Bankの秘密基地

個人日記兼つれづれなるままに

ジャパン・ホテル・アンド・リゾート(8981)

2009年11月02日 | 国内上場REIT
 正直言って決算の結果はがっかりだ。実績自体は今年の7月の下方修正の予想よりも
少し良かったもののそれでもあまり良い数字ではない。個人向け説明会など積極的にIR
しているのは評価できるし、リートの中では前向きだが、数字がついてこないのはいた
だけない。3月にレビューしたときよりも株価が上昇はしているものの、ほとんど全て
のリートの株価が上昇している訳だから、やはりパフォーマンスでみるのなら業績だ。
とりあえず簡単に内容を復習する。


        
 まあ名は体を表すというか当法人はホテル特化のリートで上図のように全国8ヶ所にホ
テルを所有している。リゾートと名前がつくとおり首都圏というよりも地方に物件が多く
首都圏ではオリエンタルホテル東京ベイがTDLのすぐ近くにある。関西ではなんばオリエ
ンタルホテル、神戸メリケンパークオリエンタルホテル、奈良ワシントンホテルプラザと
関西圏にやや偏っている。地域配分では近畿・中国が46.8%と最大で九州・沖縄が27.7%、
関東が22.8%、東北が2.7%となっている。本格的リゾートホテルという点ではホテル日航
アリビラがそれでそれ以外はシティホテル、ビジネスホテルといったほうが良いだろう。

 総資産892億円、鑑定評価額871億円、帳簿価格との差で見ると含み益が27億円となって
いるが、ホテルの場合の公正なキャップレートがどの程度なのか全く想像がつかないので
実際の所どうだか不明。個人的には含み損に転落していると考えている。現在のLTVは45.1%
で1口当りの純資産は460,520円となっている。

 JHRの分析が他のリートと違い少しややこしいのは変動賃料の割合が大きいことがあげ
られる。また当法人は賃料を個々のホテルから直接得ているのでなく、3つのホテル統括
会社から受け取っている。



 また分析をややこしくしているもう一つの理由としては変動賃料の計算方法がぱっと見
てよく分からないことだ。JHRの賃料総額の69.9%が固定賃料となっており、残りの30.1%
が変動賃料となっている。IR説明会では「変動賃料が多いといっても実際の影響はそれほど
たいしたことがない」という趣旨の発言をしていたが、実際の収益を見るとやはり影響は
大きかったと見るべきだろう。先ほどの組織図でいけば変動賃料を導入しているHMJの売上
が10.5%減少したことでホテルGOP(所謂粗利)が13.6%、金額で8.56億円の減少となっ
た。変動賃料の計算式は少しややこしいが以下の通りである。


 変動賃料を導入している4つのホテルはすべてHMJが運営しているが、基本的にはGOPの
90%を賃料として計算する。正確には総売り上げからGOPを算出し、固定賃料、運営支援会社
報酬を差し引いた修正GOPを算出し、その金額に90%をかける。さらに総売上の10%を掛け合わ
した額と比較しどちらか低いほうを変動賃料として採用するというものだ。なんのことだか、
よく分からないが、HMJの年間売上げは200億円程度であるのでその1割は20億円程度
になる。一方、修正GOPの90%は16億円程度になるのでHMJの売上げがかなり大きくならない
と修正GOPから算出した額を下回らない。よって現状では修正GOPをベースにしたものが変動
賃料となると考えて差し支えない。また何故このようなことをするのかといえば、簡単にい
えばインセンティブだ。売上げを増やしてGOPを大きく上げれば変動賃料も大きくなるので
最終的には投資家の為になるというのがそのアイデアだ。とはいったものの、業績が低迷す
るとそれは逆の効果がでてくることになる。

 売上げが低下したことで変動賃料は7億円も低下し業績の足をひっぱった。やはり変動賃
料の影響は大きかったと言うべきだろう。JHRのIRミーティングでも法人側は結構大丈夫そう
なことをいっていたが、やはり...というか。私も昔外資系の企業に勤めていたのでわかるの
だが、結構大きなことを言っちゃうんですよね。ええかっこしーというか。最初にビックピク
チャー描いちゃうんです。結局変動賃料は前年比で3割も減少。まあ、冷静に考えたらそうな
るんだろうなあ。

