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武侠片 ~中華幻想剣侠物語の魅力~ ⑤

2015年10月11日 | 武侠映画
其の七 香港新浪潮

 1970年代後半の香港映画界では、それまでの撮影所育ちではない、欧米で教育を受けその後テレビ業界で活躍した「新しい才能」が映画界へ続々参入し、いわゆる「商業主義」的ではない「作家主義」な作品を次々と発表。フランスの《ヌーベル・バーグ》にも似たその革新的な映像ムーヴメントは後に《香港ニューウェーブ(香港新浪潮)》と呼ばれ、映画界入り以前にテレビドラマや、ドキュメンタリー番組製作に関わってきた若きディレクターたちは、これまでの映画とは違う新感覚の映像表現や物語の語り口、商業監督では着目しなかった独自のテーマ性や自分なりの主張を「映画」というキャンパスに描き、また、ありきたりな通俗娯楽映画に食傷気味だった、若い観客たちもそれらの作品に対して強烈に支持をした。日本でいえばATG映画人気に近いかも知れない。

 相変わらず量産され続けるショウ・ブラザーズ系の伝統的な武侠映画は、もはや年間興行収入トップテンのラインナップに上る事はなくなり、逆にテレビで放映される武侠ドラマは「手軽に視聴できる」事と、長編の多い武侠小説を映像化するのに「連続ドラマ形式」が最も適していた事が要因でこちらは大人気を博した。またラウ・カーリョンやジャッキー・チェン、サモ・ハンキンポーらの台頭によってコメディ系クンフー映画が興行収入ランキングに挙がるようになった事で「劇場用」武侠映画の人気は下降気味であった。だからこそ《香港ニューウェーブ》の監督たちは、この古典的な題材である《武侠もの》に「改善の余地」を見い出してモダンで斬新な切り口で挑戦し、規制の多いテレビでは作る事の出来ない、新しい武侠映画のスタイルを生み出そうとしたのではないか?と思う。例えば『名劍』は古美術的な色彩感覚と、細かなカット割りでそれまでにない躍動感を生み出したアクション演出、『碧水寒山奪命金』は中国大陸ロケによる広大な大自然をバックに主人公一行はロードムービー的な逃避行を行い、『蝶變』では動物パニック・ホラーの要素に加え軽功等の武侠映画的な「武功」の否定、物語途中で主人公が「退場」し残されたサブキャラクターたちは凄惨な殺し合いを繰り広げる。
The Butterfly Murders:蝶變 / 1979


The Enigmatic Case:碧水寒山奪命金 /1980


The Sword:名劍 / 1980

 これらの「映像実験」は結果的には集客要素にはならず、興行収入もプラスにはならなかったが彼らの提示した「新しい武侠映画」の表現手法は、更に商業映画のエッセンスと融合し、後の香港アクション映画には欠かせない「定番」要素となっていく。


其の八 幻想の復活
※80年代の神怪武侠片復活のきっかけのひとつだと思われる、82年連載開始の黄玉朗による武侠コミックス『如来神掌』カバー画像


 1980年代に突入すると欧米のSFX作品の影響もあってか、それまで「過去の遺物」であった神怪武侠片が突如復活する。テレビで武侠ドラマを観ている人たちをもう一度劇場へ連れ戻そうと、60年代とは違う遥かに進歩した特殊効果を駆使した武侠映画が、この80年代初頭にはいくつか生まれている。

 武侠映画の原点回帰ともいえる「ファンタジーの復活」への兆候は、1976年の金庸原作『天龍八部』や『五毒天羅』等の作品で見る事が出来る。日本の特殊技術専門会社の協力で生み出されたカラフルな「気」による対決シーンは、生身の格闘場面だけでは味わう事のできない驚きと興奮に満ちた素晴らしいものであった。ショウ・ブラザーズではこの前後に『中国超人 インフラマン』や『北京原人の逆襲』などの特撮ファンタジー映画を発表していた関係もあってか、その「副産物」として前記の特撮武侠映画が生まれた可能性はある。また83年のハーベスト社超大作『新蜀山剣侠』ではアメリカから特殊技術のスペシャリストを招聘、その結果欧米SFXと香港映画伝統のワイヤー・アクションとが融合され、それまで誕生しえなかったファンタジー世界を生み出した。これらの特殊技術は後の香港映画へと受け継がれ、80年代後半に多数公開された香港製特撮ファンタジー映画を生み出す基盤となった。
Buddha's Palm:如來神掌 /1982


Descendant of the Sun:日劫 /1983


Zu : The Warriors from the Magic Mountain:新蜀山劍俠(蜀山奇傳 天空の剣) / 1983

 武侠もののフィールドは既にテレビへと移行し、稼ぎ頭だったクンフー映画も「時代遅れ」の感が強くなり、人々の嗜好が欧米型のモダン・アクションものへと流れていくこの時代。業界の寵児となった《香港ニューウェーブ》系列の監督たちが取り入れた「欧米型エンターテイメント要素」と「伝統的中華文化」とがミックスされた結果、東西の特撮ファンタジー映画に引けを取らない《新・神怪武侠片》が誕生したのだ。ただし製作期間やコスト面などの問題から、他のブーム時のように大量に製作されることはなく、年1~2本のペースで発表されるに留まった。

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