
そのフィニッシュホールド、ボストンクラブにぞわぞわっときた。
名も知らぬ若きプロレスラーの壮行試合。
対戦相手は、新日本プロレスの道場で同じ釜の飯を食べてるであろう、
やはり見知らぬ若手レスラーだった。
新日本プロレスのエンブレムにはライオンがデザインされている。
プロレスはショー、プロレスは興業、プロレスは八百長、
こんな世間からの白眼視に、創始者アントニオ猪木は、
プロレスこそ「 KING OF SPORTS 」と宣言し、
ライオンマークと供にその文字をエンブレムに刻み込んだ。
いつの頃からか、新日の若手レスラーを「ヤングライオン」と呼ぶようになった。
闘魂三銃士も、ライガーも、テンコジも、永田も、棚橋も、レインメーカーも、
今や他団体のエースたちの多くがかつてヤングライオンだった。
そのコスチュームは、新日伝統のストロングスタイルの体現、
黒のショートタイツと決まっている。
そしてまだ若い、まだ粗い彼らのフィニッシュホールドは、ど派手な技ではなく、
ボストンクラブや片エビ固めという基本の「き」ばかりだ。
昨夜、偶然、ワールドプロレスリングの録画をみた。
番組最期に、名も知らぬヤングライオンの壮行試合が数分だけ流れた。
勝った彼は、かつての先輩たちがそうであったように、海外武者修行に旅立つんだろう。
目に涙を浮かべ、将来の IWGP 戴冠を宣言していた。
トップレスラーになれるのは、ほんの一握りの選手。
多くは、食うためにヒールになったり、他団体に移ったりする。
名も知らぬヤングライオンの将来に幸多からんことを祈りながら、
僕はボストンクラブをまんじりともせず見ていた。