踊る小児科医のblog

青森県八戸市 くば小児科クリニック 感染症 予防接種 禁煙 核燃・原発

食品の放射性物質 年齢の数字を目安に キノコとタラに注意

2012年03月30日 | 東日本大震災・原発事故
 4月から食品の放射性セシウム濃度の基準値が100ベクレル(Bq)/kg、乳児用は50Bq/kgになります。これまでの暫定基準値が500Bq/kgでしたから、かなり厳しくなったようにも見えますが、子どもにはこの値で安心することは到底できません。

 目安として、核実験が盛んに行われていた頃のお米の放射性セシウム濃度でも10Bq/kgを超えなかったということを覚えておいて下さい。

 それ以外にはチェルノブイリ後の経験しかないのですが、セシウムの影響は全くなかったという説から重大な影響が続いているという説まで幅がありすぎます。

 わからないときはなるべく危険な方を考えて予防的に行動する。津波の対策と同じです。

 以前紹介した「原発と放射線」を書いた中山幹夫氏は、「年齢と同じ数字」を目安にするように主張しています。5歳なら5Bq/kgというように。

 放射性物質について「どこまでなら安全」ということは決して言えません。私もその数字なら「ガマン値」として妥当なところかとは思いますが、十代以降では高くなってしまうので、乳幼児は5Bq/kg、未成年で10Bq/kgを目安にしたいと考えます。(繰り返しますが新基準値は乳児で50Bq/kgです。)

 ただし、現在行われている検査では検出限界以下(ND)の値が20Bq/kgのことも多く、実際買う時には何も情報がない場合が大半です。八戸市、青森県、岩手県などのホームページにサンプル検査の情報が掲載されています。サンプル数が少なすぎるのが難点ですが、おおよその傾向がわかるかと思いますので参考にしてみて下さい。注意が必要なものについては気がついた時にブログやtwitterでも情報を発信しています。

 現在、八戸市で流通している食品については「年齢の数字」を下回っているものがほとんどだと推定されますが、念のため食材の種類と産地をチェックするようにすれば安心度は高まるでしょう。

 シイタケなどのキノコ類は岩手県産のものが多いのですが、県南部は注意が必要で県北部は(たぶん)大丈夫。情報が表示されていれば良いのですが、ただ岩手県産とだけ書かれていると困惑します。三陸のタラも秋から冬にかけて数十Bq/kgのものが散見されていましたが、3月のデータは20未満か非検出になっています。タラは底にいる魚なので高めになる可能性があるようです。このまま下がっていってくれれば良いのですが、今後の推移に注目しているところです。

LNT仮説の「掛け算禁止」問題 10万人あたり5枚の当たりくじなど存在しない?

2012年03月29日 | 東日本大震災・原発事故
この問題については何度か断片的に書いてきたが、一昨日twitterに続けて書いたものをまとめておきます。全部理解して批判できているとは思いませんが、この「掛け算禁止」が非常に政治的なものであることは言い切れる思います。
(関連entry→「1Gy被曝でがん死リスク42%増」の意味 LNT仮説が「哲学ではなく科学」であることは明白 中川恵一批判

<参考>
もぐさんの「リスク比較における『○○人に一人』は掛けてはならない』という主張
http://togetter.com/li/237937
集団線量の癌死予測への演繹方法について
http://togetter.com/li/238814
低線量被ばくのリスクからがん死の増加人数を計算することについて(原子力安全委員会)
http://www.nsc.go.jp/info/bassi_0908.pdf

<twitterより>

2012年03月28日(水)

LNT(直線しきい値なし)仮説の「掛け算をしてはいけない」問題。例えば0.01%=1万人に1人とは、1人死んで9999人元気ということではなく、元々1万人に100人死んでたのが101人になる。その101人は被曝が原因の1人とその他の原因による100人に分けることはできない。
posted at 00:25:59

LNT仮説:1mSvでは0.005%、10万人に5人。がん死が3万人とすると、3万5人に増える「だけ」であり、この差は他のリスクの中に埋没して検出できないから無視できる。ところが、環境汚染物質の基準は10万人に1人で、アスベストの敷地境界基準では7人を超えると逮捕される。
posted at 00:27:41

予防接種にはメリットとデメリットがあるが、通常目標とされる重大な副反応は百万分の1以下(紛れ込み事故もあるのでゼロにはならない)で、メリットの方が遥かに凌駕することが条件となる。1mSv被曝の0.005%=百万分の50という数字がどれほど大きいかがわかる。当然メリットは全くない。
posted at 00:29:02

話がそれるが、ポリオの生ワクは話が別で、不活化への切換えが遅れたこと(構造的には原発問題と同様に子どもの命ではなく業界保護を優先したこと)と、頻度が従来言われていたよりも高く百万分の1より多いことがわかってきたこと。
posted at 00:29:28

3万5人が亡くなったとして、元々の3万人と被曝による5人という形では分別不能。一人一人の因果関係はわからない。だからと言って増えた5人がいないわけではなく、全員が2万分の1(0.005%)のリスクを背負って全員足してみたら5人多くなっていたというのがこの計算の仕組み。
posted at 00:32:27

この計算は大人が自分自身で罹ったのなら許容できるかもしれない。しかし自分の子どもが大きな病気に罹ったり亡くなったとしたら話は別。100人が101人に増えたとしても、101人のうちの1人ではなく、101人全員の親が「あのとき避難していたら」という自責の念にかられることになる。
posted at 00:37:21

LNT仮説の1mSvで10万分の5という数字はがん死だけで、その他の病気は含まれていない。親が後悔したくないのなら(目には見えなくとも)津波がすぐそこに押し寄せているのだから、まずは安全な高台に逃げて、大丈夫そうならゆっくりと戻れば良い、と書いたのは去年の今ごろ。
posted at 00:38:42

