白河夜舟

水盤に沈む光る音の銀砂

純粋な矛盾

2007-05-29 | こころについて、思うこと
翼を休める鳳凰の姿した笙が息を吹き込まれて
絢爛たる音の翼を天球に拡げようとする瞬刻を
次元空間から摘出したとすれば、
それは湧き出でる数多の薔薇のようであるに違いない。




「けふはぼくのたましいは疾み
 烏さへ正視ができない
 あいつはちやうどいまごろから
 つめたい青銅の病室で
 透明薔薇の火に燃やされる
 ほんとうに、けれども妹よ
 けふはぼくもあんまりひどいから
 やなぎの花もとらない」


         (宮沢賢治「恋と病熱」)




絹糸の繭のなかに羽化することも出来ぬ未誕の蚕は
銀黒の羽虫と俗塵の蛆の群れの中に窒息したまま動かずに
やがて蜘蛛と化して僕の内部にいつか八角の網を張るだろう。





やがて僕が朽ちて熱黒の泥となったなら、蜘蛛の網は水銀の雨粒を
木洩れ日の森のように煌かせながら中空を流れることだろう。
死のような美を味わうことの出来ぬわれわれの生のなかに
影法師のように付きまとう美のような死を、幾重にもその網に
絡めとりながら。





枯れ落ちた胡蝶蘭でも飲み込んだような咽喉が
もつれ痺れる舌と結婚したがっていた。
言葉に成りきれぬものたちが気管の奥でさざめいている。
気管を蚕食している音が聴こえてくるようだ。





滅して、風化する骨が転がって固い石にぶつかり、
地に落ち、崖を転びながら立てる音の群れの中にあって
犬に食われる前に、果たして言葉は生まれるのだろうか。




いずれにせよ、遠い話です。
ずっと、咲いていてください。

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