天使の図書館ブログ

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動物たちの王国【第二部】-6-

2014-02-28 | 創作ノート
リン・デイヴィーズ(オールポスターズの商品ページよりm(_ _)m)


「あたしのこと、ブス犬って呼んでみ。てめえの喉笛、2秒で咬み裂いてやっから☆」とでも言ってそうな感じの犬のレディさん

 それはさておき、今回は言い訳事項があります(^^;)

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)について、末期の閉じ込め症候群と呼ばれる状態になると、植物人間にも似た状態になる……みたいに書いてあるんですけど、植物状態と閉じ込め症候群の違いについては、↓にメルクマニュアルのリンクを貼っておきたいと思いますm(_ _)m

 
 >>植物状態。

 >>閉じ込め症候群。


 わたしがALSという病気のことを知ったのは、確か例によってHKのテレビ番組でだったと思います。筋萎縮性側索硬化症と宣告される→体の筋肉が動かなくなって自分で自殺も出来なくなる前に死ぬことを考える……そうした心の葛藤からどう立ち直ったかという方のお話でした。

 そのあとまたかなり経過してから、「命をめぐる対話<暗闇の世界で生きられますか>」というALS患者さんのことを取り上げたテレビ番組を見たんですよね。

 何分相当昔のことですし、新聞のテレビ欄を見ていて「この番組は見なくては!!」と思って見たというわけではなく――たまたま何気なくテレビをつけたらやっていて、途中から見たにも関わらず、最後まですっかり目が離せなくなったというそんな感じだったと思います。

 最初にテレビでALS患者さんのことを見た時にまず考えたのは、「自分がもし同じ病気になったらどうするか」ということで、やはり同じように病気が進行する前に自殺することを考えるだろうなということでした。

 そしてこの時テレビに出演されていた方の体験があまりにも凄まじいもので、自分だったらそこまでの厳しい人生体験を経てなお生きていられるだろうかと思えるほどのものだったというか

 そのテレビ番組を見ていて深く感動したし、物凄く励まされる気持ちにもなったのですが、ALS患者さんが末期状態になると、「閉じ込め症候群」と呼ばれる状態になることがある……と知ったのは、「<暗闇の世界で生きられますか>」のほうを見てでした。

 意識だけは正常で普通の人と何ひとつ変わることはないのに、体のほうは自分の意志でピクリとも動かせなくなったらどうするか……その意識が閉じ込められた<暗闇の世界>で生きられますか?という、本当に重い問いかけのあるテレビ番組だったと思います。

 ただ、ALS患者さんの中ですべての方が閉じ込め症候群と呼ばれる状態になるわけではないし、閉じ込め症候群になったのちは、あまり長くはないといったように聞いたので、「自分がもしそうなったらどうするか」という不安はそれで少しだけ軽減したようにも思ったり(^^;)

 う゛~ん軽減したなんて言っても、自分が同じ病気でないからそう思えるのであって、現実にそう宣告されたら、その瞬間からこそが「闇」ではないかと、そんなふうにも思ったり。。。

 なんにしても、この小説内ではALS患者さんについて重い取り上げをしようという内容にはなっていない気がするので、そのへんにいいかげんな<軽さ>を感じられる方がいたら申し訳ないので、先にあやまっておきたいと思いますm(_ _)m

 それではまた~!!



       動物たちの王国【第二部】-6-

 K病院の十三階、特別病棟に勤務しはじめて二か月後の九月、唯は職場の雰囲気にもすっかり慣れ、今では佐藤師長や今里主任らと、休日にはスパやエステがてらランチするという仲になっていた。

 その日も三人は市内の大手ホテル内にあるスパで、岩盤浴に入り、温泉とサウナで心を癒し、その後<美食御膳>なる食事を食べていたのだった。それから最後にマッサージチェアの並ぶ場所で三人横一列となり、腰や肩など、普段疲れの溜まっている箇所を集中的に揉みほぐすということになる。

「あ~、そこそこ。ああっ、いいわあ~!!」

「佐藤師長、あやしげな声ださないでくださいよ。まるでわたしたち、男に飢えた未婚トリオみたいじゃないですか」

「あ~ら。べつにいいじゃにゃいにょ~。うおお、きたきた、ゴゴゴ……!!」

 もはや日本語による会話が成立しないと見て、今里は右の佐藤沙耶子のことは切り捨て、左の唯のほうに向き直った。

「ねえ、羽生さん。うちの病院で毎年イケメンドクターコンテストっていうのをやってるの、知ってる?」

「えっと、この間広報委員とかいう医療秘書の方がナースステーションに来て、少し説明を受けましたけど……」

「田中陽子ちゃんね。委員長は外科病棟で主任やってる瑞島藍子って奴なんだけど、彼女が発案者なの。で、新人のナースさんなんかだと、誰に票入れていいかなんてわかんなかったりするじゃない。だから、田中さんが集めた情報を平等な一般的意見として教えてくれたりするってわけ」

