天使の図書館ブログ

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エイリアンの赤ちゃん。

2011-10-26 | 創作ノート
 ※今回の画像と本文は全然関係ないんですけど、エイリアン・シリーズはとりあえず全部見てます(笑)


 さて、今回のっけるのは、わたしがわりと最近書いた短篇小説です♪(^^)

 いつもは、新しいのが書き上がると、なろうさんのほうにそのまましちゃうんですけど……最近何故かすごく短篇の小説がいくつも思い浮かんでいて、それを順番に書いていこうと思いつつも、なかなかゆっくり集中できる時間がなかったり

 まあ、どれも基本短いお話ばかりなので――1日に一篇仕上げるくらいのペースで、書こうと思えば書ける気がするんですけど、ノロノロかたつむりの歩みで、時間のある時に書いていこうかなと思ってます(笑)

 でも、こういうストックって、すぐ書かないとハッ!と気づいた時には内容を忘れてたとかって、たまにあるんですよね(^^;)

 なので、自分的に一応タイトルだけメモ☆しとこうかなって思います。。。

「澄んだ瞳のヴァイオリン弾き」、「おかしな人生」、「闇と光の王国」、「蛇女房」、「夢の中の電話ボックス」、「ヴァージン・クラブ」、「間違った娘」……ええと、こんなところだったかな

 まあ、全部書くかどうかはわからないんですけど、毎日のように短篇が頭の中で次々追加になるので――なるべく早く頭の中から文章のほうに移したほうがいいかもしれませんww

 そんでもって、どれも基本お話としては短いので、ある程度たまったところでショートショートとしてなろうさんのほうには登録したほうがいいのかな~と思ったり。。。

 そういえば、なろうさんの運営局から18禁指定が来て、「奇跡は二度起きる」と「永遠の海」を登録し直したんですけど……初日はPV数がすごいことになってました(^^;)

 特に「奇跡」のほうは、一日で15000越えてたので、流石にここまでアクセスあったのは、これが初めてというか。

 書いたのは相当昔なんですけど、読者さんにここまで需要あると思ってなかったので、本当にすごく嬉しかったです

 読んでくださった方、本当にありがとうございましたm(_ _)m

 それではまた~!!


       エイリアンの赤ちゃん

 たとえばあなたなら、空から何が降って来たら一番驚くだろうか?

 雹?それとも槍?はたまた、階上の住人が迷惑にも手を滑らせて、チューリップの鉢植えが空から落ちてきたら――しかもそれを間一髪のところで回避したとしたら――驚くだろうか?

 あるいは、豚でもミートボールでもなんでもいい。なんだったら、モグラやラクダだっていいだろう。とにかくこの私、ジョン・ウッドマンは明日空から何が降ってきたとしても、まったく驚くということはあるまい。

 何故なら……ああ、何故なら!赤ん坊はコウノトリが運んでくるというが、きのう妻が生んだわたしの子は、エイリアンとしか思えない容貌をしていたのだから!



 妻と私は、まったくこの日をどれほど心待ちにしていたことだろう。

 郊外にある一軒家、四年前に二十五年ローンで購入したその広い邸宅には、前もって子供のために用意した部屋がふたつあった。

 結婚して三年目にして妻のローズが妊娠すると、私たちは互いに互いの体を抱きあい、そして次には手に手を取りあって心から子供の出来たことを喜んだ……そう、私と妻のローズは心から愛しあっているカップルなのだ。

 だから、妻がエイリアンの双子の子を生んだからとて、私には到底妻を責める気にはなれなかった。いや、清らかな美しい私のローズがエイリアンと浮気などとんでもない!

 それとも、私の知らない間にエイリアンが彼女をこっそり妊娠させ……いやいや、どうやら私はまだ錯乱しているようだ。

 事の次第について、もう少し前のほうから説明しよう。

 私は今三十五歳で、とあるとても有名な広告会社で営業の仕事をしている。私の役職はこの年にしてすでに部長で(エヘン!)、秘書もひとりついている。

 そしてこのオールドミスになりかけの秘書が――ついきのう、赤ん坊が生まれそうだという電話を、私に取り次いだのだ。私は大切なクライアントのことも忘れ、すぐに妻のいる病院へと駆けつけた。

 そうとも、この時の私の心情を想像してみてくれ。私は可愛い双子の赤ん坊、それも天使のように可愛らしい赤ん坊に、美しい妻がキスの雨を降らせている光景を思い浮かべていたのだ。

 ああ、それなのになんということだろう!

