いままで検討してきた事を振り返りますと、「BH(ブラックホール)は消滅可能なのか?」という疑問が湧いてきます。
「消滅したのか?」という現象論ではありません。
「理論的に消滅可能なのか?」という問いになります。
多くの皆さんが参照されているBHの寿命式、あの式でBHの質量Mがゼロになった時点をもって「BHは消滅した」とされています。
しかしながら、あの式のMの値が正確にゼロになるという事は保証されておらず、ゼロになる為には基本的に以下の2つの事を前提(暗黙の了解)とする必要があります。
(より詳細なBHのホーキング放射モデルによれば、質量がゼロになる時点までかかる時間は標準的な計算方法に対してかなり伸びる事になりますが、今はその事は問いません。)
1、BHを消滅させることになる、一番最後にBHに飛び込んだ仮想粒子が持っていた運動量は保存されなくても良い。
つまり運動量の保存則は破る事が可能である。
2、一番最後にBHに飛び込みBHの質量をゼロにできるエネルギーをBHに持ち込む仮想粒子をそのタイミングで真空が生み出す事が可能である。
1番目の「運動量保存則を破る事が可能である」という主張は、当方にとっては到底認められません。
実粒子が対消滅する際にも運動量保存則とエネルギー保存則は守られていると認識しています。
そうであれば、「いやBHが消滅する方が運動量保存則よりもより基本的な法則だ」などという主張は「とんでも理論」でありましょう。
2番目の「BHの質量をちょうど消し去るような仮想粒子を真空がそのタイミングで生み出せる」などと言う話は、当方にとっては「ファンタジー」であります。
BHが示すその時のホーキング温度に応じた黒体スペクトル分布のなかから、その分布形状に従いつつ、最終的にはランダムに「次に発生する仮想粒子が決まる」あるいは「次にBHに到達する仮想粒子が決まる」と言うのがホーキング放射のメカニズムでありましょう。
そうであれば、そうそう都合よく「ちょうどBHの質量をゼロにできる仮想粒子が発生しました」などという話は到底信じられないのであります。
さて、実粒子がその反粒子と出会って対消滅する。
物質という姿から光という姿に変わる。
そうであればまたBHもその姿を光に変えてもいいのではないか?
まあそういう発想の中での「BHは消滅できる」というお話でありましょう。
但し、そのお話が可能となる為には「反BHの存在が必要」です。(注1)
BHと反BHが出会って、対消滅して光になりました。
そうであるならば、どこにも問題はありません。
しかしながら、「反BH」などという存在は聞いたことがありません。
そうして、もし「反BH」という存在があったとしても、BHの質量については個々のBHが誕生した時点から現在に至るまでに過ごしてきた個々のBHの歴史に依存し、それはユニークであって、けっして同じ質量のBHというものはこの世界には存在しないでありましょう。
2つのBHがたまたま同じ質量で生まれてきたとしても、一回、それぞれがホーキング放射を出せばそれで質量は変化し、また運動量も変化します。
そうでありますから、「同じ質量のBHを2つそろえる」などという事は到底ありえない話となります。(注2)
さて、そういうわけで「反BHがあった」としても目の前のBHにちょうど一致して対消滅可能な反BHを探し出す事は不可能でしょう。
さあそうなりますと、「BHという存在は一度この世界に生まれてきたら合体する事は可能ですが、消滅する事は不可能である」という「BH保存則」が見えてきます。
そうして、そのように宇宙はできているのか、それともBHは消滅できる存在なのか、その判断は読者の皆さんにお任せしたいと思います。
注1:反BH
BHが中性子星の重力崩壊でできるなら、反BHは反中性子星の重力崩壊で出来るのでは、と思って調べてみました。
中性子と反中性子はスピン1/2で質量は同じ、但し磁気モーメントが反対で電荷はもちろんゼロ、と言うものです。<--リンク
実粒子の段階ではこの2つの粒子は出会う事ができれば対消滅して光に変わります。
