天使の図書館ブログ

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迷宮のカル=ス。-5-

2012-04-20 | 創作ノート
(ドミニク・アングル「グランド・オダリスク」1814年、ルーブル美術館蔵)


 このお話、タイトルを「迷宮のカル=ス」と「晴れた日には永遠が見える」のどっちにしようかなって、少し迷ったんですけど……まあ、なんとなく「迷宮のカル=ス」ということにしておきました(^^;)

 そんでもって、今回でやっと最終回です

 最初に「姦通がバレた王女のお話」が出てくるんですけど、これもまたわたしが適当に考えて作ったものだったり(笑)

 あと、シェラがやたら自分の身分のことを気にしてるのは、バスタの世界観ではそこらへんどーなのかわからないにしても、とりあえずわたし的な設定としては、<吟遊詩人>ってRPGの職業にでてくる<遊び人>とか<踊り子>と同種な感じなんですよね(^^;)

 つまり、貴族階級のやんごとなき方々(笑)から下民や奴隷に至るまで……すべてのあらゆる階層に受け容れられ、喜ばれる職業であると同時に、定住地を持たないジプシーのような存在でもあるため、時に蔑みの対象とされたり、差別されることもある職業、というか。

 シェラも旅の過程で色々なものを見ながら成長してきており、彼女もまたネイみたいに<安住の地>=<理想郷>を求める気持ちがあったのかもしれません。そうした中でも、彼女が特に感情を動かされたのが、貴族と呼ばれる人々よりも、下層階級の貧しい人たちだったんじゃないかなって思います(いつものことですが、すべてわたしの妄想ですよ?笑)

 シェラ自身は、古代の武勲の歌などを奏で、貴族から金貨をもらうより――おそらくは、スラムの貧しい人たちにただで歌を聞かせてあげることのほうを好んだのではないでしょうか。だから、↓のお話の中で、シェラが自分はそちら側の人間だみたいに言ってるのは、そういう意味なんだと思ってくださいね(彼女自身が極貧生活を経験して育ったっていうのとは少し違うので^^;)

 それにしても、自分で書くようになってから、シェラのことが日々可愛くて仕方なかったり

 え~とですね、今のわたしのバスタ、女性キャラ人気第1位は、当然シェラなんですけど(笑)、十代の頃とかは実は全然違ってましたもちろん、シェラのことも当時からものすごーく好きではあったんです♪でも具体的にカルとくっつくといった発想がなかったため、「……だったらいいな☆」くらいで終わっていたというか(^^;)

 いえ、今はバスタも最盛期過ぎてるから(すみません)アレなんですけど(ドレよ☆)、当時は自分と同じよーにカルのことが好きな女子(笑)っていうのが他にたくさんいて、カルが公式で誰かとくっつこーもんなら、きっと怖い手紙が原作者様の元には山のよーに届くんだろーなって思ってましたww

 コミックス12巻の巻末に、声優さんの読者リクエストみたいのが載ってるんですけど、カルのところには「こわいので、コメントはひかえますか」とか書いてある(爆☆)

 それ見た時も、「もーこれはカル、きっとお話の中では<孤独>で終わる運命だな、うん」とか思ったし(^^;)

 でも今読むとアレ(だからドレ??)ですね、昔と同じくらい強い萌えはあるけど、原作自体には昔ほどの強い支持とか人気がないみたいなので(すみません)、カルってべつに公式で誰かとくっついても、それほど文句って出ない気がするよーな(^^;)

 もちろん、原作者様の中ではカルってそーゆーキャラじゃないのはわかってるんですけど(笑)、シェラと再会するところまでは、最低でも絶対描いてほしいと願ってやみません(祈☆)

 ではでは、機甲界ガリアンも見終わったし(主様、ありがとう~!!)、その感想とかバスタについても書きたいことがあったり(え?まだ??笑)、なんとも嗜好の偏ったブログなんですけど、これからもおつきあいいただけると嬉しいです~♪(^^)

 それではまた~!!