 あろうことか、妻のローズは……セミかバッタのような顔をした醜い赤ん坊に、チュッチュッと何度もキスの雨を降らせていたのだ!

「ろ、ろろ、ローズ……か、可愛い赤ん坊だね」

 これは一体なんのジョークだろうと私は思った。そうだ、以前こういうテレビ番組があったのを覚えている。普段の日常ではありえないことを起こして誰かを引っかけ、そして最後には「ドッキリでした!」とネタ晴らしするという番組だ。

 私は思わず五、六歩あとずさり、病院の廊下にテレビカメラを持ったクルーが控えていないかどうかと疑ってみた。だが、そこにいたのはにぼしのように干からびた末期ガンのじいさんと、「私はアル中です」と顔に書いたような赤ら顔の女がひとりいるきりだったのだ。

「ねえ、ジョン。天使みたいに愛らしい子でしょう?上の子が男の子で、下の子が女の子なのよ。名前はどうしたらいいかしらね?」

 ――名前だって?上の子はバッタそっくりだから、バッタ・ウッドマン、下の子はセミそっくりだから、セミ・ウッドマンでいいじゃないか!……なんて、そんな本当のこと、とてもじゃないが妻には言えないと私は思った。

「そ、そうだね。前から話していたとおり、男の子はぼくのおじいさんの名前をとってジャック、女の子は君のおばあさんの名前をとってグレースでいいんじゃないかな」

 ああ、こんなに醜い子がグレースだって!?どうせならアグリーとでも名づけたいくらいだ……私は妻から、「あなたも抱いてみる?」と言われ、実際トリハダを立てながら我が子(と思われる)赤ん坊を抱いた。

 しかもこいつら、憎らしいくらいに笑い声を立てない。もうちょっとおぎゃあ!とかなんとか言って、赤ん坊らしいところを見せたらどうなんだ!?と揺さぶりたい衝動を堪えながら――私は格好だけは一応、子守唄なんぞを口ずさみつつ、ゾッとするような赤ん坊二匹……いや、赤ん坊ふたりを交互にあやしてみた。

「うふっ。ジャックもグレースも、どちらかというとあなた似ね!目許や鼻筋なんて、もう瓜ふたつよ」

(冗談はよしてくれ、ローズ!ぼくの顔はこんな昆虫みたいに無機質じゃないさ……そうとも。まるで透明なプラスチック製のような肌に、じっと閉じない瞳。顔の真ん中に鼻らしき黒い穴がふたつ並んでいるが、そのぺったらこいことと言ったら!ぼくとコイツらが似ているだって!?もし本当にそうなら――ぼくは明日にでも自殺したほうがいいだろう。そうとも。エイリアンの赤ん坊ふたりを道連れに……) 

「そうかな。瞳なんてむしろ、君そっくりじゃないか、ローズ」と、私は本音を押し隠して、苦しまぎれに言った。「この澄んだ、青い瞳。これこそ、君の遺伝子をふたりが受け継いでいる証拠だよ」

 実際には私には――赤ん坊ふたりの目は、夜中に輝く猫かキツネの瞳のように、不気味に光って見えていた。でも私はこの時、こう思ったのだ。

 ローズにはおそらく、このふたりの赤ん坊が、本当に天使のように愛らしく見えているのだ、と。ということは、私の目か頭のほうがどうかしているということなのか?第一、赤ん坊を取り上げた時、まわりにいた医師や看護師といった連中は何も言わなかったのだろうか?それともあまりのことに口を閉ざし、妻に一時的に精神科医が催眠術でもかけたという、これはそういう話なのか?

 この時、まるで天の助けとばかり、携帯が鳴った。もちろん、病院で携帯が鳴るのは御法度だ。そこで私は、秘書のグリゼルダの名前を確認すると、「おっと、大事なクライアントからだ!」と嘘をついて、妻と生まれたばかりのエイリアンの子がいる病室から逃げ出すということにした。



(嘘だ!悪夢だ!!誰かこれはただの冗談だと言ってくれ!!)
 私は病院の、携帯で話すことが許されているエリアまで来ると、グリゼルダと事務的な仕事の用件のみを話し――「あっ、それと子供のお誕生、おめでとうございま……」という、最後の聞きたくもない祝いの言葉の途中で、ブチッと携帯の電源を切ることにした。

 そう、私が今その姿を探すべきは、妻の胎内からエイリアンの赤ん坊を取りだしであろう、医者の姿だった。

 私も会ったことがあるが、彼は産科医として著名な人物であり、また心温かな信頼できそうな感じのする医師でもあった。その彼が私に嘘をつくはずもあるまい……そう思いながらも、やはり私は不安だった。

 もしこの陰謀が、病院全体がグルになって行われているものだったとしたら?

