していません。そのわけは、道路公団が民営化されたあとも、四〇兆円もの借金を抱えているからです。民営化といいながら、政府の計画では、今後一〇年でさらに一三兆円の借金をして一三〇〇キロの高速道路を作る予定です。すべての借金を返済し終わるのは、二〇五〇年と予定されています。先述のとおり、そのうえ二二〇〇キロの高速道路が作られます。建設のための借金だけでも、二〇兆円程度上乗せされるはずです。
 一方、そんな巨大な借金を、これから作る新しい路線の通行収入で返せるのでしょうか。これから作られる路線は、ほとんどが過疎地域を走ります。通行料収入と借金返済の採算は、名神・東名などよりはるかに悪いはずです。新しい借金の返済には、それだけで重大な疑問符が付きます。
 さらに、金利の支払いが膨大な額になります。二〇五〇年までの超長期の借金の返済が必要だからです。その金利の支払いが借金返済に上乗せされますから、通行料金が高くなり、利用者が減るという悪循環が続くでしょう。高くて使えない高速道路が続くのです。
 しかも、返済期限である二〇五〇年までに、金利が上昇すれば、借金の返済が危なくなります。なぜなら、政府が想定している金利が低いからです。二〇五〇年までの平均金利が、政府の想定する四%を上回れば、損失は国民負担になります。例えば、平均金利が年率で七%になれば、国民負担は五〇兆円を超えます。もちろん、世界一高い通行料金を国民から取り続けたうえでの負担です。

(中略)

 こんな理不尽なことが起こりうるのは、高速道路の借金は、最後には国民が払う仕組みになっているためです。どういうことでしょうか。
 それは、民営化といいながら、旧道路公団の借金は、民営化後に発足した高速道路会社が持っているわけではないのです。借金を、日本高速道路保有・債務返済機構 (略称は高速道路機構) なる新たな独立行政法人に「飛ばし」たためです。この法人は職員が八五人の国営ペーパーカンパニーです。資産があるといっても、全国の高速道路が売れるわけではありません。旧国鉄の汐留や梅田の操車場跡地のように、使わないから売却できるというものはないのです。つまり、売れる資産はないのです。
 それならば、将来金利が上昇して、巨額の借金の返済ができなくなり、損失が発生したらどうなるのでしょうか。そのときは、資産もなく従業員もほとんどいない高速道路機構が抱えた借金は国民が負担するしかないのです。なぜなら、高速道路機構の借金は、国が貸し付けていたり保証しているものがほとんどだからです。高速道路機構が返せなくて、損が出たら、国民にツケを回す。借金爆弾です。これが道路公団民営化の実態です。
 日本の高速道路は、不便なだけではありません。国民は、高い通行料金と税金を払い続けた挙げ句、巨大な借金爆弾が爆発するリスクを、いつの間にか負わされているのです。


 道路公団民営化後も、膨大な借金が残っている。この借金は、最後は国が支払う (国民が負担する) ことになるが、それにもかかわらず、さらに借金を重ねて高速道路を作ることになっている、と書かれています。



 民営化は、経営の効率化をもたらす (…ことが多い) とは思います。しかし、民営化によって「既存の」債務がなくなるわけではないのは、当たり前の話です。

 その債務が 40 兆円もあり、この債務は民営化後に発足した高速道路会社ではなく、日本高速道路保有・債務返済機構 (略称は高速道路機構) なる新たな独立行政法人の負担とされた、とあります。

 とすれば、状況を表にすると、次のようになります。

   既存の債務 40 兆円   独立行政法人が負担
               国の貸付・保証がなされており、最終的には国民負担

   民営化後の会社     債務負担がないので、経営状態は劇的に改善

 民営化によって「見かけ上」、高速道路会社 (民営化後の会社) の経営状態は劇的に改善しますが、「実態は、ほとんど変わっていない」とみてよいのではないかと思います。



 引用文中、「民営化といいながら、政府の計画では、今後一〇年でさらに一三兆円の借金をして一三〇〇キロの高速道路を作る予定です」とあります。「郵政改革にみる「完全民営化」と「完全に民営化」」で引用した高橋洋一氏の解説によれば、霞が関用語でいう「民営化」には 3 種類あり、「民営化」の種類によっては、

   民営化後も、「政府が」高速道路の建設を決める、

ということも可能になります。



 それでは、どのように民営化されたのでしょうか。それについて、著者は続けて次のように述べています。



同 ( p.41 )

