Bankの秘密基地

個人日記兼つれづれなるままに

民主党の子供手当てを考える

2009年09月12日 | Weblog
 民主党の子供手当ては既に大きなニュースとなっており、少子高齢化の時代にあっては大半
の人は財源論を別にして反対するものは少ない。むしろ、その必要性に関して論じる必要もな
いという態度が大勢だと考えられるが、あえて考えてみたい。まずは当たり前の所から確認し
てみたい。分かりきったことではあるが、単に世間がそういっているからということでなく、実際に
自分の目で確認することが議論をする上で大事なことであると考えている。


 やはり確認するまでもなかったが、少子高齢化と言われているだけあって子供人口は減少し
ており、当然ながら将来の生産人口が減少する訳だから経済にとって大いにマイナスとなる事
が予想される。民主党の子供手当ては子育て支援との受け止め方が強いものであるが、民主党
の発表したインデックス2009では所得税改革に伴う所得の再配分のを主な目的としている
事が分かる。所得控除から手当てへの転換により低所得者への再配分機能を強化することで、
下位の所得階層の可処分所得を増加させることが目的であることが理解できる。すなわち、
マスコミや自民党からのばら撒き批判の多くは民主党のもともとの趣旨を誤解しているともいえる
だろう。

                     図 民主党インデックス2009


 とはいってもだからといって民主党が正しいとは限らない。民主党等が主張している根本は
失われた10年で拡大した格差の是正が根本にあるのだが、実際に格差はどの程度まで広がっ
ているのだろうか。このような素朴な疑問に対しては一般的に非正規雇用が拡大や年収100
万以下の世帯の増加、生活保護世帯の急増、失業者の増加など確かに現象面から見るとその可
能性は高そうである。では格差とはなんだろうか。辞典などで調べると「格差」とは「同類のも
のの間における、価格・資格・等級・水準などの差。」とあり、「格差社会」とは「国民の間
の経済的・社会的格差の大きい社会」とある。格差社会の定義はちと微妙だが、経済的な状況
の落差が激しい事を示すと理解しよう。さらに最近入れている「格差の是正」という文章に対
しては「近年になって経済的な格差が広がった為にそれを修正する」と理解する。そこで経済
的な格差がどれだけ広がったのかを見るために国税庁の給与階級別給与所得者数・構成比で確
認してみる。

 これを見る限りにおいては平成15年からの過去5年間での比較となるが、平均所得が500
万半ばとして低所得者がどの程度増加したのか見てみる。平成15年では68%、平成19年
では69.2%と1.2%の増加となっている。一方で平均所得よりも十分に高いと考えられる1000万超
の所得階層は4.9%から5.0%に増加。両方とも増えてるじゃん。当然、中所得者階級の減少が見ら
れるわけだが、これを格差の拡大と捕らえるべきかはマクロ的には微妙だ。便宜的に1000万
円の世帯を高額所得者層と定義したが、実際には確定申告が義務付けられる2000万円
を超える世帯にいたっては0.4%と特段の変化は見られていない。超低所得者と高所得者が増加し
て社会の階層構造が激しくなったことを捕らえて格差の拡大と呼ぶことは可能だが、本当に社
会構造の変化によるものなのか。是正というからにはやはり金持ちが取りすぎて、低所得者が割
を喰っているといいたいはずだろう。それでは実際にそうなのかこれも国税庁による給与統計で
見てみる。

 これで見ると平成15年から連続して給与は減少していたことが分かる。わずかに19年に給与が
回復しているが、これはリーマンショックの前までの効果だったといえる。どうも私には給与総
額の減少が影響しているとしか思えない。中所得階級の低所得階級への脱落は過去10年近い給与
総額の減少による影響であると見た方がマクロ的に正しい気がする。当然、非正規雇用の増加で
あるとか低賃金を強いられている労働者の存在の増加などは社会現象として認知できても、それ
がマクロ的に正しいとは必ずしもいえない。むしろマクロ面から捉えれば、「景気が悪い」とい
単純な説明の方がしっくりきたりする。ただ、それではマスコミも芸がないので社会構造の変化
などと説明したくなるのだろうか。マクロ的な検証を加えるためにさらにGDP成長率と物価水準
を示すGDPデフレーターも見てみよう。


