京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

葛の葉と『鉄塔家族』

2019年07月11日 | こんな本も読んでみた
ガードレール沿いに葛の葉が繁茂する道を歩いた。木に絡みつき、タワーのようになってる。。ガードレールを覆いつくし、足元に広がるものは触手を柵に絡ませ這い上がらんと狙う、侵略者の様相だ。その勢いたるやすさまじい。辺りは一面葛だらけって感じ。

 
        巻き付くツル                    オニグルミ

そんな葛の葉も、草木染めでは若葉を採って緑染めをする染め草の一つで、そうした染め草や草木染めの様子が再読していた『鉄塔家族』では随所に綴られている。クルミもそうだ。皮を削って煮だした液で毛糸を染めて、母がセーターを編んでくれたという老人の話もあった。
臭木、せいたかあわだち草、待宵草、合歓、枇杷、ヨモギ、現の証拠、小鮒草、アメリカセンダン草、カナムグラ…、多くの種類がでてきた。せいたかあわだち草は、染めるために煮立てると名の通りに泡が立つのだとか、知らなかった。

    再読していたのだった。『渡良瀬』での主人公・拓は妻と3人の子供と別れ、…その後年の拓、作者とも重なる『鉄塔家族』での主人公の小説家・斉木は、鉄塔のある高台に暮らし、草木染めをする奈穂という名の奥さんがいる。彼女と散歩しながら染め草の樹を見つけては教え合い、植物の名を覚えていた。ここでは中学生になった息子の登場があり、父親として彼の抱える問題に向き合う。前妻の言葉をひどい言い分だなあと感じたり、そうかもなあと思って見たり…。名前を知らなければ、その植物は風景の一部分にすぎないが、名前を知ると目への留まり方も違う。心の寄せ方も意識の具合も。これは人間関係においても同じことが言えるのだ。

『木の一族』で言われた「生きていく人間のあたりまえの姿」が誠実に書かれていることに共感を覚え、感情移入して読むことができる。そんなところが好きなんだな、佐伯作品は。きっと誰もが味わっているはずの日常だが、自然界への眼、身辺の交流や人間関係、ひとつひとつを大切に丁寧に暮らすことで様々な関係が立ち上がっている。豊かな人生だなあと思わされる。

昨日夕刻、カナカナカナカナとひと声耳にした。今日は朝からの雨。

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4 コメント

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生きる哀しみを知ること (どさんこじーじ)
2019-07-11 13:56:06
『鉄塔家族』、いい小説ですよね。
わたしはこの小説を読むと、生きる哀しみと、しかし、そこにある小さな喜びを感じます。
哀しみをじっくりと感じないと、小さな喜びも見つけられないような気がします。
大切なことを考えさせてくれる小説です。
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「生きる哀しみを知ること」 どさんこじーじさん (kei)
2019-07-11 17:54:09
大切なことを気づかせてくださるコメントをありがとうございます。
発刊の順序は後先しますが、作品を通して一人の人生を親身な思いで辿っている気がします。
「哀しみをじっくり感じないと…」、「生きる哀しみを知る」。
すべてを受け入れて、そこを生きることの大切さ?… 思ったりしております。
ありがとうございました。

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佐伯作品 (Rei)
2019-07-12 21:47:19
私はこの作家の作品は読んだことありません。
Keiさんとは読書傾向が違うようですが
たくさんの感動的な作品を紹介して
頂きました。
今回もまた佐伯作品を読んでみたいと思います。
私小説作家と書いてありました。
この草木染作家もご自分の夫人とのこととか。
佐伯氏はあらゆることに誠実にな方のようですね。
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誠実に、reiさん (kei)
2019-07-12 22:22:25
こんばんは。
読書の傾向も人それぞれ千差万別ですね。
ただただ個人的な関心からアップしております。
人はいろいろなものを抱え込んで生きているんですよね。
辛い悲しいと口に出さずとも。
そう思うとしみじみ、心打つものがあります。
読んでいると作者の人となりがわかってくるようです。
小説やエッセイを何冊も読んでおりますので、一人の人生を見続けている気さえしてきます。
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