原発事故後1年も経って「まず避難を」と主張する気持ちは失せた。少しでもリスクを減らすためというよりも、親の後悔を減らすために、避難できる方にはして欲しいと思う。0.005%というリスクを喧伝するのは親と子どもの心を不安にさせる不徳の医師のすることだという雰囲気がある。
posted at 10:02:43

掛け算から話がそれた。掛け算をしてはいけないという論理は、3万5人を3万人と被曝による5人に分けられないという当然の事実を、だからその5人は存在しないという詭弁に過ぎない。皆が2万分の1リスクを背負って足してみたら5人多いという計算を「5人が引いた当たりくじなど存在しない」と。
posted at 10:05:58

環境リスク学はなぜ御用学問に成り下がったか 中西準子『環境リスク学』を批判的に読む

2012年03月29日 | 東日本大震災・原発事故
『環境リスク学』中西準子
この本の前半は勉強し自らの認識を確認しながら敬意を持って読み、後半は批判的に自ら考えながら読んだ。特に原発問題などへの著者の態度は、市民のリスク不安や予防原則に対して冷笑的。三つのリスク(科学的リスク<規制リスク<リスク不安)で現実には市民のリスク不安が正しく「専門家」が過小評価し続けたことがこの惨禍の原因となった。原発事故後も事故と健康被害に対して同様の状況が続いている。リスク評価の方法論が正しかったとしても、市民ではなく業界や政府を守るために悪用された。

以下、まとまってませんが『環境リスク学』を読みながらtwitterに書いたものを順に拾っておきます。引用とコメントが入り混じっていてわかりにくい部分があるのでご注意下さい。

2011年12月11日(日)

ある大学の先生が、蒲生さん<産業技術総合研究所・蒲生昌志氏>が描いたグラフを出して講義したら、学生が「ダイオキシンよりタバコのリスクの方が高いんですか」と驚いていたそうです。こんな当たり前のことが知られていないのです。(中西準子『環境リスク学』より)
posted at 00:07:46

公害問題はリスクは高いが影響範囲は小さく局地的。環境問題はリスクは小さく昔のセンスでは安全だが不安が残るというレベル。今は何もないが将来危ないことが起こるのではないかということが関心の中心。リスクは公害より小さいが影響範囲は広い。(中西準子『環境リスク学』より)
posted at 00:41:54

2011年12月13日(火)

疑わしいものがあるとき、「禁止する」「何もしない」という二分法的考え方では、これからの環境問題に対処できない。中間の道とは、リスク評価をし、リスクの大きさとその物質を禁止したときの別のリスクの大きさとを比較しながら対策を立てること。(中西準子『環境リスク学』より)
posted at 11:23:52

中西準子氏のリスク評価の考え方は正しいが、放射能汚染と避難をあてはめた時に、放射能のリスクよりも避難によるストレスの方が大きいという論法を許してしまった。現状では避難により放射能のストレスから解放される方が大きい。避難のストレスは原発事故で生じたものだから二者択一の問題ではない。
posted at 11:26:00

本文中にも「リスク評価に対する批判は、リスク評価そのものを批判しているのではなく政治的なものではないかという疑いが根底にある」と書かれているが、その後の回転扉事故に関する認識は「子どもの手を引くようにするとか」など、事故防止の原則を知らない自己責任論。中西準子『環境リスク学』より
posted at 11:37:09

勉強しつつも批判的に読んでいる。最後の方に「原子力が夢の技術とは思わないが、わが国のエネルギー状況と今の管理技術を考えればもう少し利用されてもいいと思う。残念ながらリスク不安が大きく、原子力発電所の建設が市民に拒否される状況が続いている」との記載あり。中西準子『環境リスク学』より
posted at 15:56:49

そもそもリスク評価以前に、必要性や代替手段について殆ど触れられていない。BSEやインフルエンザなどは仕方ないとしても、原発やタバコ、大型自動回転扉などはリスクばかりで全く必要性がない。タバコは致死率50%でメリットなし。大型自動回転扉は空調のコスト削減だけか。原発はもう議論不要。
posted at 15:58:04

わが国の行政機関は、BSEの場合も、リスクの大きさを説明しないし削減策の中からあるものを選ぶ理由や費用が妥当かの説明が全くない。本当に必要なリスク削減策に資源(資金や人手)を回すことができなくなり、国民の健康や福祉のレベルが下がり国力の低下につながる。中西準子『環境リスク学』より
posted at 16:07:06

放射能汚染の高度な地域や、森林、農地の除染など不可能なことに復興予算を注入すれば、土建屋(原発利権)は特需で儲かるが、作業員や自衛隊員は不要な被曝を強いられ、被災者は移住も出来ず放置され、国は沈んでいく。BSEの時の構図がそのまま当てはまる。中西準子『環境リスク学』より
posted at 16:21:15

2011年12月13日(火)

政府、学者、医師、マスコミが事故直後だけでなく現在までリスク管理、リスクコミュニケーションに徹底的に失敗したため(例:福島のコメ)、国民は「政府の言うことを信じない」のではなく「政府の言うことだから信じない」状態に陥っている。私は3.11以前からそうだったが。
posted at 16:39:57

リスク評価とリスク管理 現状のリスク評価の批判的分析 マサチューセッツ予防原則プロジェクト http://t.co/lfCBrUU9
posted at 17:54:02

健康に関するリスクコミュニケーションの原理と実践の入門書(CDC)農水省訳 http://t.co/J79Quxev
posted at 17:54:22

2011年12月16日(金)

