https://www.100-gute-gruende.de/pdf/g100rs_jp.pdfより引用
原子力に反対する 100 個の十分な理由(抜粋)
~100 gute Gründe gegen Atomkraft~ An initiative of Elektrizitätswerke Schönau www.ews-schoenau.de www.100-gute-gruende.de
#1~#11 燃料とウラン採掘
#12~#19+#102 安全基準と健康被害
#20~#41+#103~#107 事故と大災害のリスク
#42~#65+#108~#113 核廃棄物と処分
#66~#71+#114 気候保護と電力供給
#72~#79 権力と利権
#80~#87+#115 自由と民主主義
#88~#93+#116 戦争と平和
#94~#100 エネルギー革命と未来
そして#101 あなたの意見は正しい!
日本の読者の方々に 福島の原子力発電事故は、私たちにこの冊子を日本語に翻訳することを思い立たせました。 ここに記した数多くの数値やデータは、ドイツの原子力発電所に関するものですが、事実は 世界中どこでも同じです――原子力エネルギーは危険であり、非民主的で、高額で、不要 なものです。この小さな冊子が日本において、原子力に反対する市民運動に尐しでも力を 与え、支持するものであれば幸いです。 日本にお住まいの方で、地震に、津波に、そして原子力災害で悲惨な目に遭われたすべて の方々に、私たちから心からのお見舞いを申し上げます。 自然災害による脅威は、この先も私たち人間が完全に管理することはできないでしょうが、 日本において原子力は私たち人間で終りにすることができます――この道を進まれ、幸運 を心から願っています! みなさまのことを心から想って、 ウアズラ・スラーデク(Ursula Sladek) EWS シェーナウ電力会社代表
#1~#11 燃料とウラン採掘
#1 依存
すべてのウランは輸入されなければならない。 ヨーロッパ全土では、チェコとルーマニアの鉱山においてのみ、尐量のウラン産出が行わ れている。ドイツでは 1991 年以降、実質的にウランは産出されておらず、フランスでは 2001 年から産出はない。 原子力による電力は、「自国産」のエネルギー源ではない。原発は資源の輸入と多国籍コ ンツェルンへの依存度をますます強める――世界のウラン産出の 3 分の 2 は、4 つの巨大 鉱業会社の手中にある。
#8 ウランの欠乏
ウラン鉱山はすでに 20 年来、原子力発電所の需要を満たせていない。 1985 年以降毎年、原子力発電所ではウラン鉱山が採掘するよりも明らかに多くのウラン を消費している。2006 年において、世界中のウラン鉱山を合わせても、原発が必要とする ウランの 3 分の 2 の量しか産出していない。原子力発電所の運営者は、これまでこの燃料 不足分を、民間および軍事部門の在庫を取り崩すことでまかなってきた。しかしこれも尽き ようとしている。 すでに存在する原子力発電所の燃料供給を確保するだけでも、ウラン産出量を数年のう ちに 50%以上増加させなければならない。そのためには無数の新規ウラン鉱山の営業を 開始させる必要がある――人間と環境に多大な被害をもたらしながら。
#9 埋蔵量の限界
ウラン埋蔵量は、わずか数十年のうちに枯渇する。 埋蔵量が豊富で採掘しやすい場所のウラン鉱床は、世界中でもうすぐ枯渇する。同量の ウランを得るためには、今後、掘り返さなければならない土砂・岩石の量は増えるばかりだ。 そのためコストはかさみ、環境被害も急増する。 すでに知られている全てのウラン鉱山を採掘したとしても、現状の約 440 基の原子力発 電所の需要を、45~80 年しか満たすことができない。さらに多くの原子力発電所が追加さ れたなら、ウランはより短い時間で枯渇する。
#10 ウランの輸送
