ビタミンP

苦心惨憺して書いている作品を少しでも褒めてもらうと、急に元気づく。それをトーマス・マンはビタミンPと呼んだ。

「普通の風邪」によって獲得された免疫が、新型コロナウイルスにも効果を発揮?

2020年11月20日 15時58分27秒 | Weblog

「普通の風邪」による免疫が新型コロナウイルスを撃退する? 新たな研究結果が意味すること
(NATURE 2020.05.31 SUN 12:00)


「普通の風邪」によって獲得された免疫が、新型コロナウイルスにも効果を発揮するかもしれない──。そんな研究結果が、このほど公表された。ある病原体に対して起きる免疫反応が、別の似た病原体でも起こりうる「交差反応」と呼ばれる現象だ。

 

 新型コロナウイルス(正式名称は「SARS-CoV-2」)に感染したことのない人たちでも、このウイルスに反応する免疫細胞をすでに持っている可能性がある──。そんな研究結果が、このほど明らかになった。過去に風邪の原因となるコロナウイルスに感染していたことで、新型コロナウイルスに対しても「交差反応」する免疫がつくられたと考えられる例が、2つの研究グループから発表されたのである。
 新型コロナウイルスは、まったくの無症状から急性呼吸不全による死亡まで、非常に幅広い症状を引き起こす。このような幅広い変動性を説明できる遺伝的・生理的条件やメカニズムについては、いまだに解明されていないものが多い。そしてSARS-CoV-2を排除するための宿主の免疫システムにおける役割も、その大部分は未解明のままである。
 ほとんどの急性ウイルス感染の場合、宿主の体内で獲得免疫が発達する。ところが、“普通の風邪”を引き起こすヒトコロナウイルスでは、あまり強い獲得免疫応答が起こらないことが知られている。多くの人々が、年に複数回も風邪をひくゆえんである。このため、同じコロナウイルスの一種であるSARS-CoV-2に対しても、強い保護免疫が発達しない可能性が疑われていた。

 そこでSARS-CoV-2に、わたしたちの免疫細胞がどのように応答するのか理解することが急務になっている。現段階で開発途上にある多くの新型コロナウイルスワクチンのなかには、新型コロナウイルスに特異的に反応するヘルパーT細胞(CD+4T)、キラーT細胞(CD+8T)、およびB細胞(中和抗体)を主体とした免疫反応に焦点が当てられているものがあるからだ。
 例えばB細胞は、SARS-CoV-2を捕獲して細胞内への侵入を防ぐ。T細胞は、ふたつの異なる方法で感染を阻止する。ヘルパーT細胞はB細胞やほかの免疫細胞にシグナルを送って活性化させる。キラーT細胞は、すでにウイルスに感染した細胞を標的にして破壊する役割がある。

■ヒトの免疫細胞が反応するメカニズム
 そこで、カリフォルニア州ラホヤ免疫研究所の免疫学者であるシェーン・クロッティとアレッサンドロ・セッテ率いる研究チームは、バイオインフォマティクス・ツールを用いて、SARS-CoV-2のどの断片が最も強力な「T細胞応答」を引き起こすのかを予測した。そして、COVID-19から回復した軽症患者20人の免疫細胞を、これらのウイルスの断片に暴露して検証したのである。ウイルス感染の症状は個人差が大きいことから、ここではCOVID-19に対して“正常な免疫反応”を示し、問題なく回復した人々が基準とされた。
 すると、SARS-CoV-2の表面にある突起であるスパイクたんぱく質を認識する「ヘルパーT細胞」が、すべての患者から検出された。また、スパイク状の突起以外のたんぱく質に反応するヘルパーT細胞も見つかった。そして70パーセントの患者からは、SARS-CoV-2に特異的な「キラーT細胞」も見つかったのである。これらの一連の研究は、生物学分野でも最高峰の学術誌『Cell』で説明されている。

「最良のワクチン候補を予測し、パンデミック対策を微調整するためのあらゆる努力は、ウイルスに対する免疫応答の理解にかかっています」と、クロッティ教授は言う。「人々は新型コロナウイルスによる免疫がつくられないことを本当に心配していましたし、再感染した人々についての報告はそれらの懸念を強めました。しかし、平均的な人々が確実な免疫反応を示すことを知ることで、これらの懸念の大部分は解消されるはずです」
 この結果は、ベルリンにあるシャリテ大学病院の免疫学者アンドレアス・ティールらが投稿したプレプリント(査読前の論文)の報告とも一致している。彼らもまた、COVID-19で入院した18人の患者のうちの15人に、スパイクたんぱく質を標的としたヘルパーT細胞を同定していたのだ。

