月の海

月から地球を見て
      真相にせまる

イン・ザ・ファインダー 34

2020年05月25日 00時59分42秒 | イン・ザ・ファインダー
一月

 お正月はどこにも出かけず寝正月だった。
由紀ちゃんは大学の友達とスキーに行くと言っていた。
今さら家族三人で旅行に行く気もしなかったので私と一緒に
父と母もずつと家にいた。
三人そろって近くの神社に初詣に行った以外はどこにも行かなかった。
 私の初詣の願いは毎年同じで結婚だった。
子供の頃に父と母と今日香と私の四人で同じ神社に
初詣に行ったことを思い出す。
あの時からもう三十回以上も初詣の度に同じ願いを願い続けているのに
未だに叶っていない。
私の周りには霊はいるけど神様はいないのかも知れない。
 今年は会社を辞めて初めてのお正月。
今まで会社関係の人から来ていた年賀状が来なくなり
今年の年賀状は少なくなった事が寂しさを感じた。
 お正月も終わり年明け直ぐに本屋さんのアルバイトに行った。
年初のアルバイトは午後からだったけどお客さんはほとんどいなかった。
 「明けましておめでとうございます。」
 おじさんに新年の挨拶をした。
 「おめでとうございます。」
 おじさんが言った。
 「今年もよろしくお願いします。」
 私がそう言うと由紀ちゃんも来た。あらためてみんなで新年の挨拶をした。
 「明けましておめでとうございます。」
 「今年もよろしくお願いします。」
 新年の挨拶が終わると、おじさんは奥へ行った。
由紀ちゃんと私は本の整理を始めた。
 由紀ちゃんは就職も決まって四月からは本屋さんの
アルバイトには来なくなってしまう。
 「就職先はどういうとこなの。」
 「アパレル関係。」
 「写真関係じゃないの。」
 「私の所属がまだ決まっていないけど、会社の中でもしかしたら
そういう仕事にあたるかも知れない。」
 「プロの写真家にはならないの。」
 「多分、写真家では食べていけないわ。」
 「そうなの。」
 「明日香さんこそプロの写真家を目指したら。」
 「私は写真に興味ないもん。」
 「へぇ、あんないい写真を撮ってコンテストで受賞したのに。」
 あれは今日香が取った賞よ。
 「あれは偶然にたまたま撮れただけ。」
 「そういえば写真コンテストの授賞式は来月ね。」
 「そうかぁ、やだなぁ。」
 「何言ってるの。うれしい事じゃない。」
 そのことを考えると憂鬱になる。何か話を変えよう。
 「そういえば由紀ちゃん今月が誕生日よね。何か欲しいものある。」
 「新しい一眼レフ。」
 「だめ高すぎる。」
 「そうよね。」
 それから本屋さんにはお客さんが来始めたので、私達はレジに着いた。
 一月も半ばになって、お正月気分は消えていた。
商店街では成人式の帰りと思われる着物を着た女性が何人か歩いていた。
私もあんな時があったなぁと本屋さんのレジから外を見ていた。
そして由紀ちゃんの誕生祝いの事も思い出した。
次の休みの日に渋谷に行った。
ウィンドウショッピングをしながら由紀ちゃんのプレゼントを探した。
どんな物がいいだろう。写真関係の用品を見てみた。
確かに貰ってうれしいけどプレゼントには向かない。
就職祝いを兼ねているから実用的な物がいいだろうか。
 そんな事を考えながら歩いていると私の足は
アクセサリー売り場で止まった。
ネックレスだけど下を見ていくと鍵が下がっている。
そうではなく鍵の形をしたアクセサリーがネックレスに付いている。
それを見た私はある事を思い出した。
何故かそのアクセサリーの鍵はお台場の売店で受け取った
今日香の残した鍵に似ていた。
 それよりプレゼント探しの方を急がなくては。
プレゼントは安物ではだめだし高すぎても貰い辛いだろうし迷ってしまう。
その後あちらこちらの店を覗いたけど色々考えて、
由紀ちゃんには実用的でちょっと高級感のあるブランド物の
ボールペンとシャープペンのセットに決めた。
そしてプレゼント用のラッピングをしてもらった。
まぁ就職も近いし由紀ちゃんの邪魔にはならないだろう。
 家に戻ってきて気になったので今日香の鍵をもう一度見てみた。
確かにこの鍵はアクセサリーの鍵かも知れない。どういう事だろう。
アクセサリーの鍵をお台場の売店の女性に預ける必要があるの。
安物なら預ける意味はないし高価な物なら預けられない。
今日香はどういう気持ちでこの鍵を売店の女性に預けたのだろう。
 そう言う考えが違うのかも知れない。
アクセサリーの鍵を預ける理由は何もない。
もしかして重要なのは鍵ではなくキーホルダーかも知れない。
私はキーホルダーのマスコットの部分を回してみた。
キャップが外れて出てきた物はカメラとパソコンなどを
つなぐマイクロUSBの端子だった。

