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ローマ人の物語XIII 最後の努力

2005-04-22 22:01:50 | 
最後の努力

新潮社

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全15巻という塩野七生さんのローマ人の物語も、とうとう13巻になりました。発売と同時に買ったにもかかわらず、つまみ読みしていただけで、ちゃんと読んだのは今週になってから。えらくとっかかりに時間がかかってしまいました。が、このシリーズがいつもそうであるように、まともに読み出すとほぼ一気読み。結果的には、11巻以降では一番面白く読めた巻となりました。

この巻の主役はディオクレティアヌスとコンスタンティヌスです。

もうずいぶん前の巻で、危機がくるたびに、ローマを再建する努力は常に行われてきたが、どんどん有効性が失われていったという趣旨の記述がありました。たしかに、今、すっと思い出すだけでも、五つの再建努力がされています。

・王政から共和制への移行
・共和制の維持(ポエニ戦争、とくに第二次のハンニバル戦争における勝利)
・共和制分裂の危機からの建て直しの努力(グラックス兄弟、スッラなど)
・帝政(元首制)への移行(カエサル、アウグストゥス)
・ネロ自殺後に生じた危機の克服(ヴェスパシアヌスから五賢帝にいたる最盛期)

この五つの危機は完全に乗り切り、より強大な国を作り上げてったわけです。この巻の主人公であるディオクレティアヌス、コンスタンティヌスも、迷走するローマ帝国をたてなおすべく、国家の大改造を行います。しかし、二人の政策は帝国を百年間延命させたにすぎず、しかも、パクス・ロマーナとはほど遠く、逆に衰退を招く結果になります。それは、ローマがローマでなくなる政策であったから、というのがこの本の趣旨です。

たしかに、過去にあった政策は、ローマの長所(ローマ市民であれば有権者であり、有権者が権力を委託するという政治形態、条件を満たせば生まれは問わずに誰にでもローマ市民権を獲得できるシステム、元老院という人材のプールとチェック機関の存在、広く浅い税金制度、地方分権、利益の社会還元、強い通貨、重装歩兵、ロジスティックス、防衛線の維持、他の文化への開放性、ミリタリーとシビリアンのキャリアと階級間の流動性、多神教(死後よりも現世の重視)など)を時代に即した形でよみがえらせていくものでした。

しかし、ディオクレティアヌスとコンスタンティヌスのとった政策は、防衛線の維持はともかく、他の長所を再生させるどころか、ことごとくつぶしていくものでした。「市民中の第一人者」としての皇帝が、「絶対君主」としての皇帝となり、元老院は完全に失墜し、職業は世襲制となり、市民は重税に苦しむと、ローマがローマでなくなっていく時代、それがこの巻で描かれたローマです。言い換えると、古代が終わり、中世が始まった時代であったわけです。

ショックだったのは、ディオクレティアヌスがとった四頭制時代の四人の皇帝を彫った「四頭像」、コンスタンティヌス帝の凱旋門を飾るコンスタンティヌス時代の浮彫が、古代ローマよりも中世ヨーロッパに近いものであること。まさに時代がとめようのない衰退に向かった証拠になっていました。視覚的なものは時に文章による記述に勝るという格好の例を見せてもらったように思います。

ギボンの『ローマ帝国衰亡史』では、ローマ衰退の最大の要因の一つとされたキリスト教ですが、『ローマ人の物語』では、コンスタンティヌスが保護しなければ、キリスト教は分裂していったのではないかとされています。では、なぜコンスタンティヌスがわざわざキリスト教を保護したのか、という考察は非常に面白いものでした。

絶対的な唯一の神を崇拝する宗教を確立することで、皇帝の権力は、市民から委託されたものではなく、神が与えたものとする一種の「王権神授説」をつくりあげることで、皇帝の権力の強化を図ったため、というのがこの本の説明です。たいへん説得力を感じました。結果的には、この政策が、キリスト教を中心にまわる中世の世界を作り上げていき、そして、王や皇帝が宗教に屈服していく時代がくる、という流れを考えると、皮肉な気がします。

これほどまでの努力をしても、もはやパクス・ロマーナはよみがえりません。「これほどまでにしても(ローマという古代のすべての長所をつぶし、中世の扉をあけるような政策をとってまでも)ローマ帝国は生き延びねばならなかったのか」という問いは、ローマ史を知り、中世がどのような時代であったのかを知るものにとって、自然にわきあがってくる問いなのだ、という印象的な記述で本書は締めくくられます。


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5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
TBしました (ジャンキーのり太)
2005-05-15 14:13:04
こんにちわ。

塩野先生も、さすがに十三巻目ともなるとお疲れのようですね。
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Unknown (lyca)
2005-05-16 21:16:25
こんにちは。たしかに書くのが楽しくてしかたなかったのでは、と思えるようなカエサルの巻のころにくらべるとお疲れかもしれませんね。でも、12巻あたりにくらべれば、筆もさえてた気がします。
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ベネチアの「四頭政」像 (あじゃ)
2005-05-30 15:32:23
初めまして!

このゴールデンウィークに、たまたまベネチアで、貴方が「ショック」だと言われた「四頭政」時代の像を見つけて撮影してきました。わが恥ずかし?のHPのトップページに写真を貼り付けておきますので、よろしかったらカラーでご覧下さいませ~~。おわり。
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横のマスクもいいでないですか (lyca)
2005-05-30 21:04:15
はじめまして、あじゃさん。さっそくおじゃましてきました。カラーのほうがなお、技術の低下がわかりますね~。どうもご案内ありがとうございました。



ところで、お隣のマスクがいいじゃないですか いや、こういう派手なの隙なんです(笑)
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仮面好き? (あじゃ)
2005-05-31 11:32:18
あのマスク,お気に入りですか? あれ,45ユーロで買ってきました。陶器製でけっこう重量あります。壁にかけたら落ちるかも(?)

なので,実際に顔にかぶるには不向きでございます。

HPは,2003年バージョンから,2005年編に更新中です。また気が向いたらお越し下さいませ!!

おわり。
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