先日、自動車産業のモジュール化の取り組みに関して、
車種や地域ごとの「個別対応」から「共用化」へ、
という視点で、簡単な説明を書きました。
今日は、日本と欧米の自動車産業の構造の違いから、
トヨタと日産のモジュール化への取り組みの違いについて、
少し、触れてみたいと思います。
トヨタは、いわゆるモジュール化の取り組みとして、
「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ)」
に取り組んでいます。ざっくり説明すると、まず、全車種を、
主にスポーツ車、量販車、商用車、次世代車の、4つのグループにわけます。
系列の部品メーカーと協力し、グループごとに、
車種間の基本部品・ユニットの共用化を進め、原価低減を図ります。
また、共用化によって、開発工数やコストを減らし、
それで浮いた原資を、ほかの技術やサービスなどに回して
商品力を向上する、という構想です。
一方、ルノー日産も、モジュール化の取り組みとして、
「CMF(コモン・モジュール・ファミリー)」に取り組んでいます。
「CMF」をざっくり説明すると、
クルマを、「エンジン収納部」「フロント・アンダーボディ」
「コックピット」「リア・アンダーボディ」という、
4つの大きな塊、すなわちビッグ・モジュールに分けます。
それぞれのビッグ・モジュールに、数種類のバリエーションを設け、
それらを、適切に組み合わせることで、小型車から大型車まで、
さまざまな車を効率よくつくります。
この考え方は、フォルクスワーゲンなど、
欧米型自動車メーカーの考え方に近いといえます。
ルノー日産の「CMF」への取り組みの背景には、固有の問題があります。
ルノー日産の世界販売台数は、合計すると、800万台を超えます。
ルノーは、傘下に、韓国のルノーサムスン自動車、
ルーマニアのダチア、ロシアのアフトヴァーズをもち、
小型車からSUVまで、フルラインを生産します。
ご存じのように、日産も、軽からSUVまで抱える、
フルラインメーカーです。したがって、異なるブランドや車種をまたいで、
部品を共通化することにより、部品購入費を大幅に削減できるのです。
ただし、ルノーと日産をまたいだ部品の共通化を実現するには、
とてつもない労力がかかったといいます。
さらにいえば、国や文化の違う複数のブランドを、
ルノー日産としてまとめあげるためには、
共通の設計思想を掲げ、求心力を持たせて、ベクトルを揃える必要があります。
そこで、「CMF」が、かっこうの旗印となったというわけです。
よくいわれることですが、日本の自動車産業は、
完成車メーカーと部品メーカーが、系列でつながっている、
「垂直統合」型です。ピラミッド構造になっています。
一方、とりわけ欧州では、完成車メーカーと部品メーカーは、
フラットな構造の「水平分業」型です。
欧州では、ボッシュに代表されるように、
それだけ、部品メーカーが強いのです。
この構造の違いも、トヨタと日産の取り組みの違いの
一因と考えることができると思います。
同じ「モジュール化」への取り組みといえども、
日本型のトヨタと、欧米型に傾倒しているルノー日産とでは、
当然のことながら、アプローチの仕方が異なるということです。
先週末から、関東甲信地方を中心に大雪となりました。
中央自動車道や中部横断自動車道などが通行止めになり、
物流に大きな支障をきたしました。
その影響を受けて、各自動車メーカーでは、部品が届かず、
工場の稼働停止を余儀なくされました。
トヨタは、愛知県内の高岡、堤、元町、田原の4工場が、一時ストップ。
ホンダも、寄居、狭山工場で一部稼働をストップ。
スズキやダイハツも、一部の工場で稼働を停止しました。
3.11のときには、もっとひどい事態になりました。
サプライヤーの被災によって、部品の生産が滞り、
国内の全自動車メーカーは、長期間にわたって、
生産ストップに追い込まれました。
トヨタ生産方式には、ジャスト・イン・タイムの考え方があります。
必要な部品を、ジャスト・イン・タイムで調達する。
震災後に限らず、いつも指摘されるのは、
ジャスト・イン・タイムの欠陥です。
最低限の部品しか在庫していないために、物流が途絶えると、
途端に生産がストップする。これが、問題だという指摘です。
自動車メーカー各社は、震災後、教訓をいかして、
特定の部品メーカーに依存することがないよう、調達先を見直しました。
しかし、その話と、ジャスト・イン・タイムの欠陥は、
じつは、話が別なんですよね。
90年代に、東海地方に大雪が降りました。
ところが、トヨタの工場は、生産ストップしませんでした。
そのとき、「なぜ、物流が止まっているのに生産ができるんだ」
と、出社して早々、生産担当の責任者が怒ったというのです。
「現場は、在庫を隠しもっているんじゃないか」というわけです。
物流が滞るのと同時に、生産が滞るということは、
それだけ、ジャスト・イン・タイムが徹底され、
高効率のサプライチェーンが構築されている、ということでもあります。