リスク評価の構成と基本を理解することで、リスク評価を批判的に分析し、今日のリスク管理手法の危険性と、それが悪用されている現状について理解することができる。一般にリスク評価は危険な行為を正当化するために用いられている。(マサチューセッツ予防原則プロジェクト)←やっぱりそうか
posted at 11:48:41

ICRPは「微量の放射線による発がんリスクをLNTモデルに基づいて多くの人数に適用し、発がんやがん死亡数等を論じることは妥当ではない」と明記している(酒井一夫・医学のあゆみ)そうだが、そうされると都合が悪いから根拠なくそう主張しているだけなのでは?
posted at 16:41:03

そもそも、見積もったリスクに影響を受ける人数を掛けるのがリスク評価のはず。掛け算をしてはいけない理由はどこにあるのか。結果に幅があるのは元より承知。ICRPのLNT仮説はその中では低い方に入るはず。(ナントカ効果という健康になる仮説もあったが)
posted at 16:41:22

2011年12月17日(土)

【環境リスク学―不安の海の羅針盤/中西 準子】を読んだ本に追加 →http://t.co/WBaqWPPE #bookmeter
posted at 14:27:34

【環境リスク学―不安の海の羅針盤/中西 準子】この本の前半は勉強し自らの認識を確認しながら敬意を持って読み、後半は批判的に自ら考えながら読んだ。特に原発問題などへの著者の態度は、市民のリスク不安や予防... →http://t.co/0i75sWAJ #bookmeter
posted at 14:42:54

2012年02月17日(金) 1 tweets
RT @HayakawaYukio: 「私は、あと1年か2年、暫定規制値でいいと思っていた。」中西準子、2月9日  http://t.co/ynHvyPIh
posted at 15:47:52

2012年03月02日(金)
RT @HayakawaYukio: 著名人を特定しておこう。中西準子さんの2月22日雑感だ。 http://t.co/yZsvwwhW 彼女は立派な業績を持つひとで尊敬してたが、今回の原発事故での発言はまったくいただけない。
posted at 11:02:47

2012年03月29日(木)

福島大学放射線副読本研究会の『放射線と被ばくの問題を考えるための副読本』http://t.co/yjCuG4Za を読み通してみた。必読。中高生にも読んでもらいたい。一部に批判もあるようだが「この副読本も批判的に読んでいただいて結構」と書かれており、改訂を重ねていけば良い。
posted at 15:34:02

『放射線と被ばくの問題を考えるための副読本』http://t.co/yjCuG4Za 1カ所だけ、喫煙を自動車などと同列で「目的をもってそれを行う人にとって何らかの便益を得ることが可能」と書いているのは間違い。喫煙は便益ゼロ致死率50%のニコチン依存症という病気。
posted at 15:34:35

『放射線と被ばくの問題を考えるための副読本』で中西準子『環境リスク学』が大橋弘忠の「専門家になるほど格納容器が壊れるなんて思えない」とならんで「事故前の専門家の発言例」として紹介されている。『環境リスク学』は12月頃に読んで批判的にtweetしたのであとでまとめてみる。
posted at 15:53:14

『放射線と被ばく…副読本』田崎氏の批判 http://t.co/rYS6fbJt 前2段は同意できるし修正が望ましいと思うが「正しい怖がり方」については為にする議論。論理は間違っていないが副読本を読み直してみても問題は感じられない。氏の意図とは違う形で引用されているように思える。
posted at 15:58:07

米国の退役軍人ダイオキシン裁判の和解例を、水俣病被害者に提案して批判された話も、適当ではなかったと自ら認めているが、中西氏のリスク評価が住民・被害者の側に立ったものではなかったという顕著な例。(中西準子『環境リスク学』より)
posted at 17:01:19

リスクの大きさ三種。a)科学的評価リスク。b)社会の意思決定で用いられるリスク。c)国民が抱く不安としてのリスク。a<b<cの差を縮める努力を怠ると無駄が大きくなる。aに近い意思決定のためのリスクの大きさを適切に選ぶことが重要。中西準子『環境リスク学』 ←専門家が正しいという立場
posted at 17:04:28

疑われている物質の危険を回避しようという原則と、禁止した時の逆影響を予防するかという両側の予防原則が必要。しばしば言われる予防原則が本当に水俣病などから学んだのか疑問を抱く。セレン、マンガンを禁止すべきだったのか。『環境リスク学』より←予防原則を国民の命でなく企業を守る方向に逆用
posted at 17:07:20

中西準子氏は一貫して科学が評価したリスクを重視し、国民の不安リスクや予防原則に冷笑的。しかし原発事故では、国民の不安リスクが正しく、専門家のリスク評価が過小評価であったのが現実。中西氏の「もう少し利用されてもいい」という評価は完全に否定された。
posted at 17:07:54

インフルエンザ 再び警報レベルを切る 7人/週(第12週3/19-3/15) 八戸

2012年03月26日 | こども・小児科
8週目まで低下していたA型の山に、その後のB型の山が重なったために、10人前後の小流行が続いていましたが、お彼岸と春の大雪(彼岸じゃらく)も過ぎてB型も下火になってきたようです。今度こそ警報解除と言えそうです。



その他には、ロタウイルスと考えられるウイルス性胃腸炎が散見されています。

H23日医母子保健講習会報告4:原発事故後のリスクコミュニケーションの失敗(私見)

2012年03月23日 | 東日本大震災・原発事故
 講演によると、日本産科婦人科学会では原発事故後の情報発信が妊産婦の不安を解消する役割を果たしたと評価しているが、そのように受け止められたのかどうか検証が必要ではないか。

