照る日曇る日 第2056回
原作の「遠野物語」の河童に関する記述、第55、56、57、58、59段から素材をとって、北原明日香の赤い河童絵で、不気味な仕上がりとなっている。
「河童は猿であるから赤い顔をしている」と、柳田國男はいうたそうだが、56段では産み落とされた「身内真赤にして口大きく、まことにいやな」河童を棄てようとした噺があり、「ふと思い直し、惜しきものなり、売りて見せ物にせば金になるべくにとて立帰」ったが、すでに姿が見えなくなったと記されている。
<河童=捨て子>と考えれば、おのずから漱石の「道草」のエピソードが思い浮かぶが、昔は飢餓、貧困による「間引き」の他に、験直しや宗教的な理由による捨て子も多かったのだろう。
第58段は、かの有名な「河童駒引き譚」である。河童の大群が馬を淵に引き摺り込もうとしたが、反対に馬が河童を厩まで引っ張りあげ、村人が殺そうとした。だが、河童が「もう悪戯はしません」と約束したので許されるという噺である。
「注釈遠野物語」の解説によれば、そもそも河童は、水神が零落して妖怪化したもので、禍福の両義性を持つとされ、その名称や姿態は土地によるし、歴史的にも変化してきたそうだ。
また河童は、産まれてきた奇形児の存在や、関係者の困惑や面子を傷つけない格好のヴェールとして、全国各地で多彩に活用されてきたようだ。
音だけで楽しむ逗子の花火かな 蝶人