かつて経験したことのない不思議な演奏会だった…
夢の話ではなく現実の話。
先月末に、某外国人ピアニストのリサイタルに出かける機会を得た。
夫が友人からチケットを貰って、
都合のつかない夫の代わりに私が行く事にしたのだが、
思いのほか混んでいて隣町の文化ホールの駐車場に入るだけで30分以上かかった。
ロビーで待ち合わせた友人に挨拶もそこそこに着席すると、
クラシックのリサイタルとは思えないほど観客同士が賑やかにお喋りをしている…
ほぼ全員が顔見知りで、
そこに私を含め数名の部外者がいる?…そんな構図だ。
まぁ、M音が主催するコンサートだからというのもあるだろう。
それはさておき、
(純粋にピアノの演奏を聴いて楽しみたい)
と思ってきている私のような聴衆も何人かはいるはずだ…
アーティスト名は初めて聞いた人だが、
(知る人ぞ知る?という人なのかもしれない)
そんな期待をしつつ開演を待っていると
予鈴も本鈴もなく、
いきなり下手から、やや猫背の小柄な初老男性が出てきて軽くお辞儀し、ピアノの前に座り、間をおかずに弾き始めた。
演奏が始まっても会場のざわつきはおさまらない。
演奏が始まって5分以上経っているのにぞろぞろと席を探して入ってくる人がいる…
そんな落ち着かない雰囲気の中で1曲目が終わった。
会場の音響も決して良いとは言えない。
ピアノの音がステージの天井に吸い込まれているようで、遠くから響いているようだ。
バッハのイタリア協奏曲は楽しみにしていたプログラムだったが、
最悪だったのは第二楽章の途中、
通路を隔てた左斜め前の席の辺りからアップテンポの着信音が鳴り始めた。
驚いた事に、着信音の女性は一瞬自分のバッグを見ただけで音を止めない…
何度も鳴って周り中から白い目で見られているのに、鳴り終わるまで素知らぬフリをしていた。
おかげでイタリア協奏曲第一楽章と第三楽章は、素晴らしい演奏だったが、
第二楽章の1番静かな部分でケータイが鳴ったため、全てがぶち壊しになった…
第一部のプログラムの途中で、もう1つ気になる事があった。
左側前列席の7、8列目、通路側に座っている女性がずっとスマホで撮影している…
足を組んで、その組んだ脚にバッグ?を乗せて、右手でしっかりスマホを固定しピアニストの出入りから演奏までの全てを撮っているのだ。
(堂々としているし、関係者?奥さまかな?)
とも思ったが、
常識的に考えて、
(あの場所での撮影は、ありえないだろう)
演奏中の薄暗い会場で、そこだけがポッと明るくなっているのが気になって仕方がない…
私だけではない。
第一部の終了後に後ろの男性が係員を呼んで
「撮影禁止なのに非常識じゃないか!」
とクレームをつけた。
すぐに係員が、
「実はピアニストの奥様でして」
と事情を説明したが、
私はますます不思議に思った。
(一流アーティストの身内が客席でスマホ撮影するのを主催者が許可した?あんな目立つ場所で?)
アーティストご本人は黙々とピアノに向き合い、どの曲も安心して聴ける誠実な演奏だったのに残念だ。
第一部が終わった休憩時間に
後ろの席の男性客が
「モーツアルトもシューベルトも同じにしか聞こえねぇよ!なんか機械が弾いてるみたいだなぁ…帰るわ〜」
と仲間らしき人達に言って席を立った。
(機械かぁ…)
ミスタッチがほとんどなく、リズムも崩さず…強烈な個性が感じられない。
それを「機械」という言葉で表現した男性客の言葉は、ある意味、間違ってはいないのかもしれない…
音楽に興味のない人の耳で聞くとそんなものなのかもしれない。
この演奏会に欠けていたのは
主催側、聴衆側双方のマナーに対する意識の低さだ。
常識やマナーを守ってこそ、
良い演奏会だった…と言えるのではなかろうか。
改めて、そう感じた演奏会だった。