 一例として、5月2日の母乳中の放射性ヨウ素に関する通知について考えてみる。3月下旬には汚染地域の牛乳や水道水から放射性ヨウ素が検出されており、学会でも水道水に関する通知を発表している。同時に母乳の汚染を心配する声も上がっており、私も当然ある程度は検出されると予想し、国が調査すべきと考えていた。

 しかし、政府も学会も自ら動こうとはせず、4月下旬に市民団体が自主的に検査して発表し、政府も母乳汚染の事実を認めた。更にその後に学会が細かい数字をあげて「赤ちゃんの健康被害は現時点では起こらないと推定される」と政府の言動にお墨付きを与える格好となった。

 この構図は11月の乳児用粉ミルク汚染でも全く同じ形で繰り返された。乳業メーカーは原乳の汚染について情報公開を求める声を「基準内だから」という理由で拒否し続けたあげく、市民団体がセシウム汚染を検出し、基準内だが自主回収に追い込まれるという事態に至った。

 原発事故後、政府や専門家に対する国民の不信感は急速に高まっていた。低線量・内部被曝の影響を過小に伝えて安心させようとした医師や医学界への不信が募る中で、学会からの情報も「安全情報」の一つして受け止められた。

 政府は「直ちに健康に影響がない」ことの根拠として医療被曝との比較を多用した。そのような不適切なリスク比較に対して、医師会や各学会から早急に申し入れすべきと考えていたが、学会自らが声明の中で同じ手法を用いている。原発事故による被曝はメリットが全くなく、合意なしに無差別に被曝が強要され、専門家による管理が不能の状態にあり、医療被曝と同列に論じることは不信感を招くだけであった。

 産科婦人科学会は、政府が根拠を示さないまま安全情報を出し続けたことへの不信に対し、学会では迅速に具体的な数字で根拠を示したことが安心に繋がったと自己評価しているが、これは事後の視点、すなわち、誤って1回の被曝をしてしまった際に、患者を安心させるための一種のパターナリズムの話法である。しかし、現実には原発から放射性物質の放出が続き、更に最悪の状況に進展する可能性もあり、大地や食物からの被曝が今後も積み重ねられていく状況の中で、事前の視点、予防原則に従ったメッセージを発信できなかったことを問題にしたい。

 産科婦人科学会に限らず多くの学会から出された情報は、避難しなくても良い、そのままそこで被曝していても大丈夫というメッセージとなった。3月15日の第一報ではヨウ素剤服用が必要な50mSv被曝の例として「2000μSv/hの線量を25時間受け続ける」と記されているが、多くの国民は20μSv/hですらとてつもなく高い線量であることを後になって知ることになる。3月に飯舘村で実施された小児の甲状腺被曝検査も同様の「安全情報」となり、飯舘村から子どもが全員避難を終えるまでには更に3ケ月もの月日を要する結果となった。

(この文章は、講演2「災害と周産期医療について」に関する私見です。八戸市医師会報に掲載予定)

H23日医母子保健講習会報告3「産科医療補償制度の現状と課題」

2012年03月23日 | こども・小児科
シンポジウム
テーマ「産科医療補償制度の現状と課題」
1)産科医療補償制度とは
      後 信(日本医療機能評価機構医療事故防止事業部長)
2)原因分析について
      岡井 崇(昭和大学医学部産婦人科教授)
3)再発防止について
      池ノ上 克(宮崎大学医学部附属病院長)
4)見えてきたもの、見直しに向けて
      石渡 勇(茨城県医師会副会長)

 子ども支援日本医師会宣言に掲げられている「無過失補償制度の確立」の先鞭として平成21年から運用開始した産科医療保障制度の現状と課題に関する発表の要点をまとめて記す。

 この制度は日本医療機能評価機構が運営し、補償と原因分析・再発防止の機能を併せ持ち、紛争の防止・早期解決と産科医療の質の向上を目指す。対象は分娩に関連して発症した在胎33週・出生体重2000g以上の脳性麻痺(CP)の児で、先天的要因、新生児期の要因による場合は除外する。補償金額は20歳までに総額3000万円であり、審査では過失の有無は判断せず、約2ヶ月で一時金が支払われる。開始後2年半で274件中252例が補償されている。

 原因分析は、責任追及を目的とするのではなく、原因を明らかにして再発防止を提言するためのものである。医学的評価にあたり、発生時に視点を置いて分析するだけでなく、産科医療の質の向上に資するため、既知の結果から振り返る事後的検討も行い、課題を指摘している。原因分析報告書は約半年で作成され、ホームページに要約版が公表されている。報告書の内容について、家族と医療機関の対話の欠如、学会・医会による支援体制の不備が指摘された。

 第1回の再発防止報告書では、分娩中の胎児心拍数聴取、新生児蘇生、子宮収縮薬、臍帯脱出の4つのテーマについて提言がなされたが、不適切な報道により一般の方のみならず医師の間にも誤解が生じた。実際には補償対象事例における損害賠償請求等は数%に留まっており、訴訟を減少させる目的は果たしている。

 CPの7~8割は他の要因によるもので、分娩周辺に起因する割合は少ないが、原因分析を通してCPの発生防止への課題が見つかりつつあり、発生頻度を減少させ得る感触が得られた。

 制度開始5年を目処に見直しが図られる予定である。余剰金が今後も発生する見込みであり、出生体重・在胎週数の緩和、補償対象を妊産婦死亡に拡大すること、補償金額や支払方式の変更、原因分析完了後の紛争解決支援のための中立処理委員会(ADR)などが検討されていくことになる。当日の議論によると、妊産婦死亡にまで拡大するのは難しく、もう少しCPに限定して進化・定着させていく方向性になる見込みである。将来的には、同様の無過失補償制度が他の領域にも拡大されることが期待される。 