イン・ザ・ファインダー 33

2020年05月22日 17時50分53秒 | イン・ザ・ファインダー
 この日の夕方、本屋さんが終わってから、おじさんと由紀ちゃんと
三人でいつもの写真仲間が集まる居酒屋さんに行った。
おじさんが先にドアを開けて入ると言った。
 「今日はお祝いだ。」
 「ハイよ。じゃあ豪華に行こう。」
 カウンターからマスターが返事をした。
店内のお客さんは少なく私達はテーブル席に座った。
直ぐにマスターがテーブルの横に来て。
 「今日は何のお祝いですか。」
 と言った。するとおじさんが。
 「明日香ちゃんのお祝いだよ。」
 次に由紀ちゃんが言った。
 「一席ですって。」
 「まさか写真コンテストでか。」
 マスターが驚いたように言った。
 「そうよ新聞社の写真コンテストで一席よ。」
 由紀ちゃんがそう言うとマスターは顔をクシャクシャにして。
 「やったな。あの写真ならいいとこいくと思っていたけどやっぱりな。」
 私はまだ一席の意味が分からなくて。
 「一席って何なの。」
 て聞くと由紀ちゃんがまたふっと笑った。そしてマスターが言った。
 「一席を知らないのか。一席は一位、一等、優勝、金賞、最優秀賞とにかく
写真コンテストでは一番上の賞だよ。」
 「えぇっ、うそ。」
 私が驚いて声を漏らすとマスターが言った。
 「本当だよ。お祝いに今日は俺の奢りだ。」
 だけどおじさんは。
 「取り敢えずビール。」
 「ハイよ。」
 そう言ってマスターはカウンターに戻った。テーブルは少し静かになった。
あの写真はファインダーの中の今日香が、私に指示して撮った写真で
私が撮った写真じゃない。私は困ってしまい。
 「どうしよう。」
 と小さな声で言ったらおじさんが。
 「どうしようって一席を取ったんだからもう何もする事はないよ。」
 「誰もが欲しい賞だけど、コンテストで一席を取れるのは日本で一人だけよ。
そうじゃない世界から応募があるから世界で一人だけよ。」
 由紀ちゃんが言った。何でそんな大変な賞を取っちゃったの。
 「なんでこうなるの。」
 私が言うとおじさんは。
 「あれだけのいい写真だ当然だよ。」
 そのうちにマスターがビールとグラスを持ってきた。
グラスにビールを注ぐとおじさんが言った。
 「明日香ちゃんのコンテスト一席を祝って乾杯。」
 「乾杯。」
 マスターも加わってみんなで乾杯をした。私はうしろめたい気持ちで乾杯した。
 「明日香さんおめでとう。」
 由紀ちゃんがそう言ったので私は仕方なく。
 「ありがとう。」
 と言った。乾杯が終わるとマスターは一度カウンターに戻って
料理を持って来てテーブルに置いた。いつもより少し豪華な料理だった。
マスターはおじさんの隣の椅子に座ってしまい私達と一緒に飲み始めてしまった。
マスターは飲みながら言った。
 「有明新聞社の写真コンテストには今日香ちゃんもアマチュアの頃
応募したけど一席は取れなかったんだ。」
 「今日香も応募したんですか。」
 私が言うとおじさんは。
 「明日香ちゃんが一席を取ったっていうことは今日香ちゃんの
夢を叶えた事にもなるな。」
 そう言われると私の気持ちも少し楽になった。
ところが私達の後ろのテーブルで座っていた若い男四人のうち一人が
