Kは寿司が好きな男。そして、女性にも優しい男性である。
Kの2度目の恋は22歳のとき。
その彼女と出合って半年経ったある日、寿司屋に行った。
そして、またもや口論になった。
彼女はKのあなごの食べ方が気に入らなかった。
Kは、あなごの握りを黒みつにつけて食べる。
彼女はKに、あなご寿司はタレで食べるのが普通だと言った。
「確かに、タレで食べる人が多いことは知っている。
でも、黒みつにつけて食べるあなご寿司もおいしい」
彼は笑ってそう言い、回ってきたあなごの握りを黒みつにつけておいしそうに食べた。
黒みつの濃厚な甘さとあなごの脂がほど良く混ざり、かりんとうのようにうまかった。
Kは彼女のために黒みつをたっぷりかけたあなごの握りを分けてあげたが、拒否された。
Kの出した黒みつのあなご寿司を、彼女は険しい顔で見つめた。
Kは黙って自分の皿にそのあなごを戻すと、哀しそうに彼女に説明を始めた。
「あなごは君で、黒みつは僕。
いくら僕が黒みつのように甘く愛しても、君は僕を拒否する。
僕はあなごとタレの相性や、どんな炙り具合が一番おいしいか知っている。
でも君はタレの味は知っていても、黒みつの味は知らない。
知る機会があるのに、拒否している。哀しいことだ」
そういうとKは席を立った。
彼女はKを呼びとめ、自分もすぐに食べると告げた。
Kは再び席につくと、大きなあなごの乗った握りを黒みつが入っている皿にドップリとつけ、彼女の皿に置いた。
あなごの脂と黒みつのテカリが、寿司屋の鈍い明りを反射している。
彼女は目をつむり、黒みつのあなご寿司を口の中に入れると、あなごの旨みが溶けた。
しかし黒みつの濃厚な甘みがあなごの旨みをすべて打ち消し、彼女の口の中を強烈な甘みが支配した。
みつの匂いが口から鼻に抜け、もはやあなご寿司とは呼べないものが、彼女の胃の中に納まった。
Kは彼女に聞いた。
「な、うまいだろ?」
その言葉に彼女は驚いて席を立った。
半年続いたKと彼女の日々も、それが最後になった。
つづく
この記事はフィクションです
Kの2度目の恋は22歳のとき。
その彼女と出合って半年経ったある日、寿司屋に行った。
そして、またもや口論になった。
彼女はKのあなごの食べ方が気に入らなかった。
Kは、あなごの握りを黒みつにつけて食べる。
彼女はKに、あなご寿司はタレで食べるのが普通だと言った。
「確かに、タレで食べる人が多いことは知っている。
でも、黒みつにつけて食べるあなご寿司もおいしい」
彼は笑ってそう言い、回ってきたあなごの握りを黒みつにつけておいしそうに食べた。
黒みつの濃厚な甘さとあなごの脂がほど良く混ざり、かりんとうのようにうまかった。
Kは彼女のために黒みつをたっぷりかけたあなごの握りを分けてあげたが、拒否された。
Kの出した黒みつのあなご寿司を、彼女は険しい顔で見つめた。
Kは黙って自分の皿にそのあなごを戻すと、哀しそうに彼女に説明を始めた。
「あなごは君で、黒みつは僕。
いくら僕が黒みつのように甘く愛しても、君は僕を拒否する。
僕はあなごとタレの相性や、どんな炙り具合が一番おいしいか知っている。
でも君はタレの味は知っていても、黒みつの味は知らない。
知る機会があるのに、拒否している。哀しいことだ」
そういうとKは席を立った。
彼女はKを呼びとめ、自分もすぐに食べると告げた。
Kは再び席につくと、大きなあなごの乗った握りを黒みつが入っている皿にドップリとつけ、彼女の皿に置いた。
あなごの脂と黒みつのテカリが、寿司屋の鈍い明りを反射している。
彼女は目をつむり、黒みつのあなご寿司を口の中に入れると、あなごの旨みが溶けた。
しかし黒みつの濃厚な甘みがあなごの旨みをすべて打ち消し、彼女の口の中を強烈な甘みが支配した。
みつの匂いが口から鼻に抜け、もはやあなご寿司とは呼べないものが、彼女の胃の中に納まった。
Kは彼女に聞いた。
「な、うまいだろ?」
その言葉に彼女は驚いて席を立った。
半年続いたKと彼女の日々も、それが最後になった。
つづく
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