(この文章は講習会出席報告のために書かれたもので、文責は当方にあり、要約の内容が演者の意図を十分に反映していない可能性があります。八戸市医師会報に掲載予定)

H23日医母子保健講習会報告2「災害と周産期医療について」

2012年03月23日 | 東日本大震災・原発事故
2)災害と周産期医療について
      吉村泰典(慶應義塾大学産婦人科教授)

 東日本大震災に際して、日本産科婦人科学会では被害状況の把握、物的・人的支援、妊産婦に対する支援、行政への働きかけ等を実施した。岩手、宮城、福島の3県では診療所の半数は分娩を中止しており、宮城県では7割にも達した。分娩数の多い宮古、気仙沼、石巻の3市に全国の大学から医師の派遣を継続している。

 福島原発事故後の放射性物質による環境汚染は、妊産婦と子どもをもつ家族、生殖年齢にある女性に深刻な問題を投げかけている。軽度ではあるが長期にわたる内部被曝が母子に与える影響は、世代を超えて持続する可能性を否定できず、今後も注意深い観察と検証が必要である。

 政府の発表が国民の不安を増大させていた状況の中で、学会では事故直後より妊娠・授乳中の女性に対し、放射線被曝や水道水・母乳・粉ミルク・食品の放射性物質汚染に関する情報を8回にわたり発信し、不安の解消に務めた。

(この文章は講習会出席報告のために書かれたもので、文責は当方にあり、要約の内容が演者の意図を十分に反映していない可能性があります。八戸市医師会報に掲載予定)

H23日医母子保健講習会報告1「妊娠等に関する相談窓ロ事業について」

2012年03月23日 | こども・小児科
平成23年度母子保健講習会
平成24年2月19日(日) 東京都 日本医師会館
メインテーマ「子ども支援日本医師会宣言の実現を目指して-6」

講演
1)妊娠等に関する相談窓ロ事業について
      寺尾俊彦(日本産婦人科医会会長)

 児童虐待は増加の一途を辿っており、特に関係機関の関与のない日齢0日児、月齢0ケ月児の虐待死への対策が急務である。未受診妊婦の周産期死亡率は1970年と同等で、胎児虐待と言っても過言ではない。

 虐待死事例の多くに「望まない妊娠・出産」が関与していることから、日本産婦人科医会では平成23年より標記の事業を開始し、相談窓口の入り口として産科医療機関を位置づけ、要保護児童対策地域協議会(子どもを守る地域ネットワーク)と連携して虐待死ゼロを目指している。

 受付、診察等におけるチェックリストをマニュアルに掲載し利用しているが、支援が必要な特定妊婦(児童福祉法)の抽出や虐待予備軍というレッテル貼りのためではなく、悩みに共感しながら対応し、悩みを解消していくことが目的である。

(この文章は講習会出席報告のために書かれたもので、文責は当方にあり、要約の内容が演者の意図を十分に反映していない可能性があります。八戸市医師会報に掲載予定)

【SPEEDI】福島県「データ大きくて消去」もウソだろうが、15日朝からの情報は受け取っていた

2012年03月22日 | 東日本大震災・原発事故
SPEEDI隠蔽に関しては、どれもこれもウソだろうという前提でみていった方が良い。どこまで口裏を合わせているのかも判然としないが。
原子力安全技術センターは無実を証明するために本当の事を言っていると思う。

この「容量が大きすぎて消してしまった」などというのはコメントするのも阿呆らしくなる。。

福島県が拡散予測消去 当夜から受信5日分(2012年3月21日)
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2012032190070832.html

問題は、これがもし本当だとしても、15日朝からの情報は受け取って知っていたわけだ。当日に飯舘村~福島市方面の汚染が起きる可能性が高いことも。

県の担当者は「送られてきたデータは二十キロ圏の範囲で、既に圏内の住民は避難した後だった」と釈明しているが、前のentryに書いたように、20km圏をはみ出して、夕方から夜にかけてこの方面に流れるシミュレーションは出ていた。(ただし、文科省のSPEEDIのページではどのファイルが何時に出たものかわからないので前後関係の確認ができない)



>県は「予測は役に立たない」として、その後も送られたデータを
>公表せず、市町村にも知らせなかった。

この日、文科省では大臣・幹部が「とても公表できない」と判断している。
このあたりの関係や、誰がどういう判断を行ったのかも、全て薮の中だ。
国と県で全く独自にそれぞれ「公表しない」と判断したとは考えにくい。15日であれば連絡は普通にとれたはずであり、謀議して隠蔽を決めたと考えるのが普通だ。
どうしてこれが捜査の対象とならないのか。法治国家としての体をなしていない。

【SPEEDI】政府が隠蔽したのは飯舘村ではなく3月15日朝の東京への放射性プルーム襲来情報のはずだ

2012年03月22日 | 東日本大震災・原発事故
▼ SPEEDI隠蔽批判報道は的外れか追及が甘い。政府が何としても隠そうとしたのは飯舘村汚染(3/15夜)ではなく、その前の東京への放射性プルーム襲来(3/15朝)であったと考えるのが、ごく当たり前の論理だ。(以下、いくつかの状況証拠から論証してみるが、具体的な証拠を知る立場にはないので、それ以上の追及はここではできない。)

この日は関東全域に少なくとも屋内退避(全経済活動停止)を命ずるべき状況だったが、政府は絶対にそんなことはしないしできないと確信していた。しかし、翌日になればメディアも国民もいくら何でも気がつき、大騒ぎになるだろうと判断した。(前段は当たっていたが後段は間違っていた)

