山口周「武器になる哲学」からのコンセプト紹介第５弾。
『パノプティコン』とは、円周上に配置された独房と
中心に配置された監視所からなる刑務所のこと。
ミシェル・フーコーはパノプティコンの持つ「監視圧力」に注目しました。
円周上の独房は、中心部の監視所から常に
監視されている一方で、
独房の囚人たちからは、看守がいるのかいないのか、
今どちらを向いているのか分かりません。
「監視されている」という心理的圧力を
常に受けているのです。
フーコーは「監視されている」という圧力が
独房だけでなく広く社会一般に広がっていると考え、
人間の個性、自由な思想、行動を抑圧し、
この圧力に屈しない強い個人を集団から排除することに
つながっていると指摘。
近代国家は法律などの外部の制度で国民を支配するだけでなく、
訓練によって形成された道徳や倫理によっても支配する
形になったというのがフーコーの彗眼。
人々は自律的に善悪を自分の内面の理由によって
行動を起こしているように感じているが、
それは新しい支配の形態だとフーコーは指摘しました。
以上のようなフーコーの洞察を
山口さんは経営の世界へ適用して考察しました。
一つ目は、何らかの圧力をかけることが必要な場合、
かならずしも実際に圧力をかける必要はなく、
監視されていると本人に感じさせれば足ります。
二つ目は、監視していない場合でも、
監視の圧力が生まれてしまう可能性があること。
規範的な思考や行動へと人を促すので、
組織に属する大多数の人がそれに従う組織では、
イノベーションは期待できません。
パノプティコンは、組織の中に必然的に生じてしまうので、
重要なのはこの圧力を、組織の課題や方向性と
整合させる形でうまく「飼いならす」こと。
（多田コメント）
「パノプティコン」は、
いろいろな組織の「組織文化」の一部と感じました。
「うまく飼いならす」必要がありますね。
組織に属する個人の意識はそれ単独では存在できず、
「組織文化」からの影響を強く受けていますので、
「構成員の意識改革」を行うには、同時に「組織文化」の現状や
その変容についても検討することが必要です。
「組織文化」について中田横浜市長(当時)は
日産自動車副会長の伊佐山建志氏との対談で
次のように語っています。（「調査季報157」横浜市都市経営推進局政策課、2005）
（伊佐山）「『日産リバイバルプラン』で行ったことは何かというと、
まず、我々は集中治療室にいるんだ、という共通認識を
持つことでした。」（中略）「日産が行ってきた
６年間の歩みを振り返りますと、やはり３つの改革を
同時並行的にきちんと進めたことが重要だったと思います。（中略）
つまり、リーダーシップ、マネジメント、企業文化を
きちんと方向付け、実行することが改革の中身です。」（中略）
（司会）「トップという存在は、時期が来れば替わることもありますから、
改革し続けるためには、その組織を構成する者全てがいわば
『改革のＤＮＡ』を持つ組織に文化的に変えていくことも必要だ
と思います。横浜市は文化的な取り組みという点では
どうでしょう。(中略）」
（中田）「私に言わせれば、『それも必要』ではなくて、
『それこそ必要』なんです。」
進化論を唱えたダ―ウインは次のように言ったと言われます。
「この世に生き残る生き物は、
最も力の強いものか？ そうではない。
最も頭のいいものか？ そうでもない。
それは、変化に対応できる生き物だ」
経済状況や構成員の年齢構成、
社会環境など時代はどんどん変化しています。
それらを無視して自分たちの慣れ親しんだやり方や
価値観に固執して押し付けるだけでは
時代の流れの中で淘汰されるでしょう。
組織文化論として考えると
お役所や大企業ほど長い歴史と伝統がありますので、
自己変革するのは難しいだろうと思います。
（参考ブログ）
