SIDEWALK TALK

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再び路上で

2019-10-25 10:30:25 | 映画
ON THE ROAD1951年4月。
長い旅を終えたばかりの29歳の作家、
ジャック・ケルアックはNYCのアパートにいた。
そして旅路で綴り続けた
手垢と土埃にまみれたメモとしばらく向き合った後、
凄まじい勢いでタイプしはじめた。


紙をいちいち取り替えるのが面倒なので、
テープでつないだ。
そうして3週間後にできあがったのは、
12万語にも及ぶ自分と友人たちの物語。
改行が一切なく、
まるで太いサラミのような巻物になった。


2012年5月。
ブラジル人映画監督、ウォルター・サレスは、
この『路上』を原作とする映画を発表した。
映画『ON THE ROAD』は後にWOWOWで放送され、
僕は自宅でこの映画をみた。


名作・・・
とりわけ自分が思い入れのある小説の映画化作品をみることは、
危険度が高いと思う。
ろくなことになってないのが通常だからだ。
この作品もその範疇のデキだったけど、
多感なころ僕が読んだときに感じた感想と
別趣の解釈が新鮮だった。


とはいえ、原作も真っ白な状態で読んだわけじゃない。
十代のころ、読む前に、僕はすでに
ディランにもアレン・ギンズバーグにもムーンライダーズにも
そして佐野元春にも触れていた。


いや、むしろ彼らのルーツを探し求めて、
後追いで遡上してこの本を読んだ。
そういう意味では、
ある程度ビートニクについて免疫ができていたし、
偏った色眼鏡で読んでいたかもしれない。


映画『ON THE ROAD』は、
頽廃のロードムービーともいえるし、
転がる石の映画ともいえる。
何にしろ、多感なころにこの小説に出逢えたことは、
大げさにいえば、
僕の人生における僥倖のひとつだと今さらながら再認識した。

『或る秋の日』を聴いて

2019-10-16 10:05:18 | 佐野元春
A Long Time佐野作品はつねづね名匠の境域を感じさせる。
『或る秋の日』にも、華やぎと情趣があって、
重心にゆらぎがなく、
しかも細部にまで心配りがゆきとどいている。


会話の感じがいい。
日本語ロック(死語?)の歴史がふまえられていて、
しかも晦渋せず、
一語も耳になじまないということがない。


佐野元春は、いまの世にいる。
だから、その個性はなまなかには理解されにくい。


自由でありすぎ、平等でありすぎ、
しかも世間には迷惑のかからぬようにして、
自分を架空の部屋に閉じこめている。
みずから檻に入った獅子のようなものである。


しかも野を駆ける夢を
自分で禁じているように見ようとはせず、
また夢死はしないものの、
酔生をよろこんでいる。


どうも、こんな境地は努力して得られたものじゃなく、
単に佐野さんの性分にちがいない。
僕は、佐野元春というミュージシャンを同時代に得たことに、
誰彼なしに感謝をしたい。