 成長率は過去5年に限ってみれば辛うじてプラスを維持しているが潜在成長率近傍をさ迷ってい
たと見るのが正しいだろう。一方で先ほどの給与統計は名目ベースでの統計である当然、物価水
準で割り戻さなくてはならないが、そういう統計はないのでGDPデフレーターで物価水準の推移
を見てみよう。これを見ると10年にわたりデフレーターはマイナスであった。名目賃金が減って
も、物価が下がっているので実の所、低所得者の増大はマクロ的にはあまりなかったと見ること
ができる。即ち、賃金の平均下落率は過去の平均を取ってみると押しなべて1%程度のマイナスが
続いており、一方でGDPデフレーターも年間1%程度のマイナスが続いている。これは実質所得が
ほぼフラットであまり賃金水準がマクロ的には変化していないことを指し示している。「そんな
ばかな」といわれる方もいるかもしれない。確かに社会的な弱者、失業して生活が困窮している
人、非正規労働で不安定な職業だったりする人は数多くおり、それを否定するのが趣旨ではない。

 つまるところ、そのような社会的な弱者や格差などは社会がどのような状態にあっても常
に存在するという事実だ。むしろ、正社員として働いている人はリーマンショック以前の生活を
省みてほしい。確かにニュースでも不況だ、非正規労働だ。賃金が伸びない、生活が苦しいなど
とメディアが騒いでいて自分もその気になっているが、よくよく考えてみると5年前もそんな事を
言っていませんでしたか? 10年前も政府の経済対策は無策だとか、生活が苦しいと言ってたでし
ょう。即ち、いつの時代でも満足できる社会状態はないのだ。格差が拡大というよりも、昔か
ら人は常に社会に対して不満を持っているし、少し極端に聞こえるか知れないが特に不況にな
ると人はなんでも社会のせいにしたくなるものである。



上の図は厚生労働省の所得再配分調査を元に私が作成してみた図だが、それぞれの所得階層がどの
程度負担を行い、どの程度受益しているかを示した図である。まさに予想したとおりとなったが、
所得が低い階層は負担よりも受給が多く、高いものは持ち出しが多い。民主主義の理想とする
所得再分配は機能しているようだ。経済的な格差は必ず存在し、その為に国は所得の再配分を行う。
所得の低いものには支払った額以上の便益を供与し、所得の高いものからは便益以上の負担を要求
する。このような形で正常に機能しているにも関わらず、また実際にはネットでの受給がプラスで
あるにも関わらず、格差の拡大によって政府・役人から搾取されていると考えるのはどうしてだろう
か。生活の困窮は税・社会保障負担が重いから? いや、国際的に見ても日本の家計負担が低いのは
事実だし(夫婦世帯では英国の3分の1以下、フランスの半分。但し、米国は日本より低い)、本人
はそう感じてなくても、統計上では支払うべき税金以上を受け取っている形になっている。むしろ
問題なのは全体で受給がプラスとなっており、所得再配分以前に国がばら撒いていいることだ。
結局これが借金の増加をもたらしている。要するにマクロ的に見るともらい過ぎの状況になっ
ている。格差是正とは「税は払いたくないけど生活が苦しいからもっとよこせ」と言っているように
私には聞こえてしまう。格差是正の前にちゃんと税金を払わないとまず国が破綻すること
になりかねない。「国民の目線にあったやさしい政治」とは国が受け取ってもいない税金を先食い
してばら撒くことなのだろうか。格差問題を錦の御旗にさらに国民負担を引き下げようとする考え方
の前に本当に格差とはなんであるのか。格差の実態はどうであるのかを客観的に知らずして格差問題
の是正、格差の拡大を唱えるのは間違った方法論ではないか。

 以上からの私の結論としては格差問題とは実体経済の停滞に伴う名目賃金の減少、但し、物価
下落により実態的な水準は変化していないにもかかわらず、「貨幣錯覚」(money illusion)効果
によって不況感を強める事だと理解している。民主党の子供手当てに関して言えば、内需拡大に
よる経済構造の転換というのはほとんど意味を持たないと考えるが、所得再配分により貨幣錯覚
を打ち消す効果は十分あるだろう。センチメントの改善により、消費が刺激される効果も期待で
き、設備投資への波及もあれば現在の閉塞感を解消する機会となるかもしれない。このように経済
へのプラス効果が期待できるものの、内需主導型経済への転換はナンセンスだ。ただ、それについ
ては今回は議論はしない。それよりも子供手当て導入にあたり解決しなければならない問題がある
だろう。