▼ NHK ETV特集取材班による『ホットスポット ネットワークでつくる放射能汚染地図』の第一章に次のような記載があるのを読んで、いくつかの状況証拠が繋がってきたのを感じた。

「実は前日(註:3月14日)の深夜ある専門家筋からの情報でこの日にプルーム(放射性雲)が東京・横浜方面に流れると聞いていた。朝早く起きてメールなどで知っている限りの友人に知らせた。職場の上司にも、研究所員を自宅待機にするよう進言した。娘もありとあらゆる友だちに携帯メールで「いまそこにある危機」を知らせた。」

この章は七沢潔ディレクターの執筆。この「専門家筋」が誰なのかは突いても出てこないだろうが、SPEEDI情報ではないかと推察される。七沢氏はチェルノブイリ以来、原発問題を追及し続けており、SPEEDIの存在やその情報を入手できる人を知っていたとしても不思議ではない。あるいは、SPEEDIそのものではなくても、原発の状況と風向き情報などを総合的に判断できる専門家だったのかもしれないが、「東京・横浜方面に流れる」という表現は具体的すぎる。

(追記:この部分を引用したのは七沢氏が情報を公表せずに身内や知人だけに伝えたことを非難しようとしたわけではない。あの状況ではそれ以上のことは出来なかったと思うし、私自身も、3/15には家族にしか連絡しなかったから。しかし、1年経って状況が変わって来ており、情報源やルート、SPEEDI隠蔽問題との関連などを明らかにする時期が来ているのではないか。)

問題はこの記事。

▼ 文科相ら「公表できない」SPEEDIの拡散予測
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp201203030112.html
「昨年3月15日、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)による放射性物質の拡散予測について、当時の高木義明文部科学相ら政務三役や文科省幹部が協議し「一般にはとても公表できない内容と判断」と記した内部文書が作成…」「予測は原子炉内の全ての放射性物質の放出を想定し、文書には「関東、東北地方に放射性雲が流れるとの結果が出た」と広範囲な流出も記載 …文書は昨年3月19日付。政務三役らが出席した15日の会議で、試算結果を三役が見て「一般には公表できない内容であると判断」 …当時副大臣だった鈴木寛参院議員は「全量放出との前提は現実にはありえず、パニックを呼ぶ恐れもあった」と説明した。」

これでは具体的にどの情報を見て「とても公表できない内容」と判断したのかが判然としない。日付は問題の3月15日、菅前首相が東電に乗り込んだ日だ。政府首脳は当時SPEEDIの存在も知らされていなかったと主張しているがそれも嘘だと考えるべき。文部科学大臣や文科省幹部だけでこんな重要なことを決められるはずがない。(高木義明文部科学相も戦犯の1人として捜査対象に入れるべきだ。)

状況を振り返ってみてみれば、最初の危機的状況は飯舘村・福島市方面ではなく、東京・横浜への大襲来であり、「一般には公表できない内容」がそれに相当すると考えるのが普通だ。

▼ 文部科学省のSPEEDIのページを探してみた。

緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)等による計算結果(文部科学省)
http://radioactivity.mext.go.jp/ja/distribution_map_SPEEDI/

福島第1原子力発電所(単位放出 WSPEEDI)[平成23年3月15日(火曜日)](PDF:435KB)
http://radioactivity.mext.go.jp/ja/1770/2011/03/1305748_0315_06.pdf
福島第1原子力発電所1号炉(全量2)[平成23年3月14日(月曜日)](PDF:309KB)
http://radioactivity.mext.go.jp/ja/1770/2011/03/1305748_0314_01.pdf

…「全量放出」という条件では後者だろうが、東京横浜直撃という画像では前者がまさにその情報だ。PDFから切り取った画像を最後に掲載しておく。

▼ SPEEDIの公開情報をチェックしてみたが、3月15日朝の拡散予測は東京に赤とオレンジの細い筋が真っ直ぐ押し寄せている。3月15日の朝に2号機爆発のニュース(これは予測の範囲内だったが)とアメダスの風向きを見てこれはまずいと思った。風向きの変化までは想定していなかったが、前夜に予測は出ていたのだ。

▼ 東京へのSPEEDI拡散予測を隠せば、その後の飯舘村方面への拡散予測も何もかも隠さざるを得ない。結果として、運命の風と雨(雪)により飯舘村や福島市が汚染されたが、これがいわき市や水戸市であっても何らおかしくなかった。もちろん、東京や横浜であった可能性もあった。

▼ 政府が守ろうとしたのは何だったのか。東京に屋内退避命令を出せば、東証も停止となり株は暴落。世界中の投資家が日本から資金を引き上げて、損失は放射能汚染の補償どころの話ではなくなる。今こうやって直接被災していない多くの国民が(形だけでも)普通に暮らしていられるのは、政府がSPEEDI情報を隠してくれたお陰だと言うこともできる。それは福島や関東・東北の広い地域の放射能汚染という犠牲の上で成り立っているものだが。

▼ 昨年3月15日~16日の放射性物質拡散予測(SPEEDI)。データはKr85だが他の放射性物質も当然一緒に押し寄せた。















▼ 3/15 11時~21時の積算値 吸入による1歳児の甲状腺被曝等価線量



川内村にかかっている内側の濃い点線が1000mSv、いわき市にまで広がっている外側のオレンジの点線が1mSv あくまでシミュレーションによる計算値ですが

※ なお、当日(3/15)の放射性物質拡散シミュレーションについては数日前に書いたが、13時の図を再掲しておく。SPEEDIの予測がほぼぴったり当たっていることがわかる。(どちらもシミュレーションではあるが)