さてそれで、問題は反中性子星が重力崩壊して出来たBHは反BHとなるかどうかですね。
それで、残念な事には「BHの3本の毛の定理」によってBH=反BHになってしまう様です。
『ブラックホールを特徴づける物理量としては質量、角運動量、電荷の 3 つしかない。
これを「ブラックホールに毛が三本」という。』<--リンク
つまり目の前のBHが中性子起因のBHなのか反中性子起因のBHなのか見分けがつかない、という事になります。
さてそうなりますと、この2つのBHが出会いましても対消滅は起こらず、BH合体現象が観察されるのみである、という結果になります。
注2
通常は「BHは毛が3本」だから「BHには特徴が少なく見分けがつかない」と言われています。
しかしながら、事実はそれとはまったく逆であります。
BHは毛が3本でそのうちの1本が質量です。
そうしてこの「質量という毛」が同じ値を示すBHはこの世界には無いでしょう。
つまり、それぞれのBHは大きさに関係なくユニークである、識別が可能なのであります。
この事は我々、形あるものを作りあげている物質粒子群と好対照の事になります。
物質粒子は種類が同じであれば、相互作用して別れた後にどちらがどちらの粒子であったかをいう事はできません。
そうであれば、見知らぬところから飛んできた自分と同じ種族の反粒子と対消滅して超える事が出来るのであります。
別の言い方をしますと、物質粒子には固有の世界線は無いかのようです。
他方でBHは自分自身の固有の歴史を、固有の世界線を持っている様に見えます。
それゆえに、またそうしてこれは好みの問題ですが「この世に存在する全てのBHに、その大小にかかわらず名前を与えることが出来る」という事でもあります。
「名前が違う2つのBHが合体したらどう呼ぶのか?」ですって。
「太郎」BHと「花子」BHが合体したら、もちろんそのBHは「太郎・花子」と呼ばれる事になります。
ちなみに今回撮影に成功したおとめ座にある銀河「M87」にあるブラックホールの名前は不明ですが、天の川銀河の中心にあるブラックホールは「いて座A*(エースター)」という立派な名前をもっております。
そうして、ここでの提案は「全てのBHは名前をもつ権利がある!」と言うものになります。
追伸
以上の様に、ホーキング放射でBHは質量を順次減らしていき、そうして「BH消滅に対して王手はかかった」と思われる状況までは行きますが、最後の一歩が「詰み」にはなっていなかった、という事になります。
従来の標準的な寿命式はエネルギー保存則のみを考慮して作られており、従って運動量の保存は考慮外になっています。(注3)
そうして、考慮されているエネルギー保存則も、最後の一歩が「実に人為的に操作される必要があるもの」になってしまっています。
さてそうなりますと、「それでは消滅できないがホーキング放射で質量を減らしたBHは今、どうなっているの?」という疑問が湧いてきます。
そうして注意していただきたいのは、「ホライズン直径がLpに到達した所で一旦、ホーキング放射は止まる」という当方の主張とは全く別の次元の、より一般的な内容でここまでの議論が成立している、という事であります。
注3
BHの寿命式はこんな恰好をしています。
↓
M^3=M0^3-(h*C^4/(5120*Pi*G^2))*t <--リンク
M0 はt = 0 のときのBHの質量であり、ブラックホールが蒸発するまでの時間はM = 0 として上の式からtを計算して求めます。
hは生プランク定数を2*Piで割ったもの、Gは重力定数、Cは光速です。
この式からわかる様に、BHの運動量Pは考量されておらず、そうして又暗黙のうちに「BHの質量Mはホーキング放射でゼロに出来るもの」とされています。
・ダークマター・ホーキングさんが考えたこと 一覧<--リンク
http://archive.fo/2y3TU
http://archive.fo/yiouV
http://archive.fo/5fxjO
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