白河夜舟

水盤に沈む光る音の銀砂

眼差しを折り返すこと

2008-11-22 | 日常、思うこと
「人は皆、泣きながらこの世にやってきたのだ」
               (「リア王」 シェイクスピア)





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Colleenの音楽が、内なる銅鑼を無数の爪で弾いた。
掻き毟られてしまったので、
10分ほど、鍵盤を叩きつけ続けて、調律が狂うほど叩き続けて、
指先に血が滲んで、鍵盤のあちこちに、ペテルギウス、あるいは
アンタレスのように、滴、赤く。
この手が白熱するのをどうしようもできない。





貸したまま、もう戻ってくるあてのない音盤を、
名古屋、タワーレコードへ赴いて探して、なくて、
仕方なしに、購った音盤だった。





その、名古屋の街はいささかささくれだって見えた。
名鉄前に、盲導犬は座っておらず、
こどもへの心臓移植の募金を呼びかける声のすぐそばで
4リットル焼酎のボトルを抱いてホームレスが灰濁色で
眠っていたのを、警棒を腰にした守衛が追い立てていた。





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いよいよ景況の悪化が顕在化し始めた。
各地のホームレス収容施設には、雇用契約を打ち切られた
派遣社員たちが続々と入居を申し込んでいるらしい。
自動車部品の生産は公称3割、実質4割減少しているそうだ。
大手自動車メーカーの要請に応じて増産体制をとるために
社運をかけて新工場の建築を決断し、いざ着工の段になって
サブプライムローンの問題に端を発する金融不安の拡大と
需要の収縮によって減産を求められることになり、
過剰な生産設備に対する投資の回収に窮する中小企業の現状を
メディアがようやく報じ始めている。





10月31日、政府は全産業中618業種を不況業種に指定し
これら業種に対し、各都道府県の信用保証協会が保証枠を
中小企業に対して別枠で設け、資金融通の円滑化をはかるという
緊急保証制度を導入した。
大阪の信用保証協会には、中小企業者が保証枠の設定申込のため
列をなしているという。





売上原価の著しい上昇を価格に転嫁できないがために、製造業の
利益率は著しく低下している。
販管費の圧縮に限界があるために、決算書において資産償却を
適正に反映させないなどの手段を用いて、借方貸方の均衡を保つ
企業の例はおそらくありふれているだろうが、
仮に株式資本が元本割れを起こし、債務超過に陥っている企業に
対しても、債務保証は行われることになるのだろうか。
既に部分保証制度が実行され、金融機関も求償権上のリスクを
一定程度負うことになっている現状にあって、
保証協会に対する公的資金の増強は目立って行われてはいない。
また、資金融通に何の問題も生じていない企業に対して
金融機関が融資実績を作りたいがために、緊急保証制度の活用を
推奨して新規貸し付けを行おうとする例もあるという。





結果として、与信、あるいは融資の審査は一層厳格化され、
本当に資金融通を必要としている、業績や財務状況の改善可能性が
十分にある企業に対して融資が行われなくなるようなことがあれば、
中小企業に対する資金融通を目的としたこの制度自体の形骸化が
進むだけの結果になるのではないだろうか。





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定額給付金はおそらく実施されないだろう。
現金窓口給付となった場合の、受給側、給付側双方における
セキュリティをどう保持するのか、
口座払いとなった場合の膨大な事務作業負担と経費をどうして
軽減するのか。
ひったくりや振り込め詐欺、地方公務員による横領などの
犯罪を生む温床になりはしないか。
郵政民営化が行われていなければ、全世帯に対して郵便為替で
支給し、窓口で換金するという手続きも出来ただろう。
そもそも、消費税の税率を暫定的に1年間2%引き下げれば
2兆円規模の直接経済効果が得られるのではないか。





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土地付き戸建て住宅の販売不振が深刻になりつつあるそうだ。
構造計算書偽造問題に端を発する建築確認業務の煩雑化が
全国的な着工件数の減少と停滞を招いたところに、
不動産需要が低下してゼネコンの破たんが相次いでいる。
土地区画整理事業では保留地処分が進まずに事業資金が不足し
仮換地に対するみなし課税の負担も重くのしかかって
事業の継続が危ぶまれる例さえあるという。





金融機関から、長期債務の返済条件の変更を求められる企業が
多くなってきているという。
新規融資が受けられなくなる、あるいは繰上償還を求められる、
こうした理由から、破産を余儀なくされる企業もあるそうだ。
10月以降、大手銀行の融資残高は減少している。
新規融資が減少するかわり、債権回収の動きが活発化している。





企業の大幅な業績悪化に伴って法人税収入の落込みは避けられず、
地方自治体においては大幅な歳入不足が見込まれている。
個人所得の減少はそのまま市民税収入にも大きく反映される。
三位一体改革に基づく税源移譲と地方交付税の削減によって
地方財政は厳しさを一層増している。
経常収支比率が上昇して財政の硬直化が進む自治体であっても
基準税収額が基準需要額を上回っていれば財政力はあると判断され
国からの交付金は一切受け取ることはできない。
滋賀県栗東市は企業の立地に伴う大きな税収がありながら、
新幹線新駅建設中止に伴い、土地開発公社は新駅建設予定地で
進めていた土地区画整理事業が頓挫し、保留地処分の目処が立たず
市債償還に大幅な資金ショートを生じて将来負担率が跳ね上がり、
財政破綻の危機にある。





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こうした厳しい状況にありながら、
2週間ほど前に、大きな仕事を何とか纏めることができた。
まだ、いくつか残っている障壁をひとつひとつ取り除いて
その実現に取り組んでいかなければならない。
さりながら、本当にそれが「自分のしごと」なのか、
自問自答をしてはいるものの、
警棒で追い立てられるホームレスには何もしないままに
アクアスキュータムのトレンチコートを購っているだけで、
誂えたスーツの仮縫い補正に訪れた先で、仕事がないのだ、と
笑ってうつむく相手に、同じく笑ってうつむいている。





その笑みの奥には必ず涙がある。
その涙のことは、せめて忘れずにありたいと願っている。
しかし、願っているだけでは十分ではない。






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