席を立ってこちらに来て言った。
 「今、後ろで聞いていたんですけど有明新聞社の写真コンテストで
一席になったって本当ですか。」
 どうやらこの男達も写真仲間らしい。おじさんが言った。
 「孝明か。もちろんだよ。」
 「あのう握手してもらえますか。」
 「あっ、俺じゃないよ彼女だよ。」
 おじさんがそう言って私を指すと、その若い男は私の方に手を伸ばした。
私は仕方なく愛想笑いをして握手をした。
 「ありがとうございました。」
 そう言ってその男は後ろの席に帰って行った。すると後ろで声が聞こえた。
 「やっぱり本当だって、あの女の人だよ。」
 「本当かよ。じゃあ僕達も行こうぜ。」
 そう言って今度は残りの三人の若い男と一緒に来た。
一人の男は一眼レフを持っていた。
 「あのう、一緒に写真を撮っても良いですか。」
 あぁどうしてこうなるの。どんどん大袈裟になって行く。
 「だったら向こうの広い方が良いよ。」
 マスターがそう言うと若い男四人は私を連れて店の奥の少し広い所で
私を中心に代わる代わる写真を撮った。
 「一席って凄いですよね。」
 孝明という男が言うと別の男も言った。
 「僕達四人もコンテストに応募したんですけど全くだめでした。」
 最後にまた四人の男は一人ずつ私と握手をして自分達のテーブルへ帰って行った。
どうしてこういう事になるのと思いながら私が自分の席へ戻るとマスターが。
 「俺たちも写真を撮ろうよ。」
 そう言ってカウンターの奥から一眼レフを出してきた。
マスターは最初、席に座ったまま私と由紀ちゃんを撮った。
マスターはカメラを由紀ちゃんに渡し今度は由紀ちゃんが私とマスターを撮った。
マスターはこの時私の肩に手を回していた。
今度はおじさんが私の隣に座り私の肩に手を回した。それを由紀ちゃんが撮った。
 そのうち新しいお客さんが入ってきた。
さっきの四人の若い男が新しく来たお客さんに私の方を見て何かを言っている。
 「一席かよ凄いな。」
 とか言う声が聞こえている。それを聞いた私は思わず言った。
 「あぁ、もうこんなの耐えられない。」
 するとおじさんが言った。
 「そんなこと言うと今日香ちゃんが悲しむぞ。
今日香ちゃんの夢は新聞社の写真コンテストで一席を取ることだったのだから。」
 私は自分でグラスにビールをいっぱいに注ぎ一気に飲んだ。
するとおじさんが言った。
 「そんな飲み方すると身体に悪いぞ。」
 「飲まなければやってられない。」
 私がそう言うと由紀ちゃんは。
 「明日香さんは一席を取ったことが嬉しくないの。」
 「じゃあ由紀ちゃんに一席あげる。」
 「いらないわよ、これは明日香さんが取った賞でしょう。」
 「これは今日香が取った賞よ。」
 「だめだ酔っぱらってる。」
 由紀ちゃんはあきれた様に言った。
この夜、この写真仲間が集まる居酒屋さんでは深夜遅くまでどんちゃん騒ぎが続いた。
 夜遅く私はだいぶ酔っぱらって家に帰った。
両親は寝ていたので自分で鍵を開けて入った。
部屋に上がり今日香のカメラを出した。
私は新聞社の写真コンテストで一席になった事を今日香に
報告しようとファインダーを覗いた。
今日香に動きはなかった。泣いてるの。あれはあなたが撮った写真だから、
あなたが授賞式に出なさいよ。授賞式は来年よ。

