白河夜舟

水盤に沈む光る音の銀砂

洋行譚 1日目

2010-07-03 | ドイツ・スイス 旅行記
写真はこちらからご覧ください。

6/19~6/22 am
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6/22pm~6/24am
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6/24pm~6/25am
http://blog.goo.ne.jp/photo/21599
6/25pm~6/27
http://blog.goo.ne.jp/photo/21622






6月19日(土)

前夜、洋行の準備を終えて早く眠るつもりが、
遠足前日の子供のごとくに一睡もできず仕舞い。
身体が重く、頭が冴えた、ナチュラルハイの状態で
早朝の東京駅へ向かった。





6時18分発成田エクスプレス3号、グリーン席を
奮発して購入し、地下ホームへと降りる。



この時間には、日本人よりも外国人の方が多い。
スーツケースを荷物置き場へ放り込むと同時に
列車がゆっくりと滑りだす。
自席に向かい、少し眠ろうか、と思い、
眼を閉じた矢先に、車内放送が、津田沼駅での
非常ボタンの作動を告げ、列車は停止してしまった。
どうにも幸先が悪い。





ようやく列車が動きだしたと思ったら、
今度は千葉駅で、入線トラブルで再び停止。
結局、20分遅れで、成田空港へ到着した。





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今回の旅は、同僚と2人での出張である。
ただ、行程に余裕をもったので、移動日には
若干の個人的な楽しみを持つことが出来る。





重い荷物を持って、
空港入り口でのパスポートチェックを済ませてから
同僚に連絡すると、彼はすでにチェックインを
済ませてしまっていた。
訪問先への土産にとらやの羊羹を人数分買ったせいで
スーツケースは規定重量をかなり超えていたのだが、
ルフトハンザのスタッフが機転を利かせて
手荷物と合算してくれたため、追加料金を払わずに
運ぶことが出来た。





セキュリティチェックを済ませ、階下へ降りる。
IWCの時計を嵌めていたので、税関に申告してから
パスポートチェックを済ませ、出国手続きを終えた。
出発までは時間がある。
45番搭乗口のカウンター脇の硝子越しには、
エアバスA380の巨体が覗いていた。



実物を目にしても、こんなものが本当に飛べるのかと
やはり疑心暗鬼になってしまうほどに、機体は大きい。
同じ便に搭乗するものと思しき多国籍の人々も
窓にすり寄って、その巨体を写真に収めている。
全長73m、全幅80m、総重量300tという。





やがて定刻となり、搭乗する。
A380の内部は白と青を基調とした清潔な内装と、
十分な広さを持っている。
6月14日に就航したばかりというから、奇麗なものだ。
眼の前のタッチパネル式ディスプレイの操作性も
日本語に対応しているし、トイレの広さも十分にある。
9時35分、定刻通りに、離陸。





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離陸後、最初にしたことは、機内放送の確認だった。
100枚以上のCD、30ものラジオチャンネルのほか、
映画、テレビと、エンターテイメントプログラムは
思いのほかに充実している。
音楽も、クラシックからクラブ、アンビエント、
音響派まで、多様なソースが提供されている。
ジャズの分野を重点的に探してしまうのは性とはいえ、
トーマス・スタンコや、ポール・モチアン、
マヌ・カッチェといったECMレーベルのタイトルが
多く揃っていたのには驚いた。
ミュンヘンに本拠を置くECMだからといって、
ここまで品を揃えるのかと驚きつつも、
僕にはとてもうれしい誤算だったといえる。
さっそく、キース・ジャレットの「TESTAMENT」という
ソロ作品を、全曲聴くことになった。





さて、音を聴き終えたところで、ヨーロッパがいくら
明け方とはいえ、日本は昼の時間である。
眠くなるわけもなく、引き続いて、映像コンテンツを
眺めることにした。
南アフリカでの1995年のラグビーワールドカップを
題材とした映画「インビクタス」と、
1989年、ベルリンの壁が崩壊した直後に
レナード・バーンスタインが東ベルリンで演奏し、
「freude」を「freiheit」と歌って話題となった、
ベートーヴェンの交響曲第9番である。
この2タイトルは、帰途でも眺めた。
そのとき、往路とはおよそ異なった印象を、僕に与えた。







機内では2回の食事と、おにぎりが供された。
ルフトハンザの機内食は、美味しい部類に入ると思う。
ついでに必ずビールを頼んで、ワインも頼んだのだが、
全く眠りたい身体にはならなかった。
同じ姿勢を取り続けているうちに、肩や背中が痛くなり、
頭も重くなってくる。
ロシア上空で2回ほど、ストレッチのために席を外した。
外国人が通路を占拠して、ヨガのようなことをやっていた。





長い旅を終えて、フランクフルト・アム・マインへは、
定刻の20分前に到着した。所要、約11時間。
ここでも、皆がA380の写真を撮っていた。
A380の巨体に対応できる搭乗ゲートを持つ空港設備は
どの空港でも不足している。
成田でもそうだったが、フランクフルトでも同じように、
空港ターミナルビルの一番端のスポットを改築して、
この巨機に対応しているのが現状である。
そのせいで、パスポートチェック、荷物受取、税関まで
かなりの距離を歩くことになる。





