「…死んでたらしい。で、その女性のほとんどの爪が指から剥がれて…」
「…死んで………………………………ほとんどの爪が指から剥がれて…」
私とコー2は目を見開いて動きを止めてしまった。これはありえない。
あるスキー場で実際に起こった恐ろしい話「戦慄」の重要な下りの部分
「ほとんどの爪が指から剥がれて」という日常なら絶対に口に出さない
内容の言葉が、後ろの席の女性とシンクロした。雪山、心臓麻痺、スキー
ウェア、ロッジ、トイレ、現場検証、爪が剥がれる…など、居酒屋では
あまり出る事がない言葉が連続する話をしたのは、シンクロ率が低いから
であって、まさか一番出る事はない「ほとんどの爪が指から剥がれて」と
いう言葉がシンクロするとは思ってはいなかった。後ろのテーブルの
カップルは何の話をしていたのだろうか。内容が内容なのと、この空間
で行なわれているゲームを阻止する為に周囲には聞こえない声で話して
いたのだが。なぜか、そのカップル達には私達の話が聞こえてしまい、
偶然にもその話を知っていて、もしくはよく似た話を思い出してして
話だしたかもしれないが、あの部分だけが重なる事は早々ないはずだ。
「ボス、ここ、いや、この空間、ちょっとヤバいんじゃないですかね?」
私はむしろこの状態の不思議さに慣れて、楽しくなってきた。この状況に
意味はあるのか?あるのなら何の意味があるのだろうか? 無いのなら
なぜこんなにも意味不明な偶然が連続するのだろうか? 何も解ってない
人が解ったようによく言う「偶然なんか無い。全ては必然だ」と言う
言葉を思い出して、独り笑った。必然なら何か証明しろ。ただのパズルを
必然などとは言わせない。女性客2人の消失。居るはずのない店員の声、
見えない指で押す呼び出しブザー、ランダムに配列された言葉の合致……。
不思議な事がふたつ、みっつ重なっているだけだろうが。この居酒屋を
出れば、事が済む。答えがあるなら知りたいと思うのは人間の心理と欲求
だが、答えが無いのに「ある」と決めつけて、のめり込み過ぎるのは危険。
この居酒屋で完成しないパズルを永遠にしていく気はない。私とコー2は
泡が完全に無くなったビールを呑み干して、この空間から出る事に決めた。
店員がこちらに向かって来ている。
確実に私の方を見ながら歩いている。
この居酒屋の勘定はテーブルで済ますシステムなのか? そうだとしても
なぜ、私達が帰る事が解ったのか? 「そろそろ、帰ろうか」と言う
小さな言葉を発しただけで、上着を来たり、せわしく席を立ってはいない。
ブザーのトラブル?また、あの消えた女性客がイタズラをしたのだろうか?
店員が私達のテーブルのすぐ近くまで来た。「仕事中」という顔をして
いる店員は、何のためらいも無く、頼んでもいないある物を持ってきた。
「オマタセイタシマシタ ナスビノツケモノデス」
ナスビノツケモノ
なすびの漬け物
………………かもしれんな。もし、そうなら、ババアの目的は何だろう。
まあ、ババアの好きなもん、なすびの漬け物とか注文してやって、あの世
とか異次元とか好きな所に帰ってもらうか………………………
………… ボスヒコ
押して