そもそも、在庫をもっていたり、物流網が途絶えなかったとしても、
従業員が工場までたどり着けなければ、生産はできません。
しかも、生産できたとしても、つくったクルマを運ぶ手段がなければ、
生産しても出荷できず、意味がない。
地震や大雪などの災害が起きてしまえば、物流の停滞、
従業員の確保など、何らかの理由で工場が停止する。
企業は、そのこと自体を、はじめから、経営上のリスクの一つとして、
織り込んでおかなければいけない。
まさに、リスクマネジメントですね。
つまり、そういう事態が起きうるということを、想定しておく。
そのうえで、つねに問題意識をもち、
ジャスト・イン・タイムを含めて、より効率的に
安定生産、安定供給ができる術を、つねに追求することですよ。
いたずらに、ジャスト・イン・タイムを“悪玉”扱いするのは、
生産的ではありません。
現在、世界一の自動車市場は中国ですが、
反日デモで、日本車の売れ行きはガタ減りしました。
いまは、どうでしょうか。
報道によれば、直近の中国の自動車市場は好調です。
11月、スズキ以外の日本の自動車メーカー5社、
すなわち、トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、三菱自動車は、
前年同月比で、販売台数を大幅に増やしました。
反日デモの反動のほか、各社、新型車投入が
販売増に寄与しているといわれています。
よく知られているように、外資の自動車メーカーは、
中国で事業を行う場合、現地メーカーと合弁でなければならず、
出資額は半分を超えてはいけないという規制があります。
外資1社につき、2社までなら、組んでいいことになっています。
日本メーカーも、必然的に、中国メーカーと組んでいます。
トヨタならば、中国第一汽車との合弁「一汽トヨタ」と、
広州汽車との合弁「広汽トヨタ」をもっています。
中国の自動車市場は、12年に約1900万台と、世界最大です。
今年にも、2000万台を超えるだろうといわれています。
ただ、その内情は、複雑です。国土が広いので、
地形や環境がさまざまで、ニーズも多様ですし、富裕層も貧困層もいます。
地方によって、強いブランドも違います。
例えば、上海は独VW(フォルクスワーゲン)のお膝元で
VWのタクシーが多いですが、
天津にいけば、同じ理由でトヨタのタクシーが多いと聞きます。
さらに、中国には、地場の自動車メーカーだけで、
100社以上がひしめいているといわれます。
中国市場のシェアナンバーワンは、VWです。
上海汽車との合弁、「上海VW」と、
第一汽車との合弁、「一汽大衆」があります。
1984年に発足した上海VWは、当時、外資系唯一の自動車メーカーでした。
88年に米国生産から撤退したときの古い設備を利用して、
荒稼ぎしたといわれていますね。
その後、12年には約280万台を販売し、19.5%のシェアをもちます。
2位は、米GM(ゼネラル・モーターズ)で、10.0%です。
以下、現代自動車、トヨタ、日産・ルノー、ホンダ、
中国の地場メーカーの奇瑞、吉利、長城、比亜迪…と続きます。
VWとGM以外は、どんぐりの背比べ状態です。
各社、浮き沈みが激しく、順位の入れ替わりも珍しくない。
見方を変えれば、どのメーカーにも、シェアを伸ばす可能性があるといえます。
中国の自動車市場は、予想を超える猛スピードで成長しました。
VWは、09年に、2018年に200万台を目指すといっていましたが、
とっくに超えていますからね。
今後も、まだまだ拡大が予想されます。
トヨタは、先月、中国でハイブリッド車の開発を行うと発表しましたが、
背景には、思うように伸びない中国市場を、
ハイブリッド技術を切り札にして、一気に攻めたい思いがあるでしょう。
政治をはじめ、さまざまなリスクがあるのは承知の上ですが、
日本メーカーは、お隣の巨大市場を攻めないわけにはいきません。
近年、世界の自動車市場は、新興国比率が増しています。
トヨタでいえば、11年時点で世界の販売台数の45%を占めます。
今後も、グローバル戦略において、新興国の重要性は増すばかりです。
現状、日本メーカーは、タイやインドネシアといった、
東南アジア諸国では大きなシェアをもっています。
しかし、その市場を、いま、VWがねらっています。
一方、VWがシェアをもつ中国市場を、
日本メーカーは開拓しきれていない。
日本メーカーがグローバル市場で生き残るために、
東南アジアのシェア維持と、中国市場のシェア拡大は、
重要なポイントになっているのです。
切磋琢磨とは、このことをいうのでしょう。
自動車業界の話です。
トヨタは、HV(ハイブリッド車)「アクア」を一部改良し、
燃費を37.0㎞/?として、燃費世界一の座を奪還しました。
ホンダの新型「フィット」の36.4㎞/?を抜いたわけです。
じつは、その新型「フィット」は、
「アクア」が保持していた35.4㎞/?を抜いて、
世界ナンバーワンの座を奪ったという経緯があります。
“倍返し”ではありませんが、トヨタは再びホンダを抜き返したのです。
