ドアの上辺を両手で掴み、ドアノブにかけた足に力を込めて、一気に
身体を持ち上げた。開かずの扉の中で何が起こっていたのか!?
「あぁ……、あ、……あ、、、、う、うわああああああああああ!!!」
男性従業員の戦慄の叫び声が、暗くなってきた雪山に吸い込まれて行く。
目が合った。
白目の部分が血にまみれたように充血し、真っ赤に見開いた眼。これ以上
ないだろうと思われるくらいに顔面の筋肉が引きつり、大声で叫んだ
であろうと思われる大きく開いた口からは涎が滴り、恐怖に怯えた人間が
その恐怖を表すかの如く変化した顔があった。正に恐怖の顔だった。
25歳前後の女性は、両手をドアの上の方へとのばしたまま、絶命していた。
数時間後、すぐさま警察が来て、現場検証が行なわれた。女性の死因は
心臓麻痺。しかし発見された女性の姿に事件性を見た警察は、男性従
業員をまず疑ったのだろう。男性従業員は第一発見者として取り調べを
受けるが、ほぼ容疑者扱いだった。すぐに疑いが晴れたが、腹立たしさと
一生付いてくるであろう恐ろしい疑問で彼は怒り心頭に警察に訊いた。
全く相手にされず、疑問には答えはしてくれなかった。その疑問とは……
内側のドアには血が付いた無数の引っ掻き傷があった。女性の爪が剥がれ、
爪があった部分は真っ赤な肉片が突出していた。女性は何者かから逃げ
ようとして、ドアを開けようとした。しかし、そのドアは何かの力に
よって開かず、ドアをよじ上って恐怖の箱から脱出を試みた。その度に、
何者かに引きづり落とされて、固い床に膝を強打していった。女性の
スキーウェアは全身白色だった。従業員がドアの下から見えた赤い膝は
血で出来たものだったのだ。普通の人間ではありえない行為。では、
得体の知れない何者かがいたとすれば、女性の背後にいた事になる。
便器の後ろにあるのは何の変哲も無い灰色の壁。そこから何かが浮き
出てきたのだろうか。それとも、便器の中から…。妄想と現実の狭間。
この事件(心臓麻痺なので事件ではないが)は、これらの恐ろしい内容を
伏せられたまま、実際に新聞に載った。雪山のトイレでの突然死として……
次回最終回!!!! ボスヒコ
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