歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪坂田栄男『囲碁名言集』の目次≫

2021-09-05 17:54:18 | 囲碁の話
≪坂田栄男『囲碁名言集』の目次≫
(2021年9月5日投稿)
 

【はじめに】


 ある本の見取図は、その本の目次にある。目次を見れば、その本の内容はだいたい推測できるはずである。今回のブログも、坂田栄男『囲碁名言集』(有紀書房、1988年[1992年版])の目次を紹介しておく。(具体的な内容は次回以降のブログで)
 まず、坂田栄男(さかた・えいお、1920~2010)氏の経歴を簡単にみておく。
坂田栄男
 大正9年 東京・大森に生まれる
 昭和4年 増淵辰子二段に入門
 昭和10年 入段。昭和30年九段昇進。
 昭和38年 タイトル戦史上初の名人・本因坊となる
 昭和55年 紫綬褒章受章

 このような経歴をみてもわかるように、坂田栄男氏は、「碁の申し子」といってよく、弱い石も巧みに助け、切れ味鋭いシノギを特徴として、“シノギの坂田”“カミソリ坂田”の異名を持っていたことはよく知られている。坂田栄男二十三世本因坊は、呉清源と並び称される昭和最強棋士の一人であった。

 さて、坂田栄男『囲碁名言集』の目次は風変わりである。4編に分かれているが、各編の項目の見出しがやたらに長い。しかし、言いたいことの要約がその見出しにつめこまれている。



【坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房はこちらから】

囲碁名言集






坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]

本書の目次は次のようになっている。
【目次】
はしがき
1 心理編
2 序盤編
3 中盤編
4 終盤編
付 死活格言集
おわりに

さらに、各編の項目も次のように【目次】に列挙してある。

1 心理編


・碁は調和にあり
・碁は上がっていなければ下がっている。止まっていることはない
・碁というものは、妙手を打って勝つことよりも、悪手を打って負けることのほうが多い
・自分の好きな手は大きく見える
・力はかならずしもヨミとはいえないが、ヨミがなければ力があるとはいえない
・相手が打つと、カンパツを入れずに打つ―碁は剣道ではないのだから、こんな早打ちはちっとも自慢にならない
・弱い人は、置碁で自分の兵隊がたくさんいるところでも、戦おうとしない。これでは力がつかない。とにかく戦ってみること、これが上達のコツである
・アマの人にとってもっとも大切なのは、自分の碁を打つ、自分なりの作戦をたてるということだ。借り着もときにはやむを得ないが、自分のからだに合うように着こなさなくてはいけない
・碁風の長所と短所とは、隣り合せである
・ある程度までは本を読んだり教わったりで、自動車に乗ったように早く行ける。だがそれから先は、自動車の通れぬ悪路だから、自分の足で歩くほかない

2 序盤編


・打ち始めはまず空き隅、次にシマリ、またはカカリという順序である。隅が最大。隅から辺へ、辺から中央へと発展せよ
・第三線では、一つの石からは二間にヒラく。石が二つ立つと、三間にヒラける。二立三析(にりつさんせき)がヒラキの原則
・辺から中央へ向っての一間トビは、いい手のことが多い
・星にカカられて一間トビに受けるのは、次に攻めるのが目的。守るつもりなら大ゲイマまたは小ゲイマに受ける
・小目は実質的な着点。目外しは勢力的な着点。目外しからはすぐ辺にヒラけるが、小目からは、いっぺん位を高くしてからでないと、ヒラくわけにいかない
・石の働きが殺された効果の悪い形を、凝り形という。「両ガケ」を食うのは、凝り形になってよくない
・高目や大斜はハメ手の宝庫。間違わぬよう、よく研究しておかないとあぶない
・星打ちは速度において優るが、三々をねらわれる弱点があって地にアマい。星からもう一手打っても、隅は地にならない
・シマリには、小ゲイマジマリ、大ゲイマジマリ、一間ジマリの三つがあり、それぞれに一長一短がある。完全なシマリなどあり得ない
・シマリから両翼を張るのは、布石における理想形
・シチョウはあらゆる場合に、あらゆる形で現われる。用心が肝要
・コミのない碁では、黒はゆっくり、白はいそいで。コミ碁では、白はゆっくり、黒はいそいで
・高目からすぐ辺にヒラいている形には、小目にカカらず三々に入るのがよい
・星にカカってきた石をハサみ、両ガカリされたときは、ハサミのないほうにツケる
・ヒラキは、その先に余裕を持たせるのが原則だが、ねらいがあればいっぱいにツメる。控えるか、いっぱいにいくか、どちらかである
・コウはおそれずに戦うべきだが、とくに序盤で自分が先に取るコウは、おそれてはならない。序盤では、有力なコウダテがないからである
・敵の厚みに近寄るな
・スソあきのところを囲うのは、愚である。相手がスソあきなら、打ち込んでもつまらない
・ハメ手に一度ハマるのはよくない。だが、おなじハメ手に二度ハマってはいけない

