報道写真家から(2)

中司達也のブログ 『 報道写真家から 』 の続編です

21世紀を賭けたプーチンの戦い

2015年06月29日 12時34分53秒 | 時事・評論

15年前、世界中の人々は新世紀の到来を希望とともに迎えた。
しかし、この15年はいったいどういうことなのだろうか。

すべてはデザインされている

2001年9月11日、ニューヨークのタワービル二棟に航空機が突入し、二棟は垂直に崩壊した。
この事件が不自然の塊で構成されていることはいまや周知の事実だ。

「アルカイーダ」という架空のテロ集団を匿っているとして、アフガニスタンが爆撃された。
でっち上げの「大量破壊兵器」と「アルカイーダとのリンク」を理由にイラクが爆撃された。

マドリッド、ロンドン、アンマン、バリで爆弾が炸裂。そのたびに世界中のメディアが「アルカイーダ」を連呼した。しかし、いまだに明確な証拠は提示されていない。今後も発見されることはない。「アルカイーダ」などどこにも存在しないからだ。自分を「アルカイーダ」だと思い込んでいる少数の集団はいるだろう。

「アラブの春」という仕組まれた茶番が北アフリカを吹き荒れ、リビアが不法に爆撃された。
そして、シリアが爆撃寸前まで追い詰められた。

いったいこの15年間でどれだけの爆弾が市民の頭上に投下され、どれほどの血が流されたのか。
メディアは流された血の量などにはまったく関心がない。
そして、血の海に浸かった投票箱を指して、「民主主義」が勝利したと高らかに宣言する。
しかし実際は、暴力と無秩序が支配する暗黒地帯へと変貌した。
もともとそれこそが目的の爆撃なのだ。
21世紀になぜこのような蛮行が進行しているのか。

21世紀はすでにデザインされている。
歴史は決してなりゆきや偶然の産物ではない。
あらかじめ引かれた線に沿って流れ、決められた色に塗り分けられていく。

ウラジーミル・プーチンという大誤算

アフガニスタン、イラク、リビアは西側による爆撃と侵略によって完全に破壊された。
欧米の唱える「民主化」とはすなわち破壊と殺戮の同義語にすぎない。

シリアも同じライン上に置かれ、爆撃される運命にあった。しかし、ロシア大統領ウラジーミル・プーチンは、国連安保理でのシリア決議をことごとく否決し、シリアの爆撃を許さなかった。

シリアは爆撃こそ免れたものの、西側が投入したISISを含む多数の武装勢力によって国土を切り刻まれ、多くの国民が殺害された。国土の北半分は暴力と無秩序が支配している。

プーチンはなぜ国連のシリア決議を否決し続けたのか。それは、アフガニスタン、イラク、リビアの爆撃は個別の事例ではなく、すべて一貫した路線に基づいて行われていることを知っていたからだ。これ以上の破壊と殺戮を許せば、世界は後戻りできない巨大な対立に包まれることを理解していた。

西側は、ロシアによる国連での妨害行為に対する仕返しとして、ウクライナの親ロシア政権を転覆し、親欧米政権に置き換えた。プーチンも、これは報復であり恫喝であることを理解していた。しかしプーチンは、西側が仕組んだ「対テロ戦争」や「民主化」に同調する気はなかった。それどころかプーチンは西側の目論見の前にはっきりと立ちはだかった。

西側は、プー チンの除去を決定した。
プーチン=「悪」という大キャンペーンを西側メディアは展開した。
フセインやカダフィ大佐、アサド大統領のときと同じ手法だ。

ただ、冷戦の再来や第三次世界大戦はない。
そのようなデザインではないからだ。
21世紀はあくまでイスラムと西欧が衝突する世紀でなければならない。
それを邪魔するプーチンをできるだけ早く葬り去り、もとの『文明の衝突』路線にもどりたいのだ。

