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ニュースサイト 宮崎信行の国会傍聴記

元日本経済新聞記者の政治ジャーナリスト宮崎信行が3党協議を現地で取材したり国会中継を見たりして雑報を書いています。

“樽床違法状態”に突入

2012年02月29日 05時23分18秒 | 第180通常国会(2012年1月~9月)一体改革

[写真]「ホントウに国民のみなさん申し訳ありません」と謝罪する民主党最高顧問の渡部恒三さん、2012年2月26日のTBS時事放談、テレビ画面から撮影。

 「せっかく苦労して二大政党で政権交代したと思ったらね、まあその後のことを考えると、政権交代したところで、脳梗塞かなんかでパカーッと逝っていたらなあと。残念なことばかり続いて。ホントウに国民のみなさん申し訳ありません」。

 民主党では最年長79歳、14期勤続42年の渡部恒三最高顧問が謝罪しました。2月26日(日)のTBS時事放談です。

 この恒三さんの言動と直接すべて関係するわけではないのですが、2012年2月26日(日)午前0時から、我が国は、“樽床違法状態”に入りました。

 平成23年3月23日(水)に最高裁判所が出した「平成22(行ツ)129 選挙無効請求事件」の判決に対処した「区割り審設置法改正案」を衆参で可決・成立させられなかったからです。最高裁大法廷判決は、第45回衆院選の東京2区(当選人は中山義活さん)、東京5区(同手塚仁雄さん)、東京6区(同小宮山洋子さん)、東京8区(同石原伸晃さん)、東京9区(同木内孝胤さん)、東京11区(同下村博文さん)、東京12区(同青木愛さん)、東京18区(同菅直人さん)の8選挙区で憲法違反だから無効にしろと訴えた裁判。あくまでも裁判としては原告は敗訴しています。この判決は、区割り審設置法の第3条の第2項の「1人別枠方式」について明白に日本国憲法第14条第1項の「法の下の平等」に反しており、1人別枠方式があっても区割り審設置法1条に定める「2倍以内」の区割りが可能であるにもかかわらず違憲状態だったと指摘しています。

 この判決文を読むと、第44回衆院選(平成17年9月11日執行)の選挙無効請求事件(平成19年6月13日判決)と第45回衆院選(平成21年8月30日執行)の判決で踏み込んだ部分があります。区割り審設置法第3条が削除されなかった。それ自体が憲法14条に違反しており、選挙区ごとの当選人が地裁の仮処分や最高裁特別抗告により、無効となる可能性が出てきました。とくにこのなかで東京6区は、最も1人あたり1票が軽い状態です。さらに東京8区、東京12区、東京18区などでは、与野党の党首経験者が第46回総選挙の当選人になる可能性があります。党の勝敗に関係なく、首班指名選挙にのぞめない世論になると、私は考えています。

 この作業は「各党協議会」が設けられていましたが、座長を務めた樽床伸二・民主党幹事長代行がまとめられませんでした。かけひきでは許されない立法府の敗北です。自民党幹事長の石原伸晃さんは2月21日(火)の記者会見で、「座長である民主党の樽床幹事長代行が抜本改革、定数是正を全てやるんだということを言っておきながら、一票の格差と定数是正、抜本改革が何もできなくなって、幹事長にこの会の生い立ちからして報告をしたいと。そこで一体何が出てくるのか。これは言われていることで、まだ私のところに来ていないが、いわゆる区割り審の期限の延長。こんなことは実務者レベルでは一切話し合われていない」と驚くべき発言をしています。選挙博士の異名を持つ自民党の細田博之さんが「0増5減」の私案を出していました。そして、設置法4条の期限の単純延長でも、最終週には、公明党の山口那津男代表が「歳費の恒久2割削減とセットで」という助け船を出しています。おそらくこの山口提案の「勧告期限延長(区割り審設置法)」、「0増5減(公職選挙法改正案)」、「歳費の恒久2割削減(国会議員歳費法改正案)」の3点セットが「中間テストの答え」だったと思いますが、何もせず。

 私は樽床さんの無責任ぶりをなじりたい。坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。2010年6月の第174通常国会会期末に「樽床首相候補」として民主党代表選に擁立し、会期末当日に参議院で全法案・全請願廃案という大混乱を招き、第22回参院選での民主党惨敗・ねじれ国会をつくりだした推薦人全員もなじりたい。その辺は、野田佳彦さんは出来た人物で、2010年秋の神奈川での「花斉会」合宿では、このときの推薦人に「イエローカードだ」と述べたうえで、「その未熟さを胸に抱いて、政治家として成長して欲しい」という趣旨のことを言ったそうです。私はそこまで人間ができていないので、過激に思えるでしょうが、本心をそのまましたためております。3月15日(木)までに衆院に欠員が出ると、4月24日(日)に補欠選挙になります。そこで無効決定がでるかもしれません。