六フッ化ウランが絡む事故は破局的な大惨事を招きかねない。 ドイツ、ヴェストファーレン地方のグローナウ市にあるウラン濃縮プラントは、ウランを六フ ッ化ウラン(UF6)に加工する。この非常に毒性・放射性の強い物質は、鉄道、トラック、そし て船によって毎週のようにヨーロッパを、大都市や人口密集地域の中も横切って自由に移 動している。 事故や火災によって輸送容器は破裂する可能性があるが、そのときは放射線を発する中 身が周囲に拡散し、地域は汚染される。そして六フッ化ウランは空気中の水分と反応し、毒 性と刺激性の非常に強いフッ化水素となり――周辺数 km の範囲内は、人間と環境に致命 的な危険がおよぶ。
#11 プルトニウムの輸送
核燃料棒の製造のために毎年何トンもの純粋な、兵器になりうるプルトニウムがヨーロッパ の道路を走りまわっている。 多くの原子力発電所は二酸化ウランと二酸化プルトニウムの混合物である MOX 燃料を 燃やしている。後者はほとんどの場合使用済み燃料の再処理からやって来る。約 7kg の プルトニウムで原子爆弾 1 つの製造に十分であり、数マイクログラムを吸い込むと癌を確 実に発生させる。 フランスとベルギーの MOX 燃料製造工場には、年間数トンの純粋な酸化プルトニウム が納品されている――高速道路上をトラック輸送によって。
#12~#19+#102 安全基準と健康被害
#12 癌の危険性
原子力発電所は子供だけを病気にするわけではない。 子供が住んでいる距離が原子力発電所に近ければ近いほど、癌になる危険性が高まる。 ドイツでは原子力発電所の 5km 圏内に住む 5 歳以下の子供は癌になる確率が、ドイツ全 土の平均値より 60%高い。なかでも白血病の発症率は倍以上(+120%)になる。白血病 はとりわけ放射線によって引き起こされやすい。 6 アメリカの調査データでは、核施設周辺の大人も癌になる確率が高いと推測されている。
#13 汚染物質の排出
原子力発電所は大気へ、水中へと放射性物質を排出している。 全ての原子力発電所は排気口と排水管を備えている――トリチウム、炭素、ストロンチウ ム、ヨウ素、セシウム、プルトニウム、クリプトン、アルゴン、キセノンなどの放射性物質の排 出のためだ。それらは大気中に分散し、水中、地中に留まる。さらに堆積し、濃縮され、生 物に取り込まれ、一部は細胞に組込まれる。そこでそれらの放射性物質は、とりわけ癌を 誘発し、遺伝子を傷つける。 この排気と排水による放射性物質の排出は政府によって公に認められている。通常 1000 兆ベクレルの放射性の希ガスと炭素、50 兆ベクレルのトリチウム、300 億ベクレルの 放射性微粒子、約 100 億ベクレルの放射性ヨウ素 131 の排出が許可されている。もちろ ん 1 年間に、1 つの原子力発電所あたりの話である。
#14 欠陥ある安全基準
放射線防護の安全基準は放射線による被害を甘んじて受け入れている。# 今日においてもなお核施設で容認される放射性物質の排出量は、架空の「標準値人間」 に基づいている。彼はいつまでも若く、健康で男性であるのが特徴だ。彼より歳を取ってい る高齢者、女性、子供、幼児、胎児は、ときには明らかに放射線に敏感に反応することなど 考慮されていない。 国内外の放射線防護の安全基準は、はじめから放射線による住民への健康被害を容認 している。「原子力エネルギー拡大戦略のための理性的な余地」を確保するために。
#15 低線量の放射線 低線量の放射線被爆は、公的な想定よりも危険だ。 非常に低いレベルの低線量被爆であっても、健康被害は発生する。これは様々な国の、 様々な核施設の従業員に対する一連の調査結果がそれを示している。 これらの研究は、今なお広く信じられている低線量の被爆はごく僅かの影響、全くの無害、 あるいはそれどころかポジティブな効果すらあるという思い込みを覆している。保守的であ ると評価されるアメリカの「National Academy of Science」でさえも近年では、低線量 被爆が有害であることを認めている。原子力発電所周辺に居住する子供の癌の発生率が 高いこともこれで説明できる。