主要メディアによるお決まりの「悪魔化」報道

いかにしてプーチンを叩き潰し、抹殺するか。
とりあえず、対ロシア経済制裁を連発しているが、西側にもダメージが跳ね返っている。
想定外の出来事に暗中模索の状態なのだ。

ウクライナの政権転覆は、プーチンにそれほどの打撃を与えなかった。それどころか、クリミア半島の併合でプーチンへの支持率は急上昇した。そこで西側は、ロシア国内の反プーチン運動をでっち上げた。

西側は、ロシア国内に反プーチン勢力を密かに組織していた。表面上は非政府組織や外国企業を装っている。この複数のグループが西側の豊富な資金を使ってデモ隊を動員し、プーチン政権に圧力をかけた。しかし、組織の実体をプーチンに見透かされ、西側からの送金ルートを遮断された。日当が貰えなければ誰もデモなどには出ない。西側は、内側からのゆさぶりにも失敗した。

ただし、欧米の主要メディアによる反プーチン報道は効果を発揮している。もっともらしい記事が西側のメディアにはあふれている。しかし、実態は意図が見え透いたプロパガンダでしかない。ただし三流の陳腐報道も隊列をなすと威力を発揮する。それは20世紀にすでに実証済みだ。

BBCやCNN、NYTやWSJ のようなニュースメディア、ロイターやAP、AFPな どの通信社は、欧米の利益を擁護するための機関にすぎない。事実や真実とはまったく無縁の機関だ。必要になれば、足並みをそろえてでっち上げを報じる。他の中小メディアや海外メディアは、自動的に主要メディアに追随する。したがって、世界中のメディアがまったく同じ報道を垂れ流す。世界は一夜にして同じ色に染まる。

メディアは、フセイン=「極悪」、カダフィ大佐=「狂犬」、プーチン=「狂人」というようなラベルを貼り、相手の人格や人間性を否定する。そして、かならずヒトラーにたとえられ、嫌悪感や憎悪をかきたてる。メディアは、「悪」は退治されなければならないという暗示を人々の心理に埋め込む。メディアによる国家や個人の「悪魔化」だ。

欧米による爆撃が開始されると、いよいよ「悪」が葬られるのだと、読者や視聴者は胸を躍らせる。そして、フセイン政権やカダフィ政権が崩壊すると達成感を感じる。「悪」が巨大であるほど達成感も大きくなる。もちろん、フセインやカダフィ大佐が残忍な殺され方をしても何も感じない。


映画やテレビ、小説なども「悪」は打倒されるべきものという単純な暗示を埋め込む。
報道の暗示を側面から強化している。
こうした暗示から自由にならない限り、現実世界は見えてこない。

暗示から解き放たれれば、世界はまったく別のものに見えるだろう。
ただし、真実がすべて知りたい現実とは限らない。
真実を見ることは苦痛もともなう。

夢の世界で生きる方がずっと楽だ。
「悪」が葬り去られるたびに恍惚感を得られる。
そして、次の「悪」=プーチンが打倒されることをいまや遅しと待ちわびるのだ。

天動説的西側報道の呪縛

真実を見るために必要なものは知識ではない。
いくら知識を詰め込んでも、暗示から自由にはなれない。

おそらく誰もが自分はそんな暗示などにはかかっていないと自信を持っているだろう。
しかしそれは、日本に生まれて日本語の影響を受けていないと主張するに等しい。
われわれは生まれたときから報道に晒されながら生きてきたのだ。
そうした影響がないとしたら、日本語も身についていないはずだ。

もし、報道によって埋め込まれた暗示から脱っしているとしたら、それは人生のどこかで天動説から地動説への切り換りのような、精神的転換を遂げたということだ。それはメディアを批判したくらいでは成し遂げられない。たいていの批判は不満にすぎない。批判や不満ではなく、天動説の完全否定でなければならない。半分の地動説など意味がない。

