踊る小児科医のblog

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子どもの喫煙を予防するために(BeFM 05.1.21 放送予定)

2004年12月29日 | 禁煙・防煙
【Q1】子どもの喫煙が増えていると言われていますが、実態はどうなのでしょうか?

 学校などで喫煙率の調査を行うことが難しいため、それぞれの地域における正確な実態はつかめていないのですが、平成12年の全国調査では、中学1年男子の4人に1人、女子の6人に1人がタバコを吸ったことがあるというデータがあり、特に女の子の喫煙率が高くなってきているのが問題です。
 最近の調査では、初めて吸い始める年齢が小学校低学年まで下がっているという結果が出てきています。
 また、現在タバコを吸っている大人の90%以上は、二十歳前に吸い始めているので、タバコの問題というのは実は子どもの問題だということが出来ます。
 その結果として、青森県の20代30代の喫煙率は全国を大きく上回っていて、特に20代女性の喫煙率は50%を越えています。そして、その若者たちが、すでに子どもの親になっているというのが実態です。

【Q2】どうして子どもがタバコを吸い始めるのでしょうか?

 多くの場合、「好奇心から何となく」とか「友達や先輩にすすめられて」といった、はっきりとした理由はなくて吸い始めて、やめられなくなってしまうようです。
 その中で問題なのは、親や身近な大人の真似をして、家にあったタバコを子どもが試しに吸ってみるケースが多いことで、実際に、親がタバコを吸う家庭の子どもは喫煙率が高く、特に母親が吸う家庭では、中学生の半数がタバコを吸った経験があるという調査もあります。

【Q3】子どもがタバコを吸うのは、どうしていけないのでしょうか?

 大人は吸っても良いけれども、未成年は「法律で禁止されているから」吸ってはいけないのではなく、大人が吸っても害があるタバコの影響が、子どもでは非常に強く出ることから吸ってはいけないのです。
 例えば、子どもの時からタバコを吸い始めると、大人になってから吸い始めたのに比べて、2倍から6倍も肺がんになりやすくなります。
 また、子どもは早い場合は数週間で、あるいはタバコ一箱だけでニコチン依存症に陥ることもあり、いったん吸い始めるとすぐにやめられなくなることが大きな問題と言えます。

【Q4】家庭での受動喫煙や、妊娠中の喫煙が子どもに与える影響は?

 多すぎて一つ一つあげていくときりがないのですが、例えば、家族に喫煙者がいると、子どもが喘息または喘息性気管支炎になる可能性が2倍になり、特に母親がタバコを吸うと3倍近くになるというデータがあります。
 また、あまり知られていないこととして、赤ちゃんの突然死や、知能の発達や身長の伸びが悪くなったり、将来の注意欠陥多動障害や暴力犯罪につながるというデータもあります。
 妊娠中にタバコを吸うことで、男の子女の子とも将来の不妊が多くなる、つまり、子どもだけでなく孫の世代にまで影響してくることもわかってきています。
 現在、タバコを吸う人の二人に一人はタバコによる病気で命を落とし、国内で毎年10万人以上が亡くなっていますが、家庭や職場などにおける受動喫煙でも20人に1人、毎年2万人もの人が亡くなっている、ということがわかってきました。これは、タバコの煙が環境汚染許容基準の5000倍もの猛毒だということを意味しています。
 受動喫煙によって、全てのがんにかかるリスクが1.6倍になりますが、これは広島の原爆に爆心地から2.5キロのところで被曝したのと同じリスクになります。
 タバコの煙が迷惑だとか「好き嫌い」の問題ではなく、わずかの受動喫煙も許されないのだということを、多くの人に認識してほしいと思います。

【Q5】子どもがタバコを吸い始めないようにするためには、どうしたらいいのでしょうか?

 今年から八戸市内の小中学校が禁煙になりましたが、子どもの喫煙予防対策としてはそれだけでは不十分です。小中学校における喫煙予防教育も、今はまだほとんどできていないので、全ての学校で行うことが必要です。
 また、これは学校教育だけの問題ではなく、子どもが朝起きてから夜寝るまで、タバコの煙もタバコを吸っている姿も、タバコの自動販売機も広告にも接することのない「無煙社会(タバコの煙のない社会)」をつくっていくことが必要になります。
 そのためには、親や教師など身近な大人が「タバコを吸わない」という良い手本になっていくことが重要で、「学校、家庭、地域が一体となった取り組み」が必要なのです。

【Q6】自動販売機でタバコを買っている子どもが多いようですが?

 日本のように子どもが自由に自動販売機でタバコを購入できる国は、世界中のどこにもありません。現在の自動販売機のほとんどは、店員の目が届かないところに置かれていて、違法な状態にあります。
 来年の2月にWHOの「タバコ規制枠組条約」が発効になりますが、その中でもタバコ自動販売機の規制が重要な問題として取り上げられており、警察庁でも来年以降取締りを強化することになっています。
 3年前に深浦町でタバコ自動販売機を撤去させる条例を制定した平沢町長さんが、先日タバコによる肺がんで亡くなりました。ご冥福をお祈りしたいと思いますが、この条例を法律にして全国からタバコの自動販売機が撤去されれば、子どもの喫煙率が一気に下がることは間違いありません。

【Q7】日本のタバコの価格とタバコ税は、世界と比べてどの程度なのでしょうか?

 子どもがタバコを吸い始めるのを防ぐ最大の手段は、実は大幅増税なのです。日本のタバコの値段は先進国では最も安く、子どもでも手に入れやすい状態にありますが、タバコ一箱が千円になれば、子どもはタバコを買えなくなり、喫煙率は大幅に下がります。
 この方法は、世界中で行われているタバコ抑制政策で、実際にその効果も確かめられています。
 よく報道などでは発泡酒の増税とあわせて「庶民いじめの増税」などと表現されますが、タバコ税増税は健康政策であって、発泡酒とは全く意味合いが異なることを知っておいて欲しいと思います。
 そして、増税した分の予算は、タバコ農家の転作対策やタバコによる病気の医療費にまわすことが大切です。

【Q8】すでにタバコを吸い始めてやめられなくなった子どもたちはどうすればいいのでしょうか?

 子どもは、すぐにニコチン依存症になりやすい分、実はニコチンパッチという貼り薬を使うことによって、楽に禁煙することができるのです。
 タバコをやめたくてもやめられない子どもに対して、厳しく叱ったり謹慎処分したりすることは意味がなく、早い時期から医学的なサポートが必要なんだということを、特に親や学校の先生には知っておいてほしいと思います。

【Q9】無煙社会、タバコを吸わないのが当たり前の社会にするには?

 今までお話しした、学校や家庭における喫煙予防教育や、学校や公共施設、飲食店などを禁煙にすること、自動販売機や広告の規制、タバコ税の大幅増税、禁煙の医学的サポートなどを「全て同時に」行っていくことが必要で、家庭だけ、教育だけの問題ではありません。
 繰り返しになりますが、最も重要なのは、全ての家庭や地域社会において、子どもに対して、「タバコくらい大目にみても」などというタバコに寛容な社会から、「タバコは絶対にダメ」なんだということを、全ての大人、特に親、教師がはっきりと言える社会をつくっていくこと、意識改革を行っていくことです。
 つまり、「子どもが変わるためには大人が変わること」が必要で、大人が自由に吸っていて、子どもだけ吸い始めるのを止めさせるのは不可能だということを、是非ご理解いただきたいと思います。