君影荘日記

東京の片隅の、小さな家の日記です。

君影荘ができるまで 第2回 思い描く理想の家(その2)

2013-02-11 23:51:30 | 君影荘ができるまで

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一階の人は、自分達の部屋の前に広がる中庭の手入れをする取り決めになっていた。中庭には野芝が植えられているが、春すぎると、一斉に雑草が伸びだし、あっという間に膝丈をこえる草むらになってしまう。雑草は刈っても、抜いても、すぐに生えてきた。追いかけっこの毎日だった。

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どうせ庭仕事をするなら、もっと楽しめる方がいい。部屋に一番近い側の一画の雑草を根こそぎ抜き、石をとり、耕し、草花を植えられるようにした。幸い土が非常に良く、季節ごとに見事な花を咲かせてくれた。

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もう一画には、大きな軽石を積み上げロックガーデンを作った。ここでは、蒸し暑い夏が苦手な山野草も元気に育った。
マンションのベランダで、鉢植えを育てるのとは別の新たな世界が広がった。季節になると芽を出し、花を咲かせ、そして枯れる。こちらが手をかけなくても自らの力でそれを繰り返す草花達は健気で、見ているだけで元気づけられた。そして、奔放に生長する植物達は、こちらの想像を超えた造形、配色を生み出し、見事な景色を作ってくれた。

こんな生活は、私に新たな価値観を教えてくれた。
古くなるほどに味わい深くなるものがあり、それは多くのやすらぎを与えてくれる。
大地につながる庭は、発見と驚きの連続で、それは多くの喜びを与えてくれる。(ゆ)

君影荘ができるまで 第1回はこちら


君影荘ができるまで 第1回 思い描く理想の家(その1)

2013-01-27 23:11:37 | 君影荘ができるまで

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「君影荘ができるまで」について少しずつ連載してみたいと思う。

第 1 回 思い描く理想の家 (その1)

 いつか家を持ちたいと思っていた。古くなるほどに味わい深くなる家、季節の移ろいが感じられる庭。そう思うようになったのは、築40年の社宅に住んだことによるところが大きい。

その社宅は、23区内の駅から徒歩8分の場所にもかかわらず、自然の残る広い敷地内に贅沢な配置で建てられていた。建物と建物の間には桜が植えられ、その下にはたんぽぽやスミレが咲くのどかな空間が広がっていた。

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建物は、古い団地の造りで、 六畳程のダイニングキッチンに六畳と四畳の和室。44㎡の小さな空間だった。私達は1階に住んだ。低い天井のため、外の光が部屋の中まで届かず、ダイニングキッチンは北側のひんやりとする暗がりの中にあった。木の格子にすり硝子をはめこんだ内窓がつけられ、その窓には手でねじ回しする鍵がついていた。どことなく幼い頃過ごした家に似ていた。そのせいか、古くて狭い社宅だったが、私の心は落ち着いた。ここは、スタイリッシュな家具は似合わない。そう感じ、シンプルなアンティークのダイニングテーブルとチェアを手に入れた。テーブルの上の真鍮とすりガラスのスタンドを灯すと、レトロなカフェのような居心地のいい空間が生まれた。

 私たち夫婦も友達もこの雰囲気がとても気に入った。本来の自分のスピードとかけ離れた目まぐるしい毎日の中で、ほっとできる場所を求めていたからかもしれない。長い時間を経た家や家具は、どっしりとした落ち着きがあり、時の流れるスピードをゆるめてくれた。

 庭に面した畳の部屋に寝転ぶと、桜の木がのぞめた。春には、つぼみが開いていく様を寝ながら楽しんだ。もちろん外に出れば、満開の桜も独り占めできた。

第2回につづく。 (ゆ)

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写真: 庭に落ちてきた桜の花を拾い集めたもの。