
能楽関連のお道具を取り扱っておられる会社がある。
そのH社のSさんが、先日、鬼籍に入られた。
亡くなられる数日前に電話でお話ししたばかりだったので、
突然の訃報にしばし茫然とした。
Sさんは篤実な紳士で、弊社にとって先方がお客さまにもかかわらず、
鄭重な語り口でご注文くださっていた。
笑顔を絶やさない、
そのジェントリーな物腰にはお目にかかる度に感心させられた。
ご葬儀に参列したかったのだけど、
都合がつかず、供花を贈った。
式はカソリックのマナーでおこなわれたらしいが、
お通夜の席で、
二十六世 観世清和 宗家が『江口』の一節を
手向けとして謡われたらしい。
昨日、お礼状と共に、小さな謡本が送られてきた。
能『江口』は、世阿弥作で、
『新古今和歌集』にもみえる西行法師と遊女の歌問答と、
遊女が普賢菩薩として現れた話に取材して作られた。
詳細は煩雑になるのでここでは触れないが、素人解釈すると、
人生は夢幻のような「仮の宿」だと悟り、
その生や業の執着から解かれることにより
煩悩に苦しんでいた遊女が救われるというプロットだと思う。
Sさんに下世話な意味での煩悩があったとはとても思えないが、
華やかな中に深い宗教性に貫かれた格調高い調べの『江口』に送られ、
Sさんの魂もさらに美しく昇華したのではないかと感じている。
合掌...
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