久々のマジシャン紹介です。今回はもしかしたら最も知名度の高いマジシャンかもしれない、アレックス・エルムズレイです。「エルムズレイカウント」が有名すぎるので、バーノンより名前を知っている人も多いかもしれません(笑)。アレックス・エルムズレイはイギリスのアマチュアマジシャンで、ケンブリッジ大学で物理や数学を学んだ後、パテント・エージェントや、コンピューター技師を本職としました。1929年に生まれ、2006年に亡くなっています。76歳でした。
彼は非常にたくさんの作品を発表しており、代表的なものとしては「Point of Departure」「Between Your Palms」「Diamond Cut Diamond」あたりでしょうか…。「いやいや、エルムズレイといえば××だろう!」と仰る方もいらっしゃるかと思います。それほど、多くの名作を創作しているマジシャンです。しかし、先に述べたように彼はアマチュアマジシャンであり、彼はずっとマジックをやっていたわけではありません。ある時からあっさりマジックと距離を置いてコンピュータ関係の仕事につきます。彼を書いた本では大きな理由は2つあり、その1つは「誰にも言わなかったことだが」と前置きがありますが、アメリカで出会ったクロースアップマジックの巨人たちが、誰もその芸でまともな生計を立てているようには見えなかったという衝撃的なことを知ったからだそうです。なかなか興味深い理由です。
1997年に日本にもレクチャーで来ており、マジェイアさんが参加して、記事とされています。
カップ&ボールの話に移ります。やはりエルムズレイというとカードマジックのイメージが強いですが(実際そうですが)、カップ&ボールの手順も発表しています。その歴史は古く、「Low Cunning」と題する彼の初レクチャーですでに取り扱われていました。レクチャーノート(1959)は挿絵も無い4枚ほどの冊子でしたが、後にMagic Incが挿絵を追加し1967年に再発行しました。今でもMagic Incのサイトで購入することができます。
カップ&ボールの手順は、この冊子の最後に、箇条書きでシンプルに書かれています。
より詳細には、1991年に他の何人かのマジシャンの協力のもと、ステファン・ミンチが数年がかりで書き上げた「Collected Works of Alex Elmsley vol.1 」(1991)に記載されています。本の解説の最後に「September 21, 1957」とありますので、先のレクチャーの少し前にできた手順なのかもしれません。
この本はもう発行していませんが、中古ならわりと容易に入手できます。とはいえ、海外から購入すると円安と送料のダブルパンチで、かなり高くなってしまいますが…。一度日本の古本屋さんでも売られていて、びっくりした記憶があります。L&Lがよくやってた、デラックスバージョンもあり、こちらはやはり高値で海外のオークションなどで見ることがあります。
最後に、ビデオです。Alex Elmsley Tahoe Sessions Setという4巻セットのVol.4の最後、つまり「トリ」でカップ&ボールの演技・解説があります。1997年の映像作品のようで、1997年といえば先程紹介したマジェイアさんのページで日本にレクチャーに来られた年ですね。元気に見えますが、その約10年後に亡くなっているので、元気なうちに映像化できてよかったと思います。
4巻のDVDですが、単体では、例えば、マンスリー・マジック・レッスン・ショッパーズさんで購入できます。
ペンギンマジックでも購入できます。ペンギンマジックは日本への送料無料なので助かりますよね。商品ページのこのDVDに対する評価のところに書いているコメントがいいですね!
そうそう、これらのDVDでなくてもカップ&ボールの傑作選「World's Greatest Magic」の「CUPS and BALLS」のVol.1にエルムズレイの手順も収録されています。カップ&ボール好きの方はこちらを購入してご覧になるのも良いかと思います。
残念ながら、エルムズレイがカップ&ボールを演じている映像をYoutubeなどで見つけることができませんでした。そこで、文章で簡単に現象を紹介します。特徴的な現象も書いてますので、もし、DVDなどを買うつもりで、先入観なしで演技動画をみたい!という方は読み飛ばしてください。
---手順・現象--------------------
5段のフェーズで構成されています。
First Phase:1つのカップを使って、手に握ったボールがカップへと移動します。
Second Phase:2つのカップを使いますが、片方のカップは1.と同じように手からカップにボールを移動させ、もう片方のカップは伏せた状態で上に手を置きボールを手に入れると貫通してカップの中に入ります。
Third Phase:今度は手を使わずに貫通させるといって、1つのカップを伏せた状態でその上にボールを置き、上から別のカップをかぶせると貫通して下のカップから出てきます。さらに、カップも貫通すると言って、口を上にしたカップに上からカップをかぶせ、貫通したカップを下で受け止めます。貫通に使ってない置いていたカップを持ち上げると3つのボールが出てきます。
Fourth Phase:3つのカップを並べ、両端のカップにボールを1つずつ入れますが、おまじないをかけると、真ん中のカップに移動します(真ん中の伏せたカップから3つのボールが出現)。
Fifth Phase:3つのカップを重ねて傾けると塩が出てきます。長い間塩が落ちるのを待ち、出終わったら、それらを集めて再度カップに塩を注ぎますが、なんと3つのカップにいっぱいの塩が出てきます。
----------------------------------
やはり、一般的なカップ&ボールが最後、大きなボールやフルーツなどを出現させるところを全く違うアプローチをとっているのがエルムズレイらしい感じがします。「練習はバス・ルームでするといい」といったコメントをしているところが面白かったです。解説やインタビューでどうやってこのカップ&ボールの手順が出来上がったのか話してほしかったです...本でも意外とあっさり書いていますし…
そうそう、本では、使うのは普通のニットボールと書かれていますが、ビデオではスポンジボールを使っています。どこかのタイミングで変わったのでしょうね。この手順では使う技法から確かにスポンジボールを使った方が良い気がします。話はちょっとそれますが、カップ&ボールのボールってスポンジボールとニットボールを使う場合で(つまり柔らかいボールと硬いボールを使う場合で)観客が持つイメージや不思議度合いって変わるんでしょうかね??スポンジボールを使った方がいろいろできそうな感じもするのですが、何かスポンジボールを使うことに抵抗を感じなくもないんですよね(;^ω^)。でもジョニー・ポール氏の手順やフレッド・カップス氏の手順など、スポンジボールを使う手順もあり、一度手順を組み立ててみたいなぁとは思います…
このエルムズレイの手順をまねて実演するか?と言われると、手軽さの観点で難しいかもしれません。しかし、氏の手順は技法や構成に関して、少し凝り固まったカップ&ボールの頭をほぐしてくれるかもしれません。カップ&ボール好きの方にはオススメです。
山ほどは出しませんでしたが、クリップを使って演じていた時期があります。少量でも出ると意外なようです