白河夜舟

水盤に沈む光る音の銀砂

スタインウェイイヴ

2009-07-19 | こころについて、思うこと
東京に来て酒量が増えたせいか、どうも体がだるい。
持病の発作は、疲れが溜まってきたときに地下鉄で
数度、予感がして、そのうち一度だけ、淡路町で
下車したくらい、
駿河台を登るので息せき切れて、病気のことも忘れ
汗だくになりながらようやく御茶ノ水、
あとは無事、地下鉄に乗って本郷まで帰った。





先先週あたりから、暑気払いという名の飲み会が
連日のように開催されて、
カラオケでORIGINAL LOVEを歌ったかと思えば
酒癖の悪い上司から女性をうまく引き剥がすことに
腐心して、
またあるときは、西麻布の会員制クラブで飲み倒し、
またあるときは、気鋭の社会起業家と缶ビール、
またあるときは、アイリッシュパブで臨床哲学論、
またあるときは、つまらなくて就寝、とまあ、
肝臓を一気にフォアグラにしているところ。





それにしても、業界人と称される人間のタフさには
驚愕、である。うわばみ。
夜明けまで飲んで、こちらはもう二日酔いのために
へろへろのぐちゃぐちゃだというのに、
昼飯を一緒に食べに行くと、かつ丼大盛り、とくる。
こちらはせいろそばである。
このタフネスさがあってこその仕事なのかも知れない。
財務諸表分析のためのポートフォリオ作成も、
パワーポイントでのプレゼン資料作成も、
二日酔いの状態で、思わず、え、という速度で
完成させてしまう。
つくづく、自分の不勉強と無能力に嫌気がさす。





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このところの休日は、暑さゆえに外に出たくなく、
読書して、インターネット、という状態が続き、
夕刻になれば後楽園の成城石井まで下りて行って
サラダやペリエ、チーズ、ステーキ肉、赤ワイン、
時折スモークサーモン、刺身など、
痛風まっしぐらの食材を買って帰り、料理する。
今日はステーキ肉を赤ワインと香草でマリネして
焼き上げて、おいしくいただいた。





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先日、ある後輩から相談があった。
プロになるか、就職するか、その選択について。
インターンシップのために上京するということで、
それならば、と、有楽町のイタリアンで軽く食事し
行きつけのジャズバーに連れていった。





正直にいえば、僕自身、大学を出るときに
プロを目指さなかったことに悔いがある。
けれど、致命的ともいえる読譜力のなさや
自分の非社交的な性格と、そして何よりも
自分の才能に対する不信、
また、将来的な展望に失敗を織り込んでから
考えてしまったということもあって、
当時の僕には、音楽で独り立ちする、という選択は
なかった。
そして今、僕にはやはり、プロとして生きるだけの
技量も才能も、ない、という実感がある。
きっと食い詰めていただろう。
新宿や上野で、同世代のホームレスを見かけると、
自分の鏡像を見たようで、目をそむけてしまう。





だからといって、自分の人生を、今このようにして
無駄にしてしまっているような感覚は、
味わいたくはなかった。
何度も書いてきたから、死にかけたことは割愛する。





失意のうちに地元に帰ったときに、俺が将来の面倒は
見るつもりだから、と父に話したときに、
俺はお前なんぞに面倒見られるために生きて来たんじゃ
ねえんだよ、ふざけんなこの野郎、二度とそんな口を
きくんじゃねえぞ、出てくんなら勝手に出て行け、と
烈火の如く怒られたことがある。





親とすれば、どんな形であっても、自分のやりたいことを
見つけて、それを目指して頑張って欲しいのだろう。
僕はせめてもの恩返しのつもりで言ったのだが、
そこに、自分の置かれた境遇に納得のいかない現実を
受け止めるための口実として、親の存在を見るという
僕のなかの小汚い根性を見て取ったのだろう。
それ以来、僕はそうしたことを口にしなくなった。





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大学を出てすでに6年が経った。
周囲にいたひとも、出会ったひともすっかり遠くなった。
付き合いの切れてしまったひとも、ずいぶんな数になる。
一家を成したひとも多いらしいが、僕は知らない。





身近にいる数少ないひとたちも、あるひとはプロになり
立派にやっている。
また、プロには出来ない音をやりたいといって、
生活を楽しみ切っているひともいる。
そうしたひととのつながりには必ず音楽があったから、
少しずつ、活動を再開している。





もう一度、演奏したいと思うひともいる。
彼は、いま、演奏をしているのだろうか。
昨日は、バンドに誘われる夢を見た。
夢から記憶へ移り、改変されたその写像のなかには
ちゃんとピアノが残っていた。





僕は自分の人生に満足していないし、納得もしていない。
それでいて、この虚無感は何だろうか。





明日はスタインウェイを弾いてくる。






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