パスポートチェックでは、多くの日本人観光客が
ひしめき合っていた。
ドイツの係官の顔つきは、相当に精悍で、こちら側に
十分な心理的圧力を掛けてくれる。
事実、僕の前に並んでいた日本人は、
何事か英語で話しかけられても全く対応できなかったため、
別室に連れていかれた様子だった。
こちらも若干身構えたが、笑顔はなかったものの、
それなりの服装をしていたからか、
係官は、良い滞在を、と仏頂面で言ってくれた。





ちなみに、外国へ旅をする際には、服装には十分に配慮を
したほうがいい。
飛行機には多少窮屈でも、スーツやビジネスカジュアルで
搭乗すべきである。
これによって、非常時の対応に差が出るらしい。
また、これはホテルへのチェックインの際も同じである。
それなりのクラスのホテルでは、文字通り「足元を見られる」。
レストランでも然りである。
ただし、街中をふらつく際には、ラフな格好に着替えて、
金を持っていないふりをすること、
スーツケースを持ち歩く時間をなるべく減らすことが
重要になる。
現地では、現地の人間のふりをしていればよいのだ。





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フランクフルト空港から、駅へと移動する最中には、
あ、こいつはスリ、置き引きだな、と思しき連中が
かなり見受けられた。
フランクフルト空港の駅は、近距離用と長距離用に
分かれていて、長距離用の駅まではかなりの距離を
歩かなければならない。
やはり東洋人には、好奇の眼、狙いの視線を向けて
不敵な口元の緩みを微かに見せてくる。
こちらはそれを流し目で確認して、眼をそらす。





トラベルセンターで、5日間有効の鉄道フリーパス
「ジャーマン&スイス」のバリデーション(使用開始)の
手続きを済ませた後、ビールを飲んでから、
駅のホームへと降りる。
ブラックアフリカの、中年層の男が、
一切の勝手を知らないようなブラックアフリカの少年に
何事かをしきりに説いている。
ブローカーだろうかとも思ったが、素性はよく知れぬまま、
結局彼らは分かれて旅立って行った。
16時42分発のICEで、カッセルへ向かう。







何故かはわからないが、ドイツへは初めて来た気がせず、
その感覚はドイツを離れるまで抜けなかった。
沿線の光景に、渋谷で見たような落書きの群れや、
東北を思わせる穀倉地帯のなだらかな風景が続いていた
せいなのかもしれない。
夏至間近の太陽は高く、ヨーロッパの空は日本の空より
青さが深い。
緑多きドイツののどかな風景は、単調との評判からは
全く遠いもののように思われた。
緩やかな地平に鮮やかに照り映える大地の色彩の透明度が、
日本のそれとは明らかに異なっていたからだ。





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18時20分、カッセル着。
駅のすぐそばのホテルへと向かう道にも、
こちらに奇妙な視線を投げかける貧しいひとがいる。
チェックインの際、危うくゲイのカップルと間違われて
同じ部屋に押し込まれそうになったのを、
話が違うぞ、と啖呵を切って、ツインシングルユースに
割り当てさせた。







食事のため、街へ出たが、
どこも土曜日で、閉まっている。
仕方がないので、駅付近のスーパーで
ビール、パン、ピクルス、チーズ、ハム、ソーセージを
買い込んで、ホテルの部屋で食べることにした。
それにしても、物価が安い。
ビール1本が、85セントである。
ミネラルウォーター1.5Lは70セント。
チーズは2ユーロ少々。
2人分、満腹になるほどの分を買って、1500円ほども
しなかったように記憶している。
それにしても、ドイツ北部の人間は身体が本当に大きい。
180cmと178cmの、横幅も割とある日本人2人が
完全に見劣りする。
200cm、100kg以上であろう人々の群れを観て、
正直なところ、若干、委縮した。





21時に食事を終え、ゆっくり疲れを取ることにしたものの、
白夜のドイツの日没は22時である。



当然、全く眠る気にならず、テレビを点けたところ、
ドイツ版の「演歌の花道」ともいうべき、チープな電子音の
伴奏に、やたら気取ってはいるがどうにも田舎臭いドイツ男が
川辺や岸辺で歌っている番組が目に飛び込んできた。
彼らはずっとカメラ目線で、口パク丸わかりのふるまいである。
何だこれは、と、チャンネルを変えると、日本では絶滅した
深夜のヌード番組が流れている。
どうやらツーショットダイヤルの宣伝番組らしい。
10代から60代、スリムからファット、あるいはゲイ、と
ありとあらゆるジャンルに対応している。





適当にチャンネルを回しているうち、時刻は0時を回った。
しかし、時差を考えれば、日本では朝である。
全く眠る気になれない。
画面には、中条きよし、清水健太郎、松田聖子が
ドイツ語を話すやくざ映画が流れていた。
成田出発後、眠ったと言えば、機内での1時間ほどだけで、
あとは6月18日の朝から殆ど眠っていない。
結局、一睡も出来ずに、朝になった。





これが、この後、僕の身体に大きく響くことになる。






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