京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

『火花』を読まずして

2016年06月27日 | こんな本も読んでみた
平積みされていた『夜を乗り越える』(又吉直樹)。
『火花』で芥川賞受賞後、なんどか彼の話を聞く機会が増えた。受賞以前から知っていたし、彼の雰囲気は嫌いではなかった。タレントやスポーツ選手、芸能人…が記したものはこれまで一度も買ったことはなかったのに、今回店頭で見かけて読んでみたいと即決だった。漫才の芸風?も知らず、また、『火花』をいまだに読んでもいないのだけれど。

「なぜ本を読むのか?」と帯にはあるが、どんな読書をされてきたのかを知りたいと思った。太宰が好き、とは知られている。
「芸人でありながら臆病な僕の人格」とあった。
誰ともキャッチボールができずにいたが、本に出会い助けられ、救われた。学生時代には近代文学を多く読んだが、人間の苦悩をとことん突き詰めている部分にひかれたという。そうして他人と、自分の付き合い方を知っていった。自身の葛藤や内面のどうしようもない感情をどう消化していくか、ということを本に求めたのだそうだ。

何度も何度も繰り返し読んでいるのがすごい。「いつ読んでも違う味がする」。
『雨の裾』(古井由吉)を読んでいて、なかなかページが進まなかった体験が私にはある。難しい…と思った。
「それは、本がパラパラめくれるものだと思っているからだと思います」「わからない言葉は辞書を引けばいい。言葉をひとつづつ解体しながら理解する。そういう読書の楽しみもあります」。又吉さんも古井さんの作品を多く読んでおられ、こう言われている。
 。。その通りかな。そうします。もう一度読んでみたいと思っているのです。

「本を読んでもらいたいと思うんです」「読書によって知識、思考、視点を増やしながら、自分の人生と照らし合わせ実感を持ち、自分の考えを深めてゆくことができる」。また、書き手の立場から、古井由吉さんとの対談で得た言葉によって、自分の方法の不安が納得に変わっていった嬉しさが語られていた。
評論家ではないから、あくまで読書の対象として…、と、これまで読んでこられた数多くの作品がどう心に食い込んだか、どんな言葉に救われたかなど丁寧に語られていて、楽しんだ。好感を持って読んだし、多くを教えられた。

コメント (4)
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