万葉集ブログ・2 まんえふしふ 巻九~巻十

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1759 高橋虫麻呂歌集

2010-10-26 | 巻九 雑歌
登筑波嶺為□歌會日作歌一首(并短歌)

鷲住 筑波乃山之 裳羽服津乃 其津乃上尓 率而 未通女壮士之 徃集 加賀布□歌尓 他妻尓 吾毛交牟 吾妻尓 他毛言問 此山乎 牛掃神之 従来 不禁行事叙 今日耳者 目串毛勿見 事毛咎莫 【□歌者東俗語曰賀我比】

鷲の住む 筑波の山の 裳羽服津(もはきつ)の その津の上に 率(あども)ひて 娘子壮士(をとめをとこ)の 行き集ひ かがふかがひに 人妻に 我も交らむ 我が妻に 人も言問へ この山を うしはく神の 昔より 禁(いさ)めぬわざぞ 今日のみは めぐしもな見そ 事もとがむな 【□歌は、東の俗語に賀我比と曰ふ】


筑波山に登り、□歌会(かがい=歌垣)する日に作る歌一首(ならびに短歌)

「猛禽類が住む、筑波山の、裳羽服津(もはきつ)の水辺では、ナンパし合って、男女が出かけて集まる。イベント(歌垣)でノリノリだ。人妻と、俺もやっちまおう。俺の女房にも、誰かモーションをかけてやれ。

この山を、統治する神が、昔から禁止していないイベントだ。今日だけは、見逃してくれ。とがめるな

【□歌(かが)は、東の俗語では賀我比(かがい)と曰(い)う】」

●裳羽服津:地名 茨城県つくば市

●歌垣(うたがき):春と秋、男女が山や市(いち)などに集まり、歌い踊り、求愛行動へといたる行事


1758 高橋虫麻呂歌集

2010-10-25 | 巻九 雑歌
反歌

筑波嶺乃 須蘇廻乃田井尓 秋田苅 妹許将遺 黄葉手折奈

筑波嶺の 裾廻(すそみ)の田居に 秋田刈る 妹がり遣らむ 黄葉手折(もみちたを)らな


反歌

「筑波山の、山麓のいなかにて、秋の田を刈る、あの少女にプレゼントしよう。(さっそく)もみじ葉を手折らねば」

1757 高橋虫麻呂歌集

2010-10-24 | 巻九 雑歌
登筑波山歌一首(并短歌)

草枕 客之憂乎 名草漏 事毛有哉跡 筑波嶺尓 登而見者 尾花落 師付之田井尓 鴈泣毛 寒来喧奴 新治乃 鳥羽能淡海毛 秋風尓 白浪立奴 筑波嶺乃 吉久乎見者 長氣尓 念積来之 憂者息沼

草枕 旅の憂(うれ)へを 慰(なぐさ)もる こともありやと 筑波嶺(つくはね)に 登りて見れば 尾花散る 師付(しつく)の田居(たゐ)に 雁(かり)がねも 寒く来鳴きぬ 新治(にひばり)の 鳥羽(とば)の淡海(あふみ)も 秋風に 白波立ちぬ 筑波嶺の よけくを見れば 長き日(け)に 思ひ積み来し 憂へはやみぬ


筑波山に登る歌一首(ならびに短歌)

「“草枕”旅の憂いを、慰めてくれる、こともあるだろうと、筑波山に、登ってみる。ススキの花穂が散る、師付の田に、ガンが(飛んで)きて、寒々と鳴いている。新たに開墾された、鳥羽の湖も、秋の風に、白波が立っている。

筑波山の、よい(風景を)見れば、長い(旅の)日に、(さまざまな)思いが積み重なってできた、憂いはすっかりなくなった」

1756 高橋虫麻呂歌集

2010-10-23 | 巻九 雑歌
反歌

掻霧之 雨零夜乎 霍公鳥 鳴而去成 □怜其鳥

かき霧(き)らし 雨の降る夜を 霍公鳥 鳴きて行くなり あはれその鳥


反歌

「(周囲を)かき雲らせて、雨が降る夜を、ホトトギスが、鳴いて(飛んで)行くのが聞こえる。ものがなしい鳥である」

1755 高橋虫麻呂歌集

2010-10-22 | 巻九 雑歌
詠霍公鳥一首(并短歌)

鴬之 生卵乃中尓 霍公鳥 獨所生而 己父尓 似而者不鳴 己母尓 似而者不鳴 宇能花乃 開有野邊従 飛翻 来鳴令響 橘之 花乎居令散 終日 雖喧聞吉 幣者将為 遐莫去 吾屋戸之 花橘尓 住度鳥

鴬(うぐひす)の 卵(かひご)の中に 霍公鳥(ほととぎす) 独り生れて 己(な)が父に 似ては鳴かず 己が母に 似ては鳴かず 卯の花の 咲きたる野辺(のへ)ゆ 飛び翔(かけ)り 来鳴き響(とよ)もし 橘の 花を居散(ゐち)らし ひねもすに 鳴けど聞きよし 賄(まひ)はせむ 遠くな行きそ 我が宿の 花橘に 住みわたれ鳥


ホトトギスを詠む一首(ならびに短歌)

「『鶯(うぐいす)の卵(かいご)の中の時鳥(ほととぎす)』

ウグイスの、卵の中の(巣)で、ホトトギスが、一人ぼっちで生まれた。自分の養父(ちち)に、似た声では鳴かない。自分の養母(はは)に、似た声でも鳴かない。ウツギの白い花が、咲く野辺から、飛翔して、(私のところまで)やってきては鳴き(声を)響かせ、タチバナの(枝に止まって)、花を散らす。終日鳴くがよい声である。

(かわいいおまえに)贈り物をしよう。(だから)遠くへは行かないでおくれ。我が家の、タチバナの花に住み着いておくれ。(小さな)ホトトギスよ」