#16 トリチウム
原子力発電所からの放射性廃棄物は、DNA にまで組み込まれる。 核施設は大量の放射性水素(トリチウム)を大気や水中に放出する。人間、動植物は呼 吸と食料、栄養を通してそれを摂取する。身体はトリチウムとトリチウムを含む水を通常の 水素や水と同様に、すべての内臓器官に取り入れ、遺伝子にまで組み入れる。そこで放た れる放射線は、病や遺伝子障害を引き起こす可能性がある。
#18 放射能の汚れ仕事
原子力発電所では何千人もの非正規労働者が汚れ仕事を処理している――多くの場合、 放射線防護の安全措置が十分でないまま。 彼らは派遣会社に登録され「火急」の際に駆り出される――何千人もの非正規労働者は原 子力発電所の最も放射線が強い区域で、清掃や汚染除去、修繕作業で給与を得ている。 ドイツ連邦環境省の 1999 年の統計によると、彼ら非正規の労働者は、正規の従業員より も数倍高い放射線被曝を受けている。フランスでは彼らを「放射能の餌」と呼んでいる。 これら非正規の労働者たちは、破れていたり、埃が立つ放射性廃棄物入りの袋を担いだ り、放射線を放つコンテナの横でコーヒー休憩を取らされたり、完全防護服を着用しないで 原子炉の中心付近での作業をさせらりたりしたことがあると報告している。中にはあらかじ め線量計を外して作業している者もいる。なぜなら最大被曝線量に達したら、そこでの職が 終わってしまうからだ。結局のところ、誰も職を失いたくはない。
ボーナス #102 チェルノブイリ
チェルノブイリの原子炉事故は数え切れないほど多くの人びとの生活を破壊した。 チェルノブイリ原子力発電所(ウクライナ)での破局的な大災害の後、ソビエト連邦は約 80 万人の「リクビダートル」を災害警防と処理作業のために派遣した。そのうちの 90%以 上が現在では傷病者である。原子炉事故から 20 年経過した現在までに、「リクビダートル」 として派遣された父親が傷病で死亡したため、1 万 7 千のウクライナの遺族は国からの保 護を受領している。 1990 年から 2000 年の間に、白ロシアにおける癌発症率は 40%上昇し、WHO はホメリ 地方だけでも 5 万人の子供たちが生涯の間に甲状腺癌を患うであろうと予想している。流 産、早産、死産が事故の後、劇的に増加している。原子炉付近に住んでいた 35 万人の住 民は、永久に自身の故郷から引き離された。 8 1,000km 離れたバイエルン州内でさえ、放射線障害を原因とした 3 千件におよぶ奇形出 産が発生してる。チェルノブイリ後、多くのヨーロッパの国々で幼児死亡率がおよそ 5 千人 分ほど増加している。 遺伝子の損害などによる次世代への負担は、事故の数多くの他の影響と同じようにまっ たく調査しきれていない。確実に分かっていることは、1986 年の大事故は、まだまだ終わっ ていないということだけだ。
#20~#41+#103~#107 事故と大災害のリスク
#25 地震の危険性
原子力発電所は十分に地震対策がなされていない。 ライブルク市近郊の原発フェッセンハイム、カールスルーエ市近くの原発フィリップスブ ルク、ダルムシュタット市付近の原発ビブリス――これら 3 つ全ての原子力発電所は、ドイツ で地震活動の最も活発な地域であるオーバーライン低地の上に建っている。しかし、それら は他のドイツの原子炉と同じように、地震に対して簡単な備えしか持たない。 原子力発電所フェッセンハイムは、1356 年にバーゼル市を壊滅させた規模の地震発生 時には、震源が 30km 以上離れていなければ持ちこたえることができない。地震のほうが 原発の事情にあわせてくれるのだろうか? 原子力発電所ビブリスは、1.5 m/s2の重力加速度までしか耐えられない。ただし地震学 者は、マンハイム市ととダルムシュタット市の間のエリアで明らかにそれを上回る強い揺れ を予測している。原子力発電所ネッカーヴェストハイムが建つ石灰層の地下では、地下水 が浸食し、最大 1,000 ㎥もの新たな空洞が開けられている。