 そしてもし、エイリアンの親玉がいて、その親玉に病院の医師や看護師たちまでもが操られているのだとしたら――いや、そんなB級映画のようなことがあってたまるものか!わたしはそう思いながら、ナースステーションで「ロナルド・ベア先生はどちらにいらっしゃいますか?」と黒人のナースに聞いた。

「ベア先生なら、ちょうどそちらに」

 茶色い髪に茶色い瞳をしたベア医師は、病棟の一角にあるプレイルームで、子供たちと遊んでいるところだった。そのにこやかな横顔には、つい数時間前にエイリアンの赤ん坊を取りあげたといったような悲壮感は、まったく見受けられない。

「ベア先生、あのう……」

 もしや、他でもない自分の子供がエイリアンに見えるのは私だけなのか!?そう激しく疑う心を押し隠しながら、私は出来る限り平静に、壮年の白人医師に話しかけた。

「ああ、どうも。双子のお子さんは、ふたりとも実に元気そのものですよ。奥さんはつわりのほうがひどかったが、今はそのつらさもすっかり忘れてしまうくらい、喜びで輝いてますね。本当に、おめでとうございます」

(人の気も知らないで!)と、私はいかにも金を持っていて女にもモテそうな感じのするベア医師のことを――発作的に数発、殴ってやりたくなった。

 私が彼から期待していたのは、「お気の毒に。赤ん坊はふたりとも、エイリアン症候群にかかっています。ですが、何卒ご安心を。今はエイリアンから普通の人間の赤ん坊に戻る特効薬がありまして、そちらを飲めばあらびっくり!エイリアンは脱皮して、元の人間の赤ちゃんに戻るといったような、そんな具合でして。ハイ」といったような言葉だった。

「あの、ウッドマンさん?どうかなさいましたか?」

 私があまりにも切羽詰ったような顔つきをしていたせいだろう、ベア医師は私の顔を横から覗きこむようにして、じっと見てきた。

「ベア先生……妻がこちらの病院へきてから、今日出産に至るまでの――すべての記録を見せていただけないでしょうか?」

 私がとても惨めな、暗い声音でそう言ったせいだろうか、ベア医師はおそらく、私が何か言いがかりをつけて医療訴訟を起こそうとしているとでも思ったのだろう。やにわに警戒心を漲らせ、私と少し距離を取ってから、最後にこう言った。

「よろしいでしょう。なんならカルテに穴が開くまでじっと見るといいですよ。あなたの奥さんほど、健康かつ無事に赤ん坊を生んだ人など、この世に数えるくらいじゃないかというくらいの、安産だったと思いますがね。そんなに保険会社と懇意にしたいと言うのでしたら、どうぞご自由に」

 だが、私はこのベア医師の言葉だけで、カルテを見るまでもなく――奈落の底へ突き落とされるような思いでいっぱいだった。いや、もしかしたらカルテ自体がベア医師の知る由もないところで改竄されたあとだという可能性もある……なんにしても、他の人たちにはあのエイリアンの赤ん坊の真の姿が見えないのだ。

 それからも私は、きっとこれは何かの冗談に違いないと思い、妻ローズのいないところで、赤ん坊の皮膚を引っ張ったりしては、その下からすべすべの素肌があらわれはしまいかと、児童虐待ギリギリのことを繰り返していた。そう、たとえば熱いお湯に浸かれば表面のプラスチックの肌がとけて、その下から美しい人間の赤ん坊の素肌があらわれる……といったようなことを私は期待し、バッタとセミのような顔をした我が子をサウナに入れたり冷水につけたりといったことを何度も繰り返していた。

