まさか吟行なんて!
落語の”長屋の花見”なら身の丈に合っている。
「6月を、よく雨が降るのに水無月とはこれいかに?」
「そりゃあ、天に水が無いってことなのよ」敏子さん。
「へえー!」はじめて知ったとおっさんたち。
梅雨曇とも、梅雨晴れともいえる空模様。
神韻とした参道を通って、わが健生みえの面々が
椿大神社(おおかみやしろ)の本殿前に寄ってきた。
伊藤敏正さんが、早速短冊を3枚渡してくれて、あっち
うろ、こっちうろ・・・
果たして句なんて、できるのだろうか?
「ほら、あそこに歩いていくお年寄り。ずっと本殿でお参り
していたのよ。句にしたいんだけど、なかなか・・・」
句作のベテランのつぶやき。
さて、所用で早めに帰った。
例会と句会の会場は中井宅。
出かけていくと、もう全員の句がコピーされてきた。お見事!
句会の醍醐味は、投稿句の中から、作者が明かされていない
5句を選んで、選んだ人が「どうしてその句を選んだか」、これを
出し合うことにある。
選んだ人は好きなことをいい、出尽くしたところで、「この作者は?」
と、名乗り出てもらう。
「ああー!」と、感動の瞬間。その人の何かに触れ得た感じ。
同じところを歩いて、句を作るんだから、題材は似通ってくる。
出来た句にたいしての感想や作者自身の気持ちや見ている
ところを聞くと、そんな世界におったのかと、世界が広がる。
一人では味わえない世界。
さて、句会の何作かを取り上げてみようかな。
< 梅雨晴れに守り浄めしおうなあり > 康子
「”おうな”って、おばあちゃんだよね」
「守り浄めし、ってとこは、パートのおばちゃんじゃ、感じ
られないだろうね。参道、きれいだったわ」
「作者は?」「はい、康子です。おばあちゃんが、これで
最後かなと掃いていたのよね」
< 禊とて手水所(ちょうずどころ)の去りがたし > 敏子
「”去りがたし”というところに、なんというか、その人の気持ちの
襞が感じられて・・・」
「作者は?わたしです。郡山さんが、かなえ滝のところでジッと
見ている様子をみていたの」
「郡山さん、よほど悪いことして、みそぎしてるんじゃないか・・」
「郡山さんの気持ちも思ったし、自分の中も見ていた・・」
< 神宿る森を見上げて我みそぎ > 鈴木
この句には6点入っている。
「森を見上げて、ってところ、伝わってくるものある」
「鈴木さんらしい。絵になっている」
< 木漏れ日が画く墨絵を梅雨砂利に > 辻屋
「情景が伝わってくる」
「”木漏れる日が墨絵を画く”としたら、もっと鮮明になるかしら」
「やあ、ぼくには梅雨砂利に画かれたものが、墨絵に見えて、
印象的だった」
< 梅雨晴れ間ゆっくり歩む宮の参道(みち) > 余川
この句は4点。
「やさしいコトバで、やさしく表現しているけど、今回の吟行の
真髄を味わいつくしている句だと思う」
「歩む、と言う中に別世界を感じさせるものがある」
「ゆっくり気持ちを充実させているような」
「作者は?」「わしじゃが・・・」
「へえー」
「待ちに待ってやっと出来た句なんよ。これで、今回のぼくの
句会は終わったといってもいいかな。ああ、たまには
自慢させてほしいのよ」(大笑い)
< 沁みわたる石に願いか石からパワーか > 友紀
面白いもので、句の出来栄えとは別に、作者がどんな気持ちで
いたのかに関心が集まる句というものがある。
作者は、足利友紀さん。
「おばあちゃんが石に手を当てて、願いごとを石に託しているのか、
石からパワーをもらっているのか、石とおばあちゃんの世界に
見とれていたの」
< 猿田彦何処にいざなう我が日本 > 郡山
道開きの神、猿田彦さん、戦争のできる国へ手をこまねいている
うちに、なって行く。なんとかならんのか、この日本、自分自身。
「季語がないから、俳句では出せないけど、時事の川柳としたら
世に出せないかしら・・・」
< 友と会いい願いも新たかなえ滝 > 大平
「友って誰だろう」「まさか不倫では?」
作者大平さん「いや、いや、しばらく病身でみんなに会っていなくて
やっと会えた気持ちをうたったんだよ」
「そうかなあ、かなえ滝だからなあ」
ここから冗談続出。
照子さんまで「それならそれで、いいわよ。おばあちゃんもいっしょに
どうぞ」(大爆笑)
< 神宿る木々のしずくや風涼し > 中井
この句も6点句。
「木々のしずくや、の”や”が効いている」
「木々のしずくや、までは私でも詠えそうだけど、”風涼し”は
意表をついていて、いい感じ」
「さらっと詠っているようだけど、深いなあ」
こんなことでは、句会の雰囲気は伝えきれない。
「また吟行やりたい」という人が現れて、「嫌だ」という人も
いないから、またやることにあるかなあ。
余川さんが、東海道ウオークに情熱を傾けている。
吟行と東海道ウオークの合体も考えられる。
「まあ、いずれにしても9月になってからね」
”去りがたい”気持ちを残して、「またね!」