#26 航空機墜落
原子力発電所は航空機の墜落に対して守られていない。 ドイツにある原子力発電所は 1 つとして、燃料満タンの旅客飛行機の墜落に耐えること ができない。これは、原子炉安全協会が――当初は極秘資料として――連邦環境省依頼の 専門家鑑定に記されている。 それどころか 7 つの原子炉はかなり薄いコンクリートの壁を持つだけで、戦闘機の墜落や 戦車装甲を貫通する兵器でさえ、破局的な大災害を引き起こすことができる。
#28 保険
車 50 台分の保険の補償額のほうが、1 基の原子力発電所の保険よりも手厚い。 ドイツの原子力発電所の破局的な大災害は、健康被害、物損、資産の損害など合計 2.5 ~5.5 兆ユーロ規模の被害を発生させる。これは Prognos 研究所が 1992 年に当時ドイツ 自由民主党(FDP 党)が大臣を務めていた連邦経済省依頼の専門家鑑定の中で、試算し た数字である。 ドイツで原発を稼動する全ての事業者が加入している損害賠償保険は、合計最大で 25 億ユーロまでカバーされているが――これは想定される被害額の 0.1%でしかない。原子力 発電所の駐車場に停めてある車 50 台のほうが、原子力発電所自身よりも大きな補償額で カバーされている。
#29 破局的な大災害
破局的な大災害は、今日にでも起こりうる。 1989 年に行われた「ドイツ・原子力発電所の B 段階のリスク調査」では、西ドイツの原子 力発電所において技術的な欠陥により起こりうる破局的な大災害のリスクを年間 0.003% としている。一見、小さなリスクに見える。しかし、EU のみにおいてでさえ、2007 年末の時 点で 146 基の原子力発電所が稼働している。それぞれ 40 年間の稼動期間を想定すると、 このリスクで見積もったとき、破局的な大災害の起こりうる確率は 16%を超える。ここには、 さまざまな原子力発電所で発生しうる故障・事故のシナリオや原子炉の危険性を増大させ る老朽化は全く考慮されていない――同様に、ハリスブルク(スリーマイル島)とチェルノブイ リの原因となった人為的なミスもここには含まれてない。
#31 悪天候
単に嵐が来ただけで事故の危険性が高まる。 原子力発電所の停電、いわゆる外部電源喪失は、原子炉にとって最も危険な状態である。 非常用電源が完全でなければ、冷却装置は停まり、炉心溶融の危機が迫る。この状態を 引き起こすのは、単なる悪天候で十分だ。 1977 年から 2004 年の間にこれまで 8 回、西ドイツの原子力発電所の重要な装置が雷 または嵐で停止し、危惧されている外部電源喪失の緊急事態になった。そのうち 1977 年 1 月 13 日に原発グントレミンゲン A では、修復不能な障害が発生した。洪水によっても危 機は迫る――大西洋岸にあるフランスの原子力発電所ブライエは、頻繁に洪水で冷却装置 の一部が停止している。
#32 金の亡者
原子力発電所において迷ったときの判断基準は――安全より利益優先――それが爆発事故 の後であっても。 2002 年のはじめ、原発ブルンスビュッテルで安全検査をした一団はまさに「死人のような 真っ青な顔」で原発から出てきた。彼らは原子炉圧力容器の脇の配管調査をした――配管 というより、25 個の残骸であったが。2001 年 12 月 14 日、水素爆発によって、直径 10cm の配管(肉厚 5~8mm)の 3m 分が粉々に破裂した。 当時の原発事業者 HEW(現 Vattenfall)は、「経年変化で発生したパッキンの漏損」であ ると申告し、その配管バルブを閉じたが――原子炉の稼動はそのまま続けられた。季節は 冬のことであり(電力需要が大きいことから)、電力市場における電気価格は最高値を記録 していた。州都キール市にある州の社会福祉・健康省(原発の監督官庁)が強い圧力をか けたことではじめて、HEW は 2 月中旬に原子力発電所の稼働を停止し、安全検査が実施 された。その後、この原子力発電所は、13 カ月に及んで停止された。
