似顔絵の大家に
「あなたの似顔絵は、全然気にならないし気付かない」
と指摘してくださったことがあります。
私はこの言葉を悪いようには受け取っていません。
暗い予備校生生活のときのことでした。
ものすごい先生が人物デッサンの講評にたまたまいらして下さって
「これだな!では」
とだけ言って三秒くらいで評価して退出されました。
そのデッサンは、私のデッサンではなく迫力のある、人の本質をとらえたような人物画でした。
けれど、普段教えて下さっていた先生方が、
「なんでこっちではないのかなぁ」
と私のデッサンを見て不思議がっていました。
その理由が、気にならないデッサンであったからなのではないかと感じています。
大学を卒業してからの話です。
ほかの似顔絵の先生にも
「絵が小さい、サイズの問題ではなくて」
と指摘して頂いたことがあるのですが、大きく描けるように心がけ、そう描けるように少しはなったのではないかと思いますが、小さく見える絵も重要であると思っています。
迫力が全くないことを前向きに考えられるようになったのは、母の引き算の話です。
母は美術の教員だったのですが、今は算数を教えています。
子供は毎回特定の問題でつまづくのですが、引き算もその最初の一つです。
伸びて大きくなっていこうとしている時期に、減ってゆく考え方を身につけるのは難しい子もいるようです。
客観的に判断して折り返し地点である自分なので、下り坂は難しいですが、下降してみえる陰影も気にならないように描いていけば思っています。