 それは公平性が担保されるのかという点だ。私個人は子供もいないので受益者にはならない
が、それ自体不満はない。ただ、子供1人年間31万2千円。中学卒業まで支給するというアイデア
は美しいが、現実的にどうだろうか。例えば子供2人いる世帯があるとして15年間にその世帯に
国から1000万円の補助金がでるという政策だ。子供のいる世帯にとってありがたい話だが、1000
万円とか聞くと個人の自助努力をスポイルする政策にも聞こえる。あまりにも国に依存しすぎな
いか。子供手当ての導入にあたって毎年5兆円以上のコストが必要である。しかも民主党はこれを
恒久処置とするわけであるから、例えば10年間で50兆円以上を国民に配るわけだ。別に配るのが
悪いとは思わないが、格差是正を目的とするならば、給与所得を上げる為の雇用の創出に使った
方が良いのではないか。個人的には困窮者へのセーフティネットは拡充すべきだが、乞食を増
やすような政策にも聞こえてしまうのは私だけだろうか。失業者が増加するのは企業が十分な仕
事がないことから雇用を増やさないのであるし、賃金が増えないのは利潤を上げられる競争力の
ある企業、言い換えればグローバルに競争できる優れた日本企業が増えていないのが問題ではな
いのではないか。優れた製品開発、技術力のある企業、よりよいサービス、革新的なアイデアに
より個人が容易に起業ができる社会。社会的弱者に対して政府だけでなく個々人が手を差し伸べ
ることを可能とする柔軟な寄付税制に支えられた博愛主義思想の浸透した社会を目指すべきでは
ないだろうか。もしくは10年で50兆円を使うのなら、今は苦しくとも新しい産業を国家を挙げて
創造して失業者を減らし国民全体の所得水準を引き上げるとか。もしくは実施をするにしても少子
化対策強化の為に5年、10年の時限処置とするとかして野放図な支出政策に対する牽制装置を組
み込むべきではないのか。

仮に、30年後に少子高齢化問題が解決したとする。(例えば出生率が2を超えたとか)すると子育て
支援を廃止しようとすると消費税どころではない猛烈な反対運動が起きるのではないか。人口構成
が正常化しても10年50兆円の支出を続けなければ、政治体制を維持できないという不健全な政治状
況が生まれるリスクはないのだろうか。少子高齢化の問題解決を目指すならば、長期的に問題の解決が
見えた段階ですっぱりやめますと先に言っておくべきではないだろうか。所得再配分機能の是正と
少子高齢化問題の解決策としてはやはり一律、全国民という、評判の悪かった定額給付金みたいな
ことは避けるべきではないか。という疑問がどんどん沸き起こってくる。このようにけちをつけよ
とするといくらでもつけられそうだが、実際に5兆円がどの階層に分配されることになるのであろう
か。政府の世帯統計で今回対象になる世帯はどの程度か見てみよう。



 矢印と囲みが間違っているが、対象となりうるのは1700万世帯。全世帯が4800万世帯だから、35%
の世帯が対象だ。単純化すると「国民3人の内、1人に500万円を国からプレゼント」(子供のいる人限定)
子供が2人ならダブルチャンスで1000万円、3人ならトリプルチャンスで1500万円。4人ならなんと
2000万円を無条件に支給となる。先の所得再分配の図表でも分かるが、例えば所得300万円以下の
階層に対しては国による再配分によって年間100万円以上の便益が支給されている。子供手当ての
期間に合わせて考えると世帯あたり1500万円が便益として支給されている。それに加えてさらにプラス
というのは少子高齢化是正という看板がないとなんとも不公平感がぷんぷん匂うではないか。テレビで
よくやるのは生活苦から中学、高校への進学をあきらめるとか、生活費が足りない上に仕事を失ったと
かいう悲惨な話が多いが、それは国民全部がそうであるわけではない。マスコミはキャッチーな部分を
取り出してニュースにしているのであって、世の中全てがそうであるという印象を受けてはならないの
である。そういった悲惨な家計に対しては生活保護の拡充であるとか、奨学金制度の充実、中学、高校
授業料の無償化などいろいろとやり方があるのではないか。民主党の子供手当てを全て否定するもので
はないが、制度設計をしっかり行って将来の禍根を残さないようにしてもらいたい。


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