この熾烈な燃費話のウラには、因縁話があるんですね。
ホンダは、“世界初のHV”量産車発売をめざし、
「インサイト」を開発していました。
ところが、トヨタ「プリウス」に先を越された。
1997年のことです。
苦い苦い記憶で、これは、ホンダにとって痛恨の極みでした。
話はまだ続きます。09年には、2月に発売した2代目「インサイト」が
同年4月に、ハイブリッド車として初めて、
国内の月間販売台数1位を獲得しました。
すると、直後の5月に発売される新型「プリウス」は、
約30万円の大幅値下げで対抗。
翌5月に月間販売台数首位を奪還しました。
もはや、「よきライバル」という綺麗ごとでは、
すまされないレベルです。
ただし、おもしろいのは、両者とも技術者に話を聞くと、
「小さな数字をめぐる競争に、意味はない」なんてことをいって、
表面上、燃費競争を重視していないようなフリをすることです。
「よくいうよ」ですが、それはそれでいいと思います。
切磋琢磨すればいいのですから。
多分、いまごろ、抜き去られたホンダ技術者は、
「いまにみていろ」と、切歯扼腕しているのは間違いない。
そして、ほんの数か月前には、トヨタ社内がそうだったはずです。
「燃費世界一」へのこだわりは、
両社とも、並々ならぬものがありますからね。
ホンダの負けず嫌いの企業風土は有名ですが、
トヨタにも、世界一の自動車メーカーの意地があります。
規模では劣るとはいえ、ホンダは、
世界一のトヨタに真っ向勝負を挑み続け、技術を磨きます。
一方のトヨタも、ホンダが頑張るからこそ、
ホンダに負けてたまるかと、意地を見せます。
トヨタあってのホンダであり、ホンダあってのトヨタなのです。
これは、軽自動車市場における、スズキとダイハツも同じでしょう。
軽の世界でも、その競争は激しい。
昨年9月、ダイハツが燃費30.0㎞/?の「ミライース」を発売すると、
スズキは2か月後の同11月、
燃費30.2㎞/?の「アルトエコ」を発売して、
軽ナンバーワンの燃費を実現しました。
さらに、「アルトエコ」は、今年2月、33㎞/?まで燃費を向上させると、
ダイハツの「ミライース」は、33.4㎞/?に。
すると、さらにスズキの「アルトエコ」は、35.0㎞/?を達成した。
このように、軽の世界は、ダイハツとスズキの意地の張り合いです。
まさに、スズキあってのダイハツ。ダイハツあってのスズキです。
かりにも、ホンダが存在しなかったとしたら、
現在のトヨタは、ないのではないでしょうか。
トヨタの内部は、弛緩してしまうと思いますよ。
同じように、トヨタが存在しなかったら、
ホンダの頑張りもないでしょう。
身近にいる強力なライバルとの熾烈な競争、切磋琢磨こそが、
日本自動車産業の強さの秘密の一つであることは、間違いありません。
トヨタの快進撃の背景は、
日産と比較すると、より鮮明になります。
14年3月期の、第2四半期決算発表において、
日産は、通期の営業利益の見通しを
1200億円下方修正し、4900億円としました。
トヨタは、同営業利益を2600億円上方修正し、
2兆2000億円としたのとは、まさに好対照です。
確かに日産は、対前年比では増収増益ですが、
トヨタやマツダが上方修正するなど、
日本の自動車業界全体が上向きななかでの下方修正は目立ちますね。
日産の不調の原因は、単純ではないと思いますが、
一つは、過剰な設備投資にあります。
日産は、今日もメキシコの新工場稼働を発表しましたが、
中国やタイ、ブラジルなどの新興国を中心に、
現在9工場を建設、拡張中です。
ご存じのように、日産は、1999年に、経営危機に陥って
仏ルノーから出資支援を受けました。
その後、現CEOのカルロス・ゴーンさんのもと、
経営再建にあたり、見事に復活を果たしました。
つまり、日産は、リーマン・ショック前、経営再建に躍起で、
拡大路線どころではなかった。
その結果、リーマン・ショックの痛手は少なく、
トヨタほど深刻な経営危機に陥らなかった。
日産は、リーマン・ショック後、その反動というか、
拡大路線に走り始めました。
新興国への工場建設の加速がそれです。
そこには、ヒット車が出ないという、焦りがあったといっていいでしょう。
実際、日産は、ゴーンさんになってから世界的ヒット車はありません。
そこで、台数を稼ぐべく、拡大路線を突っ走った。
今回の業績下方修正は、いわば、そのツケが回ったといえると思います。
その点、トヨタは、「コスト抑制のため、今後3年間、
車両工場は新設しない」としています。
これは、昨日も書いたように、拡大路線に走った結果、
リーマン・ショックで大きな痛手を負ったからです。
いたずらに拡大路線に走らず、懸命に原価低減に努めてきた。
むろん、トヨタの好業績は、円安などの外部要因もあるでしょう。
しかし、「石橋を叩いても渡らない」といわれた
トヨタのDNAがよみがえったかと思われるほど、
決しておごらず、ひたすら改善に努めて体質を強化し、
慎重な経営に終始しているところに、
トヨタ再生の理由があるのではないでしょうか。

