Kは寿司が好きな男。そして、女性にも優しい男性である。
彼は初恋の女性と初めて回転寿司を食べたとき、口論になった。
彼女はKのまぐろの食べ方が気に入らなかったのだ。
Kは、まぐろの握りにあんこを乗せて食べる。
醤油やワサビではなく、あんこ。
彼女はKに、まぐろの握りは醤油をつけて食べるのが普通だと言った。
「確かに、醤油とワサビで食べる人が多いことは知っている。でも、あんこを乗せて食べるまぐろ寿司もおいしい」
彼は笑ってそう言い、回ってきた皿を取り、握りの上にこしあんを器用に乗せて食べた。
あんこの甘い味とまぐろの脂がほど良く混ざり、揚げまんじゅうのようにうまかった。
Kは彼女にひとつ分けてあげたが、嫌がられた。
彼は黙って自分の皿にそれを戻すと、あんこを握り寿司から下ろし哀しそうに説明を始めた。
「あんこは君で、まぐろは僕。僕がいくら君を包んでも、交じり合わず平行線のまま。
僕はまぐろの握りを醤油で食べる味や、ワサビの程よく効いた味は知っている。
でも君は醤油やワサビの味は知っていても、あんこの味は知らない。
知る機会があるのに知ろうともしない。哀しいことだ」
そう言うと、Kは席を立った。
彼女は慌ててKを呼びとめ、自分もすぐに食べると告げた。
Kはゆっくり席に座ると、回ってきたばかりのまぐろの握りにつぶあんをたくさんのせて、彼女の皿に置いた。
まぐろの脂とつぶあんが光り輝いている。
彼女は上手に箸でそれを取り上げ口に運ぶと、まぐろの旨みが溶けた。
しかしあんこの甘みが舌の違う部分を刺激し、旨みを打ち消す。
彼女の口の中で、甘みと旨みが不思議なハーモニーを奏でる。
何度かみ締めても解決しない味。
やがてそれは口の中で飽和し、まずい食べ物になった。
Kは彼女に聞いた。
「な、うまいだろ?」
そのKの一言で、彼女は別れを決めた。
Kは初恋の相手を握り寿司のあんこ乗せで失くしたのであった。
つづく
この記事はフィクションです
彼は初恋の女性と初めて回転寿司を食べたとき、口論になった。
彼女はKのまぐろの食べ方が気に入らなかったのだ。
Kは、まぐろの握りにあんこを乗せて食べる。
醤油やワサビではなく、あんこ。
彼女はKに、まぐろの握りは醤油をつけて食べるのが普通だと言った。
「確かに、醤油とワサビで食べる人が多いことは知っている。でも、あんこを乗せて食べるまぐろ寿司もおいしい」
彼は笑ってそう言い、回ってきた皿を取り、握りの上にこしあんを器用に乗せて食べた。
あんこの甘い味とまぐろの脂がほど良く混ざり、揚げまんじゅうのようにうまかった。
Kは彼女にひとつ分けてあげたが、嫌がられた。
彼は黙って自分の皿にそれを戻すと、あんこを握り寿司から下ろし哀しそうに説明を始めた。
「あんこは君で、まぐろは僕。僕がいくら君を包んでも、交じり合わず平行線のまま。
僕はまぐろの握りを醤油で食べる味や、ワサビの程よく効いた味は知っている。
でも君は醤油やワサビの味は知っていても、あんこの味は知らない。
知る機会があるのに知ろうともしない。哀しいことだ」
そう言うと、Kは席を立った。
彼女は慌ててKを呼びとめ、自分もすぐに食べると告げた。
Kはゆっくり席に座ると、回ってきたばかりのまぐろの握りにつぶあんをたくさんのせて、彼女の皿に置いた。
まぐろの脂とつぶあんが光り輝いている。
彼女は上手に箸でそれを取り上げ口に運ぶと、まぐろの旨みが溶けた。
しかしあんこの甘みが舌の違う部分を刺激し、旨みを打ち消す。
彼女の口の中で、甘みと旨みが不思議なハーモニーを奏でる。
何度かみ締めても解決しない味。
やがてそれは口の中で飽和し、まずい食べ物になった。
Kは彼女に聞いた。
「な、うまいだろ?」
そのKの一言で、彼女は別れを決めた。
Kは初恋の相手を握り寿司のあんこ乗せで失くしたのであった。
つづく
この記事はフィクションです