3 中盤編


・ボウシされたらケイマに受ける。多くの場合、それが正しい“形”である
・たがいに密接した二子(もく)の頭は、勢力上の必争点
・相手が押してきたら、四線はどんどんノビるのがよい。第二線は、死活に関する場合、ヨセを打つ場合のほかは、ハッてはならない
・相手の石を欠け眼にする点は、形をくずす急所。同様に「三子のまん中」をノゾくのも、急所中の急所である
・石が切りむすんだ形では、どれか一方をノビるのが手筋。単にノビるほか、一つアテてから引くのが筋になることも多い
・ノゾキは相手にツガせるのが目的。その場合、多くは利かしとなるが、アジ消しの悪手になるものもあり得る。またノゾかれたときは、一応はツガぬ手を考えるのがよい。ノゾキにツガぬ例は意外に多いのである
・ポンぬきは石にムダがなく、威力も大きい。よほどのことがないかぎり、ポンぬきをさせてはならない
・攻めようとする相手の石には、ツケてはならない。逆に自分の石をさばくときは、相手の石にツケて打つのがよい
・一つの石だけ専門に攻めても、成果は期待できない。攻めるには、二つ以上の石をカラんで打つのが、成功の秘訣である
・黒が星から一間トビに受け、さらに星下にヒラいている形で、白が一間トビの鼻にツケてきたときは、おだやかに打つには下からハネ、白の二段オサエに切って押し上げる。強く攻めるには中央にノビて打つ
・石には要石と廃石がある。要石はまだ役目を終っていない石だから、絶対に捨ててはいけない。廃石はもう役目のすんだ石だから、逃げてもつまらない
・相手の模様にのぞむのは、深く打込むか浅く消すか、この判断がむずかしい。だが多くの場合、浅く消すのが無難だし、それで十分なものである
・厚みは、それが攻めに役立ってこそ真価を発揮する。厚みを地にするのは愚である
・形をととのえるには、捨て石が有効なことが多い。ことに第三線の石は、一つ第二線にサガって捨てるのがよい
・アタリや切りは、必要があるまで打ってはいけない。必要のないアタリは、百パーセント悪手である
・無用のダメはつめるべからず
・右を打ちたいときは、左を打て
・石を裂かれるのは最悪形。相手の石を裂くのは理想形
・意表の手を打たれたときは、あわてないことが第一。敵の注文がどこにあるのか、じっくり腰を落として対策を立てよう
・あきらめる前に、もう一度考えよう。考えれば手はあるものだ

4 終盤編


・ヨセの順序はまず「両先手」、次に「片先手」、最後に「両後手」。先手後手は形によって決まるのではなく、手の大きさによって決まる
・理由のない損をするな
・つまるところ、ヨセは先手の争いである。いつでも先手をとるくふうをしよう
・逆ヨセのチャンスをねらえ
・小ヨセでは、二線のハネツギ、切り取りをいそげ。最低でも六目の手になる

付 死活格言集


・死はハネにあり
・左右同形、中央に手あり
・2ノ一、2の二に妙手あり
・一合マスはコウと知れ
・ハネ一本が物をいう
・敵の急所はわが急所
・眼あり眼なしはカラの攻合い
・攻合いのコウは最後に取れ
・両バネ利けば一手ノビ
・五ナカは八手
(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、目次、3頁~10頁)




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・はじめに
・坂田栄男『囲碁名言集』
・その目次に対する個人的感想






その目次に対する個人的感想


 全体的な章立ては、「心理編」が最初にあり、あとは碁を打つ順序にしたがって、序盤、中盤、終盤と分け、最後に、「付 死活格言集」が付け加えられている。
 「心理編」が本書の独特の章立てである。そこには、各棋士の囲碁観を要約した言葉が並ぶ。例えば、
・「碁は調和にあり」は、昭和の最強棋士とも言われる呉清源の言葉である。
また、
・「碁は上がっていなければ下がっている。止まっていることはない」
・「碁というものは、妙手を打って勝つことよりも、悪手を打って負けることのほうが多い」
・「碁風の長所と短所とは、隣り合せである」
これらは、坂田栄男九段の言葉である。それぞれの棋士の囲碁観、勝負に対する考え方が凝縮されている言葉であろう。

 ところで、囲碁の格言といえば、普通、「付 死活格言集」にみられるように、「左右同形、中央に手あり」「2ノ一、2の二に妙手あり」「敵の急所はわが急所」「眼あり眼なしはカラの攻合い」のようなものである。
 しかし、各編にみられるような目次の見出しには、次のようなもので、見出しが非常に長いが、示唆に富む名言が並ぶ。
・「碁というものは、妙手を打って勝つことよりも、悪手を打って負けることのほうが多い」(1 心理編)
・「星にカカられて一間トビに受けるのは、次に攻めるのが目的。守るつもりなら大ゲイマまたは小ゲイマに受ける」(2 序盤編)
・「ノゾキは相手にツガせるのが目的。その場合、多くは利かしとなるが、アジ消しの悪手になるものもあり得る。またノゾかれたときは、一応はツガぬ手を考えるのがよい。ノゾキにツガぬ例は意外に多いのである」(3 中盤編)
・「ヨセの順序はまず「両先手」、次に「片先手」、最後に「両後手」。先手後手は形によって決まるのではなく、手の大きさによって決まる」(4 終盤編)

読んでわかるように、例えば、「星にカカられて一間トビに受けるのは、次に攻めるのが目的。守るつもりなら大ゲイマまたは小ゲイマに受ける」(2 序盤編)などは、序盤の布石、定石の要諦をうまくまとめたものである。これらの見出しをたよりにして、碁の勉強に役立てることができる。
自分の勉強してみたいところを集中的に読んでもらうために、今回紹介した目次を参照して頂ければ、幸いである。





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