青い花

読書感想とか日々思う事、飼っている柴犬と猫について。

死の快走路

2021-07-06 09:00:38 | 日記
大阪圭吉著『死の快走路』

同タイトルの作品集が複数の出版社から出ているが、私が読んだのは、東京創元社の創元推理文庫版だ。

収録作品は、「死の快走路」「なこうど名探偵」「塑像」「人喰い風呂」「水族館異変」「求婚広告」「三の字旅行会」「愛情盗難」「正札騒動」「告知板の女」「香水紳士」「空中の散歩者」「氷河婆さん」「夏芝居四谷怪談」「ちくてん奇談」の15作の短編と、「小栗さんの印象など」「犯罪時代と探偵小説」「鱒を釣る探偵」「巻末に」「怒れる山(日立鉱山錬成行)」の5つの随筆、アンケート回答。

大阪圭吉の作品集は、3年前に読んだ創元推理文庫版の『銀座幽霊』が好感触だったので、今作も同文庫のものを読むことにした(2018.7.5の当ブログに感想文掲載)。
それで正解だったと思う。というのも『死の快走路』は、出版社によって収録されている作品の傾向が異なるからだ。
私としては、戒光祥出版社の同タイトルに数多く収録されているような翼賛的な作品は、大阪圭吉自身がルソン島で戦死していることもあってあまり読みたくはない。
厳しい時局の元、家族を養いながら執筆活動を続けるためには致し方のない選択だったと思うし、戦後生まれの私はそれを批判する立場ではないと思っている。が、それにしても惜しい才能だった。彼が戦争によって本来書きたかった作品に充てる時間を随分と削られた上に、33歳という若さで戦死してしまったことが残念でならない。

創元推理文庫版『死の快走路』は、デビュー作を全面的に改稿した「人喰い風呂」、本格推理小説の「死の快走路」、大阪にしては珍しく猟奇的なエロティシズムを描いた「水族館異変」(この作品は伏せ字が多く、それがかえって卑猥な印象になっている)、『弓太郎捕物帖』から「夏芝居四谷怪談」と「ちくてん奇談」など、大阪圭吉の幅広い魅力を楽しめるセレクションになっている。
なかでも、「なこうど名探偵」、「求婚広告」など、タイトルで作品の傾向がわかるユーモア小説が私の好みだ。
大がかりなトリックや猟奇殺人を扱った作品より、日常のちょっとした謎を洒脱な文体で丁寧に解き明かす作品の方が私は好きだ。
大阪のユーモア小説は、どれも最後の一文が粋で彼の人柄が偲ばれる。長生きしてこの種の小説をたくさん書いて欲しかった。


「なこうど名探偵」(初出「新青年」昭和9年7月号)は、果菜園経営者の大手鴨十が、トマト泥棒を捕まえるために癲癇で死んだふりをするところから物語が始まる。

鴨十は死んだふりをする前に、事件の現場検証を行っていた。
そうして、犯人の足跡を調べているうちに、泥棒の逃げた道の上で男物の真新しいハンカチを発見した。が、そのハンカチには香水が染み込ませてあって、持ち主が夜ごとトマト泥棒をしなければならないほど困窮している身とは思えない。
この人物は、何が目的でトマト畑を荒らしているのか……。

なぜ、泥棒を捕まえるために、女房にまで己の死を信じさせなければならなかったのか。
鴨十と洗濯屋の親方の会話のテンポが小気味よく、気軽に読める内容だが、事件の動機・謎解き・オチがきっちり描かれていて、さすがと唸らされる。
〈なこうど〉鴨十の計らいは粋だけど、その分ちょっと切ないなと思った。わりと損な性格の男かもしれない。

なお、解題によると、この鴨十は、「案山子探偵」に再登場し、今度はカボチャ畑荒らしと対峙しているそうだ。こう書くだけで、もう笑える。


「求婚広告」(初出「週刊朝日」昭和14年1月2日)は、初老の紳士が婚活を始めたことから奇妙な体験する話。

石巻消ゴム商会の社長である謹太郎氏は、あと二つで50に手の届こうという分別盛りの紳士だ。わき目も振らずに働き続け、ついうっかり独身を通してしまった。
今更縁談を薦めてくれる人もおらず、自分からも頼む気になれず。そこで彼が見出した活路が新聞の求婚広告だった。
求婚欄を眺めるようになってから幾日か経ったある日、謹太郎氏はついに理想的な女性を見つけた。
34歳、健全にして初婚、係累無し、望低し。特に、望低し、というのがいい。
謹太郎氏が手紙を出したところ、すぐさま相手から写真と経歴書の添えられた手紙が届いた。
その女性、水田女史は東京の女学校で家事の教師を務めているのであった。
教養といい職歴といい、この上なく好条件の女性である。しかも、謹太郎氏との結婚に大変乗り気で、二日後に彼女の自宅を訪れて欲しいとしたためている。
しかし、指定された日に水田家を訪れてみると、玄関から出てきた水田女史は、訝しげな顔で、求婚広告のことも謹太郎氏のことも知らないと言い……。

