万葉集ブログ・2 まんえふしふ 巻九~巻十

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1764 藤原房前

2010-10-31 | 巻九 雑歌
七夕歌一首(并短歌)

久堅乃 天漢尓 上瀬尓 珠橋渡之 下湍尓 船浮居 雨零而 風不吹登毛 風吹而 雨不落等物 裳不令濕 不息来益常 玉橋渡須

久方の 天の川原に 上つ瀬に 玉橋渡し 下つ瀬に 舟浮け据ゑ 雨降りて 風吹かずとも 風吹きて 雨降らずとも 裳濡らさず やまず来ませと 玉橋渡す


七夕の歌一首(ならびに短歌)

「“久方の”天の川原の、上流の急流に、美しい橋を渡し、下流の瀬にも、舟を浮かべて(渡し場に)据えました。雨が降って、風が吹かずとも、(また)風が吹いて、雨が降らなくても、衣装を濡らすことなく、休まないでいらっしゃい。(私が)美しい橋を渡してさしあげます」

1763 沙弥女王

2010-10-30 | 巻九 雑歌
沙弥女王歌一首

倉橋之 山乎高歟 夜牢尓 出来月之 片待難

倉橋の 山を高みか 夜隠りに 出で来る月の 片待ちかたき

右一首間人宿祢大浦歌中既見 但末一句相換 亦作歌兩主不敢正指 因以累載


沙弥女王の歌一首

「倉橋の、山が高いのだろう。夜遅く、出てくる月が、待ちきれない」

右の一首は、間人宿祢大浦の歌の中で既に見える。但し、末の一句が相換わる(それぞれに異なる)。また、歌を作るに両主(二人の作者)あり。敢えて正しく指さない。(これに)因(よ)りて累(かさ)ねて(掲)載する

1762 柿本人麻呂

2010-10-29 | 巻九 雑歌
反歌

明日之夕 不相有八方 足日木乃 山彦令動 呼立哭毛

明日の宵 逢はざらめやも あしひきの 山彦響め 呼びたて鳴くも


反歌

「明日の宵も、会えないことがあるだろうか。“あしひきの”(四方に)やまびこを響かせて、(牡鹿は連れ合いを)呼び立てて(大声で)鳴く」

1761 柿本人麻呂

2010-10-28 | 巻九 雑歌
詠鳴鹿一首(并短歌)

三諸之 神邊山尓 立向 三垣乃山尓 秋芽子之 妻巻六跡 朝月夜 明巻鴦視 足日木乃 山響令動 喚立鳴毛

三諸(みもろ)の 神奈備山(かむなびやま)に たち向ふ 御垣(みかき)の山に 秋萩の 妻をまかむと 朝月夜(あさづくよ) 明けまく惜しみ あしひきの 山彦響め 呼びたて鳴くも


鳴く鹿を詠む一首(ならびに短歌)

「神が降臨する場所で、神が鎮座する山(神奈備山)に、 向かって立つ、御垣(みかき)の山に、“秋萩の”妻を抱こうとして、明け方の月が出て、(だんだんに夜が)明けるのが(名残り)惜しい。“あしひきの”やまびこを響かせて(連れ合いを)呼び立てて鳴く(シカ)よ」

●神奈備山:

 ・奈良県高市郡明日香村 三諸山(みもろやま)

 ・奈良県生駒郡斑鳩町 三室山(みむろやま)


1760 高橋虫麻呂歌集

2010-10-27 | 巻九 雑歌
反歌

男神尓 雲立登 斯具礼零 沾通友 吾将反哉

男神(をかみ)に 雲立ち上り しぐれ降り 濡れ通るとも 我れ帰らめや

右件歌者高橋連蟲麻呂歌集中出


反歌

「筑波山の西峰(男神)に、雲が立ち上り、しぐれが降って、濡れそぼっても、俺は帰らないぞ(まだ、歌垣の最中じゃないか)」

右の件(くだん)の歌は、高橋連虫麻呂の歌集の中に出る