#33 人為的なミスのリスク
人間はミスをする――それは原子力発電所では致命的となる。 バブルの開閉を間違う、警告信号を見落とす、スイッチを入れ忘れる、命令を間違って理 解する、緊急時に誤った対応をする――技術的・施設面ではなく、人為的なミスが、原子力 発電所においてはとりわけ危険な事態を引き起こす多くの原因となる。「人為的なミスのリ スク」は事前に計算できない。 そうした前提がありながら原発従事者という人間が、トラブル発生時には炉心溶融を回避 するために、常時作業とは全く異なる非常に重要な緊急事態の対応を行うべきだという。 原子力発電はミスしない人間を要求する。しかしそんな人間は存在しないし――とりわけ 原子力発電所の非常事態などという極度のストレス下でミスをしない人間などいない。
#34 ホウ酸
原子力発電所を稼動する複数の事業者は、長年にわたって組織的に稼動の際の法令規 定を無視している。 17 年間にわたり原発フィリップスブルクでは、十分なホウ酸濃度を緊急注水容器に準備 しないまま稼働を続けた。それは、緊急時に炉心に注入されるべきものである。緊急注入 水の中のホウ酸濃度が足りない場合、炉心への注水は「火にガソリンを注ぐ」ような効果を 招く。 原発稼動をする事業者はそんなことは気にしない。それどころか、彼らはむしろ意図的に、 稼動の際のハンドブックにある規定を無視している。数々の調査は、他の原子力発電所に おいても長年にわたって、十分なホウ酸を準備しておらず、緊急の冷却システムが完全に は機能しないことを報告している。
#36 チェルノブイリより悪い事態
ドイツの原子力発電所で破局的な大災害が発生すると、それはチェルノブイリ事故よりも大 きな被害が出る。 ドイツの原子力発電所は、原子炉内に黒鉛を抱えていないため、チェルノブイリのように 火を噴くことはない。それゆえ放射性雲が爆発後にそれほど高い上空まで運ばれることは なく、放射線量は数百 km の範囲内において強く増加する。ドイツの人口密度はチェルノブ イリの地域より 7 倍高く、ライン-マイン地域のそれは約 30 倍だ。明らかにより多くの人び とが、より高い放射線量に犯されることになる。
#38 故郷の喪失
破局的な大災害の際には、数千 km2 の区域に永続的に人が住めなくなる。 数百万もの人びとがドイツの原子力発電所において破局的な大災害が発生したとき、自 身の家、住宅、仕事場に戻れなくなる。この人びとはどこで生活し、仕事をし、睡眠を取るこ とができるのだろうか? 誰が彼らの健康の面倒を見るのか? 誰が彼らの損害の補償を 負うのか? これは電力コンツェルンでないことは確かで――なぜなら彼らはとうに倒産して いるからだ。
#40 ヨウ素剤不足
ヨウ素剤を入手するために外出しなければならないのであれば、それは役に立たない。 ヨウ素剤は、原子力事故において放射性ヨウ素による放射線障害を緩和する。しかし、原 子力発電所周辺の極めて狭い範囲にしか、万一の備えとして家庭に配布されていない。他 の全ての地域ではヨウ素剤は市役所に保管されているか、もしくは事故の後で空輸しなくて はならない。入手するのは困難だ――なぜなら災害時避難計画では外出しないように指導 している。
#41 経済の崩壊
破局的な大災害は、国民経済の崩壊を招く。 ドイツのような国における破局的な大災害は、2.5~5.5 兆ユーロの損害を引き起こす。こ れは Prognos 研究所が、すでに 20 年前にドイツ連邦経済省の委託研究で試算したもの である。インフラを考慮すると、今日ではその総額は確実に上昇しているだろう。 比較すると――世界の先進工業国上位 20 ヶ国における目下の経済危機緩和のための景 気対策プログラムは、総額で 3.5 兆ユーロである。
ボーナス #103 原子炉内のフェルト