国立環境研究所の放射性物質シミュレーションを見直してみる 運命の風と雨・雪 関東の I-131被曝は?(2012年03月17日)
http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/b69c56540c1eee7fbeb914fd59265fbe


「1Gy被曝でがん死リスク42%増」の意味 LNT仮説が「哲学ではなく科学」であることは明白 中川恵一批判

2012年03月19日 | 東日本大震災・原発事故
3月2日の「1グレイ被曝 がん死リスク42%増 放影研、寿命調査の成果発表 広島」という報道はわかりにくい。今まで「1Gy(1Sv=1000mSv)で5%がん死増加、100mSv以下は因果関係の証拠が得られず “科学ではなく哲学”」と言っていたのと違う数字が出てきたので、8倍も高くなったのかなどと勘違いしかねません。

放射線影響研究所(放影研)のHPに掲載されている概要のPDFを読みながら考えてみたいが、基礎知識が不足しているので、専門的な解説がどこかでなされていれば追記します。(主要部分は放影研による解説を引用します)

「総固形がん死亡の過剰相対リスクは被曝放射線量に対して全線量域で直線の線量反応関係を示し、閾値は認められず、リスクが有意となる最低線量域は 0-0.20 Gyであった」と書かれているように、今回のデータは従来の広島・長崎のデータに基づくLNT仮説を覆したり修正するものではなく、追加のデータとして受け止めるべきもののようです。

まず、わかりにくい言葉が2つ出てきます。(以下、点線内が引用です)
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
・過剰相対リスク(ERR = Excess Relative Risk):相対リスク(被曝していない場合に比べて、被曝している場合のリスクが何倍になっているかを表す)から 1を差し引いた数値に等しく、被曝による相対的なリスクの増加分を表す。
・過剰絶対リスク(EAR = Excess Absolute Risk):ここでは、被曝した場合の死亡率から被曝していない場合の死亡率を差し引いた数値で、被曝による絶対的なリスクの増加分を表す。
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------

このあたりの解説は、こちらのページが参考になると思います。
被ばくによってガンで死亡するリスクについて(田崎晴明・学習院大学理学部)





図2と図3の解説は以下の通りです
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
被爆時年齢および到達年齢が総固形がん死亡の放射線リスクに与える修飾効果
 ERR/Gy:1Gy被曝した場合の過剰相対リスク
 EAR/104person-year/Gy: 1Gy被曝した場合の過剰絶対リスク(10,000人あたりの増加数)
・ 被爆時年齢が若い人ほどリスクが大きい(10歳若いと ERRが約 30%増加)
・ 被爆後年数がたつほど(本人が高齢になるほど)、相対的なリスクは小さくなる(10歳の加齢で ERRが 10~15%の減少)
・ 一方、本人が高齢になるほど、がんによる死亡率は大きくなるので、過剰ながん死亡(EAR)は多くなる
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------

今回報道された42%という数字は、図2の過剰相対リスク(ERR)の方で、「30歳で1Gy被曝して70歳になった時の総固形がん死亡リスクは被曝していない場合に比べて42%増加」、つまり、30歳の曲線で70歳のところの縦軸が0.42であるという意味。

一方「100mSvで0.5%死亡」の方は、上記の田崎氏の解説によると過剰絶対リスク(EAR)、つまり「0.5%上乗せ」のリスクである。
図4のLNTを示す直線の縦軸は過剰相対リスク(ERR)であり、数字の意味が違います。


-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
図4.総固形がん死亡に対する放射線による過剰相対リスク(ERR)の線量反応関係
ERRの線量反応関係は全線量域では直線モデル(L)が最もよく適合したが、2Gy未満に限ると線形二次モデル(LQ)が最もよく適合した。これは、0.5Gy付近のリスク推定値が直線モデルより低いためであった。図中の点と縦線は線量カテゴリーごとの点推定値と 95%信頼区間である。点線は、全線量域で最適であった線型モデル(L)の 95%信頼区間である。
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------

ここまではわかったことにして、ここからが本題です。
問題の「LNT(直線閾値なし仮説)で100mSv以下は科学ではなく哲学である」という主張は中川恵一氏らによるもので、サイエンスではなく哲学なのだから「10万人が10mSv被曝すれば50人がガンで死亡」という掛け算をしてはいけないとしきりに強弁しています。

放射線被ばく基準の意味 中川恵一・東大放射線科准教授
ALARA思想を疎外する“二元主義” 中川恵一(福島県内で一定の放射線量が計測された学校等に通う児童生徒等の日常生活等に関する専門家ヒアリング 文部科学省) 

ここで、図4の500mSv以下の部分を拡大してみます。


図4(拡大)

中川氏は「『100mSv以下では、被ばくと発がんとの因果関係の証拠が得られない』という言明はサイエンスである」と述べていますが、確かに低線量領域ではエラーバーがゼロにかかっているので「因果関係の証拠が得られない」のは確かでしょう。

しかし、虚心坦懐にこのグラフを見てみれば、一貫してゼロから線量に応じて増加しており、少なくとも閾値(しきい値)が存在しないことは明らかです。低線量域で誤差が大きくなることは当然あり得ることで、「因果関係の証拠が得られない」からといって「因果関係はわからない」ことにはなりません。

このグラフの一点一点は被曝して亡くなった方の貴重な実測データであり、そこからわかる事実を読み解くこともサイエンスです。

中川氏は「100mSv以上における“線量と影響の直線関係”のグラフの線を100ミリ以下にも延長して、放射線の防護の体系を作っている。…直線しきい値なしモデル(LNTモデル)はICRPが、その安全哲学から提唱する防護上のポリシーであって、科学的データを示しているわけではない」と述べているが、あたかも「予防的に線を引いた仮想の直線(=哲学)」であるかのような不遜な態度は厳に慎むべきです。