謹太郎氏は、水田家を訪れる前に水田女史の身辺調査を済ませている。
彼女に後ろ暗い所がないのは間違いない。では、何者が何の目的で、彼女の名を騙り、求婚広告を出し、謹太郎氏を彼女のもとに向かわせたのか?
謹太郎氏は、自社の顧問弁護士・丸山丸二郎氏に事件の調査を依頼する。
丸山氏はわずか三時間の間に事件の真相を探り当てたのだが、その間に謹太郎氏と水田女史の仲はトントン拍子に進展していたのだった。

少ないページ数で、事件の謎解きと男女の心の距離が縮まっていく様を同時進行で描いてしまう手腕はたいしたもの。誰も傷つかないハッピーエンドで、口当たりの良い小品だ。

解題によると、昭和12年発表の「坑鬼」を最後に、殺人事件を扱った本格推理ものは影を潜め、昭和13年以降は本作のように日常の小さな謎的な事件を描いたユーモア色の強い小説が多くなっている。


戦後長らく「幻の探偵作家」と評されていた大阪圭吾である。
しかし、2001年に創元推理文庫から『とむらい機関車』と『銀座幽霊』の二冊が刊行されたのを皮切りに、論創社、光文社文庫、戒光祥出版社から次々に大阪の作品が刊行され、戦前の本格探偵作家として再評価されるようになった。
表題作の「死の快走路」を読めば、本格探偵作家としての彼の手腕が確かなことは疑いようもない。

「坑鬼」以降、大阪の作品の傾向は、創意工夫に満ちたトリックを盛り込んだ本格探偵小説から、その時代の人々の生活や風俗を様々な形で描いた作品に移った。
時勢に配慮したものか、本格探偵作家としての力を出し切ったと感じたのか。
その点について断言できるだけの資料がまだ出てきていないようだが、何度も言うけれど、私は大阪の作品は後期のユーモア色の強い作品の方が好きだ。誰かを馬鹿にして笑い者にするのではなく、読んでいてほのぼのと幸せな笑みが浮かぶ良品たちが好きなのだ。

大阪は昭和18年に召集され、20年にルソン島の山中で戦病死した。
遺体は帰って来ていない。もし生きて帰って来ていたら、戦後日本を題材にどんな小説を書いただろうか。
創元社から出ている大阪圭吉の文庫で私がまだ読んでいないのは、あとは『とむらい機関車』のみ。
表題作は鉄道ミステリーらしい。
その他の収録作も「デパートの絞刑吏」、「カンカン虫殺人事件」、「白鮫号の殺人事件」など、タイトルから本格推理ものであることが察せられる。さて、私についていくことが出来るだろうか。大阪の作品は陰惨な事件を扱っていても、どこか笑えるユーモアを含んでいるので何とか読み通すことが出来そうであるが。
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百合の開花と蝶の雨宿り

2021-07-02 08:46:43 | 日記
昨日に引き続き、今日も大雨警報が出ています。
娘コメガネの学校は、二時間目からの登校になりました。


昨日は大雨警報が出るのが遅かったので、普通に登校させました。
そんな中で、我が家の百合“オリエンタルハイブリッド”が開花中。せっかく綺麗な赤紫色なのに天気が悪いせいで映えないのが残念です。二日連続の大雨で、花が早く傷みそう。

昨日は、朝から庭で二匹の蝶が雨宿りをしていました。
すぐにいなくなると思ったのですが、午後になってもまだ同じところに泊まっていました。




隣の部屋から庭に出て、アサガオの支柱にとまっているアゲハチョウを撮影。
怯えさせたくなかったのでそっと近づいたのですが、いつでも飛び立てるように羽を開いていました。ごめんなさいね。




網戸にとまっているのはジャノメチョウだと思います。
うちの網戸は猫の爪痕で穴だらけです。網戸を上るのが好きなんですよね。


室内から撮影。




柏が網戸にアタックしたので、羽を開いて少し上に移動していました。


雨が止むまでゆっくりしていってもらいたかったので、猫ちゃん達には部屋の奥に戻ってもらいました。
アゲハチョウは雨が小休止している間にいなくなっていましたが、ジャノメチョウは夕方近くまで留まっていましたよ。
今日もひどい雨ですが、あの蝶達はどこで雨宿りしているのかな。

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