個展終了の翌日、かねてよりご注文を頂いていた「鯛一尾」の墨絵製作にとりかかった。大きさがかなりあるので緊張もひとしお。
紙はやわらかな白の月桃紙の大判を取り寄せてあった。墨絵は、描き方にもよるが、ドローラインの美しさを出すためには筆運びのセンスが必要だ。もちろん下書きは無し。小さいサイズの絵なら手首の動きだけで描けるので易しいけれど、今回の作品はサイズが大きいため腕全体を使わなければならない。
作業は台の上ではなく、床。まるで書初のような、高貴ですがすがしく静謐な気分である。
紙の上に現れたのは、、魚屋から運ばれたばかりのつるりとみずみずしく典雅な真鯛。紅を使わず墨一色で魚の新鮮な赤みを連想できるようであればと願う。
墨絵を描き終えた時、いつも性根尽き果て身が軽くなった気がする。まるで体中の生気が筆先から和紙にのり移ったかのようだ。(・・脂肪も吸い出してくれるといいんだが・・。)