剥離した断熱材が原子炉の冷却配管を塞ぐ。 小さな亀裂が 1992 年 7 月 28 日、スウェーデンの原発バーゼベックで破局的な大災害 を引き起こしかけた。漏水が断熱材を剥離させ、細い繊維が原子炉に冷却水を循環させる 配管内の濾過網に引っかかり、配管を塞いだ。 この「濾過網の目詰り問題」は、他の原子炉でも緊急時に原子炉の冷却装置を麻痺させ ることが分かった。調査試験はさらに不安をあおる事実を示した――とりわけ細い繊維は 濾過網を通過して、原子炉の内部まで入り込み、そこで小さなフェルト状に形成され、小径 の冷却配管を塞ぐというのだ。 2008 年末に、原子炉安全委員会はこの問題を根本的に解決する長年の努力は失敗し たことを認めた。原発はそれでもなおすべて稼動している。
ボーナス #104 貝と葉
ほんの尐しの植物片でさえ、原子炉のメルトダウンの原因になる。 冷却システムの「ほんの一部の詰まり」が、フランス・アルザスの原発フェッセンハイムを 2009 年末に緊急停止させた。ライン川からの多量の植物片が冷却循環の配管の奥深くに まで進入したからだ。原子力監督官庁は緊急対策本部を設置した。その直前にはすでにロ ーヌ川からの浮遊物が原発クリュアの冷却装置を麻痺させていたからだ。 さらにやっかいなのはタイワンシジミである。極東から持ち込まれたタイワンシジミは、今 では中央ヨーロッパの河川で非常な勢いで増殖している。その小さな稚貝はどんなフィルタ ーも通り抜けてしまう。スイスの原子力発電所の運営企業は高圧洗浄機を使用している。 アメリカではすでに 1980 年に貝類のために 1 基の原子力発電所が操業停止に追い込ま れている。
ボーナス #105 現場での手抜き工事
フィンランドの原発工事現場では、(工事中の地盤没落大事故のあった)ケルン地下鉄の 工事現場よりもひどい状態が続いている。 60 カ国から 4,300 人の労働者がフィンランドのオルキルオトで「欧州加圧水型原子炉 (EPR)」の試作品をどうにか稼動させようと躍起になっている。工事現場の現状は髪の毛が 逆立つようだ――鉄筋コンクリートには一部の鉄筋が足りず、現場の親方は指揮下の労働 者たちの言葉を理解しない、溶接部分がすぐに亀裂し、現場監督は欠陥部分をコンクリート で埋め隠してしまうことを命令する。それに加えて 1 日 16 時間労働、安すぎる賃金、雇入 れと解雇の繰り返し――まさに「奴隷原子炉」の有様だ。 フィンランドの原子炉監督官庁はすでに、土台に種類を誤って使用されたコンクリートに始 まり、規定違いの手法で溶接された冷却システムの配管に至るまで、実に 3 千を超える建 設工事の欠陥を記録している。
ボーナス #106 非常な勢いで増加する亀裂
原子力発電所の重要な配管に、誰一人気づくことなく亀裂が走る。 原発ヴュルガッセンでのそれは廃炉を意味し、原発シュターデではそれは廃炉までの時 間を早め、原発クリュメルと原発ブルンスビュッテルでは原子炉がそのために数年間停止し た――ここで言っているのは、配管、容器、溶接部や水栓における亀裂のことである。 これまでに専門家が過去数十年にわたって様々な鋼鉄の種類を亀裂耐久性があると証 明しているが、これらの予測は常に誤りであったことが判明している。正確に分かっている ことは、微小な亀裂でも、突然、急速に大きくなるということだけだ。それは、配管の破断と 破壊を導き――炉心溶融への最高の条件となる。 特に不安なのは――これらの亀裂のほとんどは、偶然に発見されている事実であり―― 原発クリュメルのように、原子炉が長期間停止していた時に発見されることが多い。それ以 外では、完全な検査のために時間を割くことはできない。
ボーナス #107 安全追加対策
キリスト教民主同盟(CDU 党、保守大政党)でさえ、内部では古い原発の安全追加対策は、 解決不可能であることを認めている。 2009 年のドイツ連邦議会選挙の 3 日後、CDU 党の州大統領のコッホ(ヘッセン州)とエ ッティンガー(バーデン・ヴュルテムベルグ州)は、CDU/CSU 党の上部に、長期間にわた る原子力発電所のより長い稼動への道筋を示すべき、広範囲におよぶ「原子力戦略とロー ドマップ」を送付した。この書類は古い原子炉の「安全性能の違い」、つまり欠陥をも指摘し ――これらの欠陥は、膨大な費用をかけても直せるものではないと明らかに記載されてい る。加えて、「既存の原発施設のコンセプト自体の限界が、安全追加対策を限定的にする」 と述べられている。