 恒三さんは、時事放談で、1986年の第2次中曽根内閣の衆参ダブル(死んだふり解散)について、次のように振り返りました。

 「みなさん忘れているんですけどね、中曽根内閣のときね、やはり最高裁判所から違憲だということで、やはり解散できないということになったとき、たまたま、(早稲田大学雄弁会同級生の)藤波孝生君が(自民党)国会対策委員長で、私が筆頭副委員長だったんだけど、この問題はお前が解決しろ、と言うんで、定数是正の特別委員長を私やって、野党と、私その時自民党ですから、社会党、公明党、民社党のみなさんと相談して、おそらく難しいだろうと言われていたのがね、一ヶ月ぐらいで解決して、ちょうど中曽根さんが参院の選挙にぶつけて、私が解決して、おそらく野党は憲法違反だから解散できないと思っていたのが解散できることになり、大勝利した記憶があるんですがね」と振り返りました。

 その上で恒三さんは「野田君がそのくらいの根性があればね、私のところに特別委員長を頼みにくれば引き受けるんだけど、全然先輩の話を聞こうなんて気がないようだな」とし、樽床氏に代わって座長を引き受ける考えを示しました。恒三さんが公の場で批判したのは、これが初めてだと思われます。野田総理(民主党代表)はこのことを深刻に受け止めるべきです。

 恒三さんは野田さんに限定せず、「急に大臣とか副大臣とか偉くなっちゃったもんですから、先輩の意見を聞くなんていうのもなくなっちゃった。要するに、経験というのも大事なんですよね。しかし、経験のある先輩は邪魔になる。もう俺がやるんだ、という感じなんですよ」としました。これは私もこの2年半、感じていて、やはり相対的に、民主党議員は自民党議員に比べて育ちが良くないことのマイナス面だと思います。

 恒三さんは1993年(平成5年)8月6日、NHKニュースに衆院本会議場裏から生出演したと記憶しています。与党・新生党副党首として、細川護煕首相指名の直後のインタビュー。スタジオから「自民党に何か言いたいことはありますか?」と聞かれ、「そうだ!これから本格的な二大政党時代になるんだから、野党の自民党にも頑張ってもらわなくちゃ!」と目を輝かせたのを、昨日のように覚えています。しかし、自民党は健全野党にならず、10ヶ月後に日本社会党と手を組むという禁じ手で政権をもぎ取りました。そして、小沢一郎氏の新進党解党の暴挙を経て、政権交代は2009年までずれ込みます。すべては有権者がいけなかったのです。

 英国では、境界委員会が設けられ、毎回選挙区区割りが変わっています。新区割りは与党に有利とされ、いわゆるゲリマンダーなのですが、与党の当然の権利だという考えが支配的なようです。実際に、2010年の総選挙結果をみると、選挙区名称が前回より大幅に変わっています。日本やアメリカのように、「○○県(州)第1区」という言い方はせず、「バッキンガム選挙区」という風に名称があります。地域と関係なく、アルファベット順に配列されます。その与党寄りの選挙区割りを当然と受け止めたうえで作戦を立てて、野党・保守党は13年ぶりの第1党に躍進し、連立のうえ政権交代しました。

 2010年総選挙では政権交代となりましたが、選挙区割り変更とは、与党にとっては次の勝利につなげる能動的な作業。与党現職は有利な新選挙区を選び、目の上のたんこぶ的な議員を貴族院に飛ばしてしまうチャンス。例えば、保守党では、ヒース元首相が退陣後も長く庶民院にとどまり、サッチャー首相、メージャー首相のころも議員を続けていました。が、メージャー元首相は現在、貴族院に転出しており、キャメロン首相と庶民院議場で顔を合わせることはないようです。

 そういう老獪な政治は、小選挙区である以上、不可欠。それが政治です。選挙区割り変更は現在最大多数党である与党にとっては能動的に再選のために活かす最大の政治的資源です。どうも輿石東幹事長や樽床さんは理解していないようです。この問題はあまり世論は反応していませんが、国民の権利と政治参加の根本的な問題です。なお、内閣府衆議院選挙区画画定審議会が総理に新区割りを勧告した後には、公職選挙法の改正が必要となります。が、勧告の時点で国民に広く知れ渡るので、改正公職選挙法の周知期間は必要ない、というのが学説のようですので、それも書き添えておきます。

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