 今年は本当に色々あった一年だった。
今は本屋さんのアルバイトで収入は大きく減ったけど
会社を辞めた事で色々な人と知り合った。
私にとって色々な事件が起こった。
会社の人達もいい人だったけど、あのまま仕事を続けていたら
多くの人に巡り会わず今迄と同じ生活を送っていたろう。
私にとってどちらが良いのか分からないけれど今年は今迄とは違う一年だった。
その一年ももうすぐ終わろうとしていた。

イン・ザ・ファインダー 31

2020年05月21日 00時15分23秒 | イン・ザ・ファインダー
 「ヘリは前日の点検から取材当日の朝まで格納庫に入っていたのですが
夜間に誰かが出入りしているのです。」
 「どうして人が入ったって分かったのですか。」
 「格納庫にはIDカードがないと入れないのですが誰かが
IDカードを使用して入っています。」
 「誰のIDカードか判らないのですか。」
 「判っています。比較的簡単に社内の端末から情報にアクセスできます。」
 須藤はそう言って別の資料を私に渡した。
そこにはヘリコプターを所有している有明新聞社の整備士の名前と
経歴とか顔写真が載っていた。
 「この人が格納庫に入った人ですか。」
 「いえ格納庫に入るために使用されたIDカードの持ち主です。
他人がそのカードを使用して入った事も考えられます。
また考えにくいのですが偽造された可能性もあります。
格納庫に入れるのは誰のIDカードでも入れるわけではないので
操縦士とか整備士とかのIDカードでないと入れないのです。」
 「でも整備士なら用事があって入ったとか。」
 「ただ格納庫に入った時間が夜の零時過ぎで勤務時間以外です。」
 「そう言う事ですか。でも誰かが格納庫に入ってヘリに細工をしたとしても
何故そんな事をしなくてはならないのですか。」
 「そうなんです。目的が分からないのです。IDカードなどを考えると
そんな事を知っているのは新聞社の関係者や操縦士、整備士など内部の人間です。
それにヘリは保険に入っていましたが墜落した事による損失や保証は
新聞社にとっても膨大な額です。内部の者がそれを分かってて、
それでもヘリを墜落させた。そんな理由が思い当たらないのです。」
 そう言えばうちも多額の見舞金を貰っているのは事実だし。
 「今日香が誰かから恨まれていたとか。」
 「今日香さんは社内では仕事もできるし人気もありました。
僕の知る限りではそういう事はありません。」
 「須藤さんも乗っていたかも知れないんでしょう。
須藤さんには心当たりはないのですか。」
 「僕を恨んでいる人間は多くいるかも知れないけど、
僕を殺したいと思っている奴はいないと思います。
だいたい僕や今日香さんを殺しても利益を得る人間は誰もいないと思います。」
 「という事はやはり事故だったのでは。」
 「そう考えるのが自然かも知れませんが不自然な点も多すぎる。
どう見ても結論ありきの調査に思えるんです。」
 「どういうことですか。」
 「実は事故調査委員の名簿を見ると中に私が知っていた新聞社の息のかかった
人間が入っているのです。」
 「えっ。」
 「もしかしたら、その人間が事故の調査結果を誘導した事も考えられます。
そして、そういう人間を忍び込ませる事ができるのは新聞社の中でも上層部の
人間しかいません。」
 「まさか。」
 「まだ、はっきりした事は何も分かりません、全て僕の想像です。
もう少し調べてみます。」
 そう言われたが私にも何が何だか解らなかった。
それとは別に私には気になっていた事があったので聞いてみた。
「あのう。ちょっと気になっていた事があって。」
 私は夏にお台場の売店の人から受け取ったキーホルダーの付いた
鍵を取り出して須藤に見せた。
 「これは今日香が持っていた鍵なんですけど。何の鍵か分からないんです。
会社でこの様な鍵を使うところは無いでしょうか。」
 須藤は私からその鍵を受け取ると直ぐに言った。
 「うちの会社では部屋の出入りや共通のロッカーなどは全て
IDカードで開けます。個人のロッカーや机は事務用の鍵で
この様な装飾のある鍵ではありません。」
 そう言って私に鍵を返した。
 「そうですか。」
 いったいこの鍵はどこの鍵なんだろう。すると今度は須藤が別の事を言い始めた。
 「ところで明日香さんは有明新聞社の写真コンテストに応募していませんか。」
 「えっ、ええそうですけど。どうしてそんな事を知っているのですか。」
 「うちの編集長がコンテストの審査員の一人なんです。それで明日香さんの
写真を見て、さすが今日香ちゃんの妹だって感心していました。」
 「うそ。」
 「うちのカメラマンとして来てもらってはどうだって言ってまして。」
 どうしてそう言う話になっちゃうのよ。
 「いえ私は今日香とは違いカメラマンには向いていません。」
 あの写真は今日香がファインダーの中にいたから撮れたので
私自身が写真を撮る職業に就くことは有り得ない。
 「残念だなぁ。」
 それで須藤はあきらめたように思えた。この日の話はこれで終わった。
私達はファミリーレストランを出ると須藤はくれぐれも
この話は人にはしないでくれと言って帰った。
私も誰かに話したいとは思わなかった。