#42~#65+#108~#113 核廃棄物と処分
#42 核廃棄物の山
原子力は大量の核廃棄物を生み出す。 約 12,500 トンの高レベル放射性廃棄物である使用済み燃料が、これまでにドイツの原 子力発電所で発生した。これに毎年約 500 トンが加算される。さらに数千㎥の低・中レベル の放射性廃棄物も加わる。ここには本来、大気中と水中に放出されたすべての量も加える べきだろう。そして、再処理工場からの廃棄物。ウラン採掘時の廃棄物。ウラン濃縮工場か らの务化ウラン。最後に原子力発電所自体――なぜなら、これもまたいつかは「処分」しなけ ればならないからだ。
#43 処分という嘘
これまで核廃棄物はただの 1g として無害に処分されていない。 「食品の鮮度を長持ちさせる用途に」核廃棄物は利用できるようになる――このような約束 で専門家たちは、1950 年代半ばに核廃棄物処分への批判的な質問をかわした。そして核 廃棄物の処分問題を気にかけることなく、次々と原発は建てられていった。数百万トンの放 射性廃棄物は、今日に至るまで 1g として無害に処分されていない。 法律上では、核廃棄物処分場が確保されない限り、ドイツではそもそも原子力発電所を 稼働してはいけないことになっている。しかし「廃棄物処理の準備がある証明」として、地下 水が浸入し、崩壊の危険にさらされた(低レベル)放射性廃棄物処分場アッセ II、ゴアレー ベン岩塩採掘跡での処分場調査作業、ヴァッカースドルフ再処理工場の建設、他国への核 廃棄物の輸送、そして使用済み燃料をキャスクで地上の格納庫に保管する「中間貯蔵施 設」などが存在するだけである。
#44 技術面の未解決問題
高レベル放射性廃棄物の最終処分は、技術面ですら解決されていない。 核分裂の発見から 70 年経過した今でも、人間と環境に危害を与えないようにするために、 「どのように」高レベル放射性廃棄物を処分するべきなのかさえ明らかでない――「どこに」 などとは問いかけるべくもなく。 原子力ロビーの思惑とは違い、該当する最終処分場に関する数多くの安全性についての 疑問は、相変わらず全く明らかにされていない。それゆえアメリカでも、人間と環境に対す る重大な脅威のために最近では、ユッカマウンテンにおける最終処分場プロジェクトを疑問 視している。スウェーデンの花崗岩層における最終処分場構想も同じように中止直前だ (#61 を参照)。そしてゴアレーベンの岩塩採掘跡の空洞に迫っているのは――大きな範囲 の地下水による浸水である。放射性廃棄物処分場アッセ II の浸水の経験によって、最終処 分場としてのゴアレーベンの「適性」について、さらに議論すること自体、そもそも不要となっ た。
#45 百万年
核廃棄物とは百万年にわたる放射線危害である。 原子力発電所からの放射性廃棄物の放射線がある程度弱まるまで、およそ百万年かか る。それまで核廃棄物は人間と生物圏から隔離されてなければならない。 もし仮に 3 万年前のネアンデルタール人が原子力発電所を使い、その核廃棄物をどこか に埋めたとしたら、その核廃棄物は今でも人間を死に至らしめる量の放射線を出し続けて いる――そして私たちは、絶対に掘り起こしてはならない場所を知るすべを持っていなけれ ばならない。
#47 最終処分場はない
世界を探してもこれまでに、安全な高レベル放射性廃棄物の最終処分場は 1 つと存在し ない。 核廃棄物の最終処分場は、非常に長い年月の間、地質が安定した場所に作られなけれ ばならない。この処分場の周辺地質は、処分された核廃棄物やその容器と科学的な反応 を生ずるものであってはならない。さらにこの場所は生物圏や天然資源の埋蔵のポテンシ ャルがある場所、あるいは人間の影響から隔離しなければならない。そしてこの地域から の水は、海に流れてはならない。 世界中でこれまで誰 1 人としてこのような場所を発見していない。そもそもこうした場所が あるのかどうかすら全くの疑問である。