■“風邪”のウイルスを認識するT細胞は、SARS-CoV-2にも反応?
 コロナウイルスには、ヒトに日常的に感染する4種類(HCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63、HCoV-HKU1)があることが知られている。これらは、一般的な風邪の10〜15パーセント(流行期は35パーセント)を占めるとされるが、ほとんどの場合は症状が軽く、重症化する患者はまれである。
『Cell』に掲載された米国の論文発表では、風邪のコロナウイルスに感染した経験をT細胞が記憶しており、新型コロナウイルスに対しても反応することが報告されている。ある病原体に対して起きる免疫反応が、別の似た病原体でも起こりうる「交差反応」と呼ばれる現象だ。
 ラホヤ免疫研究所のグループは、SARS-CoV-2のパンデミックが始まる前の、2015年から18年の間に採取された過去の保存血液サンプルを新型コロナウイルスに晒し、T細胞反応を調べた。すると、SARS-CoV-2に感染したことのない血液サンプルのなんと約50パーセントから、この交差反応性が検出されたのだ。

 そこで研究チームは、風邪のコロナウイルス「HCoV-OC43」と「HCoV-NL63」に対する抗体反応を調べたところ、程度の差はあれど、すべてのドナーにIgG抗体の陽性を確認している。つまり、新型コロナウイルスに反応を示したこれらのT細胞は、別のコロナウイルスによる過去の感染によって生成された可能性が高いと考えられている。これらのウイルスのたんぱく質は、SARS-CoV-2のものに似ているのだ。
 また、ティール博士率いるドイツの研究チームも、SARS-CoV-2に感染していない被験者で、この交差反応性を確認している。彼らは68人の未感染者の血液を分析したところ、34パーセントの人たちがSARS-CoV-2を認識する「ヘルパーT細胞」を保持していたことがわかった。

■ただし、十分な免疫になるかは不明
 新型コロナウイルスに感染した多くの人々が軽い症状、またはまったくの無症状であることに、世界中の専門家が困惑している。これらの研究により、風邪のウイルスに感染してできた免疫が新型コロナウイルスにも交差的に反応することが、その理由のひとつである可能性が示唆されている。
 風邪ウイルスとの交差反応性は、世界人口の大部分がSARS-CoV-2に対してある程度の免疫をすでにもっていることを示唆している。それと同時に、地域によって感染率に違いがある理由もまた説明できるかもしれない。
 しかしいずれの研究も、T細胞の交差反応性をもつ人々が新型コロナウイルスに罹患しないことを立証したものではなく、観察された交差反応性がSARS-CoV-2に対する既存の免疫を一定レヴェルで提供しているかどうかは、いまだ不明である。また研究者らは、感染後に特異的なT細胞が生成されるからといって、COVID-19から回復した人が再感染しないことを意味するものではないと、注意を促している。

■考慮すべき重要なこと
 ウイルスに対抗する抗体の産生を促すには、ワクチンはヘルパーT細胞を刺激する必要があると研究者らは言う。ヘルパーT細胞には、異物を攻撃するシグナルを出して免疫細胞を活性化させたり、B細胞に働きかけて抗体をつくらせたりする役割があるからだ。
「COVID-19の症例で、SARS-CoV-2に対するヘルパーT細胞の強い反応が見られるのは心強いことです」と、クロッティは言う。
 ラホヤ免疫研究所の論文では、交差反応性のT細胞反応により、2009年のH1N1型インフルエンザ(豚インフルエンザ)の重症度が低くなった可能性について議論されている。当時、成人の多くに既存のT細胞免疫が存在していたからだ。交差反応性T細胞の存在は、より軽度の疾患と相関することが明らかになっている。

「現在進行中の新型コロナウイルスのパンデミックの深刻さを考えると、交差反応性コロナウイルス免疫はパンデミックの全体的な経過に非常に大きな影響を与える可能性があります。疫学者が今後数カ月の間に新型コロナウイルスが地域社会にどれだけ深刻な影響を与えるのか見極めようとする際に、考慮すべき重要な詳細なのです」
 これらの一連の研究結果は、今後の戦略やワクチン設計にも重要な意味をもつことだろう。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

