踊る小児科医のblog

青森県八戸市 くば小児科クリニック 感染症 予防接種 禁煙 核燃・原発

不信の連鎖 水俣病は終わらない

2004年12月13日 | NEWS / TOPICS
12日放送のNHKスペシャル「不信の連鎖 水俣病は終わらない」をみましたが、あらためて「国民の命を救わない国というシステム」について怒りを感じざるを得ません。最高裁の判決が出てもなお、自らの過ちを認めて患者を広く救済するという政策転換を行うことができないとは。。この問題については、番組の中でもコメントしていた岡山大学津田敏秀氏の『医学者は公害事件で何をしてきたのか』をぜひ御一読いただければと思います。

不信の連鎖 水俣病は終わらない/
2004年12月12日(日) 午後9時15分~10時07分(再放送も昨晩終わってしまいました)

 この秋水俣病関西訴訟で最高裁は原告を患者と認め、国と県の責任を認めた。しかし、環境省は原告たちを水俣病とは認めていない。国と原告の対立は続いている。番組では、この両者の議論を軸に、水俣病問題を振り返り不信の連鎖をたどる。

【水俣病関西訴訟】
「チッソ水俣病関西訴訟」。大阪在住の熊本県鹿児島県出身の患者が1982年チッソと国、熊本県を相手に起こした損害賠償請求訴訟。94年大阪地裁の一審判決で原告側敗訴(チッソには勝訴)。2001年の控訴審判決で逆転勝訴し原告は水俣病と認められた。国と県はただちに最高裁に上告。2004年10月15日、原告が再び勝訴し判決が確定した。

【水俣病の認定制度】
「公害に係わる健康被害の補償に関する法律」により定められた制度。被害者に対し速やかに補償が行われるよう、行政が患者を認定し、原因企業の拠出金から医療費や慰謝料などが支払われるという仕組み。県の検診と審査会の書類審査を経てはじめて被害者と認められる。水俣病の場合、昭和48年にチッソと患者の間で結ばれた補償協定によって、行政認定を受けた患者はチッソから1600万円~1800万円の慰謝料と年金や医療費などを受け取ることができる。行政が積極的に被害者を調査し探し出して救済するのではなく、本人の自己申告によってはじめて補償が行われる。水俣病の場合、地元での患者差別が激しく、自ら水俣病と名乗り出る人は少なかった。認定の本人申請主義は、潜在患者が多数埋もれてしまう要因となった。

【昭和52年判断条件】
環境省が昭和52年に定めた水俣病の診断基準。どういう条件がそろえば水俣病と判断できるかを示した指針で、当時認定審査に当たっていた医学者たちが過去の認定患者の症状をとりまとめて作成した。最高裁判決はこの基準を採用せず独自の診断基準を示した。しかし、国は「この基準は現在も適切であり見直す必要はない」と主張し続けている。この基準にあてはまらず棄却された患者は数千人にのぼり、医学界からも基準の医学的妥当性に対する疑問の声が出されている。

【未認定患者の裁判闘争】
80年代に入ると行政に認定されず水俣病と認められなかった患者が国と熊本県とチッソを相手に次々と裁判を起こし原告の数は2000人に膨れ上がった。国と熊本県は、加害責任はない、認定制度は正しいとして患者と対立し、10年に及ぶ裁判闘争が続いた。

【平成7年(95年)の政治決着】
長期にわたる争いを終結させるため、当時の連立与党が妥協案を提示。チッソが260万円の一時金を支払い国と県が医療費を支給するという内容で、患者たちは裁判闘争の終結と認定申請を行わないという条件を受け入れた。水俣病と認定されないまま救済の対象となった患者は1万人に達し、これで水俣病問題は終わったとされた。国が裁判で掲げていた「52年判断条件は正しい、国と県に賠償責任はない」という二つの主張は貫かれた。
しかしこの時、関西訴訟原告団だけは政治決着を拒否し、今回の勝訴で国の上記主張は根拠を失った。11月24日の交渉で原告団は「国の主張の前提は崩れた、認定基準を見直し、すべての患者を水俣病と認めるべきだ」と迫った。

【4種類の患者】
認定制度によって、救済を受けられる患者と受けられない患者の分断が行われその結果、補償によって4種類の水俣病患者が存在するという事態となった
(1)行政に認定された患者およそ2300人(熊本・鹿児島分)(2)行政認定されずに、裁判で認められた患者(関西訴訟原告など)およそ50人 (3)行政に認定されなかったが260万円の一時金などを受け取り救済された患者(政治決着)およそ1万人 (4)まったく救済を受けられず埋もれている潜在患者。人数不明。発生から半世紀がたつ現在も、水俣病患者の総数は不明である。

【県の新たな救済案】
11月中旬、最高裁で国とともに賠償責任を負うとされた熊本県は患者の新たな救済策をまとめた。「水俣病の認定基準は国の専任事項で県に権限はない」としてこの案では認定基準については触れていない。しかし、裁判で認められた患者にも政治決着の救済対象者と同じ医療費を支給するとしている。また、患者数に関しては、これまで1万人とされた政治決着の救済対象者にさらに2万人以上の潜在患者を加え、全体の患者数を3万4千人と独自に試算した。