 だが、私がどんなことをしても、結局すべては無駄に終わった。バッタとセミ……いや、ジャックとグレースは、二歳になっても三歳になっても、その容貌が変わることはまるでなく、それどころか彼らは実に早熟で、二歳になる頃には「パパ、ママ」という言葉をはっきり発音し、三歳になる頃にはそれこそ昆虫のようにせわしなくあちらこちらと二本の足で動きまわった。

 私は妻のローズに望まれるまま、その様子をビデオカメラに収めたりしていたが――その様子を繰り返して見たいと思ったことは、ついぞ一度もない。初めてジャックとグレースに「パパ」と呼ばれた時には虫唾が走り、彼らが四本足でなく二本足で立った時には、その姿からカマキリを連想してしまい、思わずトリハダが立ったものだ……いつかこいつらは、育ての親である人間の両親を、頭からボリボリと貪り食べ、ついには地球を征服するつもりではあるまいかと、そんな気がして。

 もっとも、「私の人生、こんなはずじゃなかったはずだ!」と内心では常に呪いながらも……それでも、私にとって少しは救いになることもあるにはあった。

 というのも、私がもっとも心配だったのが、バッタとセミならぬジャックとグレースが、あの容貌であるゆえに学校でいじめられたらどうしようということだったのだが――それは杞憂というものだった。

 何故なら彼らは成績優秀、スポーツもよく出来る学校の人気者であり、私にはどうにも疑わしいのだけれど、他の同級生たちにはジャックとグレースが申し分ない美男美女の双子にしか見えないらしいのである。

 そんなわけで、特にこれといって反抗期といったものもなく、ふたりはすくすく成長していき……彼らが二十歳になる頃、私と妻のローズは五十五歳になるところだった。

 そして最愛の妻ローズはその頃、乳ガンが発覚し、長い闘病生活の末にその十五年後に亡くなった。私が七十歳、子供たちが三十五歳の時のことである。

「ああ、おまえたち……父さんのことを最後まで、本当に本当に大切にするんだよ」

 それが、妻が亡くなる前に言った、最後の言葉だった。

 そしてローズの乳ガンがわかってからというもの、この子供たちは実によく母親の介護をしてくれた。その姿は相も変わらずバッタとセミでも、その甲斐甲斐しい姿たるや、父親である私ですら時に涙ぐんでしまうほどであった。

 なんと、私はこの時になってようやく――長年、本当の意味ではまったく愛することの出来なかった我が子のことを、容姿といったことはまるで関係なく、心から「愛している」と思えるようになったのである。我ながら、随分と恐ろしい時間がかかってしまったが、それでも一生の間、そうと思えずに死ぬよりは、どれほど実り豊かで幸福な人生であることだろう。

 赤ん坊の時には、義理で仕方なく「オギャア、オギャア!」と演技するように泣く子供であり、その後も何をするにも失敗するでもなく、ソツなくこなすこの双子の息子と娘が、私は常にうさんくさくて仕方なかったのだ。もし妻のローズが横で、彼らのことを心から自慢に思っているという眼差しで見ていなかったとしたら……私はとっくに自分の子供のことなど、養護施設にでも預けてしまっていたに違いない。

 しかし、母親の葬儀が終わるなり――喪服を着たバッタとセミの息子と娘は、実に驚くべきことを、私に向かって告げたのだ。

「お父さん。驚かないで聞いてください。明日、我々全員のミッションが完了して、この地球はミリタリー星人のものとなります。母星で最先端の医療を受けられれば、お母さんのガンもすぐに治るので、その時までなんとか持ってくれればと思ったのですが……悲しいことに、ギリギリのところで間にあいませんでした」

 バッタ……じゃなく、ジャックは、そう言って母親の墓前で咽び泣いた。

「ああ、母さん。もし父さんが私たちを本当に心から愛していると、もっと早くに気づいてくれたのだったら、今ごろ親子四人、ミリタリー星で幸せに暮らせていたでしょうに……」

 そう言ってセミ……ではなくグレースは、母の墓前でがっくりと膝をつき、兄と同じように閉じない眼の中からたくさんの水滴を洩らしていた。

「なんだ、お前たち?なんだかそれじゃあまるで、母さんが死んだのは父さんのせいみたいじゃないか。第一、ミリタリー星っていうのはなんなんだ?お前たちこそ、自分たちの身分をもっと早くに明かしてくれれば……」