イン・ザ・ファインダー 30

2020年05月20日 03時37分20秒 | イン・ザ・ファインダー
十一月

 須藤は雑誌の翌月号に心霊写真と殺人事件の話を大きく載せた。
テレビでも中川梓さんは別の場所で殺されてからあそこに
埋められたらしいと報道していた。
でも未だに犯人は見つかっていなかった。
そんな時、須藤から話があると言われた。
私は本屋さんのアルバイトが終わってから夜に
須藤と待ち合わせたファミリーレストランに行った。
須藤はあまり人に聞かれたくない話だと言っていたので、
そのファミリーレストランは家からは離れていて
知り合いはほとんど来ない所だった。
 須藤は既に来ていた。私は須藤の向かいに座った。
店員が来たので須藤はドリアを私は海鮮リゾットを注文した。
食事が終わってコーヒーを飲みながら須藤は持ってきていた
資料の一部を私に渡した。
 「これは今日香さんが亡くなったヘリコプター墜落事故の
調査委員会が出した資料です。」
 それは以前に私も一度見た事があった。
 「あれは突風による事故だと聞いてますけど。」
 「えぇそう報告されています。
僕はあの事故が起きてから事故のことを調べられる範囲で調べてみたんです。
もしかしたら僕も死んでいたかも知れない事故だからです。」
 「はぁ。」
 「確かにあの日は強風が吹いていましたがヘリが
離陸した飛行場の担当者は飛行に支障が出ないと判断して
飛行を許可しています。」
 須藤がそう言ったので私は以前、事故の説明で聞いたことを言った。
 「ただ突風は地形や場所によって様々なので墜落現場付近では
強い突風が吹いていた可能性があると。」
 すると須藤は別な資料を私に渡した。
 「これは事故当日の気象観測データーです。
この資料によるとヘリが墜落した辺りでは、
それほど強い突風が観測されていないんです。」
 「えっ。」
 「知り合いの気象予報士にも確認したんですが墜落現場付近では
当日の気象条件から判断すると墜落現場付近で突風が発生する確率は
少ないということでした。また突風が起きにくい地形だとも言っていました。」
 「でも調査委員会が出した報告では墜落現場付近の突風が原因だと。」
 「この日は突風による事故が他でも多発していて最初から原因を
突風と決めつけてしまったのかも知れない。」
 そう言われて私は資料に目をやった。
 「調査が不十分と言うことですか。」
 「本当の原因に至っていない可能性はあります。」
 「何か他の原因があったのでしょうか。」
 「多分そうではないかと。」
 「操縦ミスがあったとか。」
 「ヘリを操縦していた操縦士は結構ベテランで飛行経験も長いので、
操縦ミスの可能性は低いと思います。
問題はヘリコプターの整備だったのかも知れないと思います。」
 「整備不良での墜落。」
 「ヘリコプターは横風を受けた場合にヘリコプターの姿勢を
安定に保つ仕組みがあるのですが、それがうまく働かなかった可能性もあります。
ヘリを墜落させる突風の様な強い風でなくても、
ある程度強い風が吹くとヘリの姿勢が保てなくなった可能性もある。」
 「証拠があるのですか。」
 「いえ僕の想像でしかありません。」
 「そうですか。」
 「ただ気になる事があるのです。」
 「それは何ですか。」
 「あの日の取材は朝一番だったのでヘリの点検は前日に
実施して当日は簡単な点検だけでした。」
 「今日香も朝一番で飛行場へ向かいました。」
 「僕も向かったのですが朝のラッシュと強風による交通機関の乱れで
遅れてしまいました。
それとヘリのチャーター時間の関係があったので取材は
今日香さんが一人でヘリに乗ったのです。」
 須藤は私に謝るように言った。
 「そうだったんですか。」

