改め Objective Technician

はぐれ技術者のやりたい放題

対象を正視し続けることが思考の自由な働きを妨げる

2009-10-09 00:24:29 | 勉強
このあいだ研究会で聴いた話から。


人間の視覚機能のしくみが、怪しげな思想的な解釈ではなくきちんとした工学の理論(信号処理)で説明できることの一例。



運動検出器を時空間周波数座標での傾き検出器にすり替えて考えることで、仮現運動とサンプリング定理の概念が結びつく。


予備知識
 仮現運動:不連続に変化する絵なのに動きが見える現象。テレビとかパラパラマンガとか。
 ○○検出器:視覚系に割と低次のレベルから存在する、視覚像から特徴を選択的に抽出する神経基盤。線分の方位検出器や運動の速度検出器など。



まず、十分に細かいサンプリングで光点の運動を記録したときの時空間プロットの例が左図、この時空間周波数成分が右図。


この時空間周波数座標の丸で囲ったあたり(下図)の範囲に、周波数軸上での傾きを何らかの方法で検出する機構があれば、それはつまり運動検出器になる。







次に、サンプリング間隔を2倍に粗くしたときの時空間座標と周波数座標はこんな↓。周波数座標上に元信号のコピーが彼方から現れ、じりじりと迫ってきている。




でも、下図みたいに時空間周波数軸上での傾き検出器(= 運動検出器)が感度をもつ範囲にかかってなければ、上の方のニセ信号はローパスフィルタでカットされるので運動情報は完全に復元できる。この場合の仮現運動と実運動とは違いがないので区別できない。





さらに、サンプリング間隔を4倍にしたとき↓。周波数軸上でのコピー成分の間隔がどんどんせまくなっていく。




これが、下図みたいに検出器が感度を持つ範囲に入ると、ニセ信号が拾われてしまうので運動情報を元通り復元できなくなる。こうなると運動が不自然にカクカクして見えて、初めて自然な実運動とは違うことが分かる。







でも、サンプリングが相当粗い場合でも、人間の視覚系は積極的に動きを見よう(仮現運動を作ろう)としてくれるので、特に困ることはないもの。




逆に、サンプリングが一定値より細かければそれは実運動と区別できないので、それ以上にムダにディスプレイのリフレッシュレートを上げても知覚上は意味ないんですよという話。