       迷宮のカル=ス。-5-

 ――むかしむかし、シヌアルという砂漠の国に、五人の姫君を娘に持った王さまがいました。

 長女はとても身持ちが堅く、また信仰深い性格でしたから、すぐに結婚相手が見つかって、嫁いでいきました。

 そして次女であるお姫さまもまた、姉君ほどではありませんでしたが、身持ちが堅く、それなりに信仰深い性格でしたので、良い殿方との縁談が、すぐにまとまりました。

 三番目のお姫さまも、ふたりの姉君ほどではありませんが、まあまあ身持ちが堅く、信仰心もありましたので、結婚相手には困りませんでした。

 四女であるお姫さまは、少々身持ちがお悪く、信仰心も薄かったのですが、それでもどうにか、王さまが権威にものを言わせて嫁ぎ先をお決めになりました。

 ところが、五番目の王女……その名をヤスミンカ姫というのですが、彼女は身持ちが悪かっただけでなく、信仰心もまるでない奔放な娘だったので――実際に結婚した時、とても困ったことになってしまいました。

 そう、このお話はそんなヤスミンカ姫が主人公の物語です。

 ヤスミンカ姫は十四歳になった時、隣の王国の王子と婚約することになりました。相手には自分のことを描いた肖像画が渡っているはずですが、ヤスミンカ姫は自分が将来結婚することになる殿方の顔を知ってはいません。

「不公平だわ、そんなの!!」

 そうヤスミンカ姫は王である父上に申し上げましたが、王さまはただ「おまえの上の四人の姉君も、そうして嫁いでいったのだよ」としかおっしゃいませんでした。何故なら、それがしきたりというものだから、というのです。

「おかしいわ、そんなこと!!」

 そう思ったヤスミンカ姫は――ちょっとした悪戯心から、ある凛々しい顔立ちの騎士のことを誘惑します。この時代のこの国では、婚約している女性がもし、婚約中の男性以外と関係を持ったとしたら、姦通を犯したとしてその罪を裁かれることになっていました。

 そして、姦通罪の判決というのは、どのような場合でも死罪ということに決まっていたのです。

 でもヤスミンカ姫はあえて危険を冒し、その凛々しい顔の騎士と逢瀬を重ねました。

 自分は王女なのだから、もし事が露見しても死罪を免れえると、そのように考えての軽はずみな行動でした。しかしながら、王女自身思ってもみなかったことが起きたのです。彼女はやがて、この騎士に本気で身も心も捧げたいと思うほどに、彼のことを愛してしまったのですから……。

 こうなるともう、隣国の顔も知らない王子のことなど、ヤスミンカ姫にはどうでもいい相手でしかありませんでした。

 ヤスミンカ姫は、騎士と密会を重ねるごとにますます離れがたくなり、結婚の日どりが近づいた時にとうとう、「わたしを攫って逃げておくれ」と自分から騎士に言いました。

 ですが、その言葉を聞いた途端、それまで激しく恋していた騎士の顔が曇りました。そして彼は、「そんな大それたことはとても出来ない。それじゃなくても見つかったら、君と僕とは縛り首なのに」と言って、王女の元を去っていったのです。

 ヤスミンカ姫が悲しみに打ちひしがれているうちに、隣国の王子との結婚の日がだんだんに迫ってきました。彼女は悲しい失恋を胸に秘めたまま、ヴェールを被って隣国へ嫁いでいきました。

 ところで、この地方の国々には奇妙な風習があって、どんな娘も初夜の時に使った<処女のしるし>の残るシーツを、ずっと取っておかなくてはなりませんでした。

 というのも、これは間違いなくその娘が結婚するまで貞潔を守ったということの高貴な証しであり、のちに夫が彼女を気に入らなくなったとしても――自分は彼に対し、このような犠牲を払ったと主張すれば、離縁する時に財産を半分もらうことが出来たからです。

 もちろんヤスミンカ姫はそのことを知っていましたし、ゆえに、騎士との間で初めて交わした時の愛のしるしを――王子とのものだと偽る心積もりでいたのでした。

 ところが初夜の日の翌朝、思わぬことが起こりました。王宮に仕える侍女のひとりが、王子夫妻の寝所へシーツ交換をしにいったところ、<処女のしるし>がどこにも見当たらなかったと、そう王さまに報告したからです。

 侮辱されたと感じた王さまは、ヤスミンカ姫のことは即刻死刑の縛り首、また隣の国へ攻め入って、この恥辱を晴らしてやらんとばかりに怒りを燃え立たせたのでした。

 さて、身持ちが悪くて信仰心のまるでない、自由奔放なヤスミンカ姫は、このあとどうやってこの窮地を切り抜けたのでしょうか……?


