サブタイトルの
ー 文学者の様々な愛のかたち ー
…に、惹かれて観て参りました。
友人に宛てたもの、
妻に宛てたもの、
子供に宛てたもの、
愛人に宛てたもの…
「愛の手紙」とは言っても、様々です。
展示された手紙をじっと観ていると、
そこに書かれた文字からは精神状態が、
綴られた内容からは、経済状態や人間関係が、
作品を読むだけでは見えてこなかった文学者たちの“素顔”が、垣間見えます。
印象的だったのは、
芥川龍之介が家族に宛てた絵葉書…
茶目っ気たっぷりの文に、思わず顔が緩んでしまいました。
結婚式の写真などは、
いつもの龍之介さんとは別人のように若くて晴れやかな表情です。
夏目漱石の妻への手紙は、
毛筆で流れるような文字で、つらつらと綴られてはいましたが、
愚痴あり、自虐ネタありで、ウルサ型オヤジの典型?
( 奥様は、さぞかし大変だっただろうな…)
と、思いました。
与謝野鉄幹と晶子夫妻の子供に宛てた欧州からの絵葉書も、
晶子さんの几帳面で小さな字に比べると、
鉄幹さんのは大きくて癖字で…右肩上がりの不安定な形…。
小さな子供たちを日本に残して、夫婦で欧州旅行だなんて…
当時としては、期間も長くて費用もとんでもなくかかったでしょうに…。
( 淋しい思いをさせている子供たちに、負い目があるのかな?)
文字の印象が、どことなく暗いのですよね。
暗い、といえば、
太宰治が山崎富栄に送った鉛筆書きのメモのような手紙は、
その落書きのような乱れたカタカナ文字が当時の心境を物語っているようで、
(相当、追い詰められていたのかしら?)
と思わせ、その後の玉川上水での心中を予測させます。
極め付けは、
斎藤茂吉が愛人の永井ふさ子に宛てた手紙…
恋に狂った茂吉さんの肉声が生々しく赤裸々に綴られています。
手紙のやり取りは、
茂吉さんが53歳のとき、
(当時は初老と言われた年齢)
28歳も年下のふさ子さんに恋慕し、
互いに求めあい、深い関係にあったことを証明するような文面です。
手紙が公開されたのは、
茂吉さんが亡くなってから10年経った1963年だと言いますから、
半世紀以上も前のことなのですが、
生前の茂吉さんは、必ず手紙を焼いて処分するように、と言っていたとか…
それなのに、何故、ふさ子さんは公開したのでしょうね。
ふさ子さんと別れた経緯は、よくわかりませんが
その後、
別居中だった奥さんとのヨリを戻したところをみると、いろいろあったのかな…。
いずれにしても、
かつての文学者たちの手紙には、
今の時代なら
間違いなく週刊誌やワイドショーが飛びつくネタが満載です。
常設展の三十六歌人のコーナーの、“お人形”にもウットリ…こちらもお勧めです。