「そうなんですか。でもうちの特別病棟によく来るのって、院長先生や副院長先生、あとは脳下の雁夜先生とか……」

 唯は佐藤師長や今里とは違い、マッサージのスイッチを入れるでもなく、グリーンスムージーを飲みながら言った。看護師たちはよく肩が凝るとか腰が痛いと洩らすことが多いのだが、唯は肩や腰が痛くなったりしたことが一度もない。実習の時に先輩看護師から「あなたの体交(体位交換)のやり方だと、将来腰を痛めるわよ」と注意されたこともあるが、実際にはまるでそんなこともなく現在に至っている。

「あー、あの人は駄目ダメ。もう何か月か後には結婚するって人だもの。それもうちのオペ室にいる超のつく変人の師長とね。院長と副院長はおっさんの既婚者だから論外だし、佐藤師長は今年、誰に入れるかもう決めてます?」

「き、き、決まってる、わわわよ~。とーぜん、ゆ・きせんせーに入れまするるるるぅっ!!」

「ですよね~。っていうか、今年もどうせ結城先生がぶっちぎりで一位になりそうよね。去年は雁夜先生が二位だったんだけど、それというのも雁夜先生の長髪をほどいた写真がナースの間で出回ったからなの。回診中、何かの拍子にゴムが切れて、髪の毛がバサッとなったらしいのね。で、それがもう格好いいのなんの。みんな、「背の低い江口洋介」って言ってたっけ。でもその<背の低い>っていうところが気に入らなかったのかどうか、そのあと雁夜先生、バッサリ髪を切っちゃったのよ。今年はもう結婚の決まってる人だから、票はちょっと落ちちゃうだろうな~」

「えっと、そのイケメンなんとかっていうのは、顔とか容姿だけで決まるものなんですか?医師としての人柄とか、手術の腕とか、そういうのはあまり関係なく……」

 外科医のゆうき先生と聞いても、唯の頭の中では即座に翼の姿とは結びつかなかった。何より、唯の中では結城医師は外科医というより救命医としてのイメージが強かったせいかもしれない。

「まあね。一応タテマエとしてはそうなのよ。容姿云々よりも医師としての人柄とか人間性とか、そういうところを重視して票を入れましょう……ってことだとは思うんだけど、結局はやっぱり未婚で若くて格好いい男に票が集まるみたいになっちゃうのよね。大体男だってみんなそうじゃない。性格のいいブスよりも、性格ブスの美人に票が集まる……これはもうしょうがないことなのよ」

「そんなものですか」

 唯はグリーンスムージーを飲みながら、何やら面倒なイベントだけど、自分は脳外科の雁夜先生にでも票を入れようと思っていた。何故といって、彼はよく5号室の澤龍一郎氏の部屋へ遊びにくるのだが、その間、澤氏はとても穏やかな良い顔をしていたからである。

(話し方も穏やかで、優しそうな先生だし、べつに背が低いとかなんとか、どうでもいいことなんじゃないかしら)

 ついでに言うと唯は、雁夜医師が髪を切ったというのはたまたまで、看護師たちが言っているように<背の低い江口洋介>と言われたことが原因ではないだろうとも思っていた。

「あーあ。結城先生、またうちの特別病棟に来てくれないかなあ。鈴木さんあたりが初期の大腸ガンにでもなってさ、術後の様子でも見にきたらいいのに」

「あっ、いい、いい、それ~!!」と、佐藤師長が看護師長にあるまじき同意をする。「そしたらうちの病棟にちょっと寄ってカルテ見たり、色々指示していったりしてくれるもの。うちの夏目ちゃんなんか、結城先生が来るたんびに目がハートマークだったもんね。なんか、普通じゃ来てくんないような時に、頼んだら来てくれたことがあるんだって」

 突然明瞭な日本語を話しはじめた佐藤師長は、「ふう」と言って、最後にカキコキと首を鳴らしていた。ここのスパではヨガ教室もやっていて、沙耶子は週一のペースで通っている。そのせいかどうか、彼女は姿勢がとても良く、スラリとしたいい体つきをしていた。
 
「でも結城先生、外科の瑞島とも仲いいらしいですよ。あれでもし結城先生が、うちの病院のナースに二股かけてるとかだったら、途端に人気落ちるだろうなあって思うんですけどね。本人曰く、病院内でそういうややこしいことに巻き込まれるのが嫌だから、ナースには絶対手を出さないってことらしいですけど」