 ――というのが、二日ほど前の晩にシェラがカル=スに語って聞かせた話、その物語の前半部分である。
 残りは、この続き。


 ヤスミンカ姫は、自分の生涯の伴侶となった王子に、こう言って泣きつきました。

「ねえ貴方、どうか後生ですから、妻であるわたしのことを助けてくださいな。<処女のしるし>は見つからなくても、確かに間違いなくわたしはそうだったと王さまにおっしゃってください。そうすれば万事、うまく解決するのですから」

 しかしながら、この美しい新妻の必死の訴えに対し、王子の態度というのは冷ややかでした。

「ぼく、よくわからないな。だってぼく、君以外に女の人というのを知らないものだからね。だから証拠がない以上は、どうすることも出来ないや」

 ヤスミンカ姫は、自分が王子のことをたばかったことも忘れ、彼に対して猛烈に腹を立てました。そこで、騎士との愛のしるしであるものを手にとって、これこそが王子との間で流された血ですと、そう王さまに言うことにしました。

 ところが、そのヤスミンカ姫が故郷から持ってきたはずの、<処女のしるし>がどこにも見当たらないのです。

 大量の嫁入り道具のどこかに紛れてしまったのかもしれないと思い、ヤスミンカ姫は必死になって探しましたが、どこにも見当たりません。

 追いつめられたヤスミンカ姫は、とうとう意を決して、上等な白いシヌアル製の外套を手にとって、王さまの謁見の間へと向かいました。

 もちろん、この計画がもし失敗に終わったら、自分は当然死刑の縛り首ですし、故郷の王国では戦争が起きるでしょう……そのことを思うとヤスミンカ姫の足は震えました。

 けれども、怒っていると聞いていた王さまが、実際に会ってみると意外に平静でしたので、その瞬間、ヤスミンカ姫もまた落ち着きを取り戻し、震え声にもならずにこう言いおおせることが出来ました。

「王さま、どうかよくご覧くださいませ。このシヌアル製の白い外套こそが、わたしの<処女のしるし>でございます」

「ほう?そのわりにはどこにも、赤い血のしるしが見えぬように見えるがな」

 王さまの声が、幾分厳しいものに変わったのを受け、ヤスミンカ姫もまた冷や汗をかきつつの弁明となりました。

「王さま、砂漠の国の夜とは冷えるものでございます。そこでわたしはこの外套をとり、あらかじめ王子さまがやってくる前に、ベッドの上へ敷いておいたのでございます。ですから、事が終わった時、この外套の上には紛れもなく<処女のしるし>がありました。侍女がいくらシーツの上を探したとて、それがないのは当然でございましょう」

「ふむ。じゃがおかしいな。では何故その外套の上には、そなたが処女であったことを示す、血痕がないのじゃ」

「この外套は我がシヌアル国の、もっとも上等なものでございますれば……わたしは故郷のことを思いだすあまり、この外套の上に何度となく涙の雨を降らせました。そしたらどうしたことでしょう!やがて、<処女のしるし>が涙の力で薄くなっていってしまったのでございます。そこでわたしはもはや、この外套をとって「これこそがわたしの処女のしるしだ」などとは誰にも言うことは出来ないと悟ったのです。ところでこの外套は、我が国のとても大切な、思い出深い品……わたしは思いきって、薄くなった血痕を灰汁で洗い流すことにし――これからは、この外套のような真白き心を持って王子さまにお仕えしたいと、そのように思ったのでございますれば……」

 ヤスミンカ姫は王さまの前で深く頭を垂れ、自分にどのような判決が下されるかをじっと待ちました。

 王さまは、このような不思議な話は聞いたことがなく、かといってヤスミンカ姫が嘘を述べているようにも思われず――ちょうどその時、謁見の間の隅のほうで、独楽をまわして遊んでいた王子に、こう聞くことにしたのでした。