冒頭にも書いたように、中川氏らが論拠とする広島・長崎のこのデータについて、放影研でも「被曝放射線量に対して全線量域で直線の線量反応関係を示し閾値は認められず」と明言しており、100mSv以下にLNT仮説を適用することは哲学ではなく科学(サイエンス)であることは証明されています。中川氏の言説は詭弁と言えます。

この点について、少し長くなりますが、京都大学の今中哲二先生の論文「“100ミリシーベルト以下は影響ない”は原子力村の新たな神話か?」(『科学』2011年11月号)から引用してみます。


表1 解析対象範囲を変えたときの1Svあたりの過剰相対リスク

-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
「表1はLSS(Life Span Study:寿命調査報告)データ全体(0-4Sv)から被曝量の大きなグループを順に除いてゆき、解析範囲を低い被曝量域にずらしながら固形ガン死の過剰相対リスクを求めたものである。被曝量の大きなグループ(200mSv以上)を含むときの統計学的有意性は明白であるが、有意性の判定に用いるp値は、たしかに100mSv以下の被曝量域では通常の判定基準である0.05より大きく、約5万人の死亡を含む広島・長崎データでは、“100mSv以下において統計的に有意なガン死増加は観察されていない”と述べることは間違いではない。しかし、表1に示されているガン死リスク係数(線量あたりの過剰相対リスク)を素直に眺めるなら、データ全体に対しては“被曝量は小さくとも、被曝量に比例してガン死リスクが増加する”というLNTモデルがよく適合していることは明らかであろう。少なくとも、“100mSv以下で過剰相対リスクの値が急にゼロになる”という閾値モデルは成立しがたい(逆に100mSv以下ではむしろリスク係数が大きくなる傾向が認められる)。(今中哲二.『科学』2011.11)
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------



(この論文の中から重要な部分を書き出してみたものです)

「気仙沼 / リアス・アーク美術館 / N.E.blood21:坂本英子」青森県立美術館(3/11終了)

2012年03月19日 | 東日本大震災・原発事故


3月11日の朝一番で青森県立美術館の東日本大震災復興支援特別企画「気仙沼 / リアス・アーク美術館 / N.E.blood21:坂本英子」を見てきました。(写真はそのチラシ)

坂本英子さんは八戸出身だそうです。N.E.blood21も何の知識も先入観もなくみたのですが結構面白かった。気仙沼の写真では昔住んでいたところの近くの写真もありました。

さようなら原発・核燃3.11青森県民集会&ウォークに参加してきました 画像 動画(リンク)

2012年03月18日 | 東日本大震災・原発事故
さようなら原発・核燃3.11青森県民集会&ウォークに参加してきました。

・記事PDF(デーリー東北・東奥日報・毎日)
・青森テレビ(ATV)ニュース
・3月11日 青森市で【さよなら原発 核燃3.11青森県民集会】に1700人!(市民ジャーナリストチーム青森のブログ) 記者会見・集会・ウォークの動画


(ステージ)


(会場)


(ウォーク 先頭を歩く山本太郎さんと鎌田慧さん)


(県庁前)

-----------------------------------------------------


(青森駅前・ベイブリッジ・ワラッセ ウォーク終了後)


(午前 雪の青森県立美術館)


(あおもり犬 雪の帽子はもうない)




(青森県立美術館 八角堂)

インフルエンザB型の小流行で微増 13人/週(第11週3/12-3/18) 八戸

2012年03月17日 | 東日本大震災・原発事故
これで4週連続10人前後となり、先週の11人から再び微増となっています。グラフの赤ラインをみればわかるように、1月~2月にみられたA型の大きな山の裾野に、B型の小さな山が重なったために、このような形になっています。



実際にはA型1名、B型3名、陰性または不明が9名となっていて、臨床的診断が多くなっているため、やや多めに診断している可能性は否定できません。この時期のインフルエンザの診断は必ずしも明瞭ではなく、特にB型は腹部症状で始まるウイルス性胃腸炎や、他の風邪症候群との区別が(小さい子ほど)わかりにくい場合があります。

国立環境研究所の放射性物質シミュレーションを見直してみる 運命の風と雨・雪 関東の I-131被曝は?

2012年03月17日 | 東日本大震災・原発事故
録画しておいた NHK ETV『ネットワークでつくる放射能汚染地図5 埋もれた初期被ばくを追え』(3/11) を、関東地方に高濃度の放射能プルームが襲った1年後にあたる昨晩(3/15)見ることができた。

番組中に出てきたヨウ素131のシミュレーション

そのものがどこのデータで、公開されているかどうかもわからないのだが、国立環境研究所の放射性物質拡散沈着シミュレーション(201108)があったのを思い出し、見直してみた。

福島第一原子力発電所から放出された放射性物質の大気輸送沈着シミュレーション
このページを開くと6つのGIFアニメが出てきて煩わしいので、それぞれ文字リンクにしておいた。

【ヨウ素131】
ヨウ素131の地上近くの大気濃度
ヨウ素131の沈着量
ヨウ素131の沈着積算量
【セシウム137】
セシウム137の地上近くの大気濃度
セシウム137の沈着量
セシウム137の沈着積算量

民主党原発事故影響対策プロジェクトチーム第28回総会(平成23年8月2日)での説明資料(PDF)

問題の3月15日のヨウ素131の地上近くの大気濃度

2011/03/15 13時


2011/03/15 19時


(このentryには考察はありません。汚染は風だけでなく雨・雪が決定的であったというのはシミュレーションで示している通り。)