 まったく、今ごろになって「本当は宇宙人でした」などと言うくらいなら――何故一生の間、私も母さんのように騙してくれなかったのだと、私は腹が立って仕方がなかった。

 そしてその次には、よくわからない深い悲しみが胸を貫き、わたしはジャックとグレースと同じように、妻ローズの墓前でわあわあと子供のように咽び泣いた。

「父さん、つまりはこういうことだったのですよ」と、ジャックは泣きやむと、抑揚のない、いつもの事務的な声音で言った。「ミリタリー星人たちは、遥か彼方の宇宙から、地球をずっと見守り続けていました。けれどもこれ以上自然破壊が進めば、地球人たちは滅んでしまう……そこで、どの地球人を救い、我が母星へと迎え入れるかの審議が個々人に行われることになったのです。この<心理試験>は、受ける人間ごとに性質の違うものなのですが――お父さんとお母さんには、「醜い子が生まれても、心から愛せるかどうか」というのが、そのテストの内容だったのです。お母さんは僕とグレースの姿を見た時、本当にショックを受けたようでした。けれども、僕たちを取り上げた医師や看護師が「天使のように可愛らしい赤ん坊ですよ」と言うのを聞いて……自分の目だけがおかしいのだと思ったようです。そしてお父さんもまた、お母さんの演技に合わせて演技をするのを見て――お母さんは、地球人の目から見れば醜い私たちを、心から愛するということにその日、決めたのですよ。でもお母さんにとって、生理的に嫌悪をもよおす僕たちを愛するということは、決して簡単なことではありませんでした。それでもお父さん、あなたが……僕たちを心から愛し慈しむ振りをする姿を見て、やがて彼女は僕とグレースを本当の息子・娘として愛してくれるようになったのです」

 そうだったのか!と思い、私は胸を突かれる思いでいっぱいだった。

 産科病棟へ飛びこんでいったあの日……もし私が一言、「なんと醜い赤子だろう!まるでバッタかセミそっくりじゃないか!」と言っていさえすれば、私は妻と互いの苦しみを分かち合うことが出来たのだ。ああ、それなのに、妻はその真実を知ることなく逝ってしまうとは!

「父さん、それでも私たちは……あなたが私と兄さんを、本当に心から愛してくれて嬉しいのです。母さんが苦しむ姿を見るのはつらかったけれど、でも母さんの苦しみがあったからこそ、私たちはきっと、本当の家族になれたのです。さあ、明日の0:00にこの地球は我々ミリタリー星人のものになります。ですが、父さんはその難を免れる資格があるのですから、私たちと一緒にミリタリー星へいって楽しい老後を過ごしましょう」

 楽しい老後だって?最愛の妻を亡くしたのに、この老いぼれがさらに生き残って一体どうなるものだろう。そのくらいなら、今すぐにでもローズの墓の横に自分のを掘って、地球が滅ぶと同時、そこに埋まりたいくらいだ……私はそう思ったが、やはり地球以外の惑星がどんなところなのか、見てみたいという好奇心もあり――自分のバッタとセミの息子と娘を信じ、彼らについていく決心をしたのだった。



 そしてあれから三百年が経つが、驚いたことに私は今も生きている。
 ローズには悪いと思ったが、ミリタリー星で他の生き残った地球人と私は再婚し(その相手は実をいうと元秘書のグリゼルダだった)、地球よりも遥かに文明が進んでいるこの惑星で、快適な毎日を過ごしている。

 心の中で何かを念じれば、テレビやラジオがついたり、料理も同じ要領でまったく楽に作れるのだ。人々はテレパシーで会話をするので、言語の壁といったものも存在しない……私たちは地球人特別地区という場所に住んでいるのだが、ミリタリー星人は実に平和な気質に富んでいるので、争い事といったものもほとんどありはしなかった。

 ただ時々、ミリタリー星人に対して、「やい、このバッタ星人め!!」とか「セミ野郎!!」とか「カマキリ星人のくせして生意気な!!」といった暴言を、心の中でもついうっかり洩らしてしまうと――その地球人の命はなかったとはいえ。

 そんなふうにしてグリゼルダと私は一緒に暮らし、今ではジャックとグレースにも子供が生まれ、私たちは何人もの孫に囲まれて、幸福な日々を送っている……え?その醜い容貌の孫を、本当に心から愛しているかって?

 もちろん、愛しているとも!それも最初の妻、ローズに対する愛にも劣らぬほど、本当に心から!!



 終わり





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