「王子よ、今の話を聞いていてどう思うな。この姫の言っていることは、すべて真実であると思うか?」

「ぼく、よくわかんないや」

 と、王子さまは新たに独楽をまわしながら言いました。

「だってとても暗かったから、そんな外套があったかどうかも、わからないよ。でも、その人が色々教えてくれて助かったのは、本当」

「ふうむ」

 王さまは唸り、長い顎鬚を何度もしごきました。

 その間、ヤスミンカ姫は生きた心地もせず、ただじっと足が痺れるまで平伏するのみでしたが――やがて、王さまが長い沈黙のあとにこう言いました。

「よし、そなたが言うこと、すべて真実であると受けとめよう。これからもそなたの申した、真白き心によって、我が王子に仕えてもらいたい」

「もちろんでございます、王さま」

 ヤスミンカ姫は窮地を乗り越えることが出来てほっとしましたが――王さまは実は、ヤスミンカ姫に対し、強い疑いを持ってはいたのです。ですがこの隣国の王女がもし嘘をついていたにしても、なんという素晴らしく機転の利いたほら話だろうと、ある意味感心していたのでした。それに引き換え自分の息子である王子には、真実を言う以外にまるで能などないのです。

 そこで王さまは、彼女のような人が妃になれば、自分の息子もいい王さまとして成長できるに違いないと考え――彼女のことを死刑の縛り首にもしなければ、隣国へ攻め入るということも思い留まったというわけなのでした。

 さて、その後ヤスミンカ姫は真実しか言わない王子と仲良く暮らし(彼が真実しか言わないゆえの喧嘩というのもありましたが)、王さまに申し上げたとおり、真白き心を持って終生彼に仕え続けたということです。


 終わり


「ふうーむ」

 シェラが物語の結びの言葉を述べ終えると、カル=スはどこか複雑な溜息を着いていた。 

「この物語の教訓らしきものは、一体どこにあるのだろうな?婚約中に姦淫しても、その後悔い改めれば許されるということか?なんにしても、女というのはおそろしいな。他の男に抱かれた汚れた身のままで、別の男と初夜を過ごせてしまえるとは……」

「だからカル様は、わたしひとりにしておいてくださいね」

 シェラは竪琴を脇に置くと、そう言ってどこか悪戯っぽく笑った。

「わからないといえば、私にはおまえのこともわからない、シェラ」

「?」

 主君カル=スが、何を言っているのか理解しかねて、シェラは顔に疑問符を浮かべた。

「あの、どのあたりが祈祷書なのかまるでわからない本のことだ。あんなものを読むということは、おまえは普通の行為では満足できないということなのか?それから、他にもある。何故おまえが私との結婚をそんなにも渋り、先延ばしにしたがるのか……私にはまるでわからない」

「カ、カル様っ!!あの本については、本当に誤解なんですっ!!」

 シェラはかあっと顔が赤くなるのを感じ、あの本はとっくに図書館へ返却したこと、また、何か<新しい努力>のようなものをしなければ、カルが自分に飽きてしまうのではないかと思ったことなど、しどろもどろになりながらも、一生懸命説明した。

「ですから、その……いつもされるがままになっているばかりではいけないと、そう思ったんですっ!!それにわたし、カル様がお喜びになってくださるなら、なんでもしたいと思ってますし……だから、その………」

 今度はカルのほうが、どこか悪戯っぽく笑う番だった。彼には実は、シェラにそう説明される前から――わかっていたのだ。彼女が考えていそうなことというのは。

 そしてそのことに気づいたシェラは、頬を赤くしたまま、今度は拗ねたような顔になる。

「ひどいです、カル様っ!!わかっていて、わざとわたしに説明させようとしましたね!?」

「いや、そうではない」

 と、カルは真剣な顔つきに戻って言った。

「女というのは神秘的で、実際よくわからない生き物だ。こちらがこうすれば喜ぶだろうということをすれば、全然何もわかっていないという態度を示したり……シェラ、こう言えばおまえにも心当たりがあるだろう?」

 今、ふたりはジューダス城の、カル=スの寝所にいた。正確には、広い窓敷居の上で向かい合い、満月の光に照らされていたのだった。

 シェラにはもちろん、カルが何を言いたいのかがよくわかっている。<リハイラ王妃の館>にある、衣装部屋の扉を彼が開いた時――そこに数え切れないほどのドレスや靴、装飾品類が並んでいるのを見て、シェラは「喜んでいるふり」はしたが、実際には心から喜んでなどいなかった。