(今期見通し)

 今期の見通しは変動賃料分で微増、GOPも反転すると予想している。ただ、疑問なのはその
前提にどの程度の確実性があるのか不透明だということだ。前提としてはTDR25周年イベント
効果の反動減がなくなることや新型インフルエンザの影響が反転するとの見方をとっている
が、特に下期の総売り上げが4.6%増加するとの予想値がどの程度合理的か判断できない。
むしろ、上期の売上げの減少で目先の業績は停滞感が強くなる。

 当法人は金融危機が厳しくなった今年の初めにGSグループからの第3者割当を行い、さらに
無担保・無保証の債務を有担保化したうえでLTVを引き下げ、その危機を乗り越えたようにも見
えた。しかしながら、中身を見ると状況は芳しくないのが現状だ。私もうっかり見落としていた
が、1月15日にムーディーズがJHRの発行体格付けをA3からBaa1に引き下げたことで、JHRは
無担保・無保証から有担保に切り替えることにした。実はこの有担保化が逆にJHRの首を絞める
ことになった。

 発行体格付けというのはシニア無担保金融債務及び契約を履行する能力に関する意見と定義
されており、JHRが担保提供をしたことで、無担保債務は有担保債務よりも劣後することにな
り、それによってムーディーズは翌週になって格付けをBaa1からBaa2に引き下げ、さらにアウ
トルックをネガティブとした。 危機を乗り越えようとして決断した施策が裏目にでることに
なった。本来なら有担保化で切り替わったローンはより安全になったと判断してもよさそうだ
が、金融機関にとってそれがプラスになったかは不明だ。 むしろ発行体格付けがその定義の
理解度は別として下がったことを気にした担当者がいたのかもしれない。



 上の図は決算説明資料と短信の備考欄を切り貼りしたものだが、担保化された負債374億円
に対して担保提供されている資産が872億円。すなわち、JHRの資産のほぼ全てが担保
提供
されているわけだ。いくらなんでもこれは過剰担保なんじゃないのか。金融機関の担当者は
ムーディーズのリリースをちゃんと読み、理解したうえでこんな担保設定したのだろうか。融資額の
2.3倍の担保を取るその合理的なキャッシュフロー分析をしたうえでの設定なのだろうか。いや、
有担保なんだからその担保のliquidation valueを見てるんだろうが、それって本当に正しいのか?
 私には金融危機で慌てふためいて何が何でも担保を取れるだけとったという取り乱した銀行マン
の姿が思い浮かぶのだが。普段はかっこいいことを言っている割にはやっていることは醜いと
自分で思わないのだろうか。

JHRもその影響度の大きさに自分で驚いたのだろう。ムーディーズは4月に入り格付けをさらに
Baa3に引き下げた上でアウトルックを「安定的」にすると2ヵ月後の6月にはムーディーズから
の格付けを取り下げる。まあ、なんだ.....はたから見てもかっこ悪いよね。かっこの良い悪い
は別にして担保提供が全資産にわたっているというのは当法人の成長ポテンシャルの制約要因と
なる。まず、新規の融資を受けるにしても提供できる担保がない。無担保で貸してくれればよい
だけだが、全資産を担保提供している状況の当法人に無担保でニューマネーを貸してくれる金融
機関がいるのか疑問。

 外部成長をするにはニューマネーが必要であり、デッドファイナンスを再開するには担保を
外すしかない。金融危機が終わったんで無担保にしてくださいとお願いして、はい分かりました
と金融機関が言うとは思えない。外すなら全金融機関が一斉にとなる必要があり、この有担保化
は結構、後をひきそうだ。手として考えられるのはエクイティだが、第3者割当増資という手は
まだ残っている。GSだからね。でも、稀釈化は既存株主にマイナス。あっ、でもGSにはプラスだ
からいいのか...........とにかく悩ましくもある。ディスクロに関してはぱっと見良さそうに見えるが実は
あまりいいとは言えない。

 ところで、私事だが今度引っ越すことになった。引越しは12月だが、11月及び12月の更新は
たぶん途切れ途切れとなる予定。今週はJHRの分析でおしまいです。


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