#48 聖フロリアヌスの原理
(訳注:問題を他所に押し付ける行動様式、政治的手法) 誰 1 人として核廃棄物を歓迎しない。 2005 年以来、使用済み燃料は原子力発電所の敶地のキャスク倉庫に置かれている。こ のことは北の原発ブルンスビュッテルから南の原発イザールに至るまで、原子力推進派の 多くを常に困難な説明責任の窮地に陥れている。核廃棄物は絶対に家の近所に貯蔵され てはならないと推進派が要求するのだ。(自治体にお金を運ぶ)原子炉は絶対に運転を続 けろと言うのにもかかわらず・・・ キリスト教社会同盟(CSU 党、バイエルン州の保守大政党)も、電気なら絶対に原子力だ と望む――しかし核廃棄物の処理は、決してバイエルン州の近くには望まない。最終処分場 の候補地に関する議論について、彼らは「我々はドイツ全土に火をつけることになる」と警 告している。
#50 再処理工場の嘘(その 1)
いわゆる使用済み燃料からの再処理は、核廃棄物からより多くの核廃棄物を作り出す。 再処理工場――これはリサイクルステーションのようにも聞こえる。しかし実際は、使用済 み燃料のうちの約 1%だけが新しい燃料に取り入れられる――それはプルトニウムだ。すべ てを考慮すると再処理後には、処理前よりも多くの核廃棄物が発生する。それゆえフランス では再処理工場のことを率直に「usine plutonium」、プルトニウム工場と呼んでいる。 さらに再処理工場は、世界最大規模の放射性物質の拡散装置でもある。(再処理工場か らのプルトニウムを混ぜた)いわゆる MOX 燃料は、製造、輸送、そして原発での使用時に おいて、天然ウランからの燃料よりはるかに危険である。同時に「プルトニウム工場」は、原 子爆弾のための原料を供給している。
#52 再処理工場の嘘(その 2)
フランスとイギリスの再処理工場には、いまだにドイツからの膨大な量の核廃棄物が保管 されている。 原子力発電の事業者は、過去数十年にわたって数千トンもの使用済み燃料をラ・アーグ とセラフィールドの再処理工場に運び込んだ。現在までにその核廃棄物のごく一部が、キャ スク輸送でドイツに戻ってきている。残りの大部分は、今も外国であるかの地に山積みだ。
#58 専門家の口封じ
ゴアレーベンを最終処分場にするためにドイツ政府は、地質学者たちの口を封じた。 かつて国を代表する最終処分場の専門家であったヘルムート・レーテマイヤー教授は 1983 年、数回にわたるボーリング調査で、氷期時代に生じた亀裂が走るゴアレーベンの岩 塩採掘跡の岩盤は「生物圏への汚染を永続して隔離する」ことはできない状態だという結 論に辿り着いた。彼と彼の同僚はそれゆえ、他の候補地のさらなる調査を推奨した。キリス ト教民主同盟(CDU 党、保守大政党)と自由民主党(FDP 党)の連立政権政府はそれに異 議を唱え、圧力によって専門家鑑定を消し去った。今日に至るまで CDU 党と FDP 党、原 発ロビーは、ゴアレーベンの岩塩採掘跡地は最終処分場に適していると主張している。
#65 核の錬金術
核変換も核廃棄物問題を解決しない。 核廃棄物処理の素晴らしい方法として多くの人が賛美しているのが核変換である。中性 子を利用して長寿命核種を短寿命の核種に変換したり、ほとんど放射性を持たない物質に 変換させることができるという。この変換の前提条件は、高レベル放射性物質が混ざったカ 22 クテルを高精度で入念に個々の構成物質に分別することである。さらに、その上でそれぞ れの物質を、非常に特殊で多大なエネルギーを浪費するそれぞれの処理用にそれぞれ専 用に製造された原子炉内で行う必要がある。結論を言えば、極度に手間がかかり、危険で コストが高く、技術的な実現性にも疑問符がつく。その上、核廃棄物がそれでもなお残る。
<続く>