 かつて道路公団民営化が必要とされた理由には、本州四国連絡橋公団 (本四公団) のように、借金の金利さえ払えない経営収支を改善することや、高速道路の関連事業を独占するファミリー企業が増殖して甘い汁を吸うことを防ぐことがありました。
 ところが、民営化によって、不思議なことが起きました。民営化後に発足した六社の高速道路会社のすべてが、黒字会社となったのです。かつて、年間七〇〇億円の料金収入では、年間一一〇〇億円の借金返済すらできずに、毎年膨大な赤字を計上していた本四公団の民営化会社でも、二〇億円以上の黒字を計上しています。
 そのカラクリは簡単です。まず、高速道路会社は、四〇兆円もの借金をすべて高速道路機構に背負ってもらいました。本四公団の三兆円の借金もすべて背負いました。高速道路会社は、借金を免除してもらったのです。高速道路機構は、政府保証債などで資金を集めて借金を肩代わりしましたから、損失が出たら、国民の負担になるだけです。借金がなくなれば、高速道路会社の経営が楽になるのは当たり前です。
 次のカラクリは、高速道路会社が高速道路機構に払う高速道路の貸付料です。普通の経済常識では、貸付料は高速道路の借金を返済できる額に設定するはずです。ところが、両者が決めた貸付料は、完全なお手盛りです。実際に入ってきた通行料収入そのものより少し低い額が、貸付料としてあとで決まるのです。どんなに通行料が落ち込んでも、高速道路会社の収益が保障されるのです。その分、高速道路機構の収入は、低くなります。
 それでは、高速道路機構が借金を返せなくなれば、どうなるのでしょうか。ここにもカラクリがあります。返せない借金が膨らんだら、また新たな借金を高速道路機構が政府保証で行えばいいのです。損が膨らむほど借金が膨らむ、を繰り返す。まさにバブルの時代の不良債権問題と同じです。そして、最後に借金を返せなくなったときには、国民の負担になるのです。
 つまり、驚くべきことに、民営化といいながら、高速道路機構が破綻しても、高速道路会社もファミリー企業も、何の被害も受けない仕組みになっています。それもあるのでしょう。各社は堂々と、多角経営の名の下に連結子会社を増やしています。二〇〇七年三月までの一年間に倍増し、六社の連結子会社や関連会社は合計一〇〇社に達しています。これも、四〇〇兆円もあった旧道路公団の借金を、高速道路会社はまったく背負わず、すべて高速道路機構に肩代わりさせたからです。借金を背負った高速道路機構では、従業員が八五人しかいませんから、二〇五〇年までに破綻しても影響を受ける人の数は少ないのです。
 破綻するまでの間に、高速道路会社もファミリー企業も、安定した偽りの収益をむさぼれる構造になっているのです。
 そして、六社の高速道路会社の株式は、すべて国が保有しています。つまり、民営化といいながら、その実態は国土交通省の支配下の特殊法人にすぎません。それにもかかわらず、名目は株式会社であるために、国会の調査も及びません。実態隠しには都合のいい仕組みです。
 これは、旧道路公団時代よりも、関係者にとっておいしい仕組みです。旧道路公団は、借金の返済義務を自ら負ったために、通行料収入が足りなくなれば、赤字が出ました。そのため、世の中の批判を浴びて、改革が必要とされました。ところが、民営化によって、ガラガラの本四架橋を運営する会社でさえ、堂々たる黒字会社に生まれ変わったのです。関係者には、なんとありがたいことでしょう。なんと国民をバカにしたことでしょう。


 「六社の高速道路会社の株式は、すべて国が保有しています。つまり、民営化といいながら、その実態は国土交通省の支配下の特殊法人にすぎません。それにもかかわらず、名目は株式会社であるために、国会の調査も及びません。実態隠しには都合のいい仕組みです。」と書かれています。



 要は、役人用語でいう「民営化」ではあっても、世間一般の人々がイメージする「民営化」とはかけ離れている、ということであり、

 「高速道路会社が高速道路機構に払う高速道路の貸付料」は、「実際に入ってきた通行料収入そのものより少し低い額が、貸付料としてあとで決まるので」、「どんなに通行料が落ち込んでも、高速道路会社の収益が保障される」というのですから、

   高速道路会社と高速道路機構は一体であり、

   高速道路機構が損失 (債務やリスク) を一方的に引き受けて、
   高速道路会社の収益を保証する仕組み ( 高速道路会社は黒字確実!! )

に変わった、とみてよいと思います。



 通常、道路公団民営化の成果を判断する際には、民営化後の会社 (高速道路会社) の収益をみて判断すると思います。したがって、この仕組み (カラクリ) を知らなければ、「民営化は大成功であり、経営状態が劇的に改善した以上、あらたに道路を作ってよい」と判断 (誤解) してしまいます。

 とすれば、改革の本当の狙いが何だったのか、すこし疑問を感じてしまいますが、改革そのものは (効率化につながりうるので) 一歩前進、とも評しうることもたしかだと思います。

 そこで、道路問題については、(小泉) 改革の是非を論じるのではなく、

   高速道路「会社」の経営状況を見るのではなく、
   高速道路「機構」の経営状況を見て判断する

ことにすれば、それで足りるのではないかと思います。つまり、新たな高速道路建設の可否は、高速道路「機構」の状況次第と考えてよい、ということです。



■追記
 高速道路「会社」には「確実に」利益が保障されているのであれば、効率化のインセンティブはないですね。改革そのものの是非についても、考えてみます。