イン・ザ・ファインダー 29

2020年05月19日 01時15分53秒 | イン・ザ・ファインダー
 翌日、私は須藤の心霊スポットの記事が載った雑誌が気になって
アルバイトの合間にちゃんとお金を出して買った。
須藤が雑誌の発売前に雑誌を送ると言ったけど、私は見たくなかったし、
こういう事になるとは思わなかったので断ってしまった。
買った雑誌を開き、その記事を見ると私の撮った写真が
他の心霊スポットの写真より
かなり大きく載っていた。
それから数日経ったある日、私は本屋さんのアルバイトが終わってから
急いで電車に乗ってお台場に向かった。
スカートではなく今日香の服を借りて着ていた。
そして今日香のカメラを持ってきていた。
もしかして今日香なら何か判るかも知れない。
お台場に着く頃にはすっかり暗くなっていた。
 第三台場の辺りは史跡のためか街灯や照明が全くなかった。
でもビルやマンションの明かりやレインボーブリッジの
ライトアップ照明で歩くのに懐中電灯は必要なかった。
私は第三台場の窪地に降りると今日香のカメラのファインダーを覗いた。
レンズを塞がなくても暗いので今日香を見る事ができた。
今日香は既にある方向を指していた。私はその方向に歩き始めた。
歩いていくうちに先日、須藤が掘った辺りに近付いていった。
やがてそこを通り越し数メートル離れた所を今日香は指していた。
確かにそこにも草が生い茂っていて分かりにくいけど
土が少し盛り上がっている様な感じがした。
私は辺りから小枝を探して来てそこに挿した。
 これで帰ろうと私は第三台場の階段を上り始めた。
もう少しで土手が終わり連絡通路が見えてきた。
連絡通路にはこちらに向かって一人の男が歩いて来ている。
昼間でも人気のない所をこんな夜に歩いてくるのは不審に思えた。
人のことは言えない、向こうからすれば私が不審者だ。
私は土手を登り終えて連絡通路を歩き始めると私を見たその男は
もの凄く驚いた様子で来た方向に走り始めた。
怪しい。まさかとは思うけど一番考えられるのは梓さんを殺した犯人。
そう思いカメラのファインダーを覗くと今日香がその男を撮れ
という様な動きをしたのでズームを望遠側いっぱいにして
カメラを構えた。男が一瞬こっちを振り向いた瞬間その男を撮った。
暗い中でも怯えた男の顔が見えた。だけど私の知っている人ではない。
でも犯人だとしても、なぜ私を見て逃げ出したのだろうか。
普通に通り過ぎれば問題ないのに。逃げた方がかえって怪しまれる。
もしかして私が梓さんの亡霊に見えたのだろうか。
でも、私と梓さんは全く似てない。