人間が想像できることは、

2020年11月20日 15時54分06秒 | Weblog

「⼈間が想像できることは、⼈間が必ず実現できる」

("SFの⽗" ジュール・ヴェルヌ)

 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ファイザー&ビオンテック新型コロナワクチン「スピード開発」の舞台裏

2020年11月20日 07時21分42秒 | Weblog

ファイザーとビオンテックはいかにして先陣を切ることができたのか

2020/11/19 ロイター

 米国で新型コロナウイルスの感染が広がり始めた3月中旬、ファイザーのアルバート・ブーラCEO(最高経営責任者)は、同社のワクチン研究者に電話をかけ、明確なミッションを与えた。

「彼は『このワクチンを作ることが君たちの使命だ。要求してくれれば、必要なリソースは手当てする』と言った」。同社でワクチン研究のトップを務めるフィリップ・ドリミッツァー氏は、ロイターの取材にこう振り返る。

 そのミッションは、刺激的であると同時に困難なものだった。過去に例のない取り組み―パンデミックを止めるワクチンを1年以内につくること―のため、ファイザーは研究者を強力にバックアップした。

「ブーラは、私たちが直面するかもしれない潜在的な障壁にばかりに関心を向けることは望んでおらず、そのかわり、『不可能に挑戦することの方がはるかに良い。たとえ成功しなかったとしても、素晴らしいことを成し遂げたことに変わりはないのだから』と言ってくれた」(ドリミッツァー氏)

■かつては「異端のアイデア」

 ロイターは、ファイザーと独ビオンテックが進めている新型コロナウイルスワクチンの開発プログラムで、重要な役割を果たした6人の科学者にインタビュー取材を行った。彼らは、新型コロナウイルスによるロックダウン下で取り組みを本格化させ、開発には当時進行中だったインフルエンザやがんの研究で得られた要素を取り入れた。両社は11月9日、世界各国で行った大規模臨床試験で初となる有望な中間解析結果を発表した。

 11月16日には、米国政府から10億ドル近くの研究開発支援を受けている米モデルナも良好な中間解析結果を発表した。いずれのワクチン候補も予防効果が90%を上回った。これは予想を超える高い数字で、パンデミック収束への期待が高まっている。

 ファイザー/ビオンテックとモデルナのワクチンは、ウイルスの遺伝情報をヒトに投与し、体内でウイルスのタンパク質を作らせることによって免疫を誘導する。こうした「人体をワクチン工場として機能させる」というアイデアは、かつては異端とされていた。バイオテクノロジー企業は何年にもわたってそれを検証してきたが、ファイザー/ビオンテックやモデルナの仕事によってこのアプローチが有効であることが確認された。

 ファイザーとビオンテックの場合、約4万4000人が参加する大規模臨床試験にどのバージョンのワクチンを使うかということを含め、通常なら数カ月かかる重要な意思決定をわずか数日で行った。

■「インフルエンザ」と「がん」の研究を応用

 ファイザーのドリミッツァー氏は、2009年に起こった新型インフルエンザのパンデミックで、スイス・ノバルティスのワクチン研究を率いた経験を持つ。彼のプロジェクトは、過去最速のパンデミック対応として3つのワクチンを生み出した。

 ドリミッツァー氏はノバルティスで、mRNAを使ってワクチンをつくる新たな手法のテストを始めた。一般的なワクチンが死滅したウイルスやウイルスの断片を使うのに対し、mRNAを使った手法に実際のウイルスは関与しない。

 mRNAワクチンの利点(それは開発の「速さ」のカギでもある)は、プラグアンドプレイにある。mRNAを運ぶ「乗り物」はそのままに、mRNAだけを変えればいい。ウイルスが突然変異したとしても、それに応じてmRNAを変えれば対応することができる。

 ファイザーでは、ドリミッツァー氏の同僚であるジュリア・リー氏が、数年前からmRNA技術に関するパートナーを探っていた。その中でリー氏は、mRNA技術を使ってがん治療薬を開発していたビオンテックに目をつけた。同社は、最高経営責任者のウグル・サヒン氏と彼の妻で最高医療責任者のオーザム・トリジャ氏が共同で設立した企業だが、当時はまだあまり知られていなかった。