精神の転換が成し遂げられたかどうかを判定する簡単な方法がある。

サダム・フセインやカダフィ大佐の肖像を見て何を感じるだろうか。
嫌悪や憎悪か、それとも、親しみや敬意か。あるいは、哀れみや憐憫か。
アサド大統領やプーチン大統領の肖像でも同じことをしてみるべきだ。
自分の感情をごまかすことはできない。

たいていの人は、フセインやカダフィ大佐の肖像を見ると、瞬間的に嫌悪感を感じる。そう条件付けられた生理的反応なのだ。この生理現象の前にはどのような知識も役には立たない。フセインやカダフィ大佐が国民の教育や医療、福祉に膨大な予算を費やし、欧米に匹敵する高水準を達成し、しかも完全無料・男女平等で提供されていたと知っても、この嫌悪感は微動だにしない。
メディアの大勝利だ。

メディアは人々の理性にではなく、感情に訴えかける。
残念ながら、感情の作用は理性の働きを凌駕する。
嫌悪や憎悪という感情は刺激しやすく、また一度獲得された嫌悪感はほぼ生涯持続する。
メディアは理性に訴えているように装って、人間の感情の深部を刺激する。
そのため誰もが自分は理性的判断をしていると思い込む。

中世の人々が地動説を受け入れるのは極めて困難であっただろう。それが科学的に立証されているとしても、地球が自転し、公転していることは決して体感できない。体感できないものを納得するのは難しい。大地に立って頭上を見上げれば、何をどう見ても、大地は不動で太陽や星々こそがわれわれの周りを回っている。科学がなんと主張しようが、この大地こそが宇宙の中心であってほしいのだ。

サダム・フセインやカダフィ大佐が国民の教育や医療、福祉に尽力し、安定的社会を築いていたと知っても、巨悪が国際社会の手で打倒されたと信じ続けたい。あのときの達成感や恍惚感をいまさら罪悪感や後ろめたさに変えたくない。したがって、誰がなんと主張しようが、彼らは永遠に巨悪であってほしいのだ。
感情の前に知識や理性は無力に等しい。

こうして西側メディアは安心して現実とは無縁の天動説を垂れ流しし続ける。

呪縛を解き放つために

メディアの暗示から自由になるための処方箋は存在しない。
われわれは報道を空気や水のように日々体内に取り込んできた。
メディアの暗示は、われわれの細胞レベルに浸透しているのだ。
しぼり出すことなどできない。

メディアは報道を現実の反映のように装っているが、実際は映画の中のニュースシーンと同じだ。
映画の中のニュースシーンを現実と見間違える人はいない。
最初から映画という創作物を自分の意思で鑑賞しているのだから。
しかし、報道とはすべからく創作物でしかないのだ。

西側世界は一体となって、「対テロ戦争」や「民主化」という芝居を演出している。
メディアはその芝居に現実感と臨場感を持たせるための役割を担っている。
われわれは観客席から、西側の演じる茶番劇を観劇し、架空のニュースを見ているのだ。
そうイメージできるかどうかが鍵だ。

自転や公転は決して体感できないのに、それが事実であることをわれわれは確証している。
太陽系や銀河系の姿を簡単にイメージできるからだ。

報道が垂れ流す天動説は実に心地よくできている。
つねに正義が巨悪を打倒するのだ。
しかしそれは、現実とはほど遠い架空の物語なのだ。


いまウラジーミル・プーチンは西側メディアが描く天動説を蹴散らし、21世紀のグランド・デザインと孤高の戦いを続けている。もし、プーチンが葬り去られれば、21世紀はデザインどおり、イスラムと西欧が衝突する暗黒の時代となるだろう。

プーチン=「悪」などという報道を、全世界が信じている限り、希望に満ちた21世紀は来ない。








資料編

欧米メディアによる反プーチン・キャンペーン
足並みの乱れた対ロシア経済制裁
新冷戦と第三次世界大戦
ロシア国内反プーチン勢力
反プーチン勢力への不審な海外送金を遮断
同盟関係を強化するロシア
ロシアの通貨政策
その他
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