 翌週の本屋さんの定休日に須藤に連絡してお台場で待ち合わせた。
私はあることが気になって須藤の心霊スポットの記事が載っている
あの雑誌を持ってきていた。
午後お台場で待っていると駐車場の方から須藤がカメラマンを連れてやって来た。
手にはこのあいだの折りたたみのシャベルを持っていた。
 「大体の場所が判ったんですか。」
 「はい。土が少し盛り上がっていたので。」
 「そうですか直ぐに行ってみましょう。」
 そして第三台場への連絡通路を歩きながら須藤とカメラマンは話している。
 「まぁ出なくて元々だからな。」
 須藤が言った。
 「出たら大変だよ。」
 カメラマンが言った。
 私達三人は連絡通路から土手を下り第三台場の窪地に降りた。
私は先に歩いた。私はこのあいだ掘った辺りを通り過ぎると
須藤がその辺りを指さして。
 「あそこがこのあいだ掘った所だ。」
 と言ったけど私はそのまま進んで、このあいだ挿した枝の
辺りを指さして言った。
 「ここの盛り上がった辺りです。」
 「確かに草が生えているけど近くで見ると
盛り上がっているのが分かる。」
 須藤がそう言うとカメラマンが何度かシャッターを押した。
 「どうしてここが分かったんですか。」
 そう須藤に聞かれたけどまさか今日香に教えてもらったとは言えないので。
 「あの時、一緒に撮った写真を見たらここが盛り上がって見えたので。」
 と嘘をついた。
 「そうですか。ちょうど人間を埋めたくらいの大きさに盛り上がっている。
じゃあ掘ってみます。」
 須藤はそう言って掘り始めた。カメラマンはその須藤を撮っている。
そしてほんの数回掘った時に須藤が言った。
 「何かある。」
 須藤はその辺りの土をシャベルで掻き分けた。埋まっていた物の一部が見えた。
完全に土色に染まっているけど、心霊写真に写っていたのと同じような
衣類と髪の毛の一部が見えた。
それを見た私は吐き気を覚え口を手で抑え、そして立っていられなくなり
その場に片手をついてしゃがみ込んだ。
梓さんという人には一度もあっていないけど涙が止まらなかった。
 「梓さん。」
 私はあの母親の顔を思い出しそう言った。
 「警察を呼ぼう。」
 須藤はそう言って掘るのをやめ警察に電話した。
やがて警察の人間が次々とやって来て私達は警察から事情を聞かれた。
須藤は自分達の職業や簡単に事情を説明したが警察官は聞いた。
 「何故ここを掘ったんですか。」
 「これを見てください。」
 須藤はそう言って写真を警察官に見せた。
 「ここの写真の様ですが。」
 警察官がそう言うので須藤は。
 「女性の霊が写っているでしょう。」
 と言ったけど警察官はうさんくさそうな顔をして須藤を見て言った。
 「写ってませんよ。」
 「そんな馬鹿な。」
 須藤はそう言って警察官から写真を取り上げて写真を確認した。
 「写ってない。」
 須藤は驚いた顔をしてそう言った。私はこの事を予想していた。
私は持っていた雑誌の心霊スポットの記事を開いた。
やっぱり思った通り、こちらに印刷されている霊は消えていなかった。
私はその部分を開いて警察官に見せた。それを見た警察官は。
 「この写真を見て掘ったというわけですか。」
 信じられないという顔をしてしていた警察官に須藤が言った。
 「その霊は行方不明になっている中川梓さんという人に似ているのです。
そしてここに埋まっているのもその方だと思います。」
 警察官はそれでも納得しない様だったけど私を見ていった。
 「この雑誌、預からして貰っていいですか。」
 「はい、どうぞ。」
 私はそう答えた。
 「ありがとう。」
 須藤が私に言った。辺りは陽がしずみ始め薄暗くなってきていた。
 「少し遅くなりそうなので、この後は僕達で対応します。
先に帰られて下さい。」
 須藤が私に言った。私は警察官に住所や名前を教えてそこを後にした。
土手からは何人もの警察官が次々と降りてきた。私はその道を逆に登り始めた。
連絡通路には何台もの警察車両が止まっていた。
私はその横を通りゆりかもめの駅へと向かった。