ヒロシマ・セミパラチンスク・プロジェクト

NGO ひろしま市民によるカザフスタン共和国旧ソ連核実験場周辺住民(核被害者)への支援・交流

ヌルダナさんアイダナさん来広

2019-09-03 16:10:48 | Weblog
ヌルダナさんアイダナさん来広

 
 今夏、ヒロシマ・セミパラチンスク・プロジェクト(略称ヒロセミ)の招聘で、ヌルダナさんとアイダナさんが来広した。ふたりは、ヒロセミが広島へ招いたカザフスタン留学生OG。2000年から18年までの19年間にヒロセミが招いた留学生は25人。ヌルダナ・アディルハノワさん(24)は、第11期(2010年)の留学生。アイダナ・アシクパエワさん(25)は、第12期(2001年)の留学生である。今回の広島滞在は7月25日から8月8日までの2週間。滞在期間中、「平和への祈りコンサート」(7月27日)、「ヒロセミ20周年記念講演&シンポジュウム」(7月28日)、「ヒロシマ平和の灯のつどい」(7月31日)、「友の会平和例会」「平岡敬・金平茂紀対談」「ハチドリ舎平和イベント」(8月4日)、「平和祈念式典」「ユニタール平和イベント」(8月6日)など、多彩な行事に参加・出演した。
 以上の活動のうち、7月28日のヒロセミ主催の「記念講演&シンポジュウム」におけるふたりの発言を紹介したい。その前に、当該イベントのあらましを述べよう。

 ヒロセミは、旧ソ連のセミパラチンスク核実験場のヒバクシャ支援を目的として、1998年に発足した。以来20年、ヒバクシャへの医療支援のみならず、広島市とセミパラチンスク市(現在はカザフスタン共和国セメイ市)の市民交流に努めてきた。留学生支援はその一環である。このたびのイベントは、ヒロセミのこれまで20年間の支援活動・交流活動を振り返り、これからの国際連帯のありかたを考えるものである。会場は広島市内の東区民文化センター。2019年7月28日(日)13時半開会。第1部は記念講演。野宗義博さん(広島国際大学教授)の「ウクライナ・カザフ・福島で続ける甲状腺検査」と星正治さん(広島大学名誉教授)の「内部被曝の検証」。ふたつの講演は、核被災地の医療支援活動を通じて学ぶべきことを明らかにするものであった。第2部はシンポジュウム。コーディネーターは広島大学平和センター長の川野徳幸さんで、5人の若者たちが報告した。日本の若者である井上日南子さん(22)は、高知大学生。国立カザフ大学に1年間留学した体験を報告した。同じく日本の若者である廣目千恵美さん(34)と渡部久仁子さん(38)は、2016年のヒロセミのカザフスタン・スタディ・ツアーに参加した体験を報告した。そして、ヌルダナとアイダナが発言した。

 ヌルダナの発言要旨。1991年8月29日セミパラチンスク核実験場がカザフスタン政府によって閉鎖された。8月29日は国連の「核実験に反対する国際デー」だ。カザフスタンは自発的に核兵器を放棄した国のひとつ、中央アジア非核地帯のリーダー、核兵器禁止条約の批准国だ。だが、カザフスタンの現在の政策は、原子力の平和利用を肯定している。ヌルダナが働いていたカザフスタンの原子力協会の主な目的は、原子力の平和的利用に関する情報を国民に広めることだった。2015年に開設された原子力情報センターの目的は、原子力の平和利用と技術分野における教育を促進することだが、カザフスタン国民は、原子力に対して否定的な態度をとっている。今年4月にロシアのプーチン大統領は、カザフスタンのトカエフ大統領に、カザフスタンの原子力発電所の建設を提案したが、この提案は国民の抗議の波を引き起こした。その後の記者会見で、トカエフ大統領は原発の建設はまだ計画されていないと述べた。カザフスタンの反核運動は、「ネバダ・セミパラチンスク」の30周年記念の枠組みの中で、継続している。一人ひとりの行動の積み重ねが世界を変える。
 アイダナの発言要旨。2014年に、ヌルダナと一緒にマーシャル諸島の首都マジェロで行われた「グローバル被爆者ワークショップ」に参加した。日本、マーシャル、オーストラリア、カザフスタンの若者や研究者は、自国の原爆実験や歴史について語り、他国の悲劇について学んだ。マーシャルの「ブラボー」核実験の「核犠牲者追悼記念日(ビキニ・デー)」にも参加した。東カザフスタンのように、ビキニ環礁で実験が繰り返されたが、最も酷かったのは、それらの爆発がどれほど危険であるかについて、人びとは知らなかったということだ。病気になった人びとは、自分の病気の理由が何であるかさえ知らなかった。マーシャル人から聞いた話は、セミパラチンスクに住んでいる人の話に似ていた。セミパラチンスクの核実験のせいで娘を失った私の祖母は、いま私たちが出来ることは、悲劇について覚えていること、将来それを繰り返さないことだと言っていた。「ワークショップ」に参加して、さまざまな国の若者たちとともに、世界の核の状況を知った。未来は私たちの世代の手の中にある。核被害のことをもっと学び、私たちの知識を同世代の若者に広めるべきだ。

旧ソ連最初の核実験から70年、最後の核実験から30年。核被害のない世界、核も戦争もない世界の実現を目指して、私たちに出来ることは何か。そのような目標をかかげて開催された今回のシンポジュウムで、ヌルダナとアイダナは重要な役割を果たしたようだ。そのことに私は感動した。そして、彼女たちの活躍に感動したのは、私だけではなかったようだ。彼女たちを見守ってきたヒロセミの世話人たちもきっと同じだったにちがいない。7月25日から1週間、ヒロセミの代表団が、核実験終結30年記念イベントがあるカザフスタンを訪問する。ヌルダナやアイダナたちとの再会もきっとあるだろう。こんなふうにして平和は紡がれていくのである。