 こんなことは自分には過ぎる贅沢だと思ったし、むしろそうした主君の心遣いに、胸の奥が微かに痛んだ。それと、あの館にいる間はいつも、衣装部屋にある何がしかのドレスを着るようにしていたものの……それもまたシェラにとっては窮屈なことだった。というより、今のように男の格好をしている時のほうが、自然体でいられて楽なのだ。

「わたしは、ただ……」

 と、シェラは窓の外の、月光に照らされた花壇のあたりを見下ろした。花たちがまるで、月の光から魔法の力でも付与されたように、美しく輝いて見える。

「嬉しいんです、カル様。貴方のそうしたお気持ちが……ただ、カル様の目はあまりに清すぎて、世間にある塵やゴミといったものが入ってこられないのかもしれません。でもわたしは小さな頃から、そうしたものを数多く目にしてきました。一片のパンのために起こる人殺しや、暴力事件、たった一リブラのために子供が身を売るといったような、窮乏の底の世界……わたしもまた、そうした世界の住人なんです。でもカル様、貴方は違う。実際の出自がどうとか、そんなことは貴方には関係がない。貴方に対しては多くの人が、高貴な方と認め、自然と頭を下げるでしょう。でも、わたしは違うんです。わたしがただの部下としてではなく、貴方の横に立つということは――カル様にとってマイナスになることはあっても、プラスになることはない。そのことがわたしにはわかっているから……だから………」

 シェラは泣いてはいなかったが、それでも長い告白のあとで、ぐすっと鼻を鳴らした。膝に顔をうずめている彼女の姿はまるで、(これでもう嫌われた)と感じている子供のようで、カルは胸が痛むものを感じる。

「おまえが言いたいのは、それだけか?」

(え?)とシェラが思った時、彼女の顔の間近に、カル=スの顔があった。カルはシェラのことをひょいと抱きあげると、いつものように天幕付きのベッドへと、彼女のことを軽々運んでいく。

「私はおまえを、苦しめたいとは思わない。私がおまえを妃にすることが、もし――居心地の悪い窮屈なドレスを着ることでしかないなら、そんな結婚には意味がない。ただ、私は……私生児として生まれたからな。母は族長の娘だったのに、私という存在を生んだそのせいで、周囲から排斥されるようになった。とても美しい人で、「普通に」結婚さえ出来ていたら、無駄に多くの涙を流すこともなかったろう。私はシェラ、おまえにはそういう思いをさせたくなかった」

「……………!!」

 カル=スの告白に、今度はシェラのほうが驚く番だった。この方がそこまで思ってくださっているのに、自分があまりにも浅はかな態度をとってしまったように思われて……シェラは胸が苦しくなった。

 これまでにも何度か感じたことのある、あまりにも嬉しくて幸福で、心の奥がじんと痺れたように痛くなるほどの、切ないくらいに強い、喜びの感情……。

「カル様、わたし、わたし……っ!!」

「べつに、急ぐ必要はないんだ、シェラ」

 そうカルは言って、ベッドの上に座らせたシェラの目蓋に、そっと口接けた。その途端、シェラの瞳に盛り上がっていた涙が、目を閉じた拍子に頬へ流れていく。

「何しろ、私はこの年になるまで、半ば以上絶望しながら、ずっと来ないだろう<いつか>という日を待ったのだから……これ以上遅くなったところで、実際なんの驚きもない」

「でも、もしいつか……」

 そう言いかけて、シェラは唇を閉ざした。不安など、口にだしていたらキリがない。シェラは自分のことを横からじっと見つめ、彼女が言を継ぐのを待っているカルに対し、全然別の、違う言葉を語ることにした。

「カル様、もしいつか――とてもよく晴れた日に、お互いの間に永遠が見えたとしたら、その時に結婚するというのはどうですか?」

「そうだな」

 と、シェラの言っている言葉の意味がカルにも通じたらしく、彼は微かに笑って言った。

「もし、いつかというのがいつでもない日ではなく……晴れた日に虹が見えて、その根元まで行くのに、ちょうどいい日だったとしたらな」

 それからふたりは、誓いの口接けを交わすと、『やんごとなき姫君の祈祷書』が伝える技に頼るでもなく、お互いに深く愛しあった。そしてシェラが次の朝目を覚ました時……シェラの左の薬指には、彼女が一度受けとるのを拒否した、ダイヤの指輪が嵌まっていたのだった。



 終わり





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