「私はそれほど興味を持っていなかった。われわれはウイルス感染症の研究をしているのに、なぜがんをやっている会社を見ているのかと」。ドリミッツァー氏は振り返る。

 たた、リー氏は違った。ビオンテックにはmRNAの生産能力があり、強固な科学者のチームを持っていたので、感染症の研究を一緒にやりたいと考えていたのだ。「結局、私たちはドイツに渡り、ビオンテックのメンバーと会うことになった」(ドリミッツァー氏)。そうして、両社は2018年8月、mRNAをベースとしたインフルエンザワクチンの研究を始めた。

 ビオンテックの上級副社長を務めるカタリン・カリコ氏によると、コロナウイルスのパンミックを懸念したサヒン氏は今年1月、ビオンテックとしてワクチン開発に着手すべきと判断。サヒン氏自ら、いくつかのワクチン候補を設計したという。

 カリコ氏は「ビオンテックは小さな会社で柔軟性がある。一方、ファイザーのような大企業にはインフラがあり、スケールアップの方法や開発の進め方を知っている」と話す。3月初め、両社はパートナーシップを拡大することを決め、最大7億5000万ドルという契約を結んだ。

■4つのプロトタイプで臨床試験

 両社は、mRNAワクチンの働きが動物とヒトで大きく異なることを知っていた。そのため、安全性を確認する予備的な動物実験を行ったあと、臨床試験に進めるワクチン候補を1つに絞るための動物実験はパスし、複数のプロトタイプを臨床試験に移行させた。

 4月にはドイツで、5月には米国で臨床第1相(P1)試験が始まったが、両社はこれらの試験で4つのワクチン候補をテストした。ドルミッツァー氏は「ヒトに最も効果があるものを迅速に明らかにすることが目的だった」と言う。

 7月1日には、米国の成人45人を対象に行ったP1試験の予備的なデータを発表。4つのプロトタイプのうち「B1」と呼ばれるワクチン候補が最も安全性が高かったことが示された。このとき科学者たちは、ワクチンが新型コロナウイルスから回復した人よりも高い抗体産生を誘発する可能性があることに気付いた。7月20日には、ドイツでの試験のデータから、ワクチンがT細胞の反応も引き起こすことも示された。

 両社はこの段階で、4万4000人の登録を予定するP3試験には「B1」を使おうと考えていた。しかし、試験開始を数日後に控えた7月24日、「B2」と呼ぶ別のワクチン候補のデータがもたらされた。B2はB1と同様の免疫反応を示したが、高齢者での有害事象が少なかった。研究者たちはすぐに、P3試験に使うワクチンを「B2」に切り替えた。

 開発は急ピッチで進み、中には何週間も家族と会わずに仕事をした研究者もいた。ドルミッツァー氏も、3月以降はズームでの対話を除いて妻や子どもたちと会っていないという。「緊急性、協調性、集中力…私は今回ほどそれらを強く感じたことはない」。ワクチンによって産生された抗体の強さを測る新手法を開発したテキサス大医学部のペイ・ヨン・シー博士はこう話す。

 同時に、ニューヨーク州パールリバーにあるファイザーの研究センターでは、何百人もの労働者が感染予防のための厳格なプロトコルに縛られた。彼らはドアノブに触れることも許されず、すべてのドアは開け放された状態にされた。感染者が出た時に接触者がすぐにわかるよう、彼らは毎日接触したすべての人を記録するよう求められた。

 P3試験の被験者登録もスピーディーに進み、ファイザーのブーラCEOは、早ければ10月にも有効性に関するデータが得られるとの見通しを明らかにした。中間解析にはそれより少し時間がかかったが、大きな遅れにはならなかった

 そして11月9日、94人の発症者に基づき、ファイザーは衝撃的な発表を行った。ドルミッツァー氏が中間解析結果を知ったのは発表の数時間前。彼は、FDAが50%の予防効果を承認の基準としていることを指摘し、「誰も90%を超えるような有効性は期待していなかっただろう」と語った。

 一方、カリコ氏はワクチンの効果を確信していたという。「それまでの試験で、高いレベルの細胞性免疫反応が示されていた。ナーバスにはなっていなかったし、むしろ自信に満ちていた」

(Answers News)


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする