ブログ「かわやん」

森羅万象気の向くままに。

日曜新聞読書欄簡単レビュー

2009年03月29日 11時46分43秒 | Weblog
日曜日恒例の新聞読書欄簡単レビューです。金融不安から生じた経済危機。この分析を短いスパンで見るのか、長いスパンでみるのか。いずれでも関連本は出てきている。

短いスパンでは野口痴悠紀雄の『金融危機の本質は何か』(東洋経済新報社、1800円)―日経―を前週の書評欄で紹介した。野口のコンピューターを駆使した情報管理、分析は経済動向、政策をとらえる上で重要で、コンピューターでの統計からなかなか文献を読んでいただけでは気づかない分析を可能にしているわけだが、長いスパンとなると歴史的な把握ということになると、朝日で紹介したジョヴァンニ・アリギの『長い20世紀』(作品社、5460円)だ。サブタイトルに「資本、権力、そして現代の系譜」がつく。近代世界システムの変遷を念頭において金融帝国アメリカを分析する。それはアナール学派の歴史家ブローデルを受け継いだアメリカの社会学者である。国家の権力支配の交替という観点から近代世界システムを解明する。評者の柄谷行人はこうヘゲモニーの変遷をまとめている。「ジェノヴァ、オランダ、イギリス、アメリカという順でおこった。比較して著者は法則性を見出す。初期は生産拡大、末期は金融拡大の傾向があると。資本の蓄積のサイクルから見る。初期は交易や生産に投資することで蓄積するため生産拡大が生じ、末期は金融だけで蓄積するから金融拡大が生じる」(文の趣旨をまとめた)。しごくわかりやすい論法だ。私にはマルクスの過剰資本の危機説を読んでいたから、資本の動向としては必然性をもつ。それでは現代の危機はいつから始まったかであるが、1970年代からという。アメリカの衰退が始まったのだ。それでは今後はどうなるか。ヘゲモニーは東アジアに移ると見る。中国である。柄谷は新的尾主義の時代と結ぶ。1980年代に構成されたというところに歴史の見方のたしかさを感じる力作だ。

金融の現場から分析したのがマハメド・エラリアン『市場の変相』(プレジデント社、2095円)-日経―である。著者は100年に一度の大転換の時代という。経済活動の「場」、取引の仕組みが安定していないわけだが、大きく変化したのがいまというわけである。評者奥村洋彦はこう書いている。「転換期には新型の商品や新しい取引参加者が登場し、それまでとは異なる行動が発生する。今回は証券化やグロバリゼーションの進展にともなう動きgあまさにこれに該当する」。ところがこの変化の兆しを軽く見てしまうのだ。サブプライムローンバブルでは長期金利が低水準にあったことを軽視した。「政策対応が『場』の変化に十分ついていけなかった典型例だ」と評者は言う。

新自由主義経済のもともてはやされたハイエクの全集が出ている。春秋社だ。全集Ⅱ-1(3990円)を論じたのが毎日に掲載されている。ハイエクの最後の書だ。ハイエクの知の葛藤は尋常なものでない。奮闘というか、知の巨人というべきにふあすぁしい。それは社会主義者との計画経済の激論をへて、自己の合理主義的設計主義の構築をより強固にする営みであった。文明の根幹を「合理的には支持しがたい慣行や伝統・道徳に従う市場社会」(評者松原隆一郎)に見出す。それは新古典派経済学が計画経済を可能にするアイロニーに直面したことにある。「法・社会思想の膨大な領域を彷徨する」と評者は書く.
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