「ふうん。でもそんな結城先生も、夏目ちゃんみたいに可愛い子がお目々うるうるさせて「先生、抱いてくださいっ」とか飛びこんでいったら、そうなっちゃうんじゃないの?」

「あー、夏目っていや師長、彼女ナースとしてはどうなんすかね。うちの特別病棟、確かに神経は使うけど、他の病棟に比べたらまだ楽なほうじゃないですか。人工呼吸器の管理が必要なのなんて、昆さんと智子ちゃんのふたりだけだし。にも関わらず、彼女が始終「大変、大変」、「忙しい、忙しい」って言ってるのを聞くと、なんかイラっとするんですよ。これたぶん、古参の尾田さんとか、前川さんも絶対腹の中じゃそう思ってると思いますよ」

 十二号室の昆飛鳥は、ALSが末期状態になった患者で、今ではいわゆる「閉じこめ症候群」と呼ばれる状態になっていた。つまり、こちらの話すことは理解しているのだろうが、向こうからは意志表示といったものを一切出来ない、植物人間にも似た状態である。

「そうねえ。わたし、総師長にだす異動希望リストにはずっと夏目ちゃんの名前を載せてるんだけど、なかなか<天の声>がかからないのよね。結局うちって、看護師としてそんなにずば抜けて能力高くなくても、「まあまあ」か「そこそこ」の人さえ来てくれれば、病棟のほうはうまく回るから。あとは本人のやる気と性格の問題よね。もしうちで大変で忙しいんだとしたら、他の病棟は全部地獄なんじゃないかと思うけど」

「あ、あのう、わたし……」

 本来なら、師長と主任がふたりで交わすべきはずの会話に、場違いにも入りこんでしまった気がして、唯はグリーンスムージーをゴクリと飲みこんでいた。

「ああ、あなたはいいのよ、羽生さん」と、佐藤師長もまた、果汁100%バナナジュースを飲みながら笑う。「他のみんなもあなたのことは好いてると思うし、前川さんも尾田さんも、いい人が来てくれて良かったって、そう言ってたわ。あなたもこの二か月くらいうちにいてわかったと思うけど、患者さんもわたしたちも、人を見て話すからね。あなたは師長がああ言ってただの、主任のあの発言はちょっとどうかと思うだの、他の人にべらべら話すタイプではない……そうわかってるからわたしも千里も、安心してこういうことをあなたの前でぺらぺら喋るわけ」

「ま、そういうことよ」

 今里がミックスベリージュースを飲みながら笑顔を洩らすのを見て、唯はなんとなくほっとしたものの――夏目雅(みやび)という自分よりひとつ年上のナースが、看護師という仕事に対し、いまひとつ意欲的でないというのは、唯自身も感じていることではあった。

 たとえば、唯は15号室の大野翔平のことは、毎日車椅子に移乗させ、時には院内を散歩したりもするのだが、この移動を手伝ってもらう時、彼女は大抵(こんなことをしても、どうせ無駄なのに)といった顔をしている。他の患者たちに対しても、自分から積極的に関わることはなく、ナースコールで呼ばれたら仕方なく用を聞きにいく……何かそんな感じだった。

 ゆえに、看護師四人で大林智子や大野翔平のことをお風呂に入れる時も、彼女が中にひとり混ざると、少しばかり微妙な空気感となる。何故といって他の三人が何やかやと話しかけたりする間、夏目だけは終始無言で、ただ黙って移動を手伝い、あとはスポンジで事務的に患者の体を洗うという、それだけだったからである。

「まあね、べつにそれが悪いってわけじゃないのよ」

 今里が夏目の仕事に取り組む姿勢を師長に告げると、佐藤はマッサージチェアの上で長い足を交差させて言った。

「看護師だけじゃなく、介護士さんとか理学療法士さんとか、色んなタイプの人がいて、それぞれの欠点を補いつつ、協力しあって仕事を進めていく……それでいいんだとわたしも思うの。中にはいまいちやる気のない人とか、仕事の面ではともかく人間として好きになれないとか、当然色々あるわよ、人間だもの。でもねえ、夏目ちゃんのことは最初、わたしも若いから仕方ないのかなと思って見てたんだけど、羽生さんみたいに同じくらい若くて仕事の出来る人が入ってくると、そういう問題じゃないんだなってつくづく思っちゃったわ」

「ようするに、適性の問題ですよね。わたし、夏目のことはさり気なく始終見張ってますから。だって15号室の大野くんの担当とかにさせると、部屋の中でなんにもしないでぼーっとして、なんとなく仕事しましたで出てきたりするんだもの、あの子」

「…………………」

 唯としては、なんとも返事のしずらいことなので黙っていたが、こののち、総師長から<天の声>がかかるのは、実は夏目雅ではなく唯のほうであった。そしてその時にはまったくもって佐藤師長も今里も、がっかりと肩を落